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水理編
1.気弱な竜騎士
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【第二の騎士――フェリオネル・バスティスグラン】
頭の中にまたあの声が響く。
フェリオネルが発生させた竜巻はギジアを巻き込み、猛然とした勢いで雷を弾けさせながら飛んでいく。
今だと竜を駆って逃げ出した。正面から挑んで、無傷で済む相手ではない。特に、レウの容体が悪い今は。なにせ、相手の狙いはレウなのだから。
「雪が少ないのはガウル山脈の方です! 急ぎましょう」
息を切らせながらフェリオネルが先行する。
エディスは殿を務めながら、大男を二人も乗せているブラックドラゴンを励ました。
*** *** *** *** ***
一晩中ドラゴンを飛ばして、ようやく落ち着けたのはアリステラを出てから二日目の夕方だった。
「そろそろ休もう。なにかあれば俺が責任を持つ」
フェリオネルは衰弱していたし、アイザックもまだそこまでドラゴンに慣れていないのか、神経をすり減らしているのが目に見えていた。
リスティーから教わった周囲から姿を隠せる魔法を唱え、体を温めるために火をおこす。
アイザックがトリエランディアから借りたという天幕を張り、中にレウを寝かせてから出てきた。
「飯ができるまでアイザックも寝てろ」
だが、そう言うと謝りつつも戻っていく。すぐにがーがーと鼾が聞こえてきて、くすりと笑ってしまう。
「エディス様」
そこらの打ち倒されていた木に腰かけていたエディスの元に、フェリオネルが来た。
近くから狩ってきた兎を捌きながらなにかと問うと、彼は俯く。
兄のレイヴェンから少々内気なのだと聞いていたエディスは鍋を作る手を止めず、話しだすのを気長に待つ。
「……僕なんかでよかったんですか」
王の竜騎士だなんて、身に余ります。とネックレスに手を触れながら呟く。
「お前のことならずっと見ていた」
ビスナルク教官の訓練を逃げ出したことないだろと言うと、怖かっただけですとぼそぼそ自信なさげに口にする。ギジアに立ち向かっていった時の威勢はどこに捨ててきたのかと、エディスは目を丸くした。
「僕は兄さんみたいに優秀でもないですし、アーマーみたいに努力家でもありません。平々凡々で劣るとずっと言われてきました」
魔法に秀でた北、能力者を多く輩出する西、武勇の南。
一芸に秀でた者が多い他の地区と比べると東部は引けを取るからか、訓練ばかりをする。任務がなければとかく訓練、訓練、訓練。
だからこそ規則正しく、研ぎ澄まされた技量を持っている者が多いとエディスは思っている。
「他人の評価で自分を語るな。これからの功績で変えてみせろ」
それだけだと断じたエディスに、フェリオネルは顔を上げ、また項垂れた。
(お前の努力は、いつか報われる日が来る)
従えているドラゴンは白魔の紅蓮龍と呼ばれる希少な種族で、滅多なことでは人に懐かない。自分よりも弱いと見做した主を食い殺すことも多々ある。
それを馴らしているのだ、誇れと言うのは簡単だがエディスの言葉だけでは信じられないだろう。
「……ありがとうございます」
実際に、自分で奇跡を起こすまでは。
頭の中にまたあの声が響く。
フェリオネルが発生させた竜巻はギジアを巻き込み、猛然とした勢いで雷を弾けさせながら飛んでいく。
今だと竜を駆って逃げ出した。正面から挑んで、無傷で済む相手ではない。特に、レウの容体が悪い今は。なにせ、相手の狙いはレウなのだから。
「雪が少ないのはガウル山脈の方です! 急ぎましょう」
息を切らせながらフェリオネルが先行する。
エディスは殿を務めながら、大男を二人も乗せているブラックドラゴンを励ました。
*** *** *** *** ***
一晩中ドラゴンを飛ばして、ようやく落ち着けたのはアリステラを出てから二日目の夕方だった。
「そろそろ休もう。なにかあれば俺が責任を持つ」
フェリオネルは衰弱していたし、アイザックもまだそこまでドラゴンに慣れていないのか、神経をすり減らしているのが目に見えていた。
リスティーから教わった周囲から姿を隠せる魔法を唱え、体を温めるために火をおこす。
アイザックがトリエランディアから借りたという天幕を張り、中にレウを寝かせてから出てきた。
「飯ができるまでアイザックも寝てろ」
だが、そう言うと謝りつつも戻っていく。すぐにがーがーと鼾が聞こえてきて、くすりと笑ってしまう。
「エディス様」
そこらの打ち倒されていた木に腰かけていたエディスの元に、フェリオネルが来た。
近くから狩ってきた兎を捌きながらなにかと問うと、彼は俯く。
兄のレイヴェンから少々内気なのだと聞いていたエディスは鍋を作る手を止めず、話しだすのを気長に待つ。
「……僕なんかでよかったんですか」
王の竜騎士だなんて、身に余ります。とネックレスに手を触れながら呟く。
「お前のことならずっと見ていた」
ビスナルク教官の訓練を逃げ出したことないだろと言うと、怖かっただけですとぼそぼそ自信なさげに口にする。ギジアに立ち向かっていった時の威勢はどこに捨ててきたのかと、エディスは目を丸くした。
「僕は兄さんみたいに優秀でもないですし、アーマーみたいに努力家でもありません。平々凡々で劣るとずっと言われてきました」
魔法に秀でた北、能力者を多く輩出する西、武勇の南。
一芸に秀でた者が多い他の地区と比べると東部は引けを取るからか、訓練ばかりをする。任務がなければとかく訓練、訓練、訓練。
だからこそ規則正しく、研ぎ澄まされた技量を持っている者が多いとエディスは思っている。
「他人の評価で自分を語るな。これからの功績で変えてみせろ」
それだけだと断じたエディスに、フェリオネルは顔を上げ、また項垂れた。
(お前の努力は、いつか報われる日が来る)
従えているドラゴンは白魔の紅蓮龍と呼ばれる希少な種族で、滅多なことでは人に懐かない。自分よりも弱いと見做した主を食い殺すことも多々ある。
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「……ありがとうございます」
実際に、自分で奇跡を起こすまでは。
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