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第3話
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何度目かの失神から目を覚ます。全身に走る痛みに、また意識が遠のきそうになった。
「喋る気になったか?」
灰谷が鉄パイプを弄びながら言う。顔をあげて睨みつけながら、鼻を鳴らしてやる。情報など一つとして話す気はない。公安刑事のプライドに賭けて。
かつかつ、と革靴の音が近づいてくる。そちらに視線を移そうとしたその時、顔面に強い衝撃が走った。そのまま床を転がる。口の横がジンジンと痛む。
血の混じった唾を吐き捨てて、顔を上げる。目の前に立ってたのは若頭萩原浩一だった。萩原は不満げにため息をつくと、黒い革靴についた吉良の血をハンカチで拭う。
「話して楽になったほうがいい。前に潜り込んだネズミがどうなったか知らないのか?」
萩原がニタリと口元を歪める。
ああ。そういえば以前、警視庁公安部の捜査官の変死体が見つかったが、こいつらのせいだったか。担当外の案件だから興味はなかったが、全身の骨を砕かれたあと、生きたまま焼却炉に投げ込まれたと聞いている。ヤクザらしいやり方だと改めて呆れてしまった。
「お前らの質問に答える気はない。時間の無駄だから諦めたほうがいい」
萩原の銀フレームの奥の瞳をまっすぐに見据えて、言い放つ。何をされようが、話すことは許されない。公安に所属する人間の、暗黙の掟だ。
「そうか。せいぜい後悔することのないようにな」
こちらを見下ろし侮蔑するように笑うと、萩原は部屋をあとにした。
「続きだ」
灰谷が鉄パイプを振り下ろす。
「ぁ、……ぐっ!!」
鳩尾に強い衝撃。胃が激しく収縮し、胃の中のものを床にぶちまける。すでに散々吐いたせいか、出たものは黄色い胃液だけだった。
息を整える間もなく、2回3回と鉄パイプが身体に振り下ろされる。肋も鎖骨もきっとバラバラに折れているのだろう。呼吸するたびにヒューヒューと嫌な音が、喉の奥から聞こえてくる。
仰向けに転がったまま、気配がした方を向く。清水がバケツを手に立っていた。大柄な清水が持つと、バケツがかなり小さく見えた。青いプラスチックのバケツの中に満杯に入った水が、汚水でないだけマシだと思った。
ぐっと髪を引かれ、そのままバケツの中に顔を突っ込まれる。鼻からも口からも冷たい水が侵入し、息ができない。この身体で清水に抵抗できるわけもなく、意識が薄らいでいくのをぼんやりと感じていた。
ばっと、顔を引き上げられた。同時に酸素が一気に肺に流れ込む。あんなに欲していた酸素も、今はただ苦しいだけでひたすらに憎い。
「しぶといな」
息が整う前にまたバケツの中に沈められる。身体中が酸素を求めるが、それは叶わない。頭がくらくらして意識を失いそうになると、再びバケツから頭を引き摺り出される。それが何度も何度も繰り返されていく。
何度目かの潜水のあと、乱暴に髪を引かれ床に叩きつけられた。ゲホゲホとむせ返るたびに、折られた肋骨と鎖骨が悲鳴をあげる。耳障りな音を立てながら胸を上下させ、必死に酸素を取り込んだ。
「……何?」
霞む視界の端で、灰谷がスマートフォンを操作しているのを捉える。なにか、慌てているようだ。何があったのかは分からないが、清水も驚いた様子を見せている。こちらを一瞥したあと、2人はパタパタと足音を立てて部屋を出ていった。
「喋る気になったか?」
灰谷が鉄パイプを弄びながら言う。顔をあげて睨みつけながら、鼻を鳴らしてやる。情報など一つとして話す気はない。公安刑事のプライドに賭けて。
かつかつ、と革靴の音が近づいてくる。そちらに視線を移そうとしたその時、顔面に強い衝撃が走った。そのまま床を転がる。口の横がジンジンと痛む。
血の混じった唾を吐き捨てて、顔を上げる。目の前に立ってたのは若頭萩原浩一だった。萩原は不満げにため息をつくと、黒い革靴についた吉良の血をハンカチで拭う。
「話して楽になったほうがいい。前に潜り込んだネズミがどうなったか知らないのか?」
萩原がニタリと口元を歪める。
ああ。そういえば以前、警視庁公安部の捜査官の変死体が見つかったが、こいつらのせいだったか。担当外の案件だから興味はなかったが、全身の骨を砕かれたあと、生きたまま焼却炉に投げ込まれたと聞いている。ヤクザらしいやり方だと改めて呆れてしまった。
「お前らの質問に答える気はない。時間の無駄だから諦めたほうがいい」
萩原の銀フレームの奥の瞳をまっすぐに見据えて、言い放つ。何をされようが、話すことは許されない。公安に所属する人間の、暗黙の掟だ。
「そうか。せいぜい後悔することのないようにな」
こちらを見下ろし侮蔑するように笑うと、萩原は部屋をあとにした。
「続きだ」
灰谷が鉄パイプを振り下ろす。
「ぁ、……ぐっ!!」
鳩尾に強い衝撃。胃が激しく収縮し、胃の中のものを床にぶちまける。すでに散々吐いたせいか、出たものは黄色い胃液だけだった。
息を整える間もなく、2回3回と鉄パイプが身体に振り下ろされる。肋も鎖骨もきっとバラバラに折れているのだろう。呼吸するたびにヒューヒューと嫌な音が、喉の奥から聞こえてくる。
仰向けに転がったまま、気配がした方を向く。清水がバケツを手に立っていた。大柄な清水が持つと、バケツがかなり小さく見えた。青いプラスチックのバケツの中に満杯に入った水が、汚水でないだけマシだと思った。
ぐっと髪を引かれ、そのままバケツの中に顔を突っ込まれる。鼻からも口からも冷たい水が侵入し、息ができない。この身体で清水に抵抗できるわけもなく、意識が薄らいでいくのをぼんやりと感じていた。
ばっと、顔を引き上げられた。同時に酸素が一気に肺に流れ込む。あんなに欲していた酸素も、今はただ苦しいだけでひたすらに憎い。
「しぶといな」
息が整う前にまたバケツの中に沈められる。身体中が酸素を求めるが、それは叶わない。頭がくらくらして意識を失いそうになると、再びバケツから頭を引き摺り出される。それが何度も何度も繰り返されていく。
何度目かの潜水のあと、乱暴に髪を引かれ床に叩きつけられた。ゲホゲホとむせ返るたびに、折られた肋骨と鎖骨が悲鳴をあげる。耳障りな音を立てながら胸を上下させ、必死に酸素を取り込んだ。
「……何?」
霞む視界の端で、灰谷がスマートフォンを操作しているのを捉える。なにか、慌てているようだ。何があったのかは分からないが、清水も驚いた様子を見せている。こちらを一瞥したあと、2人はパタパタと足音を立てて部屋を出ていった。
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