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夢の中で遭ったから(2)
「なんなんだ、あいつ」
あのあと。
貴重な休憩時間を費やされて、異世界先輩について根掘り葉掘り質問された宇津季は、不機嫌さを隠そうともしない。
それでもあの青いリボンタイの男子生徒の前では一応隠していたのだから、宇津季とて常識はわきまえている。
今、あからさまにむすっとした顔をしているのは、気の置けない友人でもあるニカの隣にいるからだろう。
ニカも宇津季の態度をどうこう言うつもりはなかった。
ただ「わかりやすっ」とだけ言って、宇津季をからかってはおく。
宇津季は、異世界先輩に妙になついているので、突然横から現れて異世界先輩に興味を持つあの男子生徒の存在が面白くないのだろう。
結局、あのあとに異世界先輩のプライバシーに配慮しつつ、当たり障りのない返答の大部分を担ったのはニカなのだ。そのあいだ、宇津季はほぼだんまりだった。ニカが不機嫌オーラを出す宇津季に、しゃべらせる暇を与えなかった面はある。
けれどもこちらが負担したぶんくらいは、宇津季をちょっとからかうくらいの権利はあるだろうと、ニカは「わかりやすっ」とちょっとおちょくって言ったのだ。
とは言えどもそのわかりやすいというのはニカの感想で、他人からすればまったくわかりやすくなどはないのだが。
「――ま、お前が不機嫌になるのもわかるよ。なんていうかなー軽いって言うか……本人は本気のつもりかもしれないけどさ」
ニカはそう言って慰めるように、なだめるように宇津季の肩を軽く叩いた。
「もう会いたくない」
「まー……あの勢いでまた来られたら、な」
そんなことを言い合うニカと宇津季だったが、件の青いリボンタイの男子生徒との再会は、存外早く訪れた。
「あっ、昨日ぶりですね!」
そう言って朗らかに微笑んだ男子生徒の胸元には、青いリボンタイがあり、襟元には一年生を示すバッジが輝いている。
場所は黒芙蓉寮の談話室。そのソファに男子生徒は腰を下ろしていたが、よりにもよって、異世界先輩の隣に座っていたので、ニカは隣に立つ宇津季の顔は怖くて見れなかった。
「ああ、知り合いだったの」
「まあ、同じ学年ですから……」
まったくもっていつも通りの異世界先輩の言葉に、ニカは曖昧に笑ってそう答えた。
ニカは恐る恐る隣の宇津季に目をやる。宇津季の形の良い目は常よりも鋭さを増し、威嚇のためか細められているようにも見えた。
けれども青いリボンタイの男子生徒はおろか、異世界先輩も気づかない様子。というか、異世界先輩はなにやら男子生徒と話し込んでいるので、宇津季のいつもと違う鋭い目つきが視界に入っていないようだ。
「どうしたの? ソファに座りなよ」
異世界先輩に言われて、ニカは「あ、はい」と返しつつ、空いているソファに腰を下ろしたが、なんだか居心地が悪い。
もちろんそれは剣呑な目をしている宇津季のせいでもあったし、そんな後輩の変化に気づいてくれない異世界先輩のせいでもあったし、まったく場をわきまえるという言葉を知らない青いリボンタイの男子生徒のせいでもあった。
ほどなくして黒芙蓉寮の談話室に筒井筒が現れた。
筒井筒は青いリボンタイの男子生徒を見るや、異世界先輩に
「そいつが?」
とだけ言った。
ニカには筒井筒の声がどこかとげとげしく聞こえたような気がしたが、それは単なるニカ自身の心情が投影された結果かもしれない。
異世界先輩は明るい顔で、
「そうだよ。超常現象探求サークルの入会希望者!」
と言い放ったので、ニカも宇津季もおどろいた。
青いリボンタイの男子生徒は、異世界先輩の横で例のはにかむ顔を見せる。
ニカにはもう、それは下心からくる下卑た笑みにしか見えなくなっていた。
……とは言えども、ニカの従兄弟である宇津季とて、異世界先輩への好意ゆえに入会したという経緯がある。
