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不味くなるサロン(1)
「――じゃあ私が主宰しているサークルに入ってよ」
「サークル? なんのサークルですか?」
「超常現象探求サークル」
宇津季の背中の痛み、そしてニカが階段で脚を引っ張られる一件が、異世界先輩の介入によって解決を見たということで、「なにかお礼がしたい」という言葉は宇津季から出てきた。
場所は黒芙蓉寮の談話室。地下倉庫の一件で反省文という名のレポートを書かされていた四人だったが、どうにか用紙を無難に埋めることに成功し、そんなやりきった気持ちが出ているのか、場の空気は弛緩していた。
ニカは、「お礼がしたい」という宇津季の言葉にちょっとおどろいていた。
宇津季はとかく人付き合いが悪い。他人を嫌っていると言うよりは、怖がっていると言ったほうが正しいが、外から見ればその両者の態度に大きな差はないだろう。
そんな宇津季から「お礼がしたい」などという殊勝な言葉が出るとは。
ニカは宇津季の言葉に内心で感心していたが、異世界先輩の口から出てきたのは「超常現象探求サークル」などという、うろんなサークルに入って欲しいという要求だった。
「……ちなみに、会員は――」
「私とつっくんのふたりしかいないね! だから正式にはサークルじゃないんだけど、美平くんと龍田くん、どちらかが入ってくれればサークル設立条件の会員三名を満たせるってわけ」
ニカは筒井筒をちらりと見やった。
もともと、筒井筒に対しては世話焼きなひとだという印象があったが、異世界先輩が主宰している「超常現象探求サークル」にも恐らく付き合いで入っているとなると、世話焼きを通り越してなにかしら弱みを握られているのではと疑ってしまう。
「あ、ちなみにつっくんは家庭料理サークルにも入ってるんだけど、超常現象探求サークルと掛け持ちしてるよ。うちはそういうの気にしないから」
「活動は……なにをしているんですか?」
「基本的にフィールドワーク的なものをしている感じかな。怪しい噂がある場所に直接行ってみるとか。あとバイトで心霊スポットに行くことはあるよ」
「バイト……?」
「オカルト系サイトの記事のネタ提供みたいな。私が請けてるんだけど、もちろん手伝ってくれたらバイト代は折半するよ」
宇津季とニカの口からは、「はあ」とか「へえ」みたいな言葉しか出てこなかった。
異世界先輩とお近づきになりたいらしい宇津季はともかく、ニカは超常現象なんぞに興味はない。まあ話のタネになれば面白いかなと思うくらいの関心しかない。
しかし異世界先輩は違う。つい先ほどの地下倉庫での「開かずの扉」に対して興奮していた様子を思い返せば、彼がいかに超常現象や怪異に並々ならぬ情熱を燃やしていることがわかる。
「入会用紙取って来るね!」
ニカと宇津季の返事を聞く前に、異世界先輩はソファから立ち上がって足早に談話室を出て行ってしまった。
そんな異世界先輩の背中を見送ると、筒井筒の口からため息が漏れ出る。
「このままだとあいつのサークルに入ることになるぞ?」
「おれは……入ってもいいです。お礼になるなら」
宇津季の返事に、筒井筒は目を瞬かせる。
「美平、マルチとか宗教の勧誘とか気をつけたほうがいいと思うぞ」
筒井筒の言葉に、今度は宇津季が目をしばたたかせた。
従兄弟と先輩のやり取りを見ていたニカは、異世界先輩の世話を焼いている筒井筒は、その手の勧誘をバッサリと断れるのだろうか、と疑問に思った。断れそうだという予想はあるものの、ひとまず勧誘のテーブルには座ってしまいそうだという想像もある。
「他に入りたいサークルとかないのか?」
「……ないです」
寮の共同生活で辟易としている宇津季に、サークル活動なんてものはハードルが高すぎる。
一方のニカは、宇津季と比べれば遥かに社交的ではあったものの、今のところなにかしらのサークルに所属する意思はなかった。
「龍田は?」
「えー、今は様子見期間って感じですね」
「……まあ、お前たちが入りたいって言うなら止めはしないけどさ。義理で入るのはやめておいた方がいい。あいつといると、マジで変なことに巻き込まれるからな」
筒井筒は意味深にそう言ってから、異世界先輩が出て行った、談話室の少し開いた扉の隙間の暗がりへ視線をやる。
そんな筒井筒の横顔を見る宇津季は、複雑な心境であるらしい。とは言えども、宇津季のそんな微妙な変化を読み取れるのは、腐れ縁の幼馴染であるニカくらいだろう。
「おれは……異世界先輩が喜ぶなら、サークル、入りたいです」
――宇津季、けっこう大胆なことを言うな。
宇津季の、異世界先輩への好意を隠しきれていない……というか、隠そうともしない言葉に、ニカはちょっとおどろいたし、筒井筒はけっこうびっくりした様子だ。
「……まあ、そこまで言うなら止めねえけど……」
筒井筒の態度を見ていて、ニカはこの先輩の先ほどの言葉は牽制なのかなと邪推する。
牽制、独占欲、嫉妬……。そういったものを見出そうと思えば見出せる気もしたし、ただの下衆の勘繰りだと言われてしまえば、現時点ではそこで終わる話でもあった。
ニカは宇津季が異世界先輩のことをどう思っているかは知らない。興味を引かれている様子なのはわかるが、そこに宿る感情がなんなのか、そもそも名前がつけられるものなのかどうなのか――ニカは超能力者ではないのだから、わかるはずもない。
同様に、筒井筒の異世界先輩に対する感情も。
ニカはそこまで考えたところで、己が気を回す義理はないと気づいて、思考を打ち切った。
――異世界先輩って案外とモテるのかな。
