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ラブイズブラインド(1)
「いやー知らないですね」
ニカがそう答えると、隣に座る宇津季も「おれも同じく……」とゆるく首を左右に振った。
対面のソファに腰かけた異世界先輩は、「そっかー」と言った。その返答を聞くに、ニカと宇津季が知っている可能性について、ハナから低いと思っていた様子だ。
場所は例によって黒芙蓉寮の談話室。
例によって超常現象探求サークルを主宰する異世界先輩の号令で集められたのは、しかしニカと宇津季のふたりだけだった。筒井筒は家庭料理サークルの活動日だということで、今この場にはいない。
後輩ふたりを迎え入れた異世界先輩は、危なっかしい手つきで紅茶を淹れ、茶請け――筒井筒が作ったもの――を出してくれた。
そうやって三人がソファに腰を落ち着けたところで、異世界先輩が早速質問をしてきたのだ。
ニカと宇津季は、それに「知らない」と首を振った。それが冒頭のやり取りである。
「まあ、同じ学年でも顔も名前も知らない同級生っているよね。この学園はけっこうな規模だし」
異世界先輩はそう言いつつ、
「でも、今回の依頼人は女子生徒だから、少しくらい知ってるかなって思ってた」
と付け加えた。
この学園は元々男子校であったことも影響し、共学となった現在でも女子生徒の数は少ない。つまり、良くも悪くも学園内では目立つ存在だということだ。
だから異世界先輩はニカや宇津季が、今回の依頼人について知っている可能性があると思ったのだろう。
しかし残念ながら、ニカも宇津季もその同学年だという女子生徒に心当たりはなかった。この学園はいわゆるマンモス校であるので、その女子生徒がふたりにとって、まったく見ず知らずの存在であっても不思議はなかった。
「……それで、今回の依頼人ってどんな感じでしたか?」
超常現象探求サークルに依頼をしてくる生徒には、ざっくりとふたつのパターンがいると言ったのは、筒井筒だ。
ひとつは面白半分に依頼してくる生徒。もうひとつは、身元のしっかりとした大人に相談できない、後ろめたい事情のある生徒。
ニカはてっきり、今回の依頼人もそのどちらか、あるいは両方に当てはまる生徒なのではないかと思ったのだが、異世界先輩の所感では違うらしい。
「超常現象に対しては懐疑的だったけれど、友達を助けたいという気持ちは本物だと思ったよ」
「超常現象について、その依頼人は教師には相談したんですか?」
「したらしいけれど、『偶然』とか『気のせい』で片づけられちゃったみたい」
「それで、藁にもすがる思いで相談してきた……って感じですかね」
「そうそう」
そうして異世界先輩はようやく今回の依頼の、詳細な内容について話し出した。
「発端は、依頼人――白井セツナさんの、親友の石黒ふわりさんにいたずらが仕掛けられたこと」
……いたずらの内容は趣味がいいとは言えないが、他愛のない内容だった。
「目隠しデート」。その名の通り、女子生徒のほうに目隠しをして、その手を男子生徒が引っ張って校舎内を回ってデートをするという、危険ではあったが他愛ないと言えば他愛ない遊びではあった。
ニカが「趣味がいいとは思えない」という感想を抱いたのは、女子生徒――石黒ふわりのお相手にあてがわれた男子生徒が、架空の存在だったという点だ。
いや、石黒ふわりの手を引っ張った男子生徒は存在しているし、石黒ふわりに話しかけたりだってした。
けれども、その設定は実在しない、架空のものだった。名前、趣味、家族構成……その男子生徒が口にしたのはデタラメばかりだった――らしい。
変なところで手が込んでいて、趣味がいいとは言えないいたずらだ。
石黒ふわりをからかうのが目的だったのだろう。
石黒ふわりの親友である依頼人いわく、彼女はちょっと抜けていて天然なところがあり、それでいて美少女なので男子生徒たちから人気があると言う。
石黒ふわりをからかうのも目的のひとつであったが、もしかしたら、彼女の気を惹きたいという幼稚な感情もあったのかもしれない。
