ビター・スイート・ダーク Bitter Sweet Dark

やなぎ怜

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エピローグ

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「うわー。すごい人混み」
「アキラちゃん手ぇ離さないでよ~? 私小さいんだからはぐれちゃう」
「わかってるって。絶対離さないよ」
「おねがいねー?」

 一二月三一日。暦は大晦日。アキラとつばきのふたりは、近所の神社に来ていた。年越しのカウントダウンと初詣、それから日の出を見ようとアキラを誘ったのはつばきである。

 いつも明るいつばきに、アキラは救われてばかりだった。

 冨由馬に手ひどく振られてから一ヶ月も経っていない。けれどもこうして前向きな気持ちになれるのは、つばきのおかげだった。彼女のそばにいると、アキラはホッと安堵できるのである。

 醜態を見せてしまったことは恥ずかしかったが、つばきは決してそれを茶化したりはしなかった。それにあれから一度もその件について触れることはなかった。それが今のアキラには、心底うれしい。

「アキラちゃんの手、あったかーい」
「つばきの手が冷たすぎるんだよ。冷え性なの?」
「うーんどうだろ? あ、除夜の鐘が聞こえるー」
「ほんとだ」

 少し離れた場所にある寺から鐘を打つ音が紫紺の空を伝って響いて来る。いよいよ今年もおわりだ。

「ねえ、アキラちゃん。来年はどうしたい?」
「んー」

 つばきの問いにアキラは笑って答える。

「しばらく男はいいかなー……? ――なんてね」

 そうやって冗談を言えるくらいには、アキラの傷は塞がっていた。

「じゃあ、女の子は? それもとびきりの美少女」

 つばきの言葉に、アキラはあの日のことを思い出し、頬が熱くなるのを感じた。

「うーん……ま、まあ、考えておこうかな……?」
「ふふ、楽しみにしてる」


「あー……しっかりやってんなー」

 人混みの中にいるせいで、アキラとつばきは気づいていなかったが、存外近くに冨由馬と夏生が立っていた。

 他人ごとな冨由馬を見て、夏生はマフラーに顔をうずめたまま「クズ」と言った。

「それでもいっしょにいるのはだれだよ」

 冨由馬は夏生のコートのポケットに手を突っ込み、中にある彼の細い手を握った。夏生は一瞬眉根を寄せたが、抵抗はしない。


 除夜の鐘が鳴り響く。初詣で願うことは――みんなもう心に決めていた。
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