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こんな異世界に転生させられても、舞い上がる前に困惑してしまう。なぜなら、わたしは凡人だから。
一〇代の、世間知らずで無鉄砲な女の子ならいざ知らず、三〇代を間近に控えて、世間的にもそろそろ「おばさん」と呼ばれそうなアラサー女は、社会ってものに揉まれて否が応でも己の分というものをわきまえつつあるわけで。
加齢と共に思春期特有の万能感は失われ、だんだんと、自分は凡人で、ひとかどの人間になんてなれないのだとわかっていく。
わたしはまさにその過渡期を今すぎようかという年齢だった。
そんなときに、なぜか異世界転生。
しかも乙女ゲームの世界。
わたしが抱いた率直な感想は「わたしの人生始まったな」というものではなく、「人生終わったかも」だった。
なぜならわたしが転生を果たした乙女ゲームの世界というのがまた厄介で――普通に人死にが出るタイプの、シリアスな世界観を押し出した乙女ゲームだったから。
『終のセカイのまばゆきルナ』――『まばルナ』の世界は、隣り合う異界からの侵略者……「改竄者」の魔手に晒されている。
「改竄者」は言葉の意味するところそのままに、世界を自分たちに都合のいいように「改竄」してしまうという恐ろしい能力を持つものたちの総称だ。
『まばルナ』の主人公であるルナは、そんな「改竄者」に対抗できる「正者」の力を持つ少女。
あるとき、「神」からの啓示を受けて、「改竄」される前の正しき世界の知識を保持することのできる紋章を与えられる。
右手の甲に「正者」の紋章を宿したルナは、その噂を聞きつけた現王の側妃であるアルテミシアによって宮廷へと招かれる――。
そこからお約束通りになんやかんやと波乱万丈な出来事を経て、攻略対象キャラクターの個別ルートに入ると、最終的に「改竄者」と相対し、攻略対象キャラクターと共に「改竄者」を撃退してハッピーエンド。
そこまでわたしはちゃんと知っている。
なぜならわたしは『まばルナ』のプレイヤーだったし、『まばルナ』という作品が好きだったから。
でも――凡人であるわたしには、「改竄者」との戦いなんて荷が重すぎる。
けれども「世界の強制力」みたいなものでもあるのか、わたしはあれよあれよという間にただの貧しい村娘から「正者」へとクラスチェンジを果たした。
……本当は「正者」になんてなりたくなかった。
わたしは凡人。
普通に情というものを持っているけれど、普通に薄情なときもある、そこらへんに掃いて捨てるほどいる凡人。
けれども、わたしの大切なひとたちが「改竄者」によって「改竄」されていくのは、ひどく耐え難いことだと知った。
しかし――。
「あ、あたしは『改竄者』じゃ――」
右手の甲に宿った、「正者」の紋章が光り輝くと、異界へと続く門がいっとき開け放たれる。
普通の人間となにひとつ変わらない姿をした「改竄者」の肉体は、奇妙にねじれていって、やがて門へと吸い込まれていく。
「あたしは、あたしはただ――」
――「ただ幸せになりたくて」。
「改竄者」が完全に異界へと送り帰されれば、自然と中空に浮かんでいた門は閉じ、やがてその門も跡形もなく消え去った。
わたしは「改竄者」が消えた門があった場所を、しばらく見つめる。
……「改竄者」には大きくわけてふたつに分類できる。
ひとつは、自らが「改竄者」であるという自覚を持つもの。
もうひとつは、自らが「改竄者」であると知らずに生きていて、無意識下で「改竄」の力を使ってしまうもの。
今回、わたしが送り帰した「改竄者」は、後者の――「改竄者」としての自覚がなく、これまで普通の人間として生きていたひとだった。
そして門の向こうへと消え去るその瞬間まで、彼女は自分が「改竄者」だとは認めていなかった。
異界へと送り帰された彼女がこれからどうなるのか、わたしは知らない。
だってそこは、ゲームでは描かれていなかったから。
これまでずっと、普通の人間として暮らしてきた彼女が、「改竄者」たちの世界でなにを思うのか――。
わたしはどうしても、後味の悪さを覚えずにはいられなかった。
村人たちから称賛され、感謝されてもなお、わたしの心臓には小さなトゲが刺さったままのような、不快感が続いた。
