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階段怪談(2)
ニカと宇津季は異世界先輩に連れられて、校舎内外にある階段巡りをすることになった。
異世界先輩が命名した「階段怪談」。それはどこか特定の階段でのみ発生する怪奇現象なのかを調べるためだ。
だがその調査はすぐに壁へとぶつかった。
ニカの脚を引っ張る感覚――すなわち「階段怪談」が現れないのだ。
それはニカには最初から予想がついていた。
「階段怪談」は気をつけようと意識しているときには現れないのだ。
必ず、半ば忘れ去って気が緩んだときにぐいと脚を引っ張ってくるのである。
「まあ~怪奇現象起きまくりの事故物件で、カメラや霊能力者がくるとぴたりと収まるってのはありがちだけれども……」
異世界先輩はそう言いはしたものの、納得していない顔だ。
「じゃあ関係ない話でもしますか?」
ニカがやや不満げな異世界先輩をなだめるように、苦し紛れな提案をすれば、案外と彼はそれに乗ってきた。
次の階段へと向かいながら、異世界先輩はこんなことを問うてくる。
「ふたりは火法科なんだよね」
「そうですけど……」
「そういえば異世界先輩って普通科なんですか?」
「私は普通科。だって火法なんて使えないし」
「異世界人なのに?」
「異世界人なのに」
ニカの不躾ともとられかねないセリフを受けても、異世界先輩はおどけてわざとらしく肩をすくめた。
「ふたりは変人には遭ったことある?」
「まあ、何度か、小さいときに……」
「オレもまあ、何度か」
「へえ~。どんな感じなの? つっくんはさあ、私が変人に興味持ったらいけないからってロクに教えてくれないんだよね」
「あー、そういうひとのところに変人が寄ってくるって話はありますね。まあ俗信の類いでしょうけど」
「そうなんだ。でも私はまだ遭ったことがないし、つっくんは教えてくれないし、変人のことよくわかっていないんだよね。変人と同じ漢字が当てられてるの面白いな~っていうくらい」
「ヘンジンとヘンピトは違いますよ。ヘンジンは生きてる人間ですけど、ヘンピトは違うので」
「それね。『変わったヒト』がヘンジンで、『変わっちゃったヒト』がヘンピト、って説明されたけど……」
「それもやや俗信ですね……ヘンピトがどうやって生まれて、どこからやってくるかって研究はされてるんですけど、ハッキリとした結論は出てないんですよ」
「ああ、そうなんだ。それで火法で追い払えるっていう認識は合ってる?」
「合ってますよ。なので会社の規模によって複数人は火法を使えるひとを雇わないといけないんですよ。田舎なんかは特に多く雇うって聞きますね。やっぱり、ヒトのいないところから湧いて出てくることが多いらしいので」
「害獣と猟師さん的な」
「場合によってはクマのほうが怖いかも。クマって火を恐れないって言うじゃないですか」
「そうか~」
……ニカは異世界先輩とやり取りをして、彼が「異世界人」だという話は案外と真実なのかもしれないと思った。
制服の襟元には奨学生の証であるバッジがあるにもかかわらず、異世界先輩が持つ火法と変人の知識量は、幼稚園児と大差がない。
今ニカが教えたことは、小学生にだって教えられることだ。けれども筒井筒がそんなことすら教えなかった理由というのも、なんとなく想像がつく。
現在進行形で「階段怪談」を追う異世界先輩の楽しげな様子を見ていれば、このひとに変人についての詳しい情報を与えるのは、幼児にライターを渡すようなものだと思えたからだ。
「……筒井筒先輩にはオレが教えたこと言わないでくださいね?」
ニカが上目遣いを意識してそうお願いすれば、異世界先輩はわかっているのかいないのか、「りょ」とだけ言った。
「――でさ、変人ってどんな姿してるの? しゃべるの?」
ニカと宇津季は「あ、まだその話続けるんだ」と思った。
異世界先輩の黒い瞳がきらきらと輝いているところを見るに、ふたりが変人について話さなければヘソを曲げるだろうことは火を見るよりも明らかだった。
「……まあー変人っていうくらいなので、ヒトの形はしていますよ。なあ?」
先ほどからずっと異世界先輩を相手にしゃべらされていたニカは、少々強引に宇津季へ話を投げた。
口下手な宇津季は一瞬恨めしげにニカを見やったが、すぐに異世界先輩へと視線をやり――しかし、すぐわずかに目をそらした。
「……おれが見たことあるのは、生首みたいなやつと、干物みたいなやつです」
「ほうほう」
「幼稚園児のときに、母方の祖父母の家の近くでやや灰色がかった白いヒトの顔だけの変人が出て追いかけられて……」
「あったあった。あのときの宇津季めちゃくちゃ泣いてて――」
「青紫色のぶつぶつがある長い舌を垂らして宙に浮いてました」
ニカが懐かしさに話の途中で割り込めば、今度はハッキリ、ぎろりと宇津季ににらみつけられた。
一方、異世界先輩は宇津季の話がそれなりにお気に召したらしく、「へえ!」と言って満足げに微笑んだ。
「そういえば、そのときの美平くんは火法はまだ使えなかったの?」
「使えましたけど……子供の火法なんてたかが知れていますし、大人にならないとなかなか安定しないんで……」
「へえ~。じゃあこの学園には将来的に安定して使う方法を学んでる感じ……なのかな?」
「そうですね。今は授業中か試験のときにしか火法は使いません」
「へえ~」
