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邪相(2)
「筒井筒先輩」。そう言ってニカが声をかけると、筒井筒はかなりびっくりした顔を勢いよく向けた。それからまじまじとニカと宇津季の顔を見て、ようやく表情を少し緩める。
「悪い。異世界見なかった?」
「異世界先輩かどうかはわからないんですけど……やたら背の高い男のひとなら、さっきあっちの角を曲がったのを見ましたよ」
ニカがそう言うと、宇津季は「……あれは異世界先輩」と不満そうにつぶやいた。
先ほど、宇津季だって「たぶん」とつけていたというのに、今では彼の中ではあの長身の男性は異世界先輩で確定してしまっているようだ。
「異世界先輩、迷子ですか」
不満げな宇津季のつぶやきを流して、ニカは筒井筒に問うた。
筒井筒はため息をついて、流れて行くひとごみに目をやる。
「あいつ、超絶方向音痴なんだよ。地図アプリとかまったく使いこなせないタチでさ」
「……だから、筒井筒先輩がいっしょに?」
「まあ方向音痴の自覚はあるからな。『幽霊が出る一角』に行きたいって言うからいっしょに来たんだが、この人手だろ? いつの間にかいなくなっててさ。おまけにスマホも見てないのか通話にも出ないしメッセに返信もないし……」
ニカは再度ため息をついた筒井筒を見て、苦労しているなと思った。
一方で、その筒井筒の苦労は自ら火中に飛び込んでいる結果とも取れる。
ただ、そうやって異世界先輩のような破天荒な人間をも放っておけないところが筒井筒のいいところであり、悪癖でもあるのだろう。
「――で、あっちの角か。ありがとうな」
「いや、異世界先輩かはわかりませんけど――」
「おれも捜します」
ニカと宇津季の前から筒井筒が立ち去ろうとしたが、宇津季がそれを呼び止めた。
ニカは思わず宇津季を見上げる。宇津季は、異世界先輩に妙に懐いている。となれば、この展開はニカの中では半ば想定内のものではあった。
あえて言うならばなにごとにも消極的な宇津季は、異世界先輩が絡むと妙な積極性を見せるのだから。
「いや、なんか用事あって街に来てたんだろ?」
「用事ならもう終わりました」
「……そうなのか?」
筒井筒がそう言ってニカを見る。ニカは正直に、自身は宇津季の用事にくっついてきただけで、このあとは用がなくカフェにでも行こうとしていたことを告げた。
筒井筒はわかりやすく唸った。異世界先輩を捜し出したいのであれば人手があるほうが助かるだろうが、その負担を後輩に強いるのはどうなのかという葛藤が彼の中にあることを、ニカはなんとはなしに察した。
そんなとき、筒井筒が片手に持っていたスマートフォンが振動する。画面には「異世界」の文字が表示されており、なんとも言えないシュールさをかもし出していた。
「――異世界? おい、お前今どこにいるんだよ」
そのまま筒井筒は電話に出て恐らく異世界先輩と話し出し始める。
そんな筒井筒の様子を宇津季は用心深い目でじっと見ており、ニカはちょっとその迫力に腰が引けるような気持ちになった。
「……『占い御殿』? なんでそこにいるんだよ。――あ、おい、異世界! ……くそ、切れた」
筒井筒が恨めしげにスマートフォンの画面を見る。
「異世界先輩、どこにいるって言ってました?」
「なんか『占い御殿』でもてなしを受けてるってわけわかんねーこと言ってたわ……」
「『占い御殿』……?」
宇津季が軽く首をかしげて問う。ニカも心当たりがなかったので、素直に筒井筒の返答を待った。
そんなふたりの後輩の疑問に、筒井筒は律儀に説明してくれる。
「昔、一世を風靡した占い師が建てた豪邸だよ。街の外れにあるんだが……」
「そこに、異世界先輩が?」
「なんかそこに招かれたって言ってるんだけど……そこ、もうだれも住まなくなって廃墟になってるはずなんだよな……」
「え」
ニカと宇津季の声が重なった。
「その豪邸の持ち主である占い師が亡くなったのって、入学前の話だから俺も詳しくは知らないんだが、たしかそのはず……」
「それは――まずくないですか。色々と」
「まあ、マジで敷地内に入ってるなら不法侵入だし、だれかに招かれたって言うならそれはそれでまずそうだよな」
「その『占い御殿』に行きましょう」
筒井筒の言葉を食い気味に宇津季が言う。やる気満々だ。
宇津季の言葉に、筒井筒もうなずく。
となれば、ニカが「じゃあオレはここで待っています」などと切り出すことはできない空気である。
ただ、宇津季の気がはやっている様子なのは心配だったし、異世界先輩のこともなんだかんだで気にはなるので、ニカはそんなことを言うつもりはなかったのだが。