そのいたずらを仕掛けた者たちは、デートの最後にネタばらしをしなかった。しばらくそのネタで石黒ふわりをからかうつもりだったのだろう。ニカも宇津季も、聞いていてちょっと気分が悪くなった。
だが、問題はそこから始まった。
石黒ふわりが、そのデート相手――つまり、架空の男子生徒に惚れたのだ。
「――でも、『そんな生徒は存在しない』ってことを伝えれば解決……しなかったんですよね……」
「その通り。依頼人の白井さんもそう伝えたんだけれど、石黒さんはなぜだかその男子生徒が実在していると信じ込んでいるらしくてね」
「……今の時点だと、こちらに依頼を持ち込んだ理由はよくわからないですけど……」
「そう。その時点では私たちのサークルに依頼を持ち込む理由はない。でもそうせざるを得ないような出来事があった」
「出来事……」
「それが、ポルターガイスト現象」
……石黒ふわりをからかった者たちは、彼女の親友である白井セツナに詰め寄られ、石黒ふわりにネタばらしをした。
けれども――石黒ふわりは信じなかった。
それどころか突然、本棚から収められていた本が落ちてきたという。
そのときは単なる偶然で済まされたが、その日を境に石黒ふわりの周囲や、その関係者のまわりで怪奇現象が起き出した。
だがそれらは、相談を受けた教師が「偶然」や「気のせい」で片づけられるていどのものだったので、白井セツナは藁にもすがる思いで、異世界先輩――超常現象探求サークルに依頼を持ち込んだのだという。
「足を引っ張られたり、背中を押されるような感覚があったり。白井さんによると寮の相部屋でティーカップがカタカタ震えていたこともあるみたい」
「でも『偶然』で片づけられて、それでいてそのいたずらの主が目に見えているわけじゃないからヘンピトの仕業じゃない、と……」
「そう、それで一度見に行こうと思うんだよね。ほら、私ってなにやら他のひとには見えないものがときどき見えるみたいだから」
異世界先輩は自身の黒い瞳を指差した。
ニカがそう答えると、隣に座る宇津季も「おれも同じく……」とゆるく首を左右に振った。
対面のソファに腰かけた異世界先輩は、「そっかー」と言った。その返答を聞くに、ニカと宇津季が知っている可能性について、ハナから低いと思っていた様子だ。
場所は例によって黒芙蓉寮の談話室。
例によって超常現象探求サークルを主宰する異世界先輩の号令で集められたのは、しかしニカと宇津季のふたりだけだった。筒井筒は家庭料理サークルの活動日だということで、今この場にはいない。
後輩ふたりを迎え入れた異世界先輩は、危なっかしい手つきで紅茶を淹れ、茶請け――筒井筒が作ったもの――を出してくれた。
そうやって三人がソファに腰を落ち着けたところで、異世界先輩が早速質問をしてきたのだ。
ニカと宇津季は、それに「知らない」と首を振った。それが冒頭のやり取りである。
「まあ、同じ学年でも顔も名前も知らない同級生っているよね。この学園はけっこうな規模だし」
異世界先輩はそう言いつつ、
「でも、今回の依頼人は女子生徒だから、少しくらい知ってるかなって思ってた」
と付け加えた。
この学園は元々男子校であったことも影響し、共学となった現在でも女子生徒の数は少ない。つまり、良くも悪くも学園内では目立つ存在だということだ。
だから異世界先輩はニカや宇津季が、今回の依頼人について知っている可能性があると思ったのだろう。
しかし残念ながら、ニカも宇津季もその同学年だという女子生徒に心当たりはなかった。この学園はいわゆるマンモス校であるので、その女子生徒がふたりにとって、まったく見ず知らずの存在であっても不思議はなかった。
「……それで、今回の依頼人ってどんな感じでしたか?」
超常現象探求サークルに依頼をしてくる生徒には、ざっくりとふたつのパターンがいると言ったのは、筒井筒だ。
ひとつは面白半分に依頼してくる生徒。もうひとつは、身元のしっかりとした大人に相談できない、後ろめたい事情のある生徒。
