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「俺は、好きなひとの色々な一面や、特別な表情が見たいんだ」
ここまでなら、まあわかる。
他のひとたちが知らない、愛するひとの一面を自分だけが知っているという状況は、特別感があって、かつ優越感をくすぐられるだろう。
けれど――
「――だから、普段見れない恐怖におののく顔や、苦痛に歪む顔を見たいんだ」
……これはちょっと、理解できない。
このセリフを言ってのけたときのキルシュは、非の打ちどころのないイケメンに見えた。見た目だけは。
しかし口から出たのはサディストか、もっとひどく言えば狂人としか思えないセリフだった。
私はそんなキルシュの「ヘキ」とも言うべきものを不意に知ってしまったものの、心の奥にしまって見て見ぬフリを決め込んだ。
そのツケが今、一度に押し寄せている気がする。
――いや、でもだって、じゃあどうすればよかったんだよ?!
私はだれへむけるともなしに、心の中で叫んだ。しかしそれに答えてくれる神などはどうも存在しないらしかった。
神頼みは無駄。となれば、自力でどうにかするしかない。
私はマジックバッグからくす玉を複数個取り出し、続けてグレーターモンスターの鼻先に投擲する。
「キルシュ!」
私は、油断していた。
キルシュは「ああいうこと」を言った割には、あからさまに好意を向けている私を危ない目に遭わせたことは、これまで一度としてなかったから、油断していた。
けれどもキルシュはキルシュ――つまりは、イカレポンチなのだ。
そんなイカレポンチを、今からどうにかして説得しなければならない。
私はグレーターモンスターにくす玉をぶつけて気をそらしながら、やぶれかぶれになりながらキルシュに言った。
「キルシュ! 私のっ、特別な顔が見たいって言うなら! 危ない目に遭わせないで!」
「大丈夫大丈夫。姉さんを見殺しにするつもりはないから。でもあともうちょっとだけ……」
――このイカレンポンチ!
私は心の中でキルシュにあらん限りの罵倒の言葉をぶつけ、そのお綺麗な顔をわちゃわちゃにする想像をすることで、湧き立つ怒りと焦りを抑え込んだ。
「キルシュ! 私の一番特別でレアな顔を見たいならっ、今すぐ助けて!」
「え~……?」
「――キルシュに愛されて守られて大往生を迎えて死ぬときの顔! それすっごいレアな顔だから!!!」
ヤケになっての言葉だった。
こんな言葉でキルシュの心は動くのか、私からしても甚だ疑問だった。
しかし――
「それ――いいね」
なぜか、キルシュの琴線に触れたらしく、次の瞬間にはグレーターモンスターの顔面が、綺麗に縦に割れていた。
真っ二つになった頭の中のものをこぼれ落としながら、くずおれるグレーターモンスター。
そんな姿を見て限界に至ったのか、イチジョウさんは白目を剥いて気絶した。
私は普段からキルシュに同行してモンスターを捌いていたから、これくらいのグロ映像は屁でもなかった。
「ねえ、テマリ」
久々にキルシュから自分の名前を聞いた気がする。
だが、感慨よりも先にイヤな予感で背筋が寒くなった。
「『愛されて守られて大往生を迎えて死ぬときの顔』……見せてくれるの?」
「……女に二言はないよ」
「ふふ」
ヤケクソ気味に答えれば、マジックランタンの光に照らされたキルシュの顔が、薄く笑んだ。
「やっぱり、俺の姉さんは最高だよ!」
――私は最悪の気分だよ!
そう思いはしたものの、結局口にはしなかった。背中にどっと疲労の波が打ちつけてくるようだった。
「愛されて守られて大往生を迎えて死ぬときの顔」――それは、モンスターの脅威が身近にあるこの世界ではたしかにレアなものらしいと、あとから私は理解した。
理解したからといって、なんだという話ではあるが……。
とにもかくにも依頼は後日仕切り直して達成された。
イチジョウさんがすっかり大人しくなっていたのは、グレーターモンスターのせいか、それともキルシュのイカレポンチぶりを目の当たりにしたからだろうか。
少なくともイチジョウさんからするともうキルシュは魅力的なイケメンではないらしく、最初と違って一切目を向けないどころか、不自然に顔をそらしている様子すらあった。
――まあ、キルシュになんだかんだで付き合えるのって私くらいみたいだし……。
気がつけば、そんなことを思ってしまった自分に気づいて、ちょっと小恥ずかしくなったりして――。
なんだかんだとキルシュとの付き合いは今日も明日も続いていくのだった。
その後、キルシュが私のことを「姉さん」と呼びつつ、唐突に「生き別れの姉」を捜すと言い出して、私が呆気に取られて宇宙の仕組みについて思いを馳せたりなどするのは、また別の話――。
ここまでなら、まあわかる。
他のひとたちが知らない、愛するひとの一面を自分だけが知っているという状況は、特別感があって、かつ優越感をくすぐられるだろう。
けれど――
「――だから、普段見れない恐怖におののく顔や、苦痛に歪む顔を見たいんだ」
……これはちょっと、理解できない。
このセリフを言ってのけたときのキルシュは、非の打ちどころのないイケメンに見えた。見た目だけは。
しかし口から出たのはサディストか、もっとひどく言えば狂人としか思えないセリフだった。
私はそんなキルシュの「ヘキ」とも言うべきものを不意に知ってしまったものの、心の奥にしまって見て見ぬフリを決め込んだ。
そのツケが今、一度に押し寄せている気がする。
――いや、でもだって、じゃあどうすればよかったんだよ?!
