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しるし(1)
貴重な連休に、実家に顔を出しに帰る寮生も幾人かいる中、ニカを含む超常現象探求サークルの面々は、学園島外某所にあるコテージの前にいた。
コテージの外観はログハウス風の趣きあるいかにもなもので、またまだ真新しいのかメンテナンスが行き届いているせいなのか、古風な感じはない。
玄関と、その回り込んだ先に設けられたウッドデッキへも繋がる階段の前で、四人はコテージを見上げる。
そんな四人をここまで白いライトバンで送り届けた男性――コテージのオーナーが「思ったよりも綺麗だったかな?」と微笑む。
もはや空には夜が迫りつつあり、日暮れに合わせてカラスの鳴き声がやかましいほどに遠くから聞こえてくる。
振り返った四人に、コテージの鍵を手にしたオーナーが近づく。
「ええ、とてもここが『神隠しコテージ』などと呼ばれているだなんて思えませんね」
異世界先輩がさらっとそう言っても、中年のオーナーは眉を下げるだけだ。
しかしさすがの異世界先輩も、場をわきまえてか「神隠しコテージ」を前にしても、はしゃぐような態度は見せない。
そんな異世界先輩へオーナーは鍵を手渡した。
「困ってるんですよ。『神隠しコテージ』だなんてネットで書かれて……たしかにふた組ほど荷物を置いたままいなくなったのは事実ですけれど」
困り果てた恵比寿のような顔でオーナーはため息をつく。
「きっとヘンピトの仕業に違いないと役所で相談したんですけれど、うちの地域の火法士さんは忙しくて、なかなか順番が回ってこないんですよ。ほら、このあたりは郊外だから、ヘンピトも多いんですね」
「えーっと、俺たちまだ学生なんですけど……」
「それはもちろん承知の上です。今回はみなさんにこのコテージに泊まっていただいて、神隠しなんてないと証明していただきたいのです。顛末の記事は、岩永さんが載せてくださると約束してくれましたし。それに、万が一ヘンピトが出ても火法科の生徒さんなら安心でしょう?」
……「神隠しコテージ」に二泊して真相をたしかめる――。そんなネットメディアの企画のアルバイトを持ち込んできたのは、異世界先輩の知り合いで編集者兼ライターの岩永だという。
コテージのオーナーと岩永は直接の知り合いではなく、知り合いの知り合いのさらに知り合い、くらいの縁遠い関係性らしい。
それが巡り巡って、異世界先輩に臨時アルバイトとして舞い込んだ。オカルト系のフォーラムで知り合った岩永は、ときどきこうしてアルバイトを回してくれる……とは異世界先輩の言である。
そしてそんな異世界先輩に同行することになったのが、超常現象探求サークルの三人、というわけだ。
異世界先輩は律儀にアルバイト代は分配すると言いはしたものの、三人は金銭目的というよりは、異世界先輩をひとりで「神隠しコテージ」に送り込むことに不安を覚えて参加を決めた。
「戸締りと火の扱いには気をつけてください。それと二階には上がらないでください」
「二階?」
「お恥ずかしながら今雨漏りが酷くて……。上がれないように封鎖しているので、いじらないでくださいね。申し訳ないのですが、就寝はリビングでお願いします。布団は置いてありますので。――それでは、よろしくお願いいたします」
オーナーは何度もぺこぺこと頭を下げつつ、四人を乗せてきたライトバンに乗り込み、コテージの前から去って行った。
「それじゃあ入ろうか」
色々とオーナーの言葉の節々に思うところはあったものの、ここに来るまでに路面電車、船、電車、自動車と乗り換えてきた疲労感に押し出され、三人は異世界先輩に促されるままコテージに足を踏み入れた。
コテージの内部は、外観通りに小綺麗な印象があった。ログハウス風の見た目を生かし、内装も木目を利用したあたたかみの感じられる調度品や、落ち着いた色合いのラグマットなどが置かれている。定員は一〇名とのことで、四人で泊まるにはじゅうぶん過ぎるほどに広い。
寝室がある二階は利用できないため、リビングルームの隅には、オーナーの言った通り四組の布団が丁寧に積まれていた。
ルームツアーとばかりに四人で一度、バスルームやトイレの位置など、確認を兼ねて巡る。
異世界先輩がネット記事に掲載するための写真を撮りつつ、疲れた体を引きずりつつ、一階の部屋をすべて見て回った。
「なんか、コテージって言われてイメージするコテージまんまって感じだな」
「水回りが綺麗なのはいいですね」
「でもここ、『神隠しコテージ』って言われてるんですよね……」
人生でコテージなどというものを利用したことのないニカなどは、小綺麗な内装に少しだけうきうきとした気持ちになりはしたものの、それに水を差すように宇津季が現実を伝えてくる。
「それはオーナーも認めていたけど……」
「否定せずに認めてるってある意味すげーよな……」
「本当に神隠しはあるのかな? 神隠しに遭ったらどこへ行ってしまうんだろうね?」
オーナーの前では慎んでいた異世界先輩も、いつもの四人だけになったので、黒い瞳を輝かせてそんなことを聞いてくる。
「現実的な答えはヘンピトの仕業か、オーナーの仕業だろ。一番あり得るのは前者。もし後者ならもっと隠蔽に走りそうだし」