ニカはてっきり、今回の依頼人もそのどちらか、あるいは両方に当てはまる生徒なのではないかと思ったのだが、異世界先輩の所感では違うらしい。
「超常現象に対しては懐疑的だったけれど、友達を助けたいという気持ちは本物だと思ったよ」
「超常現象について、その依頼人は教師には相談したんですか?」
「したらしいけれど、『偶然』とか『気のせい』で片づけられちゃったみたい」
「それで、藁にもすがる思いで相談してきた……って感じですかね」
「そうそう」
そうして異世界先輩はようやく今回の依頼の、詳細な内容について話し出した。
「発端は、依頼人――白井セツナさんの、親友の石黒ふわりさんにいたずらが仕掛けられたこと」
……いたずらの内容は趣味がいいとは言えないが、他愛のない内容だった。
「目隠しデート」。その名の通り、女子生徒のほうに目隠しをして、その手を男子生徒が引っ張って校舎内を回ってデートをするという、危険ではあったが他愛ないと言えば他愛ない遊びではあった。
ニカが「趣味がいいとは思えない」という感想を抱いたのは、女子生徒――石黒ふわりのお相手にあてがわれた男子生徒が、架空の存在だったという点だ。
いや、石黒ふわりの手を引っ張った男子生徒は存在しているし、石黒ふわりに話しかけたりだってした。
けれども、その設定は実在しない、架空のものだった。名前、趣味、家族構成……その男子生徒が口にしたのはデタラメばかりだった――らしい。
変なところで手が込んでいて、趣味がいいとは言えないいたずらだ。
石黒ふわりをからかうのが目的だったのだろう。
石黒ふわりの親友である依頼人いわく、彼女はちょっと抜けていて天然なところがあり、それでいて美少女なので男子生徒たちから人気があると言う。
石黒ふわりをからかうのも目的のひとつであったが、もしかしたら、彼女の気を惹きたいという幼稚な感情もあったのかもしれない。
そのいたずらを仕掛けた者たちは、デートの最後にネタばらしをしなかった。しばらくそのネタで石黒ふわりをからかうつもりだったのだろう。ニカも宇津季も、聞いていてちょっと気分が悪くなった。
だが、問題はそこから始まった。
石黒ふわりが、そのデート相手――つまり、架空の男子生徒に惚れたのだ。
「――でも、『そんな生徒は存在しない』ってことを伝えれば解決……しなかったんですよね……」
「その通り。依頼人の白井さんもそう伝えたんだけれど、石黒さんはなぜだかその男子生徒が実在していると信じ込んでいるらしくてね」
「……今の時点だと、こちらに依頼を持ち込んだ理由はよくわからないですけど……」
「そう。その時点では私たちのサークルに依頼を持ち込む理由はない。でもそうせざるを得ないような出来事があった」
「出来事……」
「それが、ポルターガイスト現象」
……石黒ふわりをからかった者たちは、彼女の親友である白井セツナに詰め寄られ、石黒ふわりにネタばらしをした。
けれども――石黒ふわりは信じなかった。
それどころか突然、本棚から収められていた本が落ちてきたという。
そのときは単なる偶然で済まされたが、その日を境に石黒ふわりの周囲や、その関係者のまわりで怪奇現象が起き出した。
だがそれらは、相談を受けた教師が「偶然」や「気のせい」で片づけられるていどのものだったので、白井セツナは藁にもすがる思いで、異世界先輩――超常現象探求サークルに依頼を持ち込んだのだという。
「足を引っ張られたり、背中を押されるような感覚があったり。白井さんによると寮の相部屋でティーカップがカタカタ震えていたこともあるみたい」
「でも『偶然』で片づけられて、それでいてそのいたずらの主が目に見えているわけじゃないからヘンピトの仕業じゃない、と……」
「そう、それで一度見に行こうと思うんだよね。ほら、私ってなにやら他のひとには見えないものがときどき見えるみたいだから」
異世界先輩は自身の黒い瞳を指差した。
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