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Who Owns You?(第3章として読んでもらうのがいいかも)
①榊原、黒崎を煽る
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黒崎の執務室に足を踏み入れた瞬間、冷えた空気に身が包まれる。
高級なインテリアと洗練された照明。ヤクザのくせに妙に小洒落たセンス──いや、あの男なら当然か。
見下すような感情はない。ただ、苛立ちとも違うざらつきが胸の内に残る。
二度のセックス。
どちらとも、主導権は彼に握られた。
いや、主導権を握らせてやったんだ────ベッドの上の主導権など、どうでもよい──
そう思うようにしている。
けれど、どこかで理解していた。
このままじゃ、まずい。黒崎啓という男は、普通じゃない。“男”としても、自分を掌の上で転がすつもりでいる。
だから、牽制が必要だった。
榊原はひとつ、罠を張った。警告の意味を込めて。
黒崎の部下──来栖という若い構成員が管理する倉庫の情報を、警視庁組織犯罪対策部に“匿名で”流した。
もちろん、帳簿やブツが既に別の場所に動かされていることも把握済み。
だから、逮捕には至らない。
けれど、「公安が情報を握っている」「その気になれば、いつでも潰せる」──その“メッセージ”だけは、きっちり伝わるはずだ。
榊原は革張りの椅子に深く腰かけ、脚を組んだ。
何も悪びれる必要などない。
これは公安として当然の“制御”。
協力者がこちらを支配しようとするのなら、少し痛い目を見てもらうだけの話だ。
「……それで。どういう意図ですか? 榊原さん」
向かいのソファに座る黒崎が、静かな声で切り出した。
表情は変わらない。ただ、瞳の奥に微かな揺らぎを感じる。怒りだ。
この男の怒りは、暴力的には現れない。むしろ、沈黙の中に息づく熱のように──冷たいほどに、確実に。
「意図?」
榊原は眼鏡の位置を直し、涼しげに笑った。
「なんのことかな。僕はただ、必要な情報を、必要な部署に流しただけだよ。公安警察の人間としてね」
「偶然ですかね? 僕の部下が管理していた倉庫に捜査が入ったのも」
「さあ? でも、運が良かったよね。あの帳簿──“移動済み”だったんだって? あと半日早かったら、彼は拘置所で七夕を迎えてた」
故意に皮肉を込めた声音で言えば、黒崎の眉がかすかに動いた。
効いている。
榊原は内心で、そっと息を吐いた。
少しでも黒崎に“怖れ”を植えつけられればそれでいい。
力の均衡は保たれる。
何より──自分自身にとって、それが必要だった。
あの夜の記憶が、時折ふと蘇る。
黒崎に押し倒され、喉の奥を貫かれ、何度も絶頂に追い込まれた夜の記憶。
甘い声。熱い視線。まるで、底のない闇に引きずり込まれるような快楽。
────でも、あれは“取引”の一環だった。
自分が、あえて黒崎に“主導権を握らせてあげただけ。
だからこそ、今ここで改めて示す。
「主従関係」は崩れていない。主導権は、常に自分が握っていると。
榊原はふぅ、と息を吐いた。そして口を開く。
「君には少し、冷静になってもらいたくてね」
榊原は笑った。余裕のある男の顔で。
「君は、有能だ。交渉力も、情報の扱いも、僕が知る中では随一だと思うよ。でも──だからといって、“公安を手のひらで転がせる”なんて思わないことだね。結局のところ、君はただのヤクザ風情だ」
わざと刺すように“風情”を強調した。
黒崎の瞳が、ゆっくりと細まっていく。
「脅しのつもりですか」
