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水理編
2.命の受け渡し
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「はあ~~~~っ、久しぶりに腹いっぱい食べました!」
少佐の手料理を食べられて元気にならないはずないですと声を弾ませるアイザックに、薬草を揉みこんだ兎肉を煮ただけだと苦笑いする。塩もなにもないから、空腹を最大の調味料にしているだけだ。
「フェリオネルも食べろよ」
「はい。……あの、契約の武器なんですけど。使うと魔力を大量に消耗するみたいです。僕は、ほとんど魔力がないので、体力だったみたいですけど」
「必殺技みたいですね!」
アイザックが言う通りだ。
レウはもう二日もほとんど寝っぱなしだし、本能的に押さえて使ったフェリオネルでさえ顕著に疲れが出ている。とんだリスキーな必殺技だと、エディスは嘆息した。
「食ったらしっかり寝ろ」
俺はレウの様子を見てくる、と元来小食なエディスは席を立つ。
「俺が寝ずの番をするので、レウの所で一緒に寝てください。あの天幕、トリエランディア大将から借りた魔道具なんです」
温かいですよと言われた通り、天幕の中は暖房でもつけたようだった。しかも床が分厚くて、ベッドのような心地で寝られそうだ。
奥に寝かされているレウの隣に寝ころんで、容体を見る。ここまでの道中、何度か起きてアイザックと言葉を交わしていたようだったが、しっかり起きている姿は見なかった。
不安で胸が潰れそうになる。自分が倒れた時もこんな想いをさせていたのかと思い、過去の行動だって反省した。
腕の中に入り込んで抱きしめる。とく、とくと心音が伝わってきて涙が出そうになった。
レウを失くしたくない。シルクの時のような想いをするのは嫌だ。
「好きだ……」
溢れだした気持ちを止められず、エディスは胸元に擦り寄る。
傍にいろ、いなくなるな。嫌うな、捨てないでくれ――……
家族がいないエディスは無償の愛というものを受けたことがない。だから人のことも、その愛も信じられなかった。こんな自分が恋をして意味があるのだろうかと。
なのに、レウといると際限なく悪い人間になっていく。一人占めしたくて、嫉妬で狂いそうだ。
「レウ、そろそろ起きろよ」
腕をついて上体を起こし、眠るレウに口づける。僅かな間を置いて、すぐに離れた。
――すると、レウの目が開く。驚いて離れようとしたが、項に手を当てられて引き寄せられる。
「ん、んぅ……っ!?」
抑え込んできたレウに口づけられ、声が漏れ出た。
誰かと――恋人やギジアと間違えているのかと何度も離れようと腕を突っ張るが、その度に頭を押さえ込まれて口を合わされる。
苦しくて開けた口の中にレウの舌が入り込んできて、引っ込めた舌を絡め取られた。舌が痺れる程に吸われ、溢れた唾液を飲みこまれて、恥ずかしさで憤死しそうだった。
「あ……っ、はぁ……」
唇を離してもらえた時には息絶え絶えになってレウの上に凭れかかる。
「なに、人の寝込み襲ってるんですか……しかも泣いてるし」
これくらいで死ぬかよと吐き捨てながら首を撫でてくるレウに、泣き声が出る。
「だってお前起きないし。ギ、ジアが」
「あー……怪しいなとは思ってたけど、あの人とんでもなかったな」
アンタ怪我してないかと腕を触って確認してくるレウに、「どこにも行くなよ」と弱音が出ていく。圧し掛かっているエディスの頭と背中に手を回して、レウはまたそれですかとため息を吐いた。
「なんで、そんな怯えてんだよ。俺がアンタを見限ってアイツの所に行くとでも?」
なにが起因だと訊いてくるレウに、自分が赤子の時に捨てられたのだと口にする。
「いやいや、それって母親じゃなくてキシウ・ティーンスに拉致された事件のことだよな。アンタは捨てられたんじゃなくて、敵に邪魔だからって売っ払われたんだよ」
俺をそんな犯罪者と一緒にするなと言われ、ごめんと謝った。
「マジで顔はすっげえ美人だな……泣き顔まで綺麗とか」
いい加減にしろと言われ、エディスはぽろぽろと涙をレウの上に落とす。
「……くそっ」という声が聞こえてきて、ごめんと言うとレウに押し倒された。
「違う。その、悪かった」
なにを謝っているのか分からずにただ見上げていると、気まずそうな顔で「襲ったのは俺だろ」と眉間に皺を寄せる。
「誰かと間違えたんだろ?」
「間違えるか! 子ども相手に盛って後悔してんだよ」
後悔したのか、と胸が痛んだ。やはり、自分はレウに好かれていないのだ。
「まあ、魔力を譲ってもらえて元気は出ましたけど」
「え。キスで?」
「アンタ魔力の塊かってくらいあるからじゃないですか」
そういうことかと納得すると同時に、空しささえ溢れ出てくる。
「じゃあ、フェリオネルにもやってくる……アイツも魔力切れみたいだから」
レウの腕の中から這いずり出ようとすると、その方向に倒れ込んできて進路を塞がれた。なら反対側にと手を突いて体を起こすと、手を握って引き留められてしまう。
どうしてこんなことをするんだ、と困って見下ろすと「一緒に寝てくれないんですか」と意地の悪い笑みを浮かべたレウに問われる。
「あ、や、でも」
「俺に行くなって言うなら、アンタだって他の奴の所に行くなよ」
肩を掴んで引き下ろされ、抱き枕代わりに抱えられてしまう。
