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ガタガタと暴風がぶつかり揺れる窓の外。そこにあるはずのない人影を見つけたララタは、思わず雨のつぶてを弾き返す窓へと張りついたあと、あわてて玄関に向かった。
ところは王国の辺境の地。奇岩群の隙間を縫うように密林が繁茂する国土の端も端。そのひときわ高い崖の上にララタの家はあった。
掘っ建て小屋をかろうじて脱している程度のささやかな家ではあったが、猛烈な嵐を前にしても揺れるのは窓枠くらいだ。案外と基礎やつくりはしっかりとしているのである。
そしてそんな家にやってきたのは――
「アル!」
他でもないこの国の王子にして、今はララタのかりそめの夫――というのをときおりララタは忘れそうになる――アルフレッドだった。
ララタは大急ぎで部屋にとって返してアルフレッドにタオルケットをかぶせてやる。嵐の中を飛行していたアルフレッドは、それはもうびっちょびちょに濡れていた。美しいお髪も、このときばかりはペタンと情けなくヘタレている。
「なんでこんなときに?」
ララタは思わず非難めいた口調でそう言っていた。言ったあとであまりにも素直じゃないなと自分でも思った。本当はアルフレッドに会えてうれしいのに、それを素直に表明できない自分が恨めしい。
しかしアルフレッドはそんなララタの口調を意に介する様子もなく、いつものように微笑んで言う。
「こんなときだから、だよ」
「別に……わたしは平気よ」
「別にララタが嵐に怯えてるとは思ってないさ。でもかりそめと言えど夫として妻を心配しないはずがないだろう?」
そんなことを言われてしまえばララタの頬は熱くなってしまう。
ララタはアルフレッドが自分を好いているらしい、ということを事故に近い形で知ってしまっていた。
だから以前のようにアルフレッドの優しい性根から出ている「だけ」の言葉だと、受け取れない。
そこに自身に対する恋心があるのだと思うと、どうにもむずがゆくなって、舞い上がってしまう。
無論、アルフレッドはララタが自分の本心を心得ているとはつゆ知らないわけで……。だからララタは余計に素直じゃない態度に拍車をかけてしまう。
「アルにだって仕事があるでしょう?」
「仕事は全部終わらせた……と言えたらいいんだけれど、まあ緊急事態だからお目こぼしをしてもらっている、というわけ。だから心配はいらないよ」
アルフレッドはララタに向かってその言葉を補強するようにウインクした。
ララタはアルフレッドのそのチャーミングな仕草にドキッとしたが、恋する乙女の顔など出せるはずもないので、顔をそむけることでどうにかしようとした。
「そんなことよりとにかく着替えて! このままじゃ玄関がずぶ濡れになっちゃうし、あなたが風邪を引いたらコトよ」
「そうだね……。ところで雨を弾いたり避けたりする魔法ってないのかな?」
「さあ? わたしは習わなかったわ。たぶん、傘を差した方が早いからだと思う。魔力も使わないし」
アルフレッドに言われて初めて「そんな魔法があれば便利なひとは便利だろうな」ということにララタは思い当った。しかし、残念ながら元の世界にはそんな魔法があったかどうかはわからない。もしもあれば、内容的に初歩的な魔法として習っていただろう。
ララタがそんなことを考えているうちに、水気を拭き取ったアルフレッドが「邪魔するよ」と言って玄関から部屋の中へと入る。
その足はまっすぐにごく小さな客間へと向かう。そこにはアルフレッドがこの家に泊まったときのために、彼の着替えが置いてあった。
このことからわかる通り、このごくささやかな客間はアルフレッドの専用の部屋と化している。なぜならこの崖の上に建つ家を訪れることのできる人間は、家主であるララタを除けば世界にアルフレッドくらいしかいないからだ。
そもそもの話からしてララタはこの家の設計には関わっていない。気がついたら客間つきの家が出来あがっていて、そのまま貰った形になる。
もしかしたらアルフレッドがなにかしら口を出した結果なのかもしれない――と常々ララタは思っていた。が、口に出したことはない。藪蛇はごめんだったし、そもそもララタはそのように素直な意見を述べられるような性格ではない。
そうこうしているうちにアルフレッドは着替えを済ませてリビングに顔を出す。必要最低限の物しか置いていない――もとい、置けないリビングはこれまたささやかなものだったが、ララタはそれで満足していた。