「脅し? 君たちと同じにしないでほしいね。これはあくまで“警告”。君の将来を思ってのことだよ。これ以上、馬鹿な考えはやめた方がいい。君たちは我々公安の“協力者”であって、“支配者”ではない」
その言葉に、自分自身へ向けた暗示も込めた。
僕は支配されていない。
支配しているのは、まだ──僕の方だ。
だが黒崎は、一拍おいて、静かに告げた。
「……わかりました。では、こちらからもそれなりの“対応”を取らせていただきます」
目元にわずかな笑み。
「どうやらあなたは、まだ“自分が誰のものか”を誤解しているようですから」
そう言った黒崎は、一切の怒気を見せないまま、ウィスキーのボトルを手に取った。琥珀色の液体が、静かに傾く。
「飲みますか?」
榊原は、わずかに目を細めた。
──さっきまでとは違う。
黒崎の口調は穏やかで、表情も変わらない。けれど、何かが“切り替わった”のが分かる。
黒崎がグラスを差し出したまま、じっとこちらを見ている。
拒否するのも癪だった。
榊原は「ありがとう」と短く返し、グラスを受け取った。
ぬるりとした感触。
舌に乗せると、芳醇な香りと共に、微かな苦味が広がった。
「いいウイスキーだね。……意外と、趣味がいいんだ」
「気に入っていただけて何よりです」
黒崎は自分のグラスを持ったまま、立ち上がった。
榊原の背後に回る。足音は静か。
振り向くべきか否か、迷ったその瞬間──
「榊原さん」
名前を呼ばれ、視線だけを向ける。
「あなたは、支配する側でいたい人だ。違いますか?」
「……さあ。どうだろうね」
「でも、“支配される側の快楽”を、あなたはもう知ってしまった」
グラスを持つ榊原の手が、一瞬止まった。
──これは誘導だ。
焦らせて、揺さぶって、崩すための。
なのに、体のどこかが──脈打っている。
「…………何が言いたいの?」
「いえ。少し、確認したいことがあって」
そう言うと黒崎は、榊原のソファの背もたれに手を添え、
ゆっくりと身体を前に傾けた。
低く、囁くように。
「あなたの“主”は、誰ですか?」
榊原は笑った。
「冗談?……君に飼われる趣味はないよ」
冷笑すれすれの、鼻で笑うような、いつもの笑み。
しかし、黒崎の声は、どこまでも穏やかだった。
「あなたが“誰のものか”を、あなた自身が一番よく知っているはずですから」
それが逆に、苛立たしい。
榊原はまた鼻で笑う。
笑いながら、心臓の鼓動がじりじりと早くなっていくのを感じていた。
「……相変わらず面白いことを言うね。黒崎くんは」
わざと名前を呼ぶ。
皮肉を込めて、嘲るように。
「そんなくだらない自慰的な支配欲──裏社会の男にはありがちだね。自分の方が“上だ”って思い込まないと、生きていけない。そうでしょ?」
黒崎の指が、榊原の膝の上で止まる。
それでも榊原は止めなかった。
「でもね──僕は、君みたいな“下の人間”に縋って生きたことは、一度もない。国家の中枢で命を握ってるのは、こっちなんだよ? ヤクザが何をどう吠えたって、君たちは、我々にとってただの“使い捨ての駒”だ」
一拍の沈黙。
────その直後だった。
黒崎の表情から、完全に“色”が消えた。
やりすぎた、と思った時はもう、おそかった。
「────っ!」
ソファの背にもたれていた体が、無音で動く。
鋭く、正確で、ためらいのない動作。
気づいた時には、黒崎の手が榊原の胸ぐらを掴んでいた。
そして、そのまま、容赦なく──ドン、と背中がソファに叩きつけられる。
衝撃と同時に、肺から短い息が漏れた。
眼鏡がずれ、視界が一瞬、ぼやける。
「くろ、さ────」
体勢を整える間もない。
黒崎の膝がソファに乗り上げる。
両肩を押さえつけられたまま、榊原は仰向けに固定された。
黒崎の顔が、すぐ近くにある。
怒気を孕んだ視線。