異世界先輩は再度そう感心した様子で言ったあと、こう付け加えた。
「異世界だ」
異世界先輩が命名した「階段怪談」。それはどこか特定の階段でのみ発生する怪奇現象なのかを調べるためだ。
だがその調査はすぐに壁へとぶつかった。
ニカの脚を引っ張る感覚――すなわち「階段怪談」が現れないのだ。
それはニカには最初から予想がついていた。
「階段怪談」は気をつけようと意識しているときには現れないのだ。
必ず、半ば忘れ去って気が緩んだときにぐいと脚を引っ張ってくるのである。
「まあ~怪奇現象起きまくりの事故物件で、カメラや霊能力者がくるとぴたりと収まるってのはありがちだけれども……」
異世界先輩はそう言いはしたものの、納得していない顔だ。
「じゃあ関係ない話でもしますか?」
ニカがやや不満げな異世界先輩をなだめるように、苦し紛れな提案をすれば、案外と彼はそれに乗ってきた。
次の階段へと向かいながら、異世界先輩はこんなことを問うてくる。
「ふたりは火法科なんだよね」
「そうですけど……」
「そういえば異世界先輩って普通科なんですか?」
「私は普通科。だって火法なんて使えないし」
「異世界人なのに?」
「異世界人なのに」
ニカの不躾ともとられかねないセリフを受けても、異世界先輩はおどけてわざとらしく肩をすくめた。
「ふたりは変人には遭ったことある?」
「まあ、何度か、小さいときに……」
「オレもまあ、何度か」
「へえ~。どんな感じなの? つっくんはさあ、私が変人に興味持ったらいけないからってロクに教えてくれないんだよね」
「あー、そういうひとのところに変人が寄ってくるって話はありますね。まあ俗信の類いでしょうけど」
「そうなんだ。でも私はまだ遭ったことがないし、つっくんは教えてくれないし、変人のことよくわかっていないんだよね。変人と同じ漢字が当てられてるの面白いな~っていうくらい」
「ヘンジンとヘンピトは違いますよ。ヘンジンは生きてる人間ですけど、ヘンピトは違うので」
「それね。『変わったヒト』がヘンジンで、『変わっちゃったヒト』がヘンピト、って説明されたけど……」
「それもやや俗信ですね……ヘンピトがどうやって生まれて、どこからやってくるかって研究はされてるんですけど、ハッキリとした結論は出てないんですよ」
「ああ、そうなんだ。それで火法で追い払えるっていう認識は合ってる?」
「合ってますよ。なので会社の規模によって複数人は火法を使えるひとを雇わないといけないんですよ。田舎なんかは特に多く雇うって聞きますね。やっぱり、ヒトのいないところから湧いて出てくることが多いらしいので」
「害獣と猟師さん的な」
「場合によってはクマのほうが怖いかも。クマって火を恐れないって言うじゃないですか」
「そうか~」
……ニカは異世界先輩とやり取りをして、彼が「異世界人」だという話は案外と真実なのかもしれないと思った。
制服の襟元には奨学生の証であるバッジがあるにもかかわらず、異世界先輩が持つ火法と変人の知識量は、幼稚園児と大差がない。
今ニカが教えたことは、小学生にだって教えられることだ。けれども筒井筒がそんなことすら教えなかった理由というのも、なんとなく想像がつく。
現在進行形で「階段怪談」を追う異世界先輩の楽しげな様子を見ていれば、このひとに変人についての詳しい情報を与えるのは、幼児にライターを渡すようなものだと思えたからだ。
「……筒井筒先輩にはオレが教えたこと言わないでくださいね?」
ニカが上目遣いを意識してそうお願いすれば、異世界先輩はわかっているのかいないのか、「りょ」とだけ言った。
「――でさ、変人ってどんな姿してるの? しゃべるの?」
ニカと宇津季は「あ、まだその話続けるんだ」と思った。
異世界先輩の黒い瞳がきらきらと輝いているところを見るに、ふたりが変人について話さなければヘソを曲げるだろうことは火を見るよりも明らかだった。
「……まあー変人っていうくらいなので、ヒトの形はしていますよ。なあ?」
先ほどからずっと異世界先輩を相手にしゃべらされていたニカは、少々強引に宇津季へ話を投げた。
口下手な宇津季は一瞬恨めしげにニカを見やったが、すぐに異世界先輩へと視線をやり――しかし、すぐわずかに目をそらした。
「……おれが見たことあるのは、生首みたいなやつと、干物みたいなやつです」
「ほうほう」
「幼稚園児のときに、母方の祖父母の家の近くでやや灰色がかった白いヒトの顔だけの変人が出て追いかけられて……」
「あったあった。あのときの宇津季めちゃくちゃ泣いてて――」
「青紫色のぶつぶつがある長い舌を垂らして宙に浮いてました」
ニカが懐かしさに話の途中で割り込めば、今度はハッキリ、ぎろりと宇津季ににらみつけられた。
一方、異世界先輩は宇津季の話がそれなりにお気に召したらしく、「へえ!」と言って満足げに微笑んだ。
「そういえば、そのときの美平くんは火法はまだ使えなかったの?」
「使えましたけど……子供の火法なんてたかが知れていますし、大人にならないとなかなか安定しないんで……」
「へえ~。じゃあこの学園には将来的に安定して使う方法を学んでる感じ……なのかな?」
「そうですね。今は授業中か試験のときにしか火法は使いません」
「へえ~」
異世界先輩は再度そう感心した様子で言ったあと、こう付け加えた。
「異世界だ」
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