「この嵐って、自然魔法現象だよね?」
「そうだけど」
「追い払ったりできないの?」
「魔力がもったいないし、疲れるし、喫緊の仕事はないしで放っておいてるって感じかな」
「えー……」
アルフレッドは呆れた風というよりは、それ以外のなにかを物言いたげな感じであった。
ララタはアルフレッドが次に告げる言葉がわかっていた。わかっていたが、指摘はしなかった。野暮だと思ったし、なにより恥ずかしかった。あらゆる意味で。
「ララタは僕と会いたくないの?」
「別に……永遠に会えなくなるわけじゃないし、最低でも週に一度は会ってるでしょう? ああ、『お試し妃』とかになってからは、週に三度は顔を合わせてる」
「毎日でも会いたいと思わない?」
「なんで?」
ララタはアルフレッドの質問に、質問で返した。よくないこととは理解していたが、己の本心をさらけ出したくない一心で、防衛的にその言葉が出たのであった。
「夫婦だから」
「かりそめのね」
「ララタは真に迫った演技をしようって気はないの?」
「だって周囲を騙すためならまだしも、名目上の『お試し妃』ってことはみーんな知ってるわけだし……」
「……まあ、そうだけどさ」
そこで納得してしまうのか。ララタは心中でそうツッコんだ。
ララタはそんな空気に耐えられず、台所に立ってハーブティーを淹れてやる。ソーサーとカップをアルフレッドの前のテーブルに置けば、「ありがとう」とまた彼はウインクをした。
……それがどれだけの勢いを持って、ララタの心にぶち刺さるのか、アルフレッドはきっと理解していない。そうでなければおいそれとこんなマネはできはしないだろう――とララタは自分のときめく心を誤魔化すように分析する。
アルフレッドはいったいどんな気持ちで「夫婦がどうの」なんて言えるんだろう? 相変わらず自身のことを好いているらしい――ということ以外にアルフレッドの心中が理解できないララタは、そんなことを考える。
アルフレッドは単純なようでいて複雑だ。いや、人間の大体はそうだろう。表向きの面からですべてを類推することなどできるハズもない。なぜならララタは人間の心を読むとか、ドラゴンのような能力を持っていないのだから。
「雨檻もそうだけど……こんな日は初めて魔法を使ったときのことを思い出すよ」
「ああ……あれね。王宮の中庭が大変なことになって……」
「そう。制御する方法がよくわかっていなかったから、魔力を使い尽くして雨雲を出してしまったんだよね」
「あのあとアルがぶっ倒れたから、わたし青くなったのよ」
「あはは」
「笑いごとじゃないって」
「僕からすれば笑い話だよ。今ではね。まあ、園丁たちには手間をかけさせてしまったけれども……」
アルフレッドがララタのお陰で魔力の流れが正常になったあと、当然のように彼は魔法を習いたがった。あのころのアルフレッドのララタを見る目は、今とは違う、憧れに満ち満ちて、きらめいていた。
けれども結果は先の会話の通り。そもそもララタは他人に魔法を教えたことがなかったから、大いに失敗してしまった、というわけなのである。もちろんララタは真っ青になったし、教育係のアンブローズ翁も大慌てだった。
……アルフレッドが言うように、無論、今では笑い話なのではあるが、当時は大変な出来事だったのだ。
「あんなことがあったのにアルは魔法がイヤになったりしなかったの?」
「そういうことはないかな。むしろきちんと勉強しなければいけないと思ったよ」
アルフレッドの言葉にララタは自分とはひとの器が違うと感心した。
「それに」
「それに?」
「ララタと同じものを見たかったんだよね。魔法使いのララタにはどんな風に世界が見えているのかなって思って」
「ふーん……」
やっぱり、自分とは普段からの心構えとかが違うなとララタは思った。
ララタはただいじめられたくない一心で魔法の勉強に励んでいた。魔法を自在に使える人間から見る世界が、そうでないひとからの目線とどう違うがだなんて、一度も考えたことはなかった。
アルフレッドがそのように考えられるのはアンブローズ翁らの教育の結果なのか、本人の生まれ持つ資質なのか……恐らくは両方だろう。
こういうとき、ララタはアルフレッドに対して勝手に引け目を感じてしまう。アルフレッドがララタをそうやって区別したことは一度としてないというのに。
