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しおりを挟む「私はもう大丈夫なので、指揮権は返してくださいね」
「大丈夫? 自分でスプーンも持てないのに?」
「身体は弱っていても、指示は出せますよ。ほら、私、よく喋ってるでしょ?」
「そうだな。ベッドから起き上がれないくせに、べらべらとよく喋ってる」
「そうです。お望みなら一日中でも喋り続けますから、指揮権だけは返してください」
「まだ安静にしてろよ。指揮権を持つのは、全快した後でも構わないだろ」
「でも・・・・」
「また襲撃を受けたら、その身体でどうやって戦うつもりだ? この前は、毒で判断力まで失ってただろ。だから今はまだ、俺に任せてろ」
指摘されたことで、アリアドナの計略にはまり、毒にうなされてふがいない姿を晒した時の恥ずかしさを思い出し、顔が赤くなる。
「あ、あの時は、ふがいない姿をお見せしました・・・・」
「別に責めてるわけじゃ・・・・」
「でも、今は対応できます。頭ははっきりしているし、ホワイトレディの力も使えますよ。なんなら、お見せしてーーーー」
ホワイトレディを召喚しようと、私は紋章を持つ腕を前に出そうとした。
でもその腕を、ヨルグ殿下につかまれる。
「よせ」
なごやかな空気は一変し、ヨルグ殿下の表情は険しくなっていた。驚いて私が腕を引っ込めると、殿下も手を引いてくれる。
「召喚術には、大量の魔力がいる。ホワイトレディほど高位の神獣なら、なおさらだ。あんたは魔力量が多いみたいだから、今まではそれほど負担を感じずにすんでいたんだろうが、疲れは蓄積されていってるんだ。あんたに自覚はなくとも、少なくなった魔力を無理に捻出するために、身体は生命力を削ってる。だから衰弱した状態で召喚術を使い続けることは、自殺行為なんだよ」
その話を聞いて、レスリーさんの言葉を思い出す。私が毒で弱っている状態でなお、召喚術を使おうとした時、彼女も危険だと警告してきた。
「だからもう、その力は使うな」
まさかそんな形で、殿下に忠告されることになるとは思わなかったから、その真剣な目から視線をそらせなかった。
「・・・・殿下にそんな忠告をされるなんて、思いませんでした。だって殿下の脱走を防ぐために、私はホワイトレディをーーーー」
そこまで言って、あることに気づく。
「ーーーーもしかして殿下が、失敗するとわかっているのに何度も脱出未遂をしたのは、私に力を使わせて、疲れさせることが狙いだったんですか?」
私がそう問いかけると、ヨルグ殿下は目をそらす。
私がホワイトレディの力を使えるかぎり、生半可な方法では脱出できないとわかっていたはずなのに、それでも殿下は脱出未遂を繰り返した。
ヨルグ殿下のその行動を疑問に思い、私は裏に、別の意図があるのではと勘ぐっていた。実際にその読みは当たっていて、殿下には、私を疲弊させるという別の狙いがあったのだ。
「・・・・あの時は敵対していたからな。あんたを疲れさせれば、脱出の隙ができると思っていた」
「無茶なことを・・・・殿下を拘束したのが、殺しを躊躇わないような人物だったら、逃げ出そうとした時点で殺されていたかもしれませんよ」
「逃げられそうになったぐらいで殺すなら、最初の時点で殺してたはずだ。あんた達が俺を殺さずに拘束することを選んだのは、利用価値があったからだ。だから利用価値があるうちは、俺を殺さないだろう。・・・・だが、状況が変わったら? あんた達が俺を生かすつもりでいる間に、脱出の準備を整えておこうと思ったんだよ」
「・・・・・・・・」
「召喚術を使うことがどれだけ危険か、わかったはず。ーーーーだから命の危機を感じた時以外は、絶対にその力を使うな」
ヨルグ殿下なりの、忠告だったのだろうと思う。
「・・・・心配しなくても、あんたが回復したら、指揮権は返す。だからそれまでは、大人しくしてろ」
ヨルグ殿下はそう約束してくれた。
「・・・・わかりました」
約束した以上、ヨルグ殿下はその言葉を守ってくれるだろう。彼は、そういう人なのだから。
「それと、もう一つ、あんたに聞きたいことがある」
安心したタイミングでそんなことを言われて、肩が強張ってしまった。
ヨルグ殿下がこちらの事情にズバズバ踏みこんでくるから、なんだか尋問されているような心地になって、次の質問を警戒してしまう。
「この前の隠家の襲撃だが・・・・」
「あの時は申し訳ありませんでした」
「だから、謝罪はもういい。それよりも俺が聞きたいのは、あいつらが誰を標的にしていたのか、って点なんだ」
殿下は腕を組んだまま、指をトントンと鳴らした。
「あいつらは、俺の特徴も知らされていなかった。だから暗殺対象は俺じゃない。はじめから、建物の中にいる〝女〟を狙っていた。だから狙いはーーーー」
殿下の目が、私のほうに向けられる。私は苦笑するしかなかった。
「・・・・私にも敵が多いということです」
「・・・・・・・・」
「でも今、殿下に教えられることは、これだけです。どうかこれ以上、聞かないでください」
なんとも言えない空気のまま、会話は終わった。
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