【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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入隊編

1.love you to the moon and back

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「あ――……さいっあく。夢見わっる……」

 額を押さえながら起き上り、深いため息を吐き出す。
 細かい振動とカタン、カタンという音が少年を現実に引き戻した。
 少し大きい荷台程度の寝台列車の二等寝台はベッドも硬く、寝苦しかったせいで悪夢を見たのだろう。

 ため息をついた少年は、猫のように背を丸めて伸びをする。
 続々と乗客が起きているところを見ると、そろそろ目的の駅に着くところなのだろう。
 毛布代わりにしていた軍服の上着に袖を通して、体と壁の間に挟み込んだトランクを手に取る。
 梯子を下り、連なる人の最後尾に並ぶ。

「ふああぁぁ……」と大きな欠伸が出る。
 宿舎に帰って寝直したいところだが、先に上官への報告を終えなければいけない。
 面倒だな~と後ろ頭を掻きながら<中央軍司令部駅>と駅看板が立ったホームを突っ切っていく。

 広い駅構内を足早に進んでいき、外に出ると強い風が吹いてきた。
「うわっ」と叫んで顔の前に手をもっていく。
 左側だけ長く伸ばした銀の髪が乱れ、周囲の視線が少年に集まった。

「エディス!」

 太い声が聞こえ、目を開ける。
 恰幅のいい壮年の男が片手を胸の前まで挙げて近づいてくるのを見て、エディスと呼ばれた少年は満面の笑みを浮かべた。

「なんだ、大佐じゃん! 迎えに来てくれたのか?」

 たまには気が利くなあと言いながら駆け寄っていき、腕を取る。
 その様子に、周りにいた軍人が仰天して目線を交わし合う。

「すげー……あれ、ミシア大佐だろ」

「あんな小さい子がよく平気で喋れるよな」

 小声で噂をされているエディスは、人のことなど気にも留めずミシアの車か同じ部隊の者を探す。
 だが見つからない。休日だからか駅前にやたらと人が多いのだ。

「すっごいかっこいー……」

「え、でもさあ巡回中だったりするんじゃない? それか、貴族でお迎えを待ってるとか!」

 特に色めき立っている女性が多く、一体なんの騒ぎなんだとエディスは首を傾げる。

「……あれ? てっきりアイザックが来てると思ったんだけど」

「アイツは任務中だ。だからー……おお、いたいた」

 あそこの、とミシアが指差す方を目で辿っていくと、軍の車に凭れ掛けている長躯の男がいた。
 目にかかりそうな長さの白金の髪が風でふわりと揺れる。
 遠くを見つめている横顔だけで絵画になりそうな美貌だ。
 なるほど、先程から騒いでいる女性たちはこの男を見ていたのかとエディスは納得した。

 ――軍属ではなく、舞台俳優みたいな顔とスタイルだな。

 そう思って見ていると、切れ長の淡い緑の目がこちらを捉えてき――ふ、っと皮肉めいた笑みを浮かべた。
 え? と動揺するエディスの方へと彼は体を向けてくる。
 歩き方がまた様になっていて、それだけでエディスの周りにいた女性が悲鳴を上げた。

 纏わりついてきて邪魔だという意見もある軍服の裾を長い脚でさばき、顎は上げて口元には自信が満ちた笑みを。
 嫌味なくらい男として洗練された美しさだ。自然と視線が奪い取られていく。

「お待たせしました、ルイース大佐」

 向こうから近寄ってきて、胸元に手を当てて微笑みかけられる。

「おかえりなさい、軍師准尉。お待ちしていましたよ」

 声を掛けられて初めて、エディスは自分が我も忘れてこの男に見入っていたことに気が付いた。

「あ……えっと。待たせた……の、か?」

 この軍人と会ったのは一度きりだ。
 所属は覚えていても名前は知らなかった。
 なにせ、救援に行った時に出会ったくらいの思い出しかないのだから。

 エディスの長い左髪を手にした男に口づけられると、斜め後ろにいた女性が倒れる。
 見かけ通りキザな奴だなと顔を顰めながら髪を握って奪い返し、ミシアの腕を肘で突く。

「おい、なんなんだよコイツは」

「コイツをお前に紹介してほしいって頼まれてたんだよ。お前の護衛代わりみたいなもんだな」

「はあッ? 護衛って、べつに……」

 防御魔法が得意らしいぞと親指で差された彼は、覚えていますかと期待の目をこちらに向けてくる。

「……えーっと。レリン峡谷の討伐隊にいた奴……だよな?」

「覚えていただいていたようで光栄です」

 名前なんだったかな……。
 冷や汗をかきながら上目がちに見つめていると、後ろからミシアが口出ししてきた。

「デイヴィス准将の隊に所属してる――おい、ニヤついてないでお前が名乗れ」

「はあ? 忘れたのか」

 下唇を撫でてくる手を払い落としたエディスは首を振って、苦笑いをする。

「ごめん。あのとき腕折れてたし、貧血も起こしててさあ」と白状した。
 すると美形は唖然とした顔つきになり、次いで不機嫌そうに口を引き結ぶ。

「レウ・バスターグロスだ」

 途端に腕を組んで尊大な態度になったレウになんなんだよと噛みつきかけた。
 だが、ミシアに肩を叩かれて前につんのめる。
 よろけたところを抱き留めてくれたレウに礼を言おうと顔を上げると、そっぽを向かれた。

「まあ、仲良くするんだな」

 こんなやつと仲良くできるかよ。
 そう言おうとして、上官の前だと思い直したエディスは大きなため息を落とした。
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