私はだれへむけるともなしに、心の中で叫んだ。しかしそれに答えてくれる神などはどうも存在しないらしかった。
神頼みは無駄。となれば、自力でどうにかするしかない。
私はマジックバッグからくす玉を複数個取り出し、続けてグレーターモンスターの鼻先に投擲する。
「キルシュ!」
私は、油断していた。
キルシュは「ああいうこと」を言った割には、あからさまに好意を向けている私を危ない目に遭わせたことは、これまで一度としてなかったから、油断していた。
けれどもキルシュはキルシュ――つまりは、イカレポンチなのだ。
そんなイカレポンチを、今からどうにかして説得しなければならない。
私はグレーターモンスターにくす玉をぶつけて気をそらしながら、やぶれかぶれになりながらキルシュに言った。
「キルシュ! 私のっ、特別な顔が見たいって言うなら! 危ない目に遭わせないで!」
「大丈夫大丈夫。姉さんを見殺しにするつもりはないから。でもあともうちょっとだけ……」
――このイカレンポンチ!
私は心の中でキルシュにあらん限りの罵倒の言葉をぶつけ、そのお綺麗な顔をわちゃわちゃにする想像をすることで、湧き立つ怒りと焦りを抑え込んだ。
「キルシュ! 私の一番特別でレアな顔を見たいならっ、今すぐ助けて!」
「え~……?」
「――キルシュに愛されて守られて大往生を迎えて死ぬときの顔! それすっごいレアな顔だから!!!」
ヤケになっての言葉だった。
こんな言葉でキルシュの心は動くのか、私からしても甚だ疑問だった。
しかし――
「それ――いいね」
なぜか、キルシュの琴線に触れたらしく、次の瞬間にはグレーターモンスターの顔面が、綺麗に縦に割れていた。
真っ二つになった頭の中のものをこぼれ落としながら、くずおれるグレーターモンスター。
そんな姿を見て限界に至ったのか、イチジョウさんは白目を剥いて気絶した。
私は普段からキルシュに同行してモンスターを捌いていたから、これくらいのグロ映像は屁でもなかった。
「ねえ、テマリ」
久々にキルシュから自分の名前を聞いた気がする。
だが、感慨よりも先にイヤな予感で背筋が寒くなった。
「『愛されて守られて大往生を迎えて死ぬときの顔』……見せてくれるの?」
「……女に二言はないよ」
「ふふ」
ヤケクソ気味に答えれば、マジックランタンの光に照らされたキルシュの顔が、薄く笑んだ。
「やっぱり、俺の姉さんは最高だよ!」
――私は最悪の気分だよ!
そう思いはしたものの、結局口にはしなかった。背中にどっと疲労の波が打ちつけてくるようだった。
「愛されて守られて大往生を迎えて死ぬときの顔」――それは、モンスターの脅威が身近にあるこの世界ではたしかにレアなものらしいと、あとから私は理解した。
理解したからといって、なんだという話ではあるが……。
とにもかくにも依頼は後日仕切り直して達成された。
イチジョウさんがすっかり大人しくなっていたのは、グレーターモンスターのせいか、それともキルシュのイカレポンチぶりを目の当たりにしたからだろうか。
少なくともイチジョウさんからするともうキルシュは魅力的なイケメンではないらしく、最初と違って一切目を向けないどころか、不自然に顔をそらしている様子すらあった。
――まあ、キルシュになんだかんだで付き合えるのって私くらいみたいだし……。
気がつけば、そんなことを思ってしまった自分に気づいて、ちょっと小恥ずかしくなったりして――。
なんだかんだとキルシュとの付き合いは今日も明日も続いていくのだった。
その後、キルシュが私のことを「姉さん」と呼びつつ、唐突に「生き別れの姉」を捜すと言い出して、私が呆気に取られて宇宙の仕組みについて思いを馳せたりなどするのは、また別の話――。
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