「あっちの角から北東の道を抜ければ『占い御殿』に行けるみたいだ」。筒井筒のスマートフォンに表示された地図アプリを確認して、三人は異世界先輩がいるという「占い御殿」を目指すことになった。
「悪い。異世界見なかった?」
「異世界先輩かどうかはわからないんですけど……やたら背の高い男のひとなら、さっきあっちの角を曲がったのを見ましたよ」
ニカがそう言うと、宇津季は「……あれは異世界先輩」と不満そうにつぶやいた。
先ほど、宇津季だって「たぶん」とつけていたというのに、今では彼の中ではあの長身の男性は異世界先輩で確定してしまっているようだ。
「異世界先輩、迷子ですか」
不満げな宇津季のつぶやきを流して、ニカは筒井筒に問うた。
筒井筒はため息をついて、流れて行くひとごみに目をやる。
「あいつ、超絶方向音痴なんだよ。地図アプリとかまったく使いこなせないタチでさ」
「……だから、筒井筒先輩がいっしょに?」
「まあ方向音痴の自覚はあるからな。『幽霊が出る一角』に行きたいって言うからいっしょに来たんだが、この人手だろ? いつの間にかいなくなっててさ。おまけにスマホも見てないのか通話にも出ないしメッセに返信もないし……」
ニカは再度ため息をついた筒井筒を見て、苦労しているなと思った。
一方で、その筒井筒の苦労は自ら火中に飛び込んでいる結果とも取れる。
ただ、そうやって異世界先輩のような破天荒な人間をも放っておけないところが筒井筒のいいところであり、悪癖でもあるのだろう。
「――で、あっちの角か。ありがとうな」
「いや、異世界先輩かはわかりませんけど――」
「おれも捜します」
ニカと宇津季の前から筒井筒が立ち去ろうとしたが、宇津季がそれを呼び止めた。
ニカは思わず宇津季を見上げる。宇津季は、異世界先輩に妙に懐いている。となれば、この展開はニカの中では半ば想定内のものではあった。
あえて言うならばなにごとにも消極的な宇津季は、異世界先輩が絡むと妙な積極性を見せるのだから。
「いや、なんか用事あって街に来てたんだろ?」
「用事ならもう終わりました」
「……そうなのか?」
筒井筒がそう言ってニカを見る。ニカは正直に、自身は宇津季の用事にくっついてきただけで、このあとは用がなくカフェにでも行こうとしていたことを告げた。
筒井筒はわかりやすく唸った。異世界先輩を捜し出したいのであれば人手があるほうが助かるだろうが、その負担を後輩に強いるのはどうなのかという葛藤が彼の中にあることを、ニカはなんとはなしに察した。
そんなとき、筒井筒が片手に持っていたスマートフォンが振動する。画面には「異世界」の文字が表示されており、なんとも言えないシュールさをかもし出していた。
「――異世界? おい、お前今どこにいるんだよ」
そのまま筒井筒は電話に出て恐らく異世界先輩と話し出し始める。
そんな筒井筒の様子を宇津季は用心深い目でじっと見ており、ニカはちょっとその迫力に腰が引けるような気持ちになった。
「……『占い御殿』? なんでそこにいるんだよ。――あ、おい、異世界! ……くそ、切れた」
筒井筒が恨めしげにスマートフォンの画面を見る。
「異世界先輩、どこにいるって言ってました?」
「なんか『占い御殿』でもてなしを受けてるってわけわかんねーこと言ってたわ……」
「『占い御殿』……?」
宇津季が軽く首をかしげて問う。ニカも心当たりがなかったので、素直に筒井筒の返答を待った。
そんなふたりの後輩の疑問に、筒井筒は律儀に説明してくれる。
「昔、一世を風靡した占い師が建てた豪邸だよ。街の外れにあるんだが……」
「そこに、異世界先輩が?」
「なんかそこに招かれたって言ってるんだけど……そこ、もうだれも住まなくなって廃墟になってるはずなんだよな……」
「え」
ニカと宇津季の声が重なった。
「その豪邸の持ち主である占い師が亡くなったのって、入学前の話だから俺も詳しくは知らないんだが、たしかそのはず……」
「それは――まずくないですか。色々と」
「まあ、マジで敷地内に入ってるなら不法侵入だし、だれかに招かれたって言うならそれはそれでまずそうだよな」
「その『占い御殿』に行きましょう」
筒井筒の言葉を食い気味に宇津季が言う。やる気満々だ。
宇津季の言葉に、筒井筒もうなずく。
となれば、ニカが「じゃあオレはここで待っています」などと切り出すことはできない空気である。
ただ、宇津季の気がはやっている様子なのは心配だったし、異世界先輩のこともなんだかんだで気にはなるので、ニカはそんなことを言うつもりはなかったのだが。
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