二人の転生悪女 ー偽聖女のヒロイン成り代わり作戦を防げー

炭田おと

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 数日後、クリストフから返信が届いた。


 私は蝶に運ばせることを考慮して、小さな紙片に必要なことしか書かなかったけれど、クリストフが送ってきた手紙は大きかった。


 文章はまず、私の無事を喜ぶ内容からはじまっていた。


 そして次に手紙の話題は、現在の政局のことに移る。


 クリストフによると、南部でベルント殿下が謀反を起こしたにも関わらず、ヨルグ陛下は長い間、積極的に動こうとしなかったらしい。本来なら、味方面をしながら、兵員や軍資金を出し渋る貴族達をけしかけてもよさそうなものなのに、そんな動きもなかったそうだ。


 これには陛下を支持する貴族達も落ち着かず、陛下に進言する動きもあったそうだけれど、彼が態度を変えることはなかった。


 他人事のような態度を、陛下には事態を収拾するつもりがないと受け取って、モルゲンレーテの未来を危ぶむ貴族もいたらしい。


 ーーーーけれど建国記念祭で、状況は一変した。


 建国記念祭では、ほとんどの行事が例年通りに進められた。


 ただ今年の建国記念祭には、例年にはなかった、巨大なオブジェクトが用意されていた。何のためのオブジェクトなのか、準備に関わった役人でさえ、知らない人が大半だったそうだ。


 建国記念祭では、歴代皇帝は城門のバルコニーから民衆に向かって手を振るのが慣例だった。


 ヨルグ陛下も最初はそうしていたけれど、終わりが近づくと、彼は民衆がいる広場に出ていくというパフォーマンスをした。



 ーーーーそして民衆や招待客の前で、聖なる七剣を召喚し、用意された巨大なオブジェクトを一瞬にして破壊しつくした。



 民衆はその光景に圧倒され、その瞬間、街から音が消えたらしい。



 伝説の力を、噂で聞くのと、実際に目にするのとでは、印象がまるで違う。だから大勢の人達の前で、力を披露した影響はとても大きかった。


 皇族が、モルゲンレーテの統治者として認められている理由が、皇祖の伝説にある。



 だからその瞬間、フックス側が流した、陛下の血の正当性の疑惑は、些細なものになり下がった。ーーーー伝説の力を使いこなす陛下は、皇族以上の存在だと認められたからだ。



 民衆は歓喜して、ヨルグ陛下を讃えたらしい。



 さらにはこのパフォーマンスは、外国から招待した王族を牽制することにも繋がった。今後、周辺諸国がモルゲンレーテに攻め入ることになれば、まずは陛下が持つ七剣の力をどうにかしなければならない。王族達は間違いなく、その力を恐れたはずだった。


 民衆の熱狂ぶりや、来賓の反応を目にして、態度を決めかねていた貴族達の多くも、ようやく決心したようだった。



 彼らが兵員と軍資金を出したので、討伐軍を結成できた。



 反乱軍の鎮圧を命じられたのは、アルホフ卿だった。


 アルホフ卿はヨルグ陛下の即位後、皇室騎士団の団長に任命されていた。


 今回陛下が、信頼するアルホフ卿に指揮官を任せたのは、数少ない忠臣に、反乱軍を鎮圧したという功績を与えたかったからだろうと思う。


 そうすれば陛下が今後、アルホフ卿をもっと重要なポジションに取り立てたとしても、文句を言う人達を、その功績で黙らせることができる。



 ーーーーそしてアルホフ卿は、討伐軍を率い、南部へ出立したそうだ。



(誰が信頼できて、誰がそうじゃないのか、それを見極めるために、しばらくの間、陛下は大人しくしていたのね)


 ベルント殿下が謀反を起こしたことで、多くの貴族は、どちらの勢力につくべきか迷っただろう。


 一方ヨルグ陛下のほうも、悩んでいたはずだ。自分のほうが優勢だと見せつけ、貴族達を味方につけたとしても、情勢次第で裏切るような風見鶏がまじっていたら、いざという時に背中を預けることはできない。


 だから早い段階で敵味方をはっきりさせるために、しばらくは静観を続け、動揺する貴族達の動きを観察していたのだろうと思う。


 簡単に敵勢力に流れるような貴族達は、この間に漁夫の利を得られないか、模索していたことだろう。信頼に値しない貴族を、早くから炙り出し、彼らに味方面をさせないための作戦だったのだ。


 そしてあるていど見極めることができたので、建国記念祭で聖なる七剣の力を披露し、流れを自分の味方につけたというわけだ。



(私達が気を揉まなくても、陛下はきちんと考えてるわ)


 陛下が動かないことにやきもきしていたけれど、無用な心配だった。陛下はきちんと作戦を立てて、それを着実に実行していたのだから。


 手紙の最後には、私に関することが書かれてあった。



 ーーーー陛下が君を傷つけることはないと、私が保証する。だから今は陛下の庇護のもと、体調の回復に努めたほうがいい。



 クリストフはこのまま、私が療養したほうがいいと考えているようだ。


「・・・・・・・・」


 手紙を発見されないうちに、蝋燭の火にかざす。燃え落ちて灰になっていく手紙を見つめながら、私は考えを巡らせた。


(これで皇都にいる貴族の中から、ヨルグ陛下を引きずり降ろそうとする動きはなくなったはず)



 残る問題は南部の反乱とーーーーアリアドナのことだけだった。



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