だからララタは素直になれない。アルフレッドは自分を好きらしいということを知っても、素直に喜べない。
「……それで、魔法が使えるようになってどう思ったの?」
どこまでも沈んで行く自分の心を無視するように、ララタは会話を繋げた。
「とにかく先が見えないなと思ったよ。すべてを網羅できるわけじゃないとは頭では理解しているんだけれど、やってみたいという思いはある」
「……アルって魔法好きだよね」
「そりゃあ絵本の中にしか存在しないものだと思っていたものだからね」
「ロマンってやつ?」
「そう。そんな感じ」
心からそう思っているんだろうな、というきらめかしい目をして語るアルフレッドを見ながら、ララタは改めて自分は彼の隣に立つにふさわしい人間なのかと自問する。
ララタは自分の心の中ででさえ、素直ではなかった。剥き出しの本性ではアルフレッドのそばにいたいと考えているのに、あれこれと考えて勝手に彼にはふさわしくない理由だとかを探している。
本当は答えはわかっている。けれども素直じゃないララタは偽りの答えを出すか、あるいは答えは見つからないのだと結論づける。
ガタガタと揺れる窓の外では相変わらず暗雲が垂れこめて、しばらく晴れる様子がない。
それはこじれて自らをも欺瞞し始めたララタの心に似ていた。
「だからララタ」
「うん?」
「一生かけて僕に魔法を教えてね?」
「なにそれ……」
ララタは虚を突かれた。「まるでプロポーズの言葉みたいだ」という言葉が口を突いて出そうになったので、慌てて唇を引き結んだ。しかしその唇は奇妙な喜びに歪んでしまいそうだった。
なんとなく、暗雲に引きずられるようにして暗くなっていた自身の心を、パッと明るく照らされたような気分だった。
まるで「そばにいてもいい」と言われているような……いや、実際にアルフレッドはララタにそう言っているのだ。「そばにいて欲しい」と。
ますますプロポーズのようだなと考えると、段々と恥ずかしさと奇妙なおかしさがこみあげてくる。
そうなると先ほどまでなにをグダグダと悩んでいたのか、ちょっとよくわからなくなった。
「仕方ないなあ」
ララタはそう言って微笑った。
素直じゃないララタの、精一杯の素直な答えが、それだった。
ララタの家の窓は、いつの間にかガタガタとは音を立てなくなっていた。
ところは王国の辺境の地。奇岩群の隙間を縫うように密林が繁茂する国土の端も端。そのひときわ高い崖の上にララタの家はあった。
掘っ建て小屋をかろうじて脱している程度のささやかな家ではあったが、猛烈な嵐を前にしても揺れるのは窓枠くらいだ。案外と基礎やつくりはしっかりとしているのである。
そしてそんな家にやってきたのは――
「アル!」
他でもないこの国の王子にして、今はララタのかりそめの夫――というのをときおりララタは忘れそうになる――アルフレッドだった。
ララタは大急ぎで部屋にとって返してアルフレッドにタオルケットをかぶせてやる。嵐の中を飛行していたアルフレッドは、それはもうびっちょびちょに濡れていた。美しいお髪も、このときばかりはペタンと情けなくヘタレている。
「なんでこんなときに?」
ララタは思わず非難めいた口調でそう言っていた。言ったあとであまりにも素直じゃないなと自分でも思った。本当はアルフレッドに会えてうれしいのに、それを素直に表明できない自分が恨めしい。
しかしアルフレッドはそんなララタの口調を意に介する様子もなく、いつものように微笑んで言う。
「こんなときだから、だよ」
「別に……わたしは平気よ」
「別にララタが嵐に怯えてるとは思ってないさ。でもかりそめと言えど夫として妻を心配しないはずがないだろう?」
そんなことを言われてしまえばララタの頬は熱くなってしまう。
ララタはアルフレッドが自分を好いているらしい、ということを事故に近い形で知ってしまっていた。
だから以前のようにアルフレッドの優しい性根から出ている「だけ」の言葉だと、受け取れない。
そこに自身に対する恋心があるのだと思うと、どうにもむずがゆくなって、舞い上がってしまう。
無論、アルフレッドはララタが自分の本心を心得ているとはつゆ知らないわけで……。だからララタは余計に素直じゃない態度に拍車をかけてしまう。
「アルにだって仕事があるでしょう?」
「仕事は全部終わらせた……と言えたらいいんだけれど、まあ緊急事態だからお目こぼしをしてもらっている、というわけ。だから心配はいらないよ」
