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第5話*輪島の大胸筋
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「どうした? 具合悪いのか?」
「先輩が、部室でお姫様抱っこされてるのをみた時から、大胸筋辺りが、強く握られたみたいに、ずっと痛い……」
「だ、大丈夫か?」
「こうしていると、痛みは和らいできた。もっと、こうしていてもいいか?」
今、ベッドの上では仰向けになった俺の上に輪島が覆いかぶさっている。
「輪島、重たいし……俺、潰れてる」
輪島は「すまん!」と、慌てて横滑りして俺から降りた。ベッドの上にふたりで並んでいる状態になる。輪島の方を向くと輪島は身体ごと俺の方を向き、真剣な眼差しで俺の顔を見ていた。
「先輩に出会った時から大胸筋辺りがムズムズしたり痛くなったり……先輩が中谷先輩の話ばかりしていると、小さい時から当たり前にできていた筋トレにも集中できなくなってきて。こんなの初めてで。人前で泣いたことないのに、涙が……グズン」
いつもたくましく弱みをみせない輪島が、泣きだした。
初めて見た輪島の泣き顔。整った顔がぐしゃぐしゃになってきて、赤ちゃんのように可愛かった。もしも輪島が泣くのなら、もっと力強くかっこよく泣くのかと思っていた。そんな赤ちゃんみたいな泣き顔につられて、俺もちょっと涙が出てきた。
「……俺と出会った時から?」
「そうだ。自分は先輩に一目惚れというものをしたらしい。だけど今まで筋肉にしか興味なくて、恋愛なんてしたことなかったから、どうすればいいのか分からなくて、話しかけることもできなくて……本当に何もできなかった」
同じ部屋になった時なんて、輪島に対して〝俺と同じ部屋になってかわいそうだな〟ぐらいにしか思っていなかった。だけどその時はすでに俺のことが好きだったってことか? その時から輪島の大胸筋辺りが忙しく――。
「そういえば、大胸筋、大丈夫か? 痛いのは、この辺りか?」
そっと輪島の大胸筋に触れた。
急に触れられて驚いたのか、ビクッとする輪島。
「痛いのは、もうすこし内側だ」
輪島が俺の手首を優しく持ち、心臓があると思われる場所に俺の手を誘導した。胸板が厚いからか、手で触れても心臓の動きは何も感じられない。ドクンドクンと生きているのを感じさせる輪島の温かい心臓のぬくもりを想像した。その温もりが、俺の手に伝わってくる気がしてきた。
こんな至近距離だから、恥ずかしくて輪島の顔を見ることができない。輪島の手も俺の手首から離れないし。身動きもとれず、目のやり場に困った俺は、ずっと自分の手が置いてある、輪島の心臓部分をだまって眺めていた。
「……先輩をお姫様抱っこしていた四人が、本当に羨ましかった」
しばらくすると、輪島が言った。
「えっ? 全部見てたのか? もっと早くに声かけろよ」
「嫌だったけど、先輩がお姫様抱っこされたいのなら、先輩の意思は尊重したい。だけど我慢しきれなくなって、先輩をさらってしまった……」
いつから見られていたんだろうと思っていたけど、全員にお姫様抱っこされていたのを、がっつり全部見られていたのか。全く気がつかなかった。
「先輩に『好きだ』と気持ちを伝えた日だけだ、先輩をお姫様抱っこできたのは。たったの一回だけ……本当はあれから、お姫様抱っこをまたしたいと、何回も考えていた……お姫様抱っこしている夢もみた」
「そうだったのか……」
輪島の頭の中はそんなことに。
筋肉のことだけではなく、俺のお姫様抱っこについても考えてくれていた。しかも何回も――。
「先輩!」
「なんだ?」
「先輩は、先輩ができることなら何でもするって、こないだ言いましたよね?」
輪島が急に敬語になった。
「あぁ、言ったけど。」
「じゃあ、毎日お姫様抱っこさせてください」
それは、俺がするんじゃなくて、俺はされる側じゃないのか?
輪島は急に起き上がり座った。そして背筋をまっすぐに伸ばして、膝の前に両手を置き頭を下げだした。
「……そんな頭を下げなくても、お姫様抱っこ、毎日してもいいぞ」
「ほ、本当か?」
輪島は頭を上げて目を見開いた。
「あぁ、好きな時にお姫様抱っこしてくれ! でも、ふたりきりの時だけな!」
「わかった、じゃあ今やらせてくれ!」
「今かよ!」
輪島はベッドから降りると、俺を軽々持ち上げた。
「輪島のお姫様抱っこは、青木副部長よりも軽々で、森部長よりも安定感があって、秦よりも居心地がいい。それに、輪島にお姫様抱っこされた時だけ、他の人には感じない、特別なドキドキもする。やっぱり、輪島のお姫様抱っこが一番いいな!」
「はぁ、先輩をまたお姫様抱っこできた。幸せだ、幸せだ!」
輪島はぎゅっと強く抱きしめてきた。
「輪島、力入れすぎて痛いって! 本当に俺潰れるから!」
「す、すまん」
こんなに心地いいお姫様抱っこを、これから毎日してくれるなんて、最高だ!
