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夢の中で遭ったから(1)
火法の授業に出席すべく時間に余裕をもって教室に入ったニカと宇津季は、並んで座り、革鞄から教科書などを取り出し、さっと机の上に置いた。
前回の授業で出された課題について宇津季と話をしていたところ、その隣に青いリボンタイをつけた男子生徒が腰を下ろす。
リボンタイの色ですぐにニカたちとは違う、青薔薇寮の生徒だということはわかり、またこの火法の授業は一年生しか取らないものだったので、自動的に青いリボンタイをつけた彼は同学年ということになる。
「ねえねえ、きみたちって超常現象探求サークルのひとたちだよね?」
そんな青いリボンタイの男子生徒に馴れ馴れしく話しかけられて、その隣に座っていた宇津季は少しぎょっとした顔になる。
宇津季は社交的な性質ではないため、助けを求めるようにニカへと視線を向けた。
宇津季がこういったコミュニケーションを苦手としているのは、もちろん従兄弟同士で幼馴染の腐れ縁であるニカはよくよく承知している。
しかし入学して数ヶ月経つのであるから、宇津季だって多少なりとも他の生徒と仲良くすればいいのに、とニカは思わなくもない。
それでも宇津季が必死に目だけで助けを訴えてくるので、ニカは内心で「やれやれ」と思いつつ、宇津季を挟んで青いリボンタイの男子生徒のほうを向いた。
「そうだけど」
「異世界先輩とは親しいの?」
「そりゃまあ、四人しかいないサークルだからね」
「へえ! じゃあ異世界先輩について教えてよ!」
最初、ニカは青いリボンタイの男子生徒は、好奇心からそのようなことを聞いているのかと思った。
超常現象探求サークルを訪れる者の中には、面白半分に異世界先輩に依頼をする生徒も多いとは、筒井筒の弁である。
だから、ニカはこの青いリボンタイの男子生徒もそのような手合いなのかと考えたのだ。
一方、宇津季は突然異世界先輩の名前を出されたことで、「なんだこいつ」とばかりに青いリボンタイの男子生徒を見ている。
しかし男子生徒は宇津季のそんな視線には気づいていないのか、あるいはあえて無視しているのか、「異世界先輩について知りたいんだ」と朗らかな笑顔をニカに向けた。
いや、違う。たしかに、男子生徒のそれは、屈託のない朗らかな笑顔ではあった。
けれどもその隙間からは、下心が見えた。
異世界先輩をからかってやろうというような、悪意ではない。下心だ。
「どうして知りたいわけ?」
ニカはやや警戒気味に、しかし声はまったくいつも通りに、当然の疑問をぶつける。
隣の宇津季は目を平たくして、じっとりと男子生徒を見つめていた。
ニカから理由を問われた男子生徒はさっと目を伏せて――はにかんだ。
「夢の中で会ったから」
「え?」
まったく想定外の答えを聞かされ、ニカと宇津季の間の抜けた声が重なった。
男子生徒は恥ずかしそうに微笑んだまま、話を続ける。
「夢の中で会ったんだよ……異世界先輩と。ボクに優しく微笑んでくれたんだ。それで、起きてからもずっと忘れられなくて……」
「へ、へえ……」
ニカは、どんな返答をするのがこの場でもっとも無難なのか、一瞬のうちにわからなくなって、そんな声を出した。
他方、異世界先輩に妙に懐いている宇津季は、男子生徒の下心がむき出しになったことで、じっとりとした視線にますますの苛烈さが加わっている。
「夢の話だろ」
とげとげしい声が宇津季から出る。
いつもだったらそんな宇津季を諫める立場であるニカも、宇津季とは同意見だったのと、やはりまだ困惑が勝っていたので、なにも言わなかった。
「でも……これは運命だよ!」
「いや、でも夢の話なんだろ?」
「でも、だれかのことがこんなにも忘れられなかったことってないんだ。実際に、しゃべったこともない相手なのに。だから運命だと思って」
ニカは男子生徒の主張に、呆気に取られるしかない。
男子生徒はひとことで言うと、「夢に出てきた会話をしたこともない先輩にひと目惚れした」ということになるのだが、彼はなぜかそれを運命だと信じ切っている。
宇津季は険のある顔で男子生徒を見たが、彼は自分の世界に浸っているのか、まったくひるむ様子はない。
徐々に落ち着きを取り戻し始めたニカが、話を整理する。
「えーっと、なに、あんたは異世界先輩にひと目惚れしたから先輩について色々教えて欲しいって、言いに来たってこと?」
男子生徒はまたはにかんで、何度もうなずいた。
「そんなこと言われてもね……」
ニカはどうやってこの場を切り抜けるか思考を巡らせ始めたところで、授業の始まりを告げる鐘が鳴った。
なにごとにも厳しいことで有名な火法の教師が時間ぴったりに教室に入ってきたので、そこで名も知らぬ男子生徒との会話は打ち切られた。