さっきまでの静かな笑みは、跡形もなく消えていた。
「なるほど。……よくわかりました。あなたは、“言葉じゃ理解できない人”なんですね」
「……へぇ? 随分乱暴なんだね。いつもの冷静さはどこへ?」
「黙ってください」
押さえつける力が強まる。
背中が軋む。服の布越しでも、黒崎の指の力が伝わる。乱暴に、明確に、“力で押さえつけられている”感覚。
「……離せ」
低く命じる。
正直、力の勝負なら負ける気はしない。ただの喧嘩慣れしたヤクザと、訓練を積んだ警察官──どっちか上かなんて馬鹿でもわかる。
だが、それを使うのは、最終手段だ。
だから榊原は言葉だけで牽制した。
「命令形で喋らないでもらえますか。あなたは“主”じゃないんですから」
耳元で囁かれたその言葉に、榊原の背筋が戦慄いた。
怒っている。ただの怒りじゃない。これは、“支配者の怒り”だ。
「この期に及んで、まだ上から見下ろす態度を取るなんて──さすが公安のエリート。……でももう、立場を分からせてあげないと、いけないようですね」
黒崎の手が、ネクタイにかかった。
引き解かれる。強く。乱暴に。
ワイシャツの第一ボタンが弾け、喉元に冷気が触れる。
「────っ!」
榊原は、動けなかった。
物理的に押さえつけられているせいではない。
──その目に射す、強烈な“意思”に、抗えない何かを感じていた。
黒崎の声が低くなる。
「あなたが誰のものか、身体に教え込んであげます。……榊原さん」
黒崎の膝がソファをきしませ、榊原の身体を押さえつけるように覆いかぶさる。
────やれやれ。
──────困ったじゃじゃ馬だな。
榊原は、眼鏡の位置を直すように片手を持ち上げてから、にやりと口角を吊り上げた。
「へぇ……? 今日はずいぶん積極的なんだね、黒崎くん」
挑発そのものの声。
怒りの空気を読みながら、なお煽る。
内心で警鐘が鳴っていた。
“この男は本気で怒っている”──
それでも、表情には出さない。出せない。
──────ここで屈すれば、負けだ。
高級なインテリアと洗練された照明。ヤクザのくせに妙に小洒落たセンス──いや、あの男なら当然か。
見下すような感情はない。ただ、苛立ちとも違うざらつきが胸の内に残る。
二度のセックス。
どちらとも、主導権は彼に握られた。
いや、主導権を握らせてやったんだ────ベッドの上の主導権など、どうでもよい──
そう思うようにしている。
けれど、どこかで理解していた。
このままじゃ、まずい。黒崎啓という男は、普通じゃない。“男”としても、自分を掌の上で転がすつもりでいる。
だから、牽制が必要だった。
榊原はひとつ、罠を張った。警告の意味を込めて。
黒崎の部下──来栖という若い構成員が管理する倉庫の情報を、警視庁組織犯罪対策部に“匿名で”流した。
もちろん、帳簿やブツが既に別の場所に動かされていることも把握済み。
だから、逮捕には至らない。
けれど、「公安が情報を握っている」「その気になれば、いつでも潰せる」──その“メッセージ”だけは、きっちり伝わるはずだ。
榊原は革張りの椅子に深く腰かけ、脚を組んだ。
何も悪びれる必要などない。
これは公安として当然の“制御”。
協力者がこちらを支配しようとするのなら、少し痛い目を見てもらうだけの話だ。
「……それで。どういう意図ですか? 榊原さん」
向かいのソファに座る黒崎が、静かな声で切り出した。
表情は変わらない。ただ、瞳の奥に微かな揺らぎを感じる。怒りだ。
この男の怒りは、暴力的には現れない。むしろ、沈黙の中に息づく熱のように──冷たいほどに、確実に。
「意図?」
榊原は眼鏡の位置を直し、涼しげに笑った。
「なんのことかな。僕はただ、必要な情報を、必要な部署に流しただけだよ。公安警察の人間としてね」
