後宮怪談

やなぎ怜

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菊の妃

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 ……話したっけ? 大伯母おおおばさまの話。

 うちではそういうの、厳禁なの。

 そう、オカルトっていうかスピリチュアルっていうか……まあそういう感じの話とか、ね。


 そう、うちは今は立派なのはこのお屋敷くらいのものだけど、昔はお貴族さまってやつだったって聞いてる。

 でも今は没落しちゃって、普通の家。

 昔はこのお屋敷は別荘で、本宅っていうの? なんか領地にあったお屋敷はもっと広かったって、お祖母ばあさまは言ってた。

 本当かどうかはわかんないけどね。


 大伯母さまの話?

 うん、お祖母さまのお姉さんにあたるひと。

 なんか、お祖母さまとは母親が違うんだって。

 まあ、不倫とかじゃなくって、前妻の子ってやつだったんだってさ。


 その大伯母さまとは、昔このお屋敷で同居してたんだけど……まあ、オカルトとかね、そういうことが嫌いなひとで。

 ウィジャ盤こっくりさんなんて見つかった日には、それはそれはきっついお灸をすえたもんで……。

 あ、わたしの話じゃないよ。姉さんの話。

 そのせいか姉さんはずっと大伯母さまのこと怖がってたね。

 たしかに厳しいひとだったけど、別に理不尽な厳しさがあるひとじゃなかったんだけどね。

 色んなことを知っていて、聡明なひとだった。

 実際、あの時代の女のひとにしては珍しく大学に通ってたこともあって、留学経験もあったとか。


 ……まあ、そういう学のあるひとだったから、ウィジャ盤とか根拠不明の占いみたいな、そういうことが嫌いだったのかも。

 でもね、その大伯母さま……若いころは後宮にいたんだって。

 そうそう、「最後のアルセル王」の後宮に。

 しかも、後宮から出された理由が……「交霊会や黒魔術の儀式をしていたから」だって。

 本当かどうかはわかんないよ?

 テキトーな理由をでっち上げて、大伯母さまを追い出したかったのかも。


 ……後宮での大伯母さまの名前?

 「菊の妃」って呼ばれてたらしいよ。

 後宮にはお妃さまがいっぱいいて、みーんな花の名前で呼ばれてたって聞いたけど……なんだか、ねえ?

 同じ女性としては、「なんだか」って感じ。


 ……そう、まあ大伯母さまは不祥事の責任を取らされたってことなのかな?

 なんか、妃たちを集めて交霊会を主催していたらしんだけど……なんでもその交霊会に参加すると、そのあいだの記憶があいまいになって、ふらふらになっちゃうとか。

 でも、妃たちには好評で、口コミで他の妃に勧めるひとも出てきたりして、ずいぶんと大規模なものになっていったって。

 後宮って、娯楽が少なそうだもんね。

 外へお出かけするなんてこともできないだろうし、毎日顔を会わせるひともずーっと同じだと思うと……なんだか、ねえ。

 ……で、交霊会をした妃の中から、ふらふらになっちゃって、そのあと倒れる妃が出たりして……謎の交霊会にメスが入れられた、ってことなのかな。

 本当かどうかはわかんないんだけど……主催者である大伯母さまは、参加者の妃たちから……血を抜いてたんだって。


 うん、だから黒魔術。

 妃たちを集めて、なんらかの方法で意識朦朧とさせて、血を抜いて……黒魔術に使っていたって。

 ……まあ、わたしは信じてないけど。

 だって、わたしの知る大伯母さまは厳しいひとで、間違ったことが大嫌いだったから。

 だから、他のお妃さまたちを傷つけて……血を抜いて、黒魔術の儀式に利用していた嫌疑をかけられたって聞いてもね。

 でっちあげかな? って思っちゃうんだよね。

 大伯母さまは厳しいひとだから、まあ嫌うひととか、都合が悪いひともいただろうし……。

 後宮って、そういう人間関係のドロドロとか多そうだし?


 あと、大伯母さまが後宮を出されたのはそういう嫌疑があったから、っていうのもあるんだけど……。

 昔は精神分裂症とか言ったんだっけ? 今は統合失調症?

 まあ、そんな感じで精神に問題があるひとってことで、大伯母さまは後宮を出されて実家に帰されたんだって。

 それもでっちあげなのかな?

 ……まあ、そのあとの「最後のアルセル王」のこととかを考えたら、ごたごたに巻き込まれる前に後宮を出されてよかったと思うけどね。


 ……大伯母さまは最期までしゃっきりしたひとだったよ。

 さすがに亡くなる数年くらい前からちょっと体が不自由な感じになったけど……受け答えはしっかりしてたし。

 そう思うと黒魔術だとか、精神分裂症だとかは、大伯母さまを後宮から追い出すためのでっちあげなんじゃないかなって、わたしは思ってる。


 まあ「最後のアルセル王」のせいで王朝は滅びたし、後宮に関する資料もそのあとの内戦でほとんど燃えちゃったらしいから……真実は闇の中、なのかな。


 ……そういえば、大伯母さまが臨終される直前……。

 さすがに意識がもうろうとなってきてたのか、色んなことをうわごとみたいにしゃべってた。

 ほとんど聞き取れなかったけど、ひとつだけ

 「菫の妃さまにはよろしくお伝えください」

 ……っていう言葉だけは今でも覚えてる。

 菫の妃さま……大伯母さまの友達だったお妃さまなのかな?

 わかんないけど。
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