アルフレッドはララタに向かってその言葉を補強するようにウインクした。
ララタはアルフレッドのそのチャーミングな仕草にドキッとしたが、恋する乙女の顔など出せるはずもないので、顔をそむけることでどうにかしようとした。
「そんなことよりとにかく着替えて! このままじゃ玄関がずぶ濡れになっちゃうし、あなたが風邪を引いたらコトよ」
「そうだね……。ところで雨を弾いたり避けたりする魔法ってないのかな?」
「さあ? わたしは習わなかったわ。たぶん、傘を差した方が早いからだと思う。魔力も使わないし」
アルフレッドに言われて初めて「そんな魔法があれば便利なひとは便利だろうな」ということにララタは思い当った。しかし、残念ながら元の世界にはそんな魔法があったかどうかはわからない。もしもあれば、内容的に初歩的な魔法として習っていただろう。
ララタがそんなことを考えているうちに、水気を拭き取ったアルフレッドが「邪魔するよ」と言って玄関から部屋の中へと入る。
その足はまっすぐにごく小さな客間へと向かう。そこにはアルフレッドがこの家に泊まったときのために、彼の着替えが置いてあった。
このことからわかる通り、このごくささやかな客間はアルフレッドの専用の部屋と化している。なぜならこの崖の上に建つ家を訪れることのできる人間は、家主であるララタを除けば世界にアルフレッドくらいしかいないからだ。
そもそもの話からしてララタはこの家の設計には関わっていない。気がついたら客間つきの家が出来あがっていて、そのまま貰った形になる。
もしかしたらアルフレッドがなにかしら口を出した結果なのかもしれない――と常々ララタは思っていた。が、口に出したことはない。藪蛇はごめんだったし、そもそもララタはそのように素直な意見を述べられるような性格ではない。
そうこうしているうちにアルフレッドは着替えを済ませてリビングに顔を出す。必要最低限の物しか置いていない――もとい、置けないリビングはこれまたささやかなものだったが、ララタはそれで満足していた。
「この嵐って、自然魔法現象だよね?」
「そうだけど」
「追い払ったりできないの?」
「魔力がもったいないし、疲れるし、喫緊の仕事はないしで放っておいてるって感じかな」
「えー……」
アルフレッドは呆れた風というよりは、それ以外のなにかを物言いたげな感じであった。
ララタはアルフレッドが次に告げる言葉がわかっていた。わかっていたが、指摘はしなかった。野暮だと思ったし、なにより恥ずかしかった。あらゆる意味で。
「ララタは僕と会いたくないの?」
「別に……永遠に会えなくなるわけじゃないし、最低でも週に一度は会ってるでしょう? ああ、『お試し妃』とかになってからは、週に三度は顔を合わせてる」
「毎日でも会いたいと思わない?」
「なんで?」
ララタはアルフレッドの質問に、質問で返した。よくないこととは理解していたが、己の本心をさらけ出したくない一心で、防衛的にその言葉が出たのであった。
「夫婦だから」
「かりそめのね」
「ララタは真に迫った演技をしようって気はないの?」
「だって周囲を騙すためならまだしも、名目上の『お試し妃』ってことはみーんな知ってるわけだし……」
「……まあ、そうだけどさ」
そこで納得してしまうのか。ララタは心中でそうツッコんだ。
ララタはそんな空気に耐えられず、台所に立ってハーブティーを淹れてやる。ソーサーとカップをアルフレッドの前のテーブルに置けば、「ありがとう」とまた彼はウインクをした。
……それがどれだけの勢いを持って、ララタの心にぶち刺さるのか、アルフレッドはきっと理解していない。そうでなければおいそれとこんなマネはできはしないだろう――とララタは自分のときめく心を誤魔化すように分析する。
アルフレッドはいったいどんな気持ちで「夫婦がどうの」なんて言えるんだろう? 相変わらず自身のことを好いているらしい――ということ以外にアルフレッドの心中が理解できないララタは、そんなことを考える。
アルフレッドは単純なようでいて複雑だ。いや、人間の大体はそうだろう。表向きの面からですべてを類推することなどできるハズもない。なぜならララタは人間の心を読むとか、ドラゴンのような能力を持っていないのだから。
「雨檻もそうだけど……こんな日は初めて魔法を使ったときのことを思い出すよ」