ニカは異世界先輩に対して下心は持っていないが、真摯な気持ちでサークルに入ったというわけでもない。
そのような経緯を鑑みると、青いリボンタイの男子生徒を糾弾できないのが正直な心境であった。
けれども自身らを棚に上げて、それでも「夢の中で会ったから」という理由はどうなんだというのもまた、正直な感想であった。
「……夢の中で会ったから、入るのか?」
宇津季が心なしかな、いつもよりも低い声で言う。
ニカは、「あ、ここで暴露しちゃうんだ」と思った。
しかし青いリボンタイの生徒のほうが、ある意味ではうわ手だった。
「きっかけはそうです! でも異世界先輩の未知への探求心に触れて、超常現象探求サークルに興味を持ったんです!」
ニカは悪い意味で舌を巻いた。同時に、「夢の中で会ったから」という理由でサークルの門戸を叩いた男子生徒に対し、まったく気分を害した様子もなく、むしろ喜んでいる風である異世界先輩に、八つ当たりにも似た思いを抱いた。
「夢って……なんの話だ?」
この場で話についていけていない筒井筒が、ひとり掛けのソファに座った。
ニカは青いリボンタイの男子生徒が隠す様子でもなかったので、経緯を洗いざらい筒井筒にぶちまけた。
ニカから話を聞いた筒井筒は、血色のよい頬の男子生徒を、呆れ返った目で見る。
「うちは掛け持ちできっけど……いいのか? 色々と……」
「はい! ぜひ入会させてください!」
「……まあ、やる気があるのはいいことだけど……」
話が一段落したところで、異世界先輩が黒芙蓉寮にサークル会員を集めた理由を話し出す。
話自体は一段落したが、談話室に漂うなんとも言えない空気は、まったく落ち着いたものではなかったが、異世界先輩が次の話をしだしたので、少しはそんな雰囲気もやわらぐ。というか、うやむやになる。
「『とにかく話を聞いてくれるだけでいい』っていう依頼人が今から来るから」
……なんだか既視感のある依頼だなとニカは思った。
あのあと。
貴重な休憩時間を費やされて、異世界先輩について根掘り葉掘り質問された宇津季は、不機嫌さを隠そうともしない。
それでもあの青いリボンタイの男子生徒の前では一応隠していたのだから、宇津季とて常識はわきまえている。
今、あからさまにむすっとした顔をしているのは、気の置けない友人でもあるニカの隣にいるからだろう。
ニカも宇津季の態度をどうこう言うつもりはなかった。
ただ「わかりやすっ」とだけ言って、宇津季をからかってはおく。
宇津季は、異世界先輩に妙になついているので、突然横から現れて異世界先輩に興味を持つあの男子生徒の存在が面白くないのだろう。
結局、あのあとに異世界先輩のプライバシーに配慮しつつ、当たり障りのない返答の大部分を担ったのはニカなのだ。そのあいだ、宇津季はほぼだんまりだった。ニカが不機嫌オーラを出す宇津季に、しゃべらせる暇を与えなかった面はある。
けれどもこちらが負担したぶんくらいは、宇津季をちょっとからかうくらいの権利はあるだろうと、ニカは「わかりやすっ」とちょっとおちょくって言ったのだ。
とは言えどもそのわかりやすいというのはニカの感想で、他人からすればまったくわかりやすくなどはないのだが。
「――ま、お前が不機嫌になるのもわかるよ。なんていうかなー軽いって言うか……本人は本気のつもりかもしれないけどさ」
ニカはそう言って慰めるように、なだめるように宇津季の肩を軽く叩いた。
「もう会いたくない」
「まー……あの勢いでまた来られたら、な」
そんなことを言い合うニカと宇津季だったが、件の青いリボンタイの男子生徒との再会は、存外早く訪れた。
「あっ、昨日ぶりですね!」
そう言って朗らかに微笑んだ男子生徒の胸元には、青いリボンタイがあり、襟元には一年生を示すバッジが輝いている。
場所は黒芙蓉寮の談話室。そのソファに男子生徒は腰を下ろしていたが、よりにもよって、異世界先輩の隣に座っていたので、ニカは隣に立つ宇津季の顔は怖くて見れなかった。