続けて「ヘンピトなら火法で燃やせばいい」と言い切る筒井筒に、異世界先輩は不満げに肩を落として「えー」と言った。
コテージの外観はログハウス風の趣きあるいかにもなもので、またまだ真新しいのかメンテナンスが行き届いているせいなのか、古風な感じはない。
玄関と、その回り込んだ先に設けられたウッドデッキへも繋がる階段の前で、四人はコテージを見上げる。
そんな四人をここまで白いライトバンで送り届けた男性――コテージのオーナーが「思ったよりも綺麗だったかな?」と微笑む。
もはや空には夜が迫りつつあり、日暮れに合わせてカラスの鳴き声がやかましいほどに遠くから聞こえてくる。
振り返った四人に、コテージの鍵を手にしたオーナーが近づく。
「ええ、とてもここが『神隠しコテージ』などと呼ばれているだなんて思えませんね」
異世界先輩がさらっとそう言っても、中年のオーナーは眉を下げるだけだ。
しかしさすがの異世界先輩も、場をわきまえてか「神隠しコテージ」を前にしても、はしゃぐような態度は見せない。
そんな異世界先輩へオーナーは鍵を手渡した。
「困ってるんですよ。『神隠しコテージ』だなんてネットで書かれて……たしかにふた組ほど荷物を置いたままいなくなったのは事実ですけれど」
困り果てた恵比寿のような顔でオーナーはため息をつく。
「きっとヘンピトの仕業に違いないと役所で相談したんですけれど、うちの地域の火法士さんは忙しくて、なかなか順番が回ってこないんですよ。ほら、このあたりは郊外だから、ヘンピトも多いんですね」
「えーっと、俺たちまだ学生なんですけど……」
「それはもちろん承知の上です。今回はみなさんにこのコテージに泊まっていただいて、神隠しなんてないと証明していただきたいのです。顛末の記事は、岩永さんが載せてくださると約束してくれましたし。それに、万が一ヘンピトが出ても火法科の生徒さんなら安心でしょう?」
……「神隠しコテージ」に二泊して真相をたしかめる――。そんなネットメディアの企画のアルバイトを持ち込んできたのは、異世界先輩の知り合いで編集者兼ライターの岩永だという。
コテージのオーナーと岩永は直接の知り合いではなく、知り合いの知り合いのさらに知り合い、くらいの縁遠い関係性らしい。
それが巡り巡って、異世界先輩に臨時アルバイトとして舞い込んだ。オカルト系のフォーラムで知り合った岩永は、ときどきこうしてアルバイトを回してくれる……とは異世界先輩の言である。
そしてそんな異世界先輩に同行することになったのが、超常現象探求サークルの三人、というわけだ。
異世界先輩は律儀にアルバイト代は分配すると言いはしたものの、三人は金銭目的というよりは、異世界先輩をひとりで「神隠しコテージ」に送り込むことに不安を覚えて参加を決めた。
「戸締りと火の扱いには気をつけてください。それと二階には上がらないでください」
「二階?」
「お恥ずかしながら今雨漏りが酷くて……。上がれないように封鎖しているので、いじらないでくださいね。申し訳ないのですが、就寝はリビングでお願いします。布団は置いてありますので。――それでは、よろしくお願いいたします」
オーナーは何度もぺこぺこと頭を下げつつ、四人を乗せてきたライトバンに乗り込み、コテージの前から去って行った。
「それじゃあ入ろうか」
色々とオーナーの言葉の節々に思うところはあったものの、ここに来るまでに路面電車、船、電車、自動車と乗り換えてきた疲労感に押し出され、三人は異世界先輩に促されるままコテージに足を踏み入れた。
コテージの内部は、外観通りに小綺麗な印象があった。ログハウス風の見た目を生かし、内装も木目を利用したあたたかみの感じられる調度品や、落ち着いた色合いのラグマットなどが置かれている。定員は一〇名とのことで、四人で泊まるにはじゅうぶん過ぎるほどに広い。
寝室がある二階は利用できないため、リビングルームの隅には、オーナーの言った通り四組の布団が丁寧に積まれていた。
ルームツアーとばかりに四人で一度、バスルームやトイレの位置など、確認を兼ねて巡る。
異世界先輩がネット記事に掲載するための写真を撮りつつ、疲れた体を引きずりつつ、一階の部屋をすべて見て回った。
「なんか、コテージって言われてイメージするコテージまんまって感じだな」
「水回りが綺麗なのはいいですね」
「でもここ、『神隠しコテージ』って言われてるんですよね……」
人生でコテージなどというものを利用したことのないニカなどは、小綺麗な内装に少しだけうきうきとした気持ちになりはしたものの、それに水を差すように宇津季が現実を伝えてくる。
「それはオーナーも認めていたけど……」
「否定せずに認めてるってある意味すげーよな……」
「本当に神隠しはあるのかな? 神隠しに遭ったらどこへ行ってしまうんだろうね?」
オーナーの前では慎んでいた異世界先輩も、いつもの四人だけになったので、黒い瞳を輝かせてそんなことを聞いてくる。
「現実的な答えはヘンピトの仕業か、オーナーの仕業だろ。一番あり得るのは前者。もし後者ならもっと隠蔽に走りそうだし」
続けて「ヘンピトなら火法で燃やせばいい」と言い切る筒井筒に、異世界先輩は不満げに肩を落として「えー」と言った。
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