【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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凱旋編

1.王女の旗章

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『今、中央大通りには大勢の民衆が集まってきています!』
 拡声器を手にした男が声高に叫ぶ。その前には大仰な機械が設置されていて、なにを仕掛けるつもりなのかと子分が囁きかけてくる。
『初の全国放送です。私も緊張しております』
 そう言ってはにかむ新聞記者は、ブラッド家の子飼いだ。キシウ・ティーンスが王宮に戻ってから、中央の各所には大きな箱が置かれた。ブラッド家や各新聞社はそれを”テレビ”だとか言って、宮殿でキシウやハイデが毎日どうやって過ごしてるかっつークソつまんねえしクソどうでもいい様子を映し出している。
「金掛かってんな」
「見ろよ、シュトーまで出てきたぜ」
 澄ました顔の男は今日も、俺たちが普通に働いてれば一生着ることなんかない、お高そうなスーツ姿だ。
『これが上手くいけば、全国放送を定期的に行う。国民ならば誰しもが知りたいことだろうからな』
「クソ浪費ババアが俺らの金を使ってどうやって豪遊してんのかが?」
 金持ちってのはこれだからと手下が睨むのを諫める。こんな路地裏で暮らす奴らは燻っているしかねえし、俺も涼し気なイケメン顔なんざ見てて反吐が出そうだ。
『では、これからは国民全員がお美しいキシウ様のお姿を拝見できるということですね!』
 ーーあ゙? なんだ、あのしかめっ面。今、アイツ……鼻で嗤わなかったか?
『常々思っていたのだ。”王”とは民衆が選ぶべきだとな』
 首を傾げて『ん?』と口の片端を歪ませて笑った奴は『どうだ、お前は思わないか?』と記者を見下す。
『そ、それが今だと』
『思わない者がこんな物を持ち出してくると思うのか、君は。ん?』と吐き捨てたシュトー・ブラッドがを見る。自惚れているのかと自分でも笑ってしまいそうになるけどな、見たと思ったんだよ。アイツが、画面ごしに俺をな。
『この声が届く者、彼らの姿をその目で見る者。あなたが裁定者になれ』
 格好つけやがって。ムカつくくらい涼しい顔の美形……なのに、嫌いではねえと思わされるのがブラッドの血筋ってやつか。
 息子なんか平気で工場や路地裏にズカズカ入ってきて、この部品が作りたいこんな素材を扱ってる奴を見なかったかなんて話しかけてくるしな。遠慮がねえんだよ、あの一族は。
 手下に声を掛けようとした時、大地が揺れた。いや、正しくは大地が、空気が揺れるくらい大きな歓声が上がったんだ。
「兄貴、こりゃ一体なにがーー」
「馬鹿野郎、聞かなくても分かるだろ!」と頭を小突いて、通りを南下した所にある大門の方に顔を向ける。
「お姫様の凱旋だッ」
 ふわりと軽やかに一角獣が駆けてくる。騎乗している乙女は白い軍服に身を包んでいた。柔らかそうな水色の髪を上の方で一括りにした女が大画面に映りこむ。
『レイアーラ様です!!』
 拡声器を手にした記者が叫ぶ。オイオイ、あのお姫様は敵だろ。ファンかよ、仕事忘れてんぞ。
『今、デューツィア隊を引き連れて堂々の帰還です』
「うわっホントだ」と子分が驚く。
 しょっぴかれた奴がいねえんだから、どっかに隠れてたに決まってんだろ。お姫様の足下には白い鎧を着込んだ女騎士がお綺麗な鬣の馬に乗って、胸を張ってやって来る。先頭には水色に白い花が描かれた旗を持った奴までいた。
『我らの慈悲深き王女は、南の山間部で長年民を苦しめてきた魔物を討伐された! 唯一頼れる恋人は、今も炎に包まれたガンガルダで市民を護っている……街を焼いたのは誰か』
 は!? おっかしいだろ、誰が原稿書いてんだよ! 首吹っ飛ばされんぞ……。俺たちだけじゃない、周りの奴らもなんかおかしくないかって気づき始めた。
『ドゥルース・フィンティア率いる革命軍だという情報が南部の支局から届いています。それを命じたのはキシウ・ティーンスだとも!』
 遠目に記者が原稿を握り潰す。そこにはもう黒いスーツの男の姿はない。