「ああ、知り合いだったの」
「まあ、同じ学年ですから……」
まったくもっていつも通りの異世界先輩の言葉に、ニカは曖昧に笑ってそう答えた。
ニカは恐る恐る隣の宇津季に目をやる。宇津季の形の良い目は常よりも鋭さを増し、威嚇のためか細められているようにも見えた。
けれども青いリボンタイの男子生徒はおろか、異世界先輩も気づかない様子。というか、異世界先輩はなにやら男子生徒と話し込んでいるので、宇津季のいつもと違う鋭い目つきが視界に入っていないようだ。
「どうしたの? ソファに座りなよ」
異世界先輩に言われて、ニカは「あ、はい」と返しつつ、空いているソファに腰を下ろしたが、なんだか居心地が悪い。
もちろんそれは剣呑な目をしている宇津季のせいでもあったし、そんな後輩の変化に気づいてくれない異世界先輩のせいでもあったし、まったく場をわきまえるという言葉を知らない青いリボンタイの男子生徒のせいでもあった。
ほどなくして黒芙蓉寮の談話室に筒井筒が現れた。
筒井筒は青いリボンタイの男子生徒を見るや、異世界先輩に
「そいつが?」
とだけ言った。
ニカには筒井筒の声がどこかとげとげしく聞こえたような気がしたが、それは単なるニカ自身の心情が投影された結果かもしれない。
異世界先輩は明るい顔で、
「そうだよ。超常現象探求サークルの入会希望者!」
と言い放ったので、ニカも宇津季もおどろいた。
青いリボンタイの男子生徒は、異世界先輩の横で例のはにかむ顔を見せる。
ニカにはもう、それは下心からくる下卑た笑みにしか見えなくなっていた。
……とは言えども、ニカの従兄弟である宇津季とて、異世界先輩への好意ゆえに入会したという経緯がある。
ニカは異世界先輩に対して下心は持っていないが、真摯な気持ちでサークルに入ったというわけでもない。
そのような経緯を鑑みると、青いリボンタイの男子生徒を糾弾できないのが正直な心境であった。
けれども自身らを棚に上げて、それでも「夢の中で会ったから」という理由はどうなんだというのもまた、正直な感想であった。
「……夢の中で会ったから、入るのか?」
宇津季が心なしかな、いつもよりも低い声で言う。
ニカは、「あ、ここで暴露しちゃうんだ」と思った。
しかし青いリボンタイの生徒のほうが、ある意味ではうわ手だった。
「きっかけはそうです! でも異世界先輩の未知への探求心に触れて、超常現象探求サークルに興味を持ったんです!」
ニカは悪い意味で舌を巻いた。同時に、「夢の中で会ったから」という理由でサークルの門戸を叩いた男子生徒に対し、まったく気分を害した様子もなく、むしろ喜んでいる風である異世界先輩に、八つ当たりにも似た思いを抱いた。
「夢って……なんの話だ?」
この場で話についていけていない筒井筒が、ひとり掛けのソファに座った。
ニカは青いリボンタイの男子生徒が隠す様子でもなかったので、経緯を洗いざらい筒井筒にぶちまけた。
ニカから話を聞いた筒井筒は、血色のよい頬の男子生徒を、呆れ返った目で見る。
「うちは掛け持ちできっけど……いいのか? 色々と……」
「はい! ぜひ入会させてください!」
「……まあ、やる気があるのはいいことだけど……」
話が一段落したところで、異世界先輩が黒芙蓉寮にサークル会員を集めた理由を話し出す。
話自体は一段落したが、談話室に漂うなんとも言えない空気は、まったく落ち着いたものではなかったが、異世界先輩が次の話をしだしたので、少しはそんな雰囲気もやわらぐ。というか、うやむやになる。
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……なんだか既視感のある依頼だなとニカは思った。
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