そんなくだらないことを思っていれば、やっと入会用紙を見つけてきたらしい異世界先輩が、出て行ったときの同じテンションで談話室に戻ってきた。
「サークル? なんのサークルですか?」
「超常現象探求サークル」
宇津季の背中の痛み、そしてニカが階段で脚を引っ張られる一件が、異世界先輩の介入によって解決を見たということで、「なにかお礼がしたい」という言葉は宇津季から出てきた。
場所は黒芙蓉寮の談話室。地下倉庫の一件で反省文という名のレポートを書かされていた四人だったが、どうにか用紙を無難に埋めることに成功し、そんなやりきった気持ちが出ているのか、場の空気は弛緩していた。
ニカは、「お礼がしたい」という宇津季の言葉にちょっとおどろいていた。
宇津季はとかく人付き合いが悪い。他人を嫌っていると言うよりは、怖がっていると言ったほうが正しいが、外から見ればその両者の態度に大きな差はないだろう。
そんな宇津季から「お礼がしたい」などという殊勝な言葉が出るとは。
ニカは宇津季の言葉に内心で感心していたが、異世界先輩の口から出てきたのは「超常現象探求サークル」などという、うろんなサークルに入って欲しいという要求だった。
「……ちなみに、会員は――」
「私とつっくんのふたりしかいないね! だから正式にはサークルじゃないんだけど、美平くんと龍田くん、どちらかが入ってくれればサークル設立条件の会員三名を満たせるってわけ」
ニカは筒井筒をちらりと見やった。
もともと、筒井筒に対しては世話焼きなひとだという印象があったが、異世界先輩が主宰している「超常現象探求サークル」にも恐らく付き合いで入っているとなると、世話焼きを通り越してなにかしら弱みを握られているのではと疑ってしまう。
「あ、ちなみにつっくんは家庭料理サークルにも入ってるんだけど、超常現象探求サークルと掛け持ちしてるよ。うちはそういうの気にしないから」
「活動は……なにをしているんですか?」
「基本的にフィールドワーク的なものをしている感じかな。怪しい噂がある場所に直接行ってみるとか。あとバイトで心霊スポットに行くことはあるよ」
「バイト……?」
「オカルト系サイトの記事のネタ提供みたいな。私が請けてるんだけど、もちろん手伝ってくれたらバイト代は折半するよ」
宇津季とニカの口からは、「はあ」とか「へえ」みたいな言葉しか出てこなかった。
異世界先輩とお近づきになりたいらしい宇津季はともかく、ニカは超常現象なんぞに興味はない。まあ話のタネになれば面白いかなと思うくらいの関心しかない。
しかし異世界先輩は違う。つい先ほどの地下倉庫での「開かずの扉」に対して興奮していた様子を思い返せば、彼がいかに超常現象や怪異に並々ならぬ情熱を燃やしていることがわかる。
「入会用紙取って来るね!」
ニカと宇津季の返事を聞く前に、異世界先輩はソファから立ち上がって足早に談話室を出て行ってしまった。
そんな異世界先輩の背中を見送ると、筒井筒の口からため息が漏れ出る。
「このままだとあいつのサークルに入ることになるぞ?」
「おれは……入ってもいいです。お礼になるなら」
宇津季の返事に、筒井筒は目を瞬かせる。
「美平、マルチとか宗教の勧誘とか気をつけたほうがいいと思うぞ」
筒井筒の言葉に、今度は宇津季が目をしばたたかせた。
従兄弟と先輩のやり取りを見ていたニカは、異世界先輩の世話を焼いている筒井筒は、その手の勧誘をバッサリと断れるのだろうか、と疑問に思った。断れそうだという予想はあるものの、ひとまず勧誘のテーブルには座ってしまいそうだという想像もある。
「他に入りたいサークルとかないのか?」
「……ないです」
寮の共同生活で辟易としている宇津季に、サークル活動なんてものはハードルが高すぎる。
一方のニカは、宇津季と比べれば遥かに社交的ではあったものの、今のところなにかしらのサークルに所属する意思はなかった。
「龍田は?」
「えー、今は様子見期間って感じですね」
「……まあ、お前たちが入りたいって言うなら止めはしないけどさ。義理で入るのはやめておいた方がいい。あいつといると、マジで変なことに巻き込まれるからな」
筒井筒は意味深にそう言ってから、異世界先輩が出て行った、談話室の少し開いた扉の隙間の暗がりへ視線をやる。
そんな筒井筒の横顔を見る宇津季は、複雑な心境であるらしい。とは言えども、宇津季のそんな微妙な変化を読み取れるのは、腐れ縁の幼馴染であるニカくらいだろう。
「おれは……異世界先輩が喜ぶなら、サークル、入りたいです」
――宇津季、けっこう大胆なことを言うな。
宇津季の、異世界先輩への好意を隠しきれていない……というか、隠そうともしない言葉に、ニカはちょっとおどろいたし、筒井筒はけっこうびっくりした様子だ。
「……まあ、そこまで言うなら止めねえけど……」
筒井筒の態度を見ていて、ニカはこの先輩の先ほどの言葉は牽制なのかなと邪推する。
牽制、独占欲、嫉妬……。そういったものを見出そうと思えば見出せる気もしたし、ただの下衆の勘繰りだと言われてしまえば、現時点ではそこで終わる話でもあった。
ニカは宇津季が異世界先輩のことをどう思っているかは知らない。興味を引かれている様子なのはわかるが、そこに宿る感情がなんなのか、そもそも名前がつけられるものなのかどうなのか――ニカは超能力者ではないのだから、わかるはずもない。
同様に、筒井筒の異世界先輩に対する感情も。
ニカはそこまで考えたところで、己が気を回す義理はないと気づいて、思考を打ち切った。
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