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婚葬(4)
「あっ、龍田くん、美平くん。ちょうどいいところにいるね~」
件の板切れを異世界先輩が真っ二つにしたその翌日。長い昼休憩の時間帯を迎え、教室から廊下へ出て背伸びをしていたところに他でもない異世界先輩から声がかかった。異世界先輩の隣には、当然のように筒井筒がいる。
異世界先輩と筒井筒は特段、先輩として居丈高な態度は取ったことはなかったが、校内ということもあり、ニカと宇津季は律儀に会釈した。そんな後輩たちに、先輩ふたりは近づいてくる。
「これから食堂にでも行くんですか?」
筒井筒は異世界先輩の世話を積極的に焼いているので忘れがちだが、学科が違う。筒井筒はニカたちと同じく火法科であったが、異世界先輩は火法が使えないので普通科だ。
そんな風に学科の違うふたりが校内で共にいる姿を見るのはニカからすると珍しく、ゆえに示し合わせて食堂で昼食でも取るのかと考えたのだ。
「まあそうなんだけど、ふたりを呼び止めたのは昨日の結果を聞きたいかなと思って」
昨日の結果――冥婚の板切れのことだろう。それは先述したとおり、異世界先輩の手でなぜか真っ二つになってしまった。
結局、あのあともあれこれと板切れを燃やしてみようとしたのだが叶わず、ひとまず破損したことだけは依頼人に伝えるということに落ち着いたはずだ。
「……なにか、進展があったんですか?」
「あったような、なかったような」
異世界先輩の言葉に、ニカは思わず説明を求める気持ちで筒井筒を見た。
しかし筒井筒もどこかすっきりとしない表情をしている。……事態が進展したかどうかはともかく、なにかしらあったことは確実なようだ。
「まず、あの板切れは依頼人に返却しようとしたんだけど、怖がられちゃって、私が引き取ることになったよ」
異世界先輩が脇に抱えていた革製のカバンを軽く掲げる。その中に、あの絵が描きつけられた、真っ二つになってしまった板切れが入っているのだろう。そう思うとカバン自体が途端に不気味なものに思えてくるのだから、人間心理は単純だ。
「それから、依頼人の希望もあって、この絵に描かれた男子生徒の様子も見てきたんだけど……」
「……『だけど』?」
「その生徒になにかあった、とかじゃないですよね……?」
先を聞きたいような、聞きたくないような。そんな気持ちになったのはニカだけではなく宇津季も同じようで、恐る恐るといった様子で異世界先輩に次の言葉を促す。
合間に、筒井筒が意味深長なため息をついた。
「いや、その生徒はピンピンしてた。異世界といっしょに見に行ったけど――」
「少なくとも、私にも彼は元気に見えたね。前の美平くんみたいに、なにかが取り憑いているところも見えなかった」
「でもたしか……『結婚するから学園を辞める』とかなんとか?」
「そうそう。依頼人に確認したんだけれど、特に撤回する気もさらさらないみたいで、教師とも何度も面談しているみたいなんだって」
「で、一応教室にそいつの様子を見に行ったときに見つかってな」
「え。それは――大丈夫だったんですか?」
ニカはそこまで言ってから「あれ、でも板切れの一件は一応その生徒さんは知らないんでしたっけ?」と付け加えた。
異世界先輩と筒井筒は、意味ありげに顔を合わせる。
それから筒井筒は「そのはずだ」と自信なさげに言う。
「大丈夫だよ。釘を刺されただけだから」
異世界先輩はちょっと困ったように微笑んで言った。
「『妻は優しいから今回だけは許すと言っている。ただ次はない』――だって」
……後日、件の生徒は宣言どおりに学園を辞めたと風の噂で聞いた。
そして元同級生たちのSNSアカウントのダイレクトメッセージに、こんな文章を送ってきたことも。
『今度、子供が生まれるんだ』
――ただ、今、彼がどこでだれと暮らしているのかは、だれもわからなかった。