『焼けていくガンガルダで座り込む人々を救助し続けた者が来ています。紹介しましょうーー』
 映像がレイアーラ様の後方へと走っていく。映し出されたのは、折り畳み式の幌がついた馬車に乗る淡い金髪の子どもだった。
『南部軍司令に所有されているアンドロイド、名前をカロルと名づけられました。彼はなんと、成長する心を持ち、被災者に寄り添う活動を続けています!』
 俺の口から、あ? という声が出る。なんか、誰かを思い出すな? すげえ見たことある顔なんだよ、なんかちょっと、すげー微妙に似てないんだけど。
『製作したのはエディス殿下と、彼の筆頭騎士であるリスティー・フレイアム嬢です!』
 カロルの隣に座っていた女が立ちあがって両手を振りながら周りを見渡すと、歓声が大きく上がった。これまた整った顔の美少女だ。
 レイアーラ様は楚々とした印象の美人だが、こっちは愛嬌のある顔立ちで華がある。
『リスティー嬢は、エディス殿下の私兵団の団長であるドール氏の娘でもあります。お二人は二十年余り続いた中央と南部のわだかまりを解消への導きーー』
 どういう作戦だ……? キシウ側がエディスのことを良いように話すはずがない。なら、これは誰が仕掛けたんだ。
「クソッ……おい、もう大門に入っちまうぞッ」
「潜らせるなってお達しだ、やれェ!」
 雑音混じりだが各所に仕掛けられた録音機が音を拾う。手下から借りた双眼鏡で声がした方を見ると、砲台付きの車に乗り込んだ奴らが照準を合わせようとしていた。
「待て待て、こんな人の多い所で撃つってか」
 死傷者が出るぞと言っている間に王女目掛けて撃たれた弾を、馬車に足を掛けた嬢ちゃんが待ち構える。あんなのを生身で迎撃するつもりか!?
 空高く打ち上げられた砲弾の行方を追っていた視界が一瞬白くなる。うわっと叫んだ群衆がしゃがんで頭を抱える中聞こえた破砕音。強烈な魔法攻撃かなんかか、目を開けたら空を切っていた砲弾がなくなっていた。
「一般市民が大勢いる中、砲撃なんて正気の沙汰ではありませんわ」
 冷淡に響く、澄んだ女の声。レイアーラ様がやったのかと大画面を見ると、思った通り遠くを睨む彼女が映っていた。美女が怒ると迫力あるな……。
「バスティスグラン三兄妹だ!」
 叫び声を聞いたレイアーラ様が俺たちの頭上に張ってくださっていた防御の能力を解除して、後方を仰ぎ見る。ふわりと笑ったのを見て、バスティスグランの誰がやったんだ? と俺たちも同じ方に体を向けた。
「ありがとう、地を這う者さん。それにアーマー。助かりましたわ」
 そこには黒のドラゴンに騎乗した赤い髪の少女の姿が。その肩を持って立ち上がっている金髪の幼女は、次いで撃たれた砲弾も即座に対処する。
「見ろよ……あの赤い目。怖気が走る」とぶるりと震えて自分の腕を抱く者もいる。
「うちで一番強い能力者だかなんだか知らねえが、怖えよ」
 畏怖と尊敬を持って”最強”の名前を冠するたあ、このことか。少しばかり怯えの方が大きい気がするがと思っていると、化け物はドラゴンの背にぴょんと座って髪を撫でつける。なんであんな高い場所、安定しない所に座ってんのに平然としてられんだよーーマジで狂ってやがんな。
『もっ……元、シュウ・ブラッドの婚約者です! 援軍が、彼女!? わ、私たちはなにを見ているんでしょう……いったい、なにが起こっているというのでしょうか』
 実況してる奴も流石に呆然としてんじゃねえか。まあ、そらそうだよな。こんな繋がりのない奴らが集まる理由が分からねえ。
『あっ? もう一匹、ドラゴンがーードラゴンが来ます! 映像、映像出せますか!』
 切り替わった画面に、ツヤツヤした格好良い赤色のドラゴンが映り込む。白いマントをはためかせて、いかにも王子様って風に乗っている騎士に女子が奇声を上げる。照れ臭そうに手を振り返すのがま~たこう、すげえ女子が好きそうな奴って印象だな。
「……って、はァ!?」
 けれど、その腕にすっぽりっていうのか? あれ。収まっている神々しい金髪の青年が、大きな青い瞳を細める。
「よ、良かったッスね、兄貴! 生ッスよ、生!」
「よかったって……オイオイオイィッ俺の推しに触んじゃねえよ、バスティスグラン次男……!」
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