二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

文字の大きさ
93 / 152

92

しおりを挟む



「私はもう大丈夫なので、指揮権は返してくださいね」

「大丈夫? 自分でスプーンも持てないのに?」

「身体は弱っていても、指示は出せますよ。ほら、私、よく喋ってるでしょ?」

「そうだな。ベッドから起き上がれないくせに、べらべらとよく喋ってる」

「そうです。お望みなら一日中でも喋り続けますから、指揮権だけは返してください」

「まだ安静にしてろよ。指揮権を持つのは、全快した後でも構わないだろ」

「でも・・・・」

「また襲撃を受けたら、その身体でどうやって戦うつもりだ? この前は、毒で判断力まで失ってただろ。だから今はまだ、俺に任せてろ」


 指摘されたことで、アリアドナの計略にはまり、毒にうなされてふがいない姿を晒した時の恥ずかしさを思い出し、顔が赤くなる。


「あ、あの時は、ふがいない姿をお見せしました・・・・」


「別に責めてるわけじゃ・・・・」


「でも、今は対応できます。頭ははっきりしているし、ホワイトレディの力も使えますよ。なんなら、お見せしてーーーー」


 ホワイトレディを召喚しようと、私は紋章を持つ腕を前に出そうとした。


 でもその腕を、ヨルグ殿下につかまれる。


「よせ」


 なごやかな空気は一変し、ヨルグ殿下の表情は険しくなっていた。驚いて私が腕を引っ込めると、殿下も手を引いてくれる。


「召喚術には、大量の魔力がいる。ホワイトレディほど高位の神獣なら、なおさらだ。あんたは魔力量が多いみたいだから、今まではそれほど負担を感じずにすんでいたんだろうが、疲れは蓄積されていってるんだ。あんたに自覚はなくとも、少なくなった魔力を無理に捻出するために、身体は生命力を削ってる。だから衰弱した状態で召喚術を使い続けることは、自殺行為なんだよ」


 その話を聞いて、レスリーさんの言葉を思い出す。私が毒で弱っている状態でなお、召喚術を使おうとした時、彼女も危険だと警告してきた。


「だからもう、その力は使うな」


 まさかそんな形で、殿下に忠告されることになるとは思わなかったから、その真剣な目から視線をそらせなかった。


「・・・・殿下にそんな忠告をされるなんて、思いませんでした。だって殿下の脱走を防ぐために、私はホワイトレディをーーーー」


 そこまで言って、あることに気づく。


「ーーーーもしかして殿下が、失敗するとわかっているのに何度も脱出未遂をしたのは、私に力を使わせて、疲れさせることが狙いだったんですか?」


 私がそう問いかけると、ヨルグ殿下は目をそらす。


 私がホワイトレディの力を使えるかぎり、生半可な方法では脱出できないとわかっていたはずなのに、それでも殿下は脱出未遂を繰り返した。

 ヨルグ殿下のその行動を疑問に思い、私は裏に、別の意図があるのではと勘ぐっていた。実際にその読みは当たっていて、殿下には、私を疲弊させるという別の狙いがあったのだ。


「・・・・あの時は敵対していたからな。あんたを疲れさせれば、脱出の隙ができると思っていた」

「無茶なことを・・・・殿下を拘束したのが、殺しを躊躇わないような人物だったら、逃げ出そうとした時点で殺されていたかもしれませんよ」

「逃げられそうになったぐらいで殺すなら、最初の時点で殺してたはずだ。あんた達が俺を殺さずに拘束することを選んだのは、利用価値があったからだ。だから利用価値があるうちは、俺を殺さないだろう。・・・・だが、状況が変わったら? あんた達が俺を生かすつもりでいる間に、脱出の準備を整えておこうと思ったんだよ」

「・・・・・・・・」

「召喚術を使うことがどれだけ危険か、わかったはず。ーーーーだから命の危機を感じた時以外は、絶対にその力を使うな」


 ヨルグ殿下なりの、忠告だったのだろうと思う。


「・・・・心配しなくても、あんたが回復したら、指揮権は返す。だからそれまでは、大人しくしてろ」


 ヨルグ殿下はそう約束してくれた。


「・・・・わかりました」


 約束した以上、ヨルグ殿下はその言葉を守ってくれるだろう。彼は、そういう人なのだから。


「それと、もう一つ、あんたに聞きたいことがある」


 安心したタイミングでそんなことを言われて、肩が強張ってしまった。

 ヨルグ殿下がこちらの事情にズバズバ踏みこんでくるから、なんだか尋問されているような心地になって、次の質問を警戒してしまう。


「この前の隠家の襲撃だが・・・・」

「あの時は申し訳ありませんでした」

「だから、謝罪はもういい。それよりも俺が聞きたいのは、あいつらが誰を標的にしていたのか、って点なんだ」


 殿下は腕を組んだまま、指をトントンと鳴らした。


「あいつらは、俺の特徴も知らされていなかった。だから暗殺対象は俺じゃない。はじめから、建物の中にいる〝女〟を狙っていた。だから狙いはーーーー」


 殿下の目が、私のほうに向けられる。私は苦笑するしかなかった。


「・・・・私にも敵が多いということです」


「・・・・・・・・」


「でも今、殿下に教えられることは、これだけです。どうかこれ以上、聞かないでください」


 なんとも言えない空気のまま、会話は終わった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

断罪前に“悪役"令嬢は、姿を消した。

パリパリかぷちーの
恋愛
高貴な公爵令嬢ティアラ。 将来の王妃候補とされてきたが、ある日、学園で「悪役令嬢」と呼ばれるようになり、理不尽な噂に追いつめられる。 平民出身のヒロインに嫉妬して、陥れようとしている。 根も葉もない悪評が広まる中、ティアラは学園から姿を消してしまう。 その突然の失踪に、大騒ぎ。

【完結】婚約発表前日、貧乏国王女の私はお飾りの妃を求められていたと知りまして

Rohdea
恋愛
────とうとうこの時が来たのね 決められた運命を受け入れて生きていくつもりだったのに──── 貧乏国の王女のウェンディ。 貧乏だろうと王女として生まれたからには、国のために生きるのが当たり前。 そう思って生きて来た。 そんなある日、婚約が決まったことを父親から告げられる。 その相手は女癖が悪いという噂の他国の王子。 複雑な思いを抱くもこれは国のためにも受け入れるべき結婚。断るなんて選択肢はない。 そう腹を括ったウェンディに対して、なぜか様子がおかしくなったのは、 護衛騎士のエリオット。 そんな彼の様子を不思議に思いながらも、婚約者となった王子、ヨナスとの対面を果たすウェンディ。 愛はなくてもせめてお互いを尊重しやっていけたなら…… そう考えていたウェンディに対してヨナスは、 はっきりと“お飾りの妃”を求めているのだと口にした。 それを聞いたウェンディは────…… ⋆˳˙ ୨୧…………………………………………………………………………………………………………………୨୧˙˳⋆ 関連作 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 『誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら』 『記念日当日、婚約者に可愛くて病弱な義妹の方が大切だと告げられましたので』 ※こちらのシリーズ作品のスピンオフとなります。 リクエストのありました、 全ての作品に出ていて記念日~ではヒーローにまで昇進した、 陽気な公爵令息エドゥアルトの両親の話。 時系列的に『誕生日当日~』より前の話。 なのでベビーは出ませんが、若かりし頃のガーネットは登場します。 (追記 その後を書いたのでベビーたちも登場しました)

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

処理中です...