件の板切れを異世界先輩が真っ二つにしたその翌日。長い昼休憩の時間帯を迎え、教室から廊下へ出て背伸びをしていたところに他でもない異世界先輩から声がかかった。異世界先輩の隣には、当然のように筒井筒がいる。
異世界先輩と筒井筒は特段、先輩として居丈高な態度は取ったことはなかったが、校内ということもあり、ニカと宇津季は律儀に会釈した。そんな後輩たちに、先輩ふたりは近づいてくる。
「これから食堂にでも行くんですか?」
筒井筒は異世界先輩の世話を積極的に焼いているので忘れがちだが、学科が違う。筒井筒はニカたちと同じく火法科であったが、異世界先輩は火法が使えないので普通科だ。
そんな風に学科の違うふたりが校内で共にいる姿を見るのはニカからすると珍しく、ゆえに示し合わせて食堂で昼食でも取るのかと考えたのだ。
「まあそうなんだけど、ふたりを呼び止めたのは昨日の結果を聞きたいかなと思って」
昨日の結果――冥婚の板切れのことだろう。それは先述したとおり、異世界先輩の手でなぜか真っ二つになってしまった。
結局、あのあともあれこれと板切れを燃やしてみようとしたのだが叶わず、ひとまず破損したことだけは依頼人に伝えるということに落ち着いたはずだ。
「……なにか、進展があったんですか?」
「あったような、なかったような」
異世界先輩の言葉に、ニカは思わず説明を求める気持ちで筒井筒を見た。
しかし筒井筒もどこかすっきりとしない表情をしている。……事態が進展したかどうかはともかく、なにかしらあったことは確実なようだ。
「まず、あの板切れは依頼人に返却しようとしたんだけど、怖がられちゃって、私が引き取ることになったよ」
異世界先輩が脇に抱えていた革製のカバンを軽く掲げる。その中に、あの絵が描きつけられた、真っ二つになってしまった板切れが入っているのだろう。そう思うとカバン自体が途端に不気味なものに思えてくるのだから、人間心理は単純だ。
「それから、依頼人の希望もあって、この絵に描かれた男子生徒の様子も見てきたんだけど……」
「……『だけど』?」
「その生徒になにかあった、とかじゃないですよね……?」
先を聞きたいような、聞きたくないような。そんな気持ちになったのはニカだけではなく宇津季も同じようで、恐る恐るといった様子で異世界先輩に次の言葉を促す。
合間に、筒井筒が意味深長なため息をついた。
「いや、その生徒はピンピンしてた。異世界といっしょに見に行ったけど――」
「少なくとも、私にも彼は元気に見えたね。前の美平くんみたいに、なにかが取り憑いているところも見えなかった」
「でもたしか……『結婚するから学園を辞める』とかなんとか?」
「そうそう。依頼人に確認したんだけれど、特に撤回する気もさらさらないみたいで、教師とも何度も面談しているみたいなんだって」
「で、一応教室にそいつの様子を見に行ったときに見つかってな」
「え。それは――大丈夫だったんですか?」
ニカはそこまで言ってから「あれ、でも板切れの一件は一応その生徒さんは知らないんでしたっけ?」と付け加えた。
異世界先輩と筒井筒は、意味ありげに顔を合わせる。
それから筒井筒は「そのはずだ」と自信なさげに言う。
「大丈夫だよ。釘を刺されただけだから」
異世界先輩はちょっと困ったように微笑んで言った。
「『妻は優しいから今回だけは許すと言っている。ただ次はない』――だって」
……後日、件の生徒は宣言どおりに学園を辞めたと風の噂で聞いた。
そして元同級生たちのSNSアカウントのダイレクトメッセージに、こんな文章を送ってきたことも。
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――ただ、今、彼がどこでだれと暮らしているのかは、だれもわからなかった。
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