一〇代の、世間知らずで無鉄砲な女の子ならいざ知らず、三〇代を間近に控えて、世間的にもそろそろ「おばさん」と呼ばれそうなアラサー女は、社会ってものに揉まれて否が応でも己の分というものをわきまえつつあるわけで。
加齢と共に思春期特有の万能感は失われ、だんだんと、自分は凡人で、ひとかどの人間になんてなれないのだとわかっていく。
わたしはまさにその過渡期を今すぎようかという年齢だった。
そんなときに、なぜか異世界転生。
しかも乙女ゲームの世界。
わたしが抱いた率直な感想は「わたしの人生始まったな」というものではなく、「人生終わったかも」だった。
なぜならわたしが転生を果たした乙女ゲームの世界というのがまた厄介で――普通に人死にが出るタイプの、シリアスな世界観を押し出した乙女ゲームだったから。
『終のセカイのまばゆきルナ』――『まばルナ』の世界は、隣り合う異界からの侵略者……「改竄者」の魔手に晒されている。
「改竄者」は言葉の意味するところそのままに、世界を自分たちに都合のいいように「改竄」してしまうという恐ろしい能力を持つものたちの総称だ。
『まばルナ』の主人公であるルナは、そんな「改竄者」に対抗できる「正者」の力を持つ少女。
あるとき、「神」からの啓示を受けて、「改竄」される前の正しき世界の知識を保持することのできる紋章を与えられる。
右手の甲に「正者」の紋章を宿したルナは、その噂を聞きつけた現王の側妃であるアルテミシアによって宮廷へと招かれる――。
そこからお約束通りになんやかんやと波乱万丈な出来事を経て、攻略対象キャラクターの個別ルートに入ると、最終的に「改竄者」と相対し、攻略対象キャラクターと共に「改竄者」を撃退してハッピーエンド。
そこまでわたしはちゃんと知っている。
なぜならわたしは『まばルナ』のプレイヤーだったし、『まばルナ』という作品が好きだったから。
でも――凡人であるわたしには、「改竄者」との戦いなんて荷が重すぎる。
けれども「世界の強制力」みたいなものでもあるのか、わたしはあれよあれよという間にただの貧しい村娘から「正者」へとクラスチェンジを果たした。
……本当は「正者」になんてなりたくなかった。
わたしは凡人。
普通に情というものを持っているけれど、普通に薄情なときもある、そこらへんに掃いて捨てるほどいる凡人。
けれども、わたしの大切なひとたちが「改竄者」によって「改竄」されていくのは、ひどく耐え難いことだと知った。
しかし――。
「あ、あたしは『改竄者』じゃ――」
右手の甲に宿った、「正者」の紋章が光り輝くと、異界へと続く門がいっとき開け放たれる。
普通の人間となにひとつ変わらない姿をした「改竄者」の肉体は、奇妙にねじれていって、やがて門へと吸い込まれていく。
「あたしは、あたしはただ――」
――「ただ幸せになりたくて」。
「改竄者」が完全に異界へと送り帰されれば、自然と中空に浮かんでいた門は閉じ、やがてその門も跡形もなく消え去った。
わたしは「改竄者」が消えた門があった場所を、しばらく見つめる。
……「改竄者」には大きくわけてふたつに分類できる。
ひとつは、自らが「改竄者」であるという自覚を持つもの。
もうひとつは、自らが「改竄者」であると知らずに生きていて、無意識下で「改竄」の力を使ってしまうもの。
今回、わたしが送り帰した「改竄者」は、後者の――「改竄者」としての自覚がなく、これまで普通の人間として生きていたひとだった。
そして門の向こうへと消え去るその瞬間まで、彼女は自分が「改竄者」だとは認めていなかった。
異界へと送り帰された彼女がこれからどうなるのか、わたしは知らない。
だってそこは、ゲームでは描かれていなかったから。
これまでずっと、普通の人間として暮らしてきた彼女が、「改竄者」たちの世界でなにを思うのか――。
わたしはどうしても、後味の悪さを覚えずにはいられなかった。
村人たちから称賛され、感謝されてもなお、わたしの心臓には小さなトゲが刺さったままのような、不快感が続いた。
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