「あとで教えてよ!」
男子生徒は小声でそんなことを言ってきたが、ニカはなぜだかとてもそんな気にはなれなかった。
前回の授業で出された課題について宇津季と話をしていたところ、その隣に青いリボンタイをつけた男子生徒が腰を下ろす。
リボンタイの色ですぐにニカたちとは違う、青薔薇寮の生徒だということはわかり、またこの火法の授業は一年生しか取らないものだったので、自動的に青いリボンタイをつけた彼は同学年ということになる。
「ねえねえ、きみたちって超常現象探求サークルのひとたちだよね?」
そんな青いリボンタイの男子生徒に馴れ馴れしく話しかけられて、その隣に座っていた宇津季は少しぎょっとした顔になる。
宇津季は社交的な性質ではないため、助けを求めるようにニカへと視線を向けた。
宇津季がこういったコミュニケーションを苦手としているのは、もちろん従兄弟同士で幼馴染の腐れ縁であるニカはよくよく承知している。
しかし入学して数ヶ月経つのであるから、宇津季だって多少なりとも他の生徒と仲良くすればいいのに、とニカは思わなくもない。
それでも宇津季が必死に目だけで助けを訴えてくるので、ニカは内心で「やれやれ」と思いつつ、宇津季を挟んで青いリボンタイの男子生徒のほうを向いた。
「そうだけど」
「異世界先輩とは親しいの?」
「そりゃまあ、四人しかいないサークルだからね」
「へえ! じゃあ異世界先輩について教えてよ!」
最初、ニカは青いリボンタイの男子生徒は、好奇心からそのようなことを聞いているのかと思った。
超常現象探求サークルを訪れる者の中には、面白半分に異世界先輩に依頼をする生徒も多いとは、筒井筒の弁である。
だから、ニカはこの青いリボンタイの男子生徒もそのような手合いなのかと考えたのだ。
一方、宇津季は突然異世界先輩の名前を出されたことで、「なんだこいつ」とばかりに青いリボンタイの男子生徒を見ている。
しかし男子生徒は宇津季のそんな視線には気づいていないのか、あるいはあえて無視しているのか、「異世界先輩について知りたいんだ」と朗らかな笑顔をニカに向けた。
いや、違う。たしかに、男子生徒のそれは、屈託のない朗らかな笑顔ではあった。
けれどもその隙間からは、下心が見えた。
異世界先輩をからかってやろうというような、悪意ではない。下心だ。
「どうして知りたいわけ?」
ニカはやや警戒気味に、しかし声はまったくいつも通りに、当然の疑問をぶつける。
隣の宇津季は目を平たくして、じっとりと男子生徒を見つめていた。
ニカから理由を問われた男子生徒はさっと目を伏せて――はにかんだ。
「夢の中で会ったから」
「え?」
まったく想定外の答えを聞かされ、ニカと宇津季の間の抜けた声が重なった。
男子生徒は恥ずかしそうに微笑んだまま、話を続ける。
「夢の中で会ったんだよ……異世界先輩と。ボクに優しく微笑んでくれたんだ。それで、起きてからもずっと忘れられなくて……」
「へ、へえ……」
ニカは、どんな返答をするのがこの場でもっとも無難なのか、一瞬のうちにわからなくなって、そんな声を出した。
他方、異世界先輩に妙に懐いている宇津季は、男子生徒の下心がむき出しになったことで、じっとりとした視線にますますの苛烈さが加わっている。
「夢の話だろ」
とげとげしい声が宇津季から出る。
いつもだったらそんな宇津季を諫める立場であるニカも、宇津季とは同意見だったのと、やはりまだ困惑が勝っていたので、なにも言わなかった。
「でも……これは運命だよ!」
「いや、でも夢の話なんだろ?」
「でも、だれかのことがこんなにも忘れられなかったことってないんだ。実際に、しゃべったこともない相手なのに。だから運命だと思って」
ニカは男子生徒の主張に、呆気に取られるしかない。
男子生徒はひとことで言うと、「夢に出てきた会話をしたこともない先輩にひと目惚れした」ということになるのだが、彼はなぜかそれを運命だと信じ切っている。
宇津季は険のある顔で男子生徒を見たが、彼は自分の世界に浸っているのか、まったくひるむ様子はない。
徐々に落ち着きを取り戻し始めたニカが、話を整理する。
「えーっと、なに、あんたは異世界先輩にひと目惚れしたから先輩について色々教えて欲しいって、言いに来たってこと?」
男子生徒はまたはにかんで、何度もうなずいた。
「そんなこと言われてもね……」
ニカはどうやってこの場を切り抜けるか思考を巡らせ始めたところで、授業の始まりを告げる鐘が鳴った。
なにごとにも厳しいことで有名な火法の教師が時間ぴったりに教室に入ってきたので、そこで名も知らぬ男子生徒との会話は打ち切られた。
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