「偶然ですかね? 僕の部下が管理していた倉庫に捜査が入ったのも」
「さあ? でも、運が良かったよね。あの帳簿──“移動済み”だったんだって? あと半日早かったら、彼は拘置所で七夕を迎えてた」
故意に皮肉を込めた声音で言えば、黒崎の眉がかすかに動いた。
効いている。
榊原は内心で、そっと息を吐いた。
少しでも黒崎に“怖れ”を植えつけられればそれでいい。
力の均衡は保たれる。
何より──自分自身にとって、それが必要だった。
あの夜の記憶が、時折ふと蘇る。
黒崎に押し倒され、喉の奥を貫かれ、何度も絶頂に追い込まれた夜の記憶。
甘い声。熱い視線。まるで、底のない闇に引きずり込まれるような快楽。
────でも、あれは“取引”の一環だった。
自分が、あえて黒崎に“主導権を握らせてあげただけ。
だからこそ、今ここで改めて示す。
「主従関係」は崩れていない。主導権は、常に自分が握っていると。
榊原はふぅ、と息を吐いた。そして口を開く。
「君には少し、冷静になってもらいたくてね」
榊原は笑った。余裕のある男の顔で。
「君は、有能だ。交渉力も、情報の扱いも、僕が知る中では随一だと思うよ。でも──だからといって、“公安を手のひらで転がせる”なんて思わないことだね。結局のところ、君はただのヤクザ風情だ」
わざと刺すように“風情”を強調した。
黒崎の瞳が、ゆっくりと細まっていく。
「脅しのつもりですか」
「脅し? 君たちと同じにしないでほしいね。これはあくまで“警告”。君の将来を思ってのことだよ。これ以上、馬鹿な考えはやめた方がいい。君たちは我々公安の“協力者”であって、“支配者”ではない」
その言葉に、自分自身へ向けた暗示も込めた。
僕は支配されていない。
支配しているのは、まだ──僕の方だ。
だが黒崎は、一拍おいて、静かに告げた。
「……わかりました。では、こちらからもそれなりの“対応”を取らせていただきます」
目元にわずかな笑み。
「どうやらあなたは、まだ“自分が誰のものか”を誤解しているようですから」
そう言った黒崎は、一切の怒気を見せないまま、ウィスキーのボトルを手に取った。琥珀色の液体が、静かに傾く。
「飲みますか?」
榊原は、わずかに目を細めた。
──さっきまでとは違う。
黒崎の口調は穏やかで、表情も変わらない。けれど、何かが“切り替わった”のが分かる。
黒崎がグラスを差し出したまま、じっとこちらを見ている。
拒否するのも癪だった。
榊原は「ありがとう」と短く返し、グラスを受け取った。
ぬるりとした感触。
舌に乗せると、芳醇な香りと共に、微かな苦味が広がった。
「いいウイスキーだね。……意外と、趣味がいいんだ」
「気に入っていただけて何よりです」
黒崎は自分のグラスを持ったまま、立ち上がった。
榊原の背後に回る。足音は静か。
振り向くべきか否か、迷ったその瞬間──
「榊原さん」
名前を呼ばれ、視線だけを向ける。
「あなたは、支配する側でいたい人だ。違いますか?」
「……さあ。どうだろうね」
「でも、“支配される側の快楽”を、あなたはもう知ってしまった」
グラスを持つ榊原の手が、一瞬止まった。
──これは誘導だ。
焦らせて、揺さぶって、崩すための。
なのに、体のどこかが──脈打っている。
「…………何が言いたいの?」
「いえ。少し、確認したいことがあって」
そう言うと黒崎は、榊原のソファの背もたれに手を添え、
ゆっくりと身体を前に傾けた。
低く、囁くように。
「あなたの“主”は、誰ですか?」
榊原は笑った。
「冗談?……君に飼われる趣味はないよ」
冷笑すれすれの、鼻で笑うような、いつもの笑み。
しかし、黒崎の声は、どこまでも穏やかだった。