「ああ……あれね。王宮の中庭が大変なことになって……」
「そう。制御する方法がよくわかっていなかったから、魔力を使い尽くして雨雲を出してしまったんだよね」
「あのあとアルがぶっ倒れたから、わたし青くなったのよ」
「あはは」
「笑いごとじゃないって」
「僕からすれば笑い話だよ。今ではね。まあ、園丁たちには手間をかけさせてしまったけれども……」
アルフレッドがララタのお陰で魔力の流れが正常になったあと、当然のように彼は魔法を習いたがった。あのころのアルフレッドのララタを見る目は、今とは違う、憧れに満ち満ちて、きらめいていた。
けれども結果は先の会話の通り。そもそもララタは他人に魔法を教えたことがなかったから、大いに失敗してしまった、というわけなのである。もちろんララタは真っ青になったし、教育係のアンブローズ翁も大慌てだった。
……アルフレッドが言うように、無論、今では笑い話なのではあるが、当時は大変な出来事だったのだ。
「あんなことがあったのにアルは魔法がイヤになったりしなかったの?」
「そういうことはないかな。むしろきちんと勉強しなければいけないと思ったよ」
アルフレッドの言葉にララタは自分とはひとの器が違うと感心した。
「それに」
「それに?」
「ララタと同じものを見たかったんだよね。魔法使いのララタにはどんな風に世界が見えているのかなって思って」
「ふーん……」
やっぱり、自分とは普段からの心構えとかが違うなとララタは思った。
ララタはただいじめられたくない一心で魔法の勉強に励んでいた。魔法を自在に使える人間から見る世界が、そうでないひとからの目線とどう違うがだなんて、一度も考えたことはなかった。
アルフレッドがそのように考えられるのはアンブローズ翁らの教育の結果なのか、本人の生まれ持つ資質なのか……恐らくは両方だろう。
こういうとき、ララタはアルフレッドに対して勝手に引け目を感じてしまう。アルフレッドがララタをそうやって区別したことは一度としてないというのに。
だからララタは素直になれない。アルフレッドは自分を好きらしいということを知っても、素直に喜べない。
「……それで、魔法が使えるようになってどう思ったの?」
どこまでも沈んで行く自分の心を無視するように、ララタは会話を繋げた。
「とにかく先が見えないなと思ったよ。すべてを網羅できるわけじゃないとは頭では理解しているんだけれど、やってみたいという思いはある」
「……アルって魔法好きだよね」
「そりゃあ絵本の中にしか存在しないものだと思っていたものだからね」
「ロマンってやつ?」
「そう。そんな感じ」
心からそう思っているんだろうな、というきらめかしい目をして語るアルフレッドを見ながら、ララタは改めて自分は彼の隣に立つにふさわしい人間なのかと自問する。
ララタは自分の心の中ででさえ、素直ではなかった。剥き出しの本性ではアルフレッドのそばにいたいと考えているのに、あれこれと考えて勝手に彼にはふさわしくない理由だとかを探している。
本当は答えはわかっている。けれども素直じゃないララタは偽りの答えを出すか、あるいは答えは見つからないのだと結論づける。
ガタガタと揺れる窓の外では相変わらず暗雲が垂れこめて、しばらく晴れる様子がない。
それはこじれて自らをも欺瞞し始めたララタの心に似ていた。
「だからララタ」
「うん?」
「一生かけて僕に魔法を教えてね?」
「なにそれ……」
ララタは虚を突かれた。「まるでプロポーズの言葉みたいだ」という言葉が口を突いて出そうになったので、慌てて唇を引き結んだ。しかしその唇は奇妙な喜びに歪んでしまいそうだった。
なんとなく、暗雲に引きずられるようにして暗くなっていた自身の心を、パッと明るく照らされたような気分だった。
まるで「そばにいてもいい」と言われているような……いや、実際にアルフレッドはララタにそう言っているのだ。「そばにいて欲しい」と。
ますますプロポーズのようだなと考えると、段々と恥ずかしさと奇妙なおかしさがこみあげてくる。
そうなると先ほどまでなにをグダグダと悩んでいたのか、ちょっとよくわからなくなった。
「仕方ないなあ」
ララタはそう言って微笑った。
素直じゃないララタの、精一杯の素直な答えが、それだった。
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