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しおりを挟む「ね、眠気は薬の影響だと思います」
ボールマンさんがそう説明してくれた。どうやら薬の中に、眠りをもよおす成分が入っているようだ。
「発作の原因はわかりますか?」
「しょ、症状だけではなんとも・・・・」
嘔吐に呼吸困難、蕁麻疹ーーーー色々な病気に当てはまる症状だ。この世界の医療技術はまだ発展途上だから、ほとんどの病気は原因不明のままだろうし、これだけで原因を突き止めろというほうが酷なのだろう。
「殿下に飲ませた薬は、何に使われる薬なんですか?」
「発作を抑えるために汎用されているもので、特定の病気に使われるものではありません」
ボールマンさんが殿下に飲ませた薬は、アレルギー反応を抑えるためだけに使われるものではなかったようだ。だからあの薬で効果が現れたからといって、病気を特定できないのだろう。
考えこんでいると、ふと、ひっくり返った食器が目に入った。
「ヨルグ殿下は、食事中に発作を起こしたようです」
「・・・・ということは」
「毒見をしたので、毒の可能性は低いと思いますが、念のために調べておくべきでしょう。今日の食材が厨房に残っているので、お願いできますか?」
「わ、わかりました」
ボールマンさんは急いで立ち上がり、部屋を出て行った。
「殿下の様子は私が見ているので、バルドゥールさんは持ち場に戻ってください。なにかあったら、呼びに行きます」
ヨルグ殿下の様子を見守るのは、一人でもできる。人員は少ないので、彼らが持ち場を離れたことで警備がおろそかになったら大変だし、一刻も早く、アレルギーの原因を突き止めなければならない。
それにヨルグ殿下は醜態を見られたと、このことを恥じているはずだ。だから殿下が目覚める前に、できるかぎり人払いをしておきたかった。
本当は私も立ち去ったほうがいいのかもしれないけれど、また容体が急変したら困るので、誰か一人は、そばで様子を見守らなければならない。
「お一人で大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。だからみんなは、仕事に戻って」
バルドゥールさん達はまだ少し不安そうだけれど、私が笑ってそう言うと、渋々仕事に戻っていった。みんなを送り出して、私は一息つく。
「あ」
一人になってから、私はあることに気づいた。
「・・・・殿下を、ベッドまで運んでもらうのを忘れてた・・・・」
みんなを部屋から追い出す前に、ヨルグ殿下をベッドに寝かせるのを、手伝ってもらわなければならなかった。
脱力したヨルグ殿下の身体はずり落ちて、今は、私の膝に頭を乗せるような体勢になっていた。この状況で殿下が目覚めたら気まずいけれど、私一人の力では、どんなにがんばっても殿下をベッドまで運べそうになかった。
「もうどうにでもなればいいわ・・・・」
ヨルグ殿下の、喉の引っかき傷に目が行く。息をしようと必死だったのだろうか、その傷は深く、痛々しく見えた。
とりあえず手当てをしようと思って、私は傷薬に手を伸ばし、殿下の首や腕の傷に薬を塗りこんでから、包帯を巻いた。
「・・・・・・・・」
首の傷を手当てしている途中に、殿下の肩にある古傷に気づいた。剣で斬られたと思われる深い傷跡が、くっきりと残っている。
(戦場に出れば、無傷ではすまないわよね・・・・)
ヨルグ殿下は最前線で戦っていたという話だから、傷を負わないほうがおかしい。きっと服の下には、もっと多くの傷跡が残っているのだろう。
手当てが終わったので、これからどうするべきかを考える。
この状態で目覚めたら、ヨルグ殿下は急いで起きあがろうとするだろう。そうなると頭突きされる恐れもあるから、すぐに身体を起こせないように、彼の胸の上に手を置く。
(眠っていると、可愛く見えるわね)
身体の大きさや威圧的な態度、攻撃的な口調のせいで、ヨルグ殿下は凶悪、油断ならないという負のイメージが、私の中で定着しつつある。
でも大人しいと、綺麗な顔なので、いつまでも眺めていたい気持ちになった。これでまだ十代だなんて、信じられない。
(髪の毛もさらさらで羨ましい)
金髪は手触りがよくて、本当に金糸のようだった。
でもふと、我に返る。
(・・・・これじゃセクハラだ。べたべた触るのはやめよう)
無自覚にセクハラをしていることに気づいて、慌てて手を引っ込めた。
(起きているときも、これぐらい大人しかったらいいのに)
十代の青年は、もっとのほほんとしているものじゃないだろうか。複雑な生い立ちのせいなのか、ヨルグ殿下の性格は尖りすぎている。
「それにしても疲れたわ・・・・」
気を抜くと、最近寝不足だったせいか、それとも極度の疲労のせいなのか、急に眠気が襲いかかってきた。
(眠っちゃダメだ)
そう考えたところまでは覚えているけれど、それ以降の記憶がなかった。
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