【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
1 / 274

1.家族、売られました

しおりを挟む
 記憶を遡り、最初から目を覚ます。

 すると、いつも決まってあの女が出てくる。
 光に照らされた銀の髪、青色の目。左耳につけた三日月のピアス。

 兄と名乗る男に連れて行かれるまで、俺はいつだって寂しがった。
 誰がいても、どれだけ”愛”の体裁を保った言葉を囁かれても。
 皆が俺を通して別の誰かを見ている。そんな気にさせられるからだ。
 その飢えは、実は十二歳になって職を得た今でも変わっていないんじゃないかと思わせられる時がある。

「そう。にーっと! そー、かーわいっ!」

 甘ったるい声。顔に押し付けられた、ふくふくと柔らかい胸。あの女といると、笑っていなくてはいけない。

「もっと綺麗で可愛くなって、いい人の所にいくのよ」

「うん!」

 あそこはこの国の中でも汚らしく、人の欲望が渦巻く所だった。
 毎日ぶくぶくと腹を膨らませた金持ちが気に入った人間を金で買っていく。
 その金欲しさに商人たちは目を光らせる。
 奴隷市なんて、今になっても珍しいものでもない。

「可愛いから、君はきっと高く売れるわ」

「うん。ありがとう!」

 俺はその奴隷市の中でも特別な商品が作られる小屋に、その女と詰め込まれていた。

「いい奴隷は頭も良くなくちゃ! さ、お勉強の時間よっ」

「ええーっ!?」

 エディスと名乗る、得体の知れない女と。

 *** *** *** *** ***

 子どもの俺は、エディスさんの歌が好きだった。
 あの人の歌声が好き、歌っている時の目が好き、優しくて綺麗なエディスさんが好き。
 鼻で笑ってしまうような感情だ。

「エディスさんが歌ってるの聞くの、僕好きっ!」

 ある日そう言ったら、あの女は俺の両肩を掴んで顔を覗きこんできた。

「なら、一緒に歌いましょう!!」

 だと。獣みたいに息を荒く吐いて、飢えた目をして。
 それから繰り返し毎日歌って、勉強して、体を磨いて。毎日、ご主人様への教育をされた。
 それは俺の髪が腰に届くまで続いた。

 そんなある日、あの女の様子があからさまにおかしくなった。

 少しも落ち着かず、俺の髪を引き抜こうとしているのか、なにかを確認しているのか触る。
 問うても答えようとしない。

 一際大きな歓声が聞こえてすぐ、人が入ってきた。
 女が両脇を二人の男に抱えられて理解した。この女が買われたんだなって。

「エディスさ」

「エディ……エドワード!」

 腕を振り回して逃れてきたその女に引き倒され、胸が詰まった。

「ああ!できれば貴方も連れて行きたかった! エドワード……私の」

 青い目に心臓を掴まれるようで、思い出すと今も息が止まりそうになる。

「私の、息子」

 母だなんて言えない。言ったことすらない。

「あの歌を、舞台に上がる時に歌いなさい。そうしたら、お父様が迎えに来るから。いいわね。絶対にお父様、この国で一番偉い人が貴方を六歳までには迎えに来るから」

「エディスさん……」

 歯を剥き出しにして笑う女の顔が滲んでいく。

「エドワード。エドワード・ティーンス。それが貴方の名前よ。いい? 覚えておくのよ、しっかり」

「うん」

「だけど、これからは私の名前を。エディスを名乗りなさい。いいわね?」

「……うん」

 鼻の奥に煙ぶる、花のような香水。
 人の温度なんて感じなかったのに、離れていくと空気との違いが分かる。

「エドワード。愛してるわ。だから、這いずってでも生きなさい」

 きっと母を想うには十分な時間があった。けれど、俺が母を知るには足りなかった。
 俺は今でも、家族を理解できていない。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...