足を絡められて動揺したエディスの腰に手を回したレウは、「早く大人になってくださいよ」と囁きかけた。
少佐の手料理を食べられて元気にならないはずないですと声を弾ませるアイザックに、薬草を揉みこんだ兎肉を煮ただけだと苦笑いする。塩もなにもないから、空腹を最大の調味料にしているだけだ。
「フェリオネルも食べろよ」
「はい。……あの、契約の武器なんですけど。使うと魔力を大量に消耗するみたいです。僕は、ほとんど魔力がないので、体力だったみたいですけど」
「必殺技みたいですね!」
アイザックが言う通りだ。
レウはもう二日もほとんど寝っぱなしだし、本能的に押さえて使ったフェリオネルでさえ顕著に疲れが出ている。とんだリスキーな必殺技だと、エディスは嘆息した。
「食ったらしっかり寝ろ」
俺はレウの様子を見てくる、と元来小食なエディスは席を立つ。
「俺が寝ずの番をするので、レウの所で一緒に寝てください。あの天幕、トリエランディア大将から借りた魔道具なんです」
温かいですよと言われた通り、天幕の中は暖房でもつけたようだった。しかも床が分厚くて、ベッドのような心地で寝られそうだ。
奥に寝かされているレウの隣に寝ころんで、容体を見る。ここまでの道中、何度か起きてアイザックと言葉を交わしていたようだったが、しっかり起きている姿は見なかった。
不安で胸が潰れそうになる。自分が倒れた時もこんな想いをさせていたのかと思い、過去の行動だって反省した。
腕の中に入り込んで抱きしめる。とく、とくと心音が伝わってきて涙が出そうになった。
レウを失くしたくない。シルクの時のような想いをするのは嫌だ。
「好きだ……」
溢れだした気持ちを止められず、エディスは胸元に擦り寄る。
傍にいろ、いなくなるな。嫌うな、捨てないでくれ――……
家族がいないエディスは無償の愛というものを受けたことがない。だから人のことも、その愛も信じられなかった。こんな自分が恋をして意味があるのだろうかと。
なのに、レウといると際限なく悪い人間になっていく。一人占めしたくて、嫉妬で狂いそうだ。
「レウ、そろそろ起きろよ」
腕をついて上体を起こし、眠るレウに口づける。僅かな間を置いて、すぐに離れた。
――すると、レウの目が開く。驚いて離れようとしたが、項に手を当てられて引き寄せられる。
「ん、んぅ……っ!?」
抑え込んできたレウに口づけられ、声が漏れ出た。
誰かと――恋人やギジアと間違えているのかと何度も離れようと腕を突っ張るが、その度に頭を押さえ込まれて口を合わされる。
苦しくて開けた口の中にレウの舌が入り込んできて、引っ込めた舌を絡め取られた。舌が痺れる程に吸われ、溢れた唾液を飲みこまれて、恥ずかしさで憤死しそうだった。
「あ……っ、はぁ……」
唇を離してもらえた時には息絶え絶えになってレウの上に凭れかかる。
「なに、人の寝込み襲ってるんですか……しかも泣いてるし」
これくらいで死ぬかよと吐き捨てながら首を撫でてくるレウに、泣き声が出る。
「だってお前起きないし。ギ、ジアが」
「あー……怪しいなとは思ってたけど、あの人とんでもなかったな」
アンタ怪我してないかと腕を触って確認してくるレウに、「どこにも行くなよ」と弱音が出ていく。圧し掛かっているエディスの頭と背中に手を回して、レウはまたそれですかとため息を吐いた。
「なんで、そんな怯えてんだよ。俺がアンタを見限ってアイツの所に行くとでも?」
なにが起因だと訊いてくるレウに、自分が赤子の時に捨てられたのだと口にする。
「いやいや、それって母親じゃなくてキシウ・ティーンスに拉致された事件のことだよな。アンタは捨てられたんじゃなくて、敵に邪魔だからって売っ払われたんだよ」
俺をそんな犯罪者と一緒にするなと言われ、ごめんと謝った。
「マジで顔はすっげえ美人だな……泣き顔まで綺麗とか」
いい加減にしろと言われ、エディスはぽろぽろと涙をレウの上に落とす。
「……くそっ」という声が聞こえてきて、ごめんと言うとレウに押し倒された。
「違う。その、悪かった」
なにを謝っているのか分からずにただ見上げていると、気まずそうな顔で「襲ったのは俺だろ」と眉間に皺を寄せる。
「誰かと間違えたんだろ?」
「間違えるか! 子ども相手に盛って後悔してんだよ」
後悔したのか、と胸が痛んだ。やはり、自分はレウに好かれていないのだ。
「まあ、魔力を譲ってもらえて元気は出ましたけど」
「え。キスで?」
「アンタ魔力の塊かってくらいあるからじゃないですか」
そういうことかと納得すると同時に、空しささえ溢れ出てくる。
「じゃあ、フェリオネルにもやってくる……アイツも魔力切れみたいだから」
レウの腕の中から這いずり出ようとすると、その方向に倒れ込んできて進路を塞がれた。なら反対側にと手を突いて体を起こすと、手を握って引き留められてしまう。
どうしてこんなことをするんだ、と困って見下ろすと「一緒に寝てくれないんですか」と意地の悪い笑みを浮かべたレウに問われる。
「あ、や、でも」
「俺に行くなって言うなら、アンタだって他の奴の所に行くなよ」
肩を掴んで引き下ろされ、抱き枕代わりに抱えられてしまう。
足を絡められて動揺したエディスの腰に手を回したレウは、「早く大人になってくださいよ」と囁きかけた。
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