ビター・スイート・ダーク Bitter Sweet Dark

やなぎ怜

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おまけ:夏生と冨由馬

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「あ、そうだ。クラス会どうする?」

 夏生の問いに冨由馬はそちらを向くことなく「行かない」と無感情な声で言った。

「お前は行くのか?」
「いや……」

 冨由馬と違い、夏生の高校時代はいたって地味なものであった。唯一の華は学校一の美少女と付き合ったことであるが、それもまた結局は冨由馬によって仕組まれたことであったから、華というよりは灰色の記憶に分類してもいいかもしれない。

 とかく夏生には高校時代の友人など非常に乏しいものであったから、高校のクラス会のお知らせが来ても、端から出席するつもりはなかった。

 それでも冨由馬に聞いたのは、彼が行くのならついて行こうかなと思っていたからである。そう思うていどには、高校時代の思い出に嫌なものはない。

 ふたつに、夏生は冨由馬と同居しているので、出かけるのであれば事前に知っておきたかった、というのがあった。

 高校卒業後、夏生と冨由馬は同じ大学へ進学した。そしてそれに伴い、ふたりはルームシェアをすることになったのである。

 無論、強く推し進めたのは冨由馬だ。夏生が答えを出す前に彼の母親を言い包めて外堀を埋めていたのだ。そして夏生へも嫌とは言わせないという態度で押し切った。

 傲慢としか言いようのない冨由馬であったが、特に夏生は気分を害したりはしない。冨由馬はそういうものなのだと、すでに一〇年以上に及ぶ付き合いの中で夏生は納得してしまっているのだ。

 もともと夏生の母親は自身が勤める病院の院長の息子である冨由馬に全幅の信頼を置いている。粗の見当たらない完璧な優等生である冨由馬といっしょであれば安心だと、夏生の母はそう信じ切っているのである。――そんな相手が自分の息子と恋人の関係にあるどころか、肉体関係まで持っているなどとは、彼女は想像だにしない。

 一方の冨由馬の両親も幼馴染とのルームシェアには特に口を挟まなかった。夏生はだれがどう見ても真面目そうな外見であったし、身元もはっきりとしている。加えて冨由馬と同じくらい勉強ができるとなれば、彼の両親のお眼鏡に適わないわけがなかった。

 そういうわけで至ってスムーズにふたりのルームシェアは実現したのである。

「冨由馬くんに迷惑かけたりしないのよ?」

 家を出るとき、母親からそんな言葉をかけられた夏生は「わかってる」とそっけない返事をした。現実に、夏生が冨由馬にかける迷惑より、冨由馬が夏生にかける迷惑のほうが大きかったからだ。

 傲慢な冨由馬はいつだって夏生を振り回したし、絶対に服従させて来た。けれどそんな冨由馬の本性を夏生の母親が知るはずもなく。

 両親に対する後ろめたさは相変わらず消せない。冨由馬を好きだと言う気持ちはたしかにある。けれども同時にこれでいいのかとも考える。

 そういうとき、冨由馬は夏生の考えを見透かして言うのだ。「俺だけを見ていろ」――と。そうやって冨由馬を頼りきって生きて行けばいいのだと。

 たしかに、冨由馬にかかればなんだって見る間に解決してしまえそうではある。そんな冨由馬に寄りかかっていれば、安心なのかもしれない。

 けれど一方で夏生の自立心がそれで良いのかとささやくのである。

 ルームシェアを了承したことにより、ふたりの関係はより深いものへと変わって行った。

 だれにも邪魔されない部屋で、ふたりは初めて肉体関係を結んだ。それはほとんど冨由馬が強引に押し切ったものではあるが、夏生も大して嫌がらなかったのも事実である。

 ただでさえ近い距離はさらに縮まり、溺れると言うよりも底なし沼に沈んで行くといったほうが正しいような速度で、夏生は冨由馬なしではいられなくなって行った。

 そしてふと思うのである。「これで良いのか?」――と。

「夏生」

 ぼうっとソファに腰かけていた夏生に冨由馬が声をかける。同時に腕を引っ張られて彼の胸に飛び込むハメになった。

「ん?! ……なんだよ」
「またくだんねーこと考えてただろ」

 そう言って冨由馬は口の端を上げて意地悪く笑う。言い訳をしようと唇を開いた夏生だったが、すぐに無駄だと悟って閉口する。

「夏生」

 もう一度冨由馬が夏生を呼ぶ。顔を向ければすぐに唇を奪われた。頭を後ろに引こうとするも、すでに後頭部には冨由馬の手が回っている。

 そうして散々口内を遠慮もなしに蹂躙された夏生は、息も絶え絶えになって冨由馬をねめつける。

「……そういうの、やめろよ」
「そういうの?」
「だから……予告もなしに、キスとかするの」
「なんで?」
「なんでって……」

 口ごもる夏生を見て、冨由馬は鼻で笑った。

「嫌じゃないくせに」

 せせら笑う冨由馬を前に、夏生は頬を朱色に染めた。

 この先どうやったって冨由馬には勝てないのだろう――。夏生はそんな予感を抱きながら冨由馬の胸にクッションを投げつけた。
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