二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 その夜、恐れていた事態になり、村でくつろぐ時間もないまま、私達は対応に追われることになった。


「急病人です!」


 村に一つしかない集会場に、体調を崩した人々が次々と運び込まれる。


 集会場の内部は、床に寝かされ苦しそうにうめく罹患者と、付き添いの家族で混雑していた。


「助けてください! 父の意識がないんです!」


「重症の人はそちらへ、軽傷の方はこちらへどうぞ!」


 罹患者の家族の悲鳴と、殺到する大勢の人達に対応できなくて、パニックになっている看護師の大声が混ざり合う。一つ一つの言葉が聞き取りにくくて、声の激流に取り囲まれているような感覚だった。



 ーーーー混乱は、予想以上だった。



 日が暮れはじめたころから、倒れる人々がさらに増加して、村に一つしかない診療所はあっという間にパンクしてしまった。

 行き場を失った人達が、道に列を作る状態になったので、クリストフが出て行って、集会場を病人の搬送場所にしたらどうかと村長にかけ合った。


 そして、集会場が解放されることになったのだ。


 でも場所が確保されても、ベッドが不足しているから、病人は床に敷かれた布の上に寝かされている。人手も足りないから、一人一人の病状を確かめることすらままならない。


(ここまで病人が増えるなんて・・・・)


 汚染された井戸水による被害の拡大は、私達の予想を超えていた。この病でも、やはり抵抗力が弱い人が重症化するようで、重病なのは子供や老人が多かった。


 私とシュリアはまず、子供や老人を優先して治療することを決めた。そして集会場の奥にパーテーションを立て、そこを重症者の区画にした。


「それじゃ、まずは重症者と軽傷者を分けましょう。治療は重症者から・・・・」



「よそ者が、村のことを勝手に仕切るな!」



 だけどここで、新たな問題が発生した。



「この村のことは、村の人間だけで解決する! よそ者が、偉そうに俺達に命令するんじゃない!」



 一人の男性が前に出てきて、シュリアを怒鳴りつけたのだ。どうやらこの村に住む、村人の一人のようだ。



「よそ者か、そうじゃないかなんて、関係ありますか?」


 シュリアを庇うため、私は男性の前に立つ。


「ここにいるシュリア嬢は、治癒魔法が使えます。治癒魔法でみなさんを助けられると思ったから、彼女は名乗り出たんです。だから、みなさんもシュリアのことを信用してーーーー」


「お前らが病気を広めたんじゃないのか!?」


 男性のその一言で、空気が凍りついた。


「お前らがこの村に来た直後に、病気が流行ったじゃねえか! 故意に病気を広めて、治療したふうを装って、最後に莫大な治療費を請求するつもりなんだろう!」


 男性は私が黙りこんだ隙を狙って、まくし立てた。


 ーーーーこんな事態になることを、恐れていた。


 サルビア村は交易の通路になっているから、そこまで閉鎖的ではないものの、やはり〝よそ者〟には抵抗感があるようだった。このよくわからない抵抗感が、事件に発展した例もいくつか知っているから、男性が〝よそ者〟である私達にたいして、疑惑の種を植え付けたのは許しがたいことだった。


(・・・・よく考えて、反論しないと)


 下手な言い訳をして、また揚げ足取りをされたらたまらない。


 慎重に反論しなければと、私は頭を回転させる。


「あなたが私達が病を広めたと思った、その根拠は何ですか?」


 私が考えている間に、シュリアがすっと前に出ていった。


「私達が村に入った時期と、病が流行した時期が同じだったという以外に、私達の行動に不審な点がありましたか?」

「い、いや、そんなものはないが・・・・」


 シュリアが淡々と詰め寄ってくるから、男性のほうが逆に虚を突かれたようで、反論できなくなっていた。


「では、そういった追及は後にしてください。今は切迫しているので」

「なっ・・・・!」

「ちなみに私達は、高額の治療費なんて請求するつもりはありません。みなさんが心配だとおっしゃるなら、今ここで、誓約書を書きましょう」


 シュリアは突き放すようにそう言って、男性に背を向けた。


「おい、待て! まだ話は終わってないーーーー」


「この状況が見えないのですか?」


 男性がしつこく食い下がると、シュリアはもう一度男性に向きなおる。


 その時の彼女の態度は、普段の温厚な彼女からは考えられないほど強気で、一歩も退かないという姿勢を見せていた。


「まずは治療に専念させてください。重症者がいて、一刻を争うんです」


「お、お前達が病気を広めた犯人ならーーーー」


「私達が犯人かどうかは、後で検証しなければわからないことでしょう。そんなにお疑いなら、あなたが私達に張りついて、監視してください。不審な点があれば、いくらでも指摘してもらって構いませんから」


