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マグカップ
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ある人が言った。運命は自分の物だと。ある人が言った。運命は変えられないと。
僕は26才会社員。低賃金で働いてるのも、昇進できないのも、彼女がいないのも全部運命のせいだ。変えようと努力しようとしたけど…何をすれば良いんだ?
ある日、そんな感じで考えながら帰り道を歩いていると、ふとある店が目についた。
「雑貨屋かぁ…。まだ18時だし…。」
特にほしいものも無かったがなんとなく寄ってみた。
「あ!これ良いな。値段は…千円か。」
そこにはなんとなく気になるマグカップがあった。
「買うかな?でもそんなに欲しいわけでもないし…。でもなんか欲しいな。よし!」
買うことに決めた。
「すいません。これください。」
レジに持ってくとお婆さんが居た。
「この色でよろしいですか?もう一色ありますが…?」
そう言ってお婆さんは色ちがいのマグカップを出した。
「うわ…こっちの色も良いな。迷うなぁ…。」
「ゆっくりお考えください。」
さんざん悩んだ末に僕は最初の色にした。
「こちらでよろしいですね?」
「……。」
聞かれると悩む。決めた筈なのに、良いのかと思ってしまう。
それを見透かしたように
「ゆっくりお考えください。」
お婆さんが言った。
しばらくしてやっぱり最初の色が良いと思った僕は
「これにします。」
と言った。
「こちらでよろしいですね?」
お婆さんは聞くが僕はもう揺れない。
「はい。」
それ以上はお婆さんも何も言わなかった。
袋に入れてもらい外に出る。
すっかり暗くなっていた。
時計を見ると…19時半。なんと1時間半もあの店に居たのだ。
もう一度店の方を見るとお婆さんが入り口に立っていた。不思議と驚かなかった。
「なんとなく寄った店で、なんとなく気になったマグカップを買おうとして、どうでも良いような色の問題で、あなたは1時間半も使ってしまった。」
「はい。」
普段なら余計なお世話だと言うところだが、なぜだかお婆さんの言葉には重みがあった。
「もしこの店に寄ったのが運命だとして、あなたが悩んだそのマグカップを買うことも運命だと言うなら、何のために悩んだのかねぇ。」
「あなたが決断して、あなたが自分の意思で買ったのがそのマグカップだよね。」
「はい…。」
「運命に翻弄されるとか言うけど結局は自分の意思なんだよねぇ。もし運命があるなら考えなくても生きていけるもんねぇ。」
「…」
「運命を変える変えないは知らないけど…人生は自分しかどうにもできないからねぇ。」
「…」
「悩まない人もいるからねぇ…全部運命のせいにしたりして。自分の意志が大事なのにねぇ。」
「あぁ」
かすれながら僕は答えた。
「気をつけてお帰りよ。」
そして僕はいつも通り帰って、次の朝には起きた。
でも気づいたことがある。運命は自分で決めるものでも変えれないものでもない。運命と言った時点で僕の負けなのだ。僕は僕で僕の人生を歩む。悩んだり決断したりしながら。
それから数年、探してみたが、あの雑貨屋は二度と見つからなかった。
しかし、部屋に帰ると僕の決断の結果であるマグカップと最愛の妻が僕を出迎えた。
僕は26才会社員。低賃金で働いてるのも、昇進できないのも、彼女がいないのも全部運命のせいだ。変えようと努力しようとしたけど…何をすれば良いんだ?
ある日、そんな感じで考えながら帰り道を歩いていると、ふとある店が目についた。
「雑貨屋かぁ…。まだ18時だし…。」
特にほしいものも無かったがなんとなく寄ってみた。
「あ!これ良いな。値段は…千円か。」
そこにはなんとなく気になるマグカップがあった。
「買うかな?でもそんなに欲しいわけでもないし…。でもなんか欲しいな。よし!」
買うことに決めた。
「すいません。これください。」
レジに持ってくとお婆さんが居た。
「この色でよろしいですか?もう一色ありますが…?」
そう言ってお婆さんは色ちがいのマグカップを出した。
「うわ…こっちの色も良いな。迷うなぁ…。」
「ゆっくりお考えください。」
さんざん悩んだ末に僕は最初の色にした。
「こちらでよろしいですね?」
「……。」
聞かれると悩む。決めた筈なのに、良いのかと思ってしまう。
それを見透かしたように
「ゆっくりお考えください。」
お婆さんが言った。
しばらくしてやっぱり最初の色が良いと思った僕は
「これにします。」
と言った。
「こちらでよろしいですね?」
お婆さんは聞くが僕はもう揺れない。
「はい。」
それ以上はお婆さんも何も言わなかった。
袋に入れてもらい外に出る。
すっかり暗くなっていた。
時計を見ると…19時半。なんと1時間半もあの店に居たのだ。
もう一度店の方を見るとお婆さんが入り口に立っていた。不思議と驚かなかった。
「なんとなく寄った店で、なんとなく気になったマグカップを買おうとして、どうでも良いような色の問題で、あなたは1時間半も使ってしまった。」
「はい。」
普段なら余計なお世話だと言うところだが、なぜだかお婆さんの言葉には重みがあった。
「もしこの店に寄ったのが運命だとして、あなたが悩んだそのマグカップを買うことも運命だと言うなら、何のために悩んだのかねぇ。」
「あなたが決断して、あなたが自分の意思で買ったのがそのマグカップだよね。」
「はい…。」
「運命に翻弄されるとか言うけど結局は自分の意思なんだよねぇ。もし運命があるなら考えなくても生きていけるもんねぇ。」
「…」
「運命を変える変えないは知らないけど…人生は自分しかどうにもできないからねぇ。」
「…」
「悩まない人もいるからねぇ…全部運命のせいにしたりして。自分の意志が大事なのにねぇ。」
「あぁ」
かすれながら僕は答えた。
「気をつけてお帰りよ。」
そして僕はいつも通り帰って、次の朝には起きた。
でも気づいたことがある。運命は自分で決めるものでも変えれないものでもない。運命と言った時点で僕の負けなのだ。僕は僕で僕の人生を歩む。悩んだり決断したりしながら。
それから数年、探してみたが、あの雑貨屋は二度と見つからなかった。
しかし、部屋に帰ると僕の決断の結果であるマグカップと最愛の妻が僕を出迎えた。
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