「あなたが“誰のものか”を、あなた自身が一番よく知っているはずですから」
それが逆に、苛立たしい。
榊原はまた鼻で笑う。
笑いながら、心臓の鼓動がじりじりと早くなっていくのを感じていた。
「……相変わらず面白いことを言うね。黒崎くんは」
わざと名前を呼ぶ。
皮肉を込めて、嘲るように。
「そんなくだらない自慰的な支配欲──裏社会の男にはありがちだね。自分の方が“上だ”って思い込まないと、生きていけない。そうでしょ?」
黒崎の指が、榊原の膝の上で止まる。
それでも榊原は止めなかった。
「でもね──僕は、君みたいな“下の人間”に縋って生きたことは、一度もない。国家の中枢で命を握ってるのは、こっちなんだよ? ヤクザが何をどう吠えたって、君たちは、我々にとってただの“使い捨ての駒”だ」
一拍の沈黙。
────その直後だった。
黒崎の表情から、完全に“色”が消えた。
やりすぎた、と思った時はもう、おそかった。
「────っ!」
ソファの背にもたれていた体が、無音で動く。
鋭く、正確で、ためらいのない動作。
気づいた時には、黒崎の手が榊原の胸ぐらを掴んでいた。
そして、そのまま、容赦なく──ドン、と背中がソファに叩きつけられる。
衝撃と同時に、肺から短い息が漏れた。
眼鏡がずれ、視界が一瞬、ぼやける。
「くろ、さ────」
体勢を整える間もない。
黒崎の膝がソファに乗り上げる。
両肩を押さえつけられたまま、榊原は仰向けに固定された。
黒崎の顔が、すぐ近くにある。
怒気を孕んだ視線。
さっきまでの静かな笑みは、跡形もなく消えていた。
「なるほど。……よくわかりました。あなたは、“言葉じゃ理解できない人”なんですね」
「……へぇ? 随分乱暴なんだね。いつもの冷静さはどこへ?」
「黙ってください」
押さえつける力が強まる。
背中が軋む。服の布越しでも、黒崎の指の力が伝わる。乱暴に、明確に、“力で押さえつけられている”感覚。
「……離せ」
低く命じる。
正直、力の勝負なら負ける気はしない。ただの喧嘩慣れしたヤクザと、訓練を積んだ警察官──どっちか上かなんて馬鹿でもわかる。
だが、それを使うのは、最終手段だ。
だから榊原は言葉だけで牽制した。
「命令形で喋らないでもらえますか。あなたは“主”じゃないんですから」
耳元で囁かれたその言葉に、榊原の背筋が戦慄いた。
怒っている。ただの怒りじゃない。これは、“支配者の怒り”だ。
「この期に及んで、まだ上から見下ろす態度を取るなんて──さすが公安のエリート。……でももう、立場を分からせてあげないと、いけないようですね」
黒崎の手が、ネクタイにかかった。
引き解かれる。強く。乱暴に。
ワイシャツの第一ボタンが弾け、喉元に冷気が触れる。
「────っ!」
榊原は、動けなかった。
物理的に押さえつけられているせいではない。
──その目に射す、強烈な“意思”に、抗えない何かを感じていた。
黒崎の声が低くなる。
「あなたが誰のものか、身体に教え込んであげます。……榊原さん」
黒崎の膝がソファをきしませ、榊原の身体を押さえつけるように覆いかぶさる。
────やれやれ。
──────困ったじゃじゃ馬だな。
榊原は、眼鏡の位置を直すように片手を持ち上げてから、にやりと口角を吊り上げた。
「へぇ……? 今日はずいぶん積極的なんだね、黒崎くん」
挑発そのものの声。
怒りの空気を読みながら、なお煽る。
内心で警鐘が鳴っていた。
“この男は本気で怒っている”──
それでも、表情には出さない。出せない。
──────ここで屈すれば、負けだ。
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