「・・・・・・・・」


 そこまで言われると、男性ももう何も言えなくなったようだった。


(私の助けなんて、必要なかったみたいね)


 クリストフの話では、シュリアは貧民救済の現場でも、同じように言いがかりをつけられたことがあるそうだ。護衛がいつも一緒にいるから、大事になったことはないけれど、今のように根拠のない難癖をつけられて、悔しい思いをしてきたのだろう。

 そんな経験を乗り越えてきたから、男性に何を言われても、シュリアは少しも動じなかった。ますますしっかり者になったのだと感じて、頼もしい。


「お、お前らはそれでいいのか!?」


 何を言ってもシュリアを動じさせられないと知ると、男性は今度は、集会場にいる村人達に意見を求めた。


 村人達は戸惑いの視線を交錯させたものの、それはつかの間のことだった。



 罹患者の家族は男性を押しのけて、シュリアに近づく。



「どうか、息子を助けてください」


「お任せください」


 それを皮切りに、罹患者の家族達は男性を押しのけて、シュリアのもとに殺到した。


「私の娘もお願いします!」

「お母さんがすごく苦しそうなんです!」

「み、みなさん、落ち着いて」






「くそ、勝手にしろ!」


 誰も味方をしてくれないのできまりが悪くなったのか、男性は逃げるように、集会場から飛び出していった。





「一番重篤なのは、どなたですか?」


「こちらに寝かされている方々がそうです」


 シュリアはまず、重症者の治療にあたった。



 シュリアが罹患者の胸の上に手を置くと、彼女の手の平が白い光を放つ。一瞬、清涼な空気が彼女を中心に渦巻き、その余波は私達まで届いて、優しい風が頬を撫でていくのを感じた。



 そして風と光が消えると、罹患者の顔にわずかではあるものの血色が戻り、呼吸も正常になっていた。



(これが治癒力なのね)


 治癒魔法には、ホワイトレディや聖なる七剣のような、派手なエフェクトはなかった。


 ーーーーでもその力が放つ優しい光には、思わず見入ってしまう、不思議な魅力があった。


(本当に便利な力だわ)


 前世の世界では、どれだけ医療技術が発達しても、まずは病気の原因を特定しなければ、効果的な治療ができなかった。


 でもシュリアが使う治癒能力は、魔力を流しこんで患者の自己治癒力を極限まで高めるというものなので、病気の原因を特定する必要がない。しかも治癒魔法は、一人の患者だけに限定されず、範囲内にいるすべての患者に効能がある。かなり高度な術だった。


 ただ、この治癒魔法があまりに万能で便利すぎるため、弊害もあった。


 治癒魔法でほとんどの病気が解決できてしまうから、人々は治癒魔法が使える神官達を頼りすぎてしまい、神殿が権力を持ちすぎてしまっている。そのせいで他の医療技術が発達せず、病気に関する知識が間違ったまま、放置されているといった問題もあった。


 色々な問題はあるものの、今、感染症に苦しむこの村の人々にとって、高い治癒能力を持つシュリアが救世主であることは間違いなかった。


 治癒力という、微弱な光以外は目に見えるものがない魔法でも、人々は圧倒されたようで、文句を言っていた人達すらも、一瞬で黙りこんでしまった。たとえ目に見えなくても、シュリアがなにかを浄化したと、本能で感じとったようだ。


 実際に苦しそうだった患者達の容態が、一瞬のうちに、目に見えて落ち着いたのだから、文句を言う隙がなかった。


「重病者から順番に、治癒魔法をかけていきます」


 罹患者の家族が静かになった隙に、シュリアは声を上げた。


「私達は全力を尽くすと、約束します。ですからどうか、落ち着いてお待ちください」


 冷静さを取り戻した人々は、素直に順番を待ってくれるようになった。


 まずは、シュリアが治癒魔法で病人達の自己治癒力を高める。患者の自己治癒力が高まると、後は抵抗力と体内に残る毒との戦いになるので、患者の看病に徹するしかなかった。


 私と看護師達は、高熱や嘔吐、下痢に苦しむ人達の看病に徹した。と言ってもすべては患者の自己治癒力任せなので、私達にできることは熱に苦しむ患者が、汗のせいで服が汚れた時に着替えさせたり、食事や水を与えたり、吐瀉物や排泄物で汚れたシーツを取り換えることだけだった。



 それだけでもかなり忙しく、目が回るような忙しさの中、夜は深まり、気づけば空は白みはじめていた。



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