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2話
しおりを挟む「はぁ……小さい頃は、可愛かったんだよなぁ」
教室の入り口で、他クラスの女子と笑顔で立ち話をしている祥を見ながら、拓海が無意識に呟くと、前の席に座るクラスメイトの八島が振り返って会話を拾う。
「誰が? もしかしてお前?」
「ちげーよ。祥だよ、祥」
「あぁ、一ノ宮かぁ~。今だって十分お綺麗すぎるだろ」
拓海の答えに納得したように返す八島に、言いたいのはそういう事じゃないのだ、とムッとする。
「……昔はもっと、小さくて泣き虫で、性格も良かった」
「ははっなんだよそれ。お前ら幼なじみなんだっけ? けど、すごいよなぁ一ノ宮。若き天才除霊師とか言って、この間もテレビで取り上げられてたじゃん」
「ただの変態野郎だし」
「そんなこと言ってんの拓海だけだぜ。俺なんかにも優しいしさぁ……祥様の悪口言ってると女子から刺されるよ。ただでさえ仲良いこと妬まれてるんだから」
「仲良くなんかねぇし!」
「ハイハイ、そうですね~」
やれやれと言わんばかりに肩を竦めた八島の態度に更にムカムカして、座っている椅子の底を蹴り上げた。
「ぅわッ! お前なぁ……暴力反対ーーー!」
「そうだよ拓海。言葉より先に手足が出るのは悪い癖だと思う。直した方がいいよ」
「一ノ宮ぁ~お前もそう思うよな? 悔い改めろ!」
先ほどまで和かに女子と話していた奴が、いつの間にか自分の隣へと立っていた。突然現れた援軍に調子に乗った友人を一瞥しながら、苛つきが治らない拓海は胸の内の澱みを吐き出すかのように悪態をつく。
「なんだよ、モテモテの祥様が何のご用ですか?」
「なに拗ねてるの。そんな顔しても可愛いだけだよ」
「そうだ~! 嫉妬はみっともないぞー!」
よく分からない茶々を入れてくる八島の尻に、もう一発蹴りをお見舞いする。
ギャッ!と声を上げるのを無視して、自分の頭を撫でてくる手を振り払った。
「撫でんな」
「除霊、除霊。拓海、今日はうち来るよね?」
「……紗代子さんに会うためにな」
「うん。母さんも喜ぶよ。ハンバーグ作るって張り切ってたから」
拓海が受けた幼少期の恐怖体験を聞き、両親はすぐに一ノ宮家の近くへ引っ越すことを決めた。実家が近くなるのも安心だし、何よりも、再び同じような事件が起きた時に自分達だけの力では、幼い我が子を守ることが出来ないと悟ったからである。
結果としてそれは正解で、拓海の謂わゆる霊媒体質は他に類を見ないほどに強力なものだった。高校生になった今でも定期的に除霊をお願いしないと、動物霊やら浮遊霊やら色々なモノを引き連れて歩くことになってしまうのだ。
「今日は一緒に帰ろうか? 朝から中々のやつ引いてたし、またそこら辺の男、手当たり次第に誘惑しちゃうかも」
「お前っ……! 変な言い方すんな!」
「早く俺のものになっちゃえばいいのに。拓海は頑固だから」
「だ~ま~れ~よ~~~」
いつもの茶番が始まると、八島は静かにその場を離れる。ここで変に邪魔をすると、拓海の手足が飛び出してくるのはもちろん、祥からも氷よりも冷たい視線で刺し殺されそうになるのだ。
(あんなにイケメンなのに。なんで拓海なのかねぇ……勿体ない)
誰もが認める美青年の祥とは反対に、拓海はごくごく一般的な容姿をしていた。特段整っているわけではないが、不細工なわけでもない。どう見たって普通だ。
一度だけ『拓海の何処がそんなに気に入っているのか?』と聞いてみたことがあった。今ではなんと命知らずな質問をしてしまったのだと震えるのだが、その質問を受けた祥はうっそりとした微笑みを湛えて『心と身体が裏腹なことに気付いてないところ』と意味不明な返答をしてきたことを覚えている。
兎にも角にも、賢明な八島は余計なことは口に出さず、背後でわーわーと痴話喧嘩を行う級友二人の声を聞きながら、首を傾げるだけに留めるのだった。
◇◇◇
「祥のやつ、誘っといて先に帰るのかよ!」
あんなことを言っておきながら、放課後になると気付けば祥が教室から消えていた。
八島に声をかけ行方を聞いてみると『さっき女子に呼び出されて帰ってたけど?』と当たり前のように言われた。なんなんだよ、ちくしょー。
拓海は拓海で一緒に帰るとも、帰らないとも答えていないくせに、ぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。
祥が拓海に対する好意のようなものを隠さなくなったのは、中学に上がって少ししてからだっただろうか。
もちろんそれまでにも大好きな玩具に対する独占欲のような、そういった感情を向けられることはあったが、今ではふとした瞬間に冗談めかした言葉とともにあらゆる所にセクハラ紛いの触れ方をしてくるのだ。
とはいえ、そういった時は必ずと言っていいほど、常に口元が厭らしい形に弧を描いているため、まったくもって本気だとは思えないのだが。
(冗談にしては触り方がヤラシイんだっつの。あのエロ除霊師が)
そうやって遊び半分のように拓海に愛を囁き、身体に触れてくる反面、祥には常に女の子との噂が付き纏っていた。
何組の誰ちゃんが告白していたとか、何とか学園の女生徒が校門で出待ちをしているとか、繁華街で年上の女性と歩いているのを見たとか。
そんな話を四六時中と耳にしている状態で、軽い調子で告げられる愛の言葉を信じる者がどこにいるというのか。
ついでに言うと祥にはファンクラブなるものが存在し、あまり邪険に扱いすぎると放課後呼び出しを食らうのである。前に一度、学校で際どいところを触られそうになった時に本気で殴ってしまったことがあったのだが、その日の放課後、5・6人の女の子に体育館裏で取り囲まれたのは良い思い出だ。先に手を出してきたのは祥の方で、悪いのはあっちのはずなのに。女の子怖い。
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