ふたり目を合わせて、笑いあった。
そして甘えるように、輪島の大胸筋に自分の顔をくっつけた。目を閉じると、さっき俺だけに見せてくれた可愛い泣き顔を思い出した。
「輪島、これからも輪島の弱い部分、みせてな」
「先輩にそんな姿はみせられない」
強いところも、弱い部分も。知れば知るほど輪島をどんどん好きになる。
求められるほど、俺の心は満たされていく。
「輪島、大好きだ」
「先輩から大好きと言われると、どうにかなってしまいそうだ」
――輪島が、本当に本当に大好きだ。
寝心地がよくて気に入っている枕に顔をうずめるように、大胸筋に顔をうずめた。
「先輩が、部室でお姫様抱っこされてるのをみた時から、大胸筋辺りが、強く握られたみたいに、ずっと痛い……」
「だ、大丈夫か?」
「こうしていると、痛みは和らいできた。もっと、こうしていてもいいか?」
今、ベッドの上では仰向けになった俺の上に輪島が覆いかぶさっている。
「輪島、重たいし……俺、潰れてる」
輪島は「すまん!」と、慌てて横滑りして俺から降りた。ベッドの上にふたりで並んでいる状態になる。輪島の方を向くと輪島は身体ごと俺の方を向き、真剣な眼差しで俺の顔を見ていた。
「先輩に出会った時から大胸筋辺りがムズムズしたり痛くなったり……先輩が中谷先輩の話ばかりしていると、小さい時から当たり前にできていた筋トレにも集中できなくなってきて。こんなの初めてで。人前で泣いたことないのに、涙が……グズン」
いつもたくましく弱みをみせない輪島が、泣きだした。
初めて見た輪島の泣き顔。整った顔がぐしゃぐしゃになってきて、赤ちゃんのように可愛かった。もしも輪島が泣くのなら、もっと力強くかっこよく泣くのかと思っていた。そんな赤ちゃんみたいな泣き顔につられて、俺もちょっと涙が出てきた。
「……俺と出会った時から?」
「そうだ。自分は先輩に一目惚れというものをしたらしい。だけど今まで筋肉にしか興味なくて、恋愛なんてしたことなかったから、どうすればいいのか分からなくて、話しかけることもできなくて……本当に何もできなかった」
同じ部屋になった時なんて、輪島に対して〝俺と同じ部屋になってかわいそうだな〟ぐらいにしか思っていなかった。だけどその時はすでに俺のことが好きだったってことか? その時から輪島の大胸筋辺りが忙しく――。
「そういえば、大胸筋、大丈夫か? 痛いのは、この辺りか?」
そっと輪島の大胸筋に触れた。
急に触れられて驚いたのか、ビクッとする輪島。
「痛いのは、もうすこし内側だ」
輪島が俺の手首を優しく持ち、心臓があると思われる場所に俺の手を誘導した。胸板が厚いからか、手で触れても心臓の動きは何も感じられない。ドクンドクンと生きているのを感じさせる輪島の温かい心臓のぬくもりを想像した。その温もりが、俺の手に伝わってくる気がしてきた。
こんな至近距離だから、恥ずかしくて輪島の顔を見ることができない。輪島の手も俺の手首から離れないし。身動きもとれず、目のやり場に困った俺は、ずっと自分の手が置いてある、輪島の心臓部分をだまって眺めていた。
「……先輩をお姫様抱っこしていた四人が、本当に羨ましかった」
しばらくすると、輪島が言った。
「えっ? 全部見てたのか? もっと早くに声かけろよ」
「嫌だったけど、先輩がお姫様抱っこされたいのなら、先輩の意思は尊重したい。だけど我慢しきれなくなって、先輩をさらってしまった……」
いつから見られていたんだろうと思っていたけど、全員にお姫様抱っこされていたのを、がっつり全部見られていたのか。全く気がつかなかった。
「先輩に『好きだ』と気持ちを伝えた日だけだ、先輩をお姫様抱っこできたのは。たったの一回だけ……本当はあれから、お姫様抱っこをまたしたいと、何回も考えていた……お姫様抱っこしている夢もみた」
「そうだったのか……」
輪島の頭の中はそんなことに。
筋肉のことだけではなく、俺のお姫様抱っこについても考えてくれていた。しかも何回も――。
「先輩!」
「なんだ?」
「先輩は、先輩ができることなら何でもするって、こないだ言いましたよね?」
輪島が急に敬語になった。
「あぁ、言ったけど。」
「じゃあ、毎日お姫様抱っこさせてください」
それは、俺がするんじゃなくて、俺はされる側じゃないのか?
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「……そんな頭を下げなくても、お姫様抱っこ、毎日してもいいぞ」
「ほ、本当か?」
輪島は頭を上げて目を見開いた。
「あぁ、好きな時にお姫様抱っこしてくれ! でも、ふたりきりの時だけな!」
「わかった、じゃあ今やらせてくれ!」
「今かよ!」
輪島はベッドから降りると、俺を軽々持ち上げた。
「輪島のお姫様抱っこは、青木副部長よりも軽々で、森部長よりも安定感があって、秦よりも居心地がいい。それに、輪島にお姫様抱っこされた時だけ、他の人には感じない、特別なドキドキもする。やっぱり、輪島のお姫様抱っこが一番いいな!」
「はぁ、先輩をまたお姫様抱っこできた。幸せだ、幸せだ!」
輪島はぎゅっと強く抱きしめてきた。
「輪島、力入れすぎて痛いって! 本当に俺潰れるから!」
「す、すまん」
こんなに心地いいお姫様抱っこを、これから毎日してくれるなんて、最高だ!
ふたり目を合わせて、笑いあった。
そして甘えるように、輪島の大胸筋に自分の顔をくっつけた。目を閉じると、さっき俺だけに見せてくれた可愛い泣き顔を思い出した。
「輪島、これからも輪島の弱い部分、みせてな」
「先輩にそんな姿はみせられない」
強いところも、弱い部分も。知れば知るほど輪島をどんどん好きになる。
求められるほど、俺の心は満たされていく。
「輪島、大好きだ」
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