19 / 274
軍師准尉編
8.悪役王女は呪いを放って
しおりを挟む
「エディス軍師准尉! 城にご用ですか?」
南部に行く前に父親(仮)の顔を見ていこう。
そう思ったのが悪かったのか、門でレイヴェン中尉が待ち受けていた。
ただ彼が門番の時間に当たっていたことをエディスが把握していなかっただけなのだが。
「……はい。ちょっと、ビスナルク教官に頼まれていまして!」
はははと笑い声が出る。
髪のせいなのか、目のせいなのか、もう顔や全体のせいなのか分からないが、城に近づくと妙に目立つのだ。
早く入りたい、人のいない所に行きたいと思っていると、レイヴェンが隣の軍人に耳打ちする。
「さ、行きましょうか!」
後ろから肩を掴まれて押される。
「一人で大丈夫ですよ!」
まさかついてくるつもりかと焦って断るも、やんわりと流されてしまう。
穏やかなようで押しが強い男だ。
「受付までご一緒します」
後ろに隠れてくれてもいいですよと囁かれ、エディスはそっと目を閉じる。
(悪い人じゃ……ないんだけどな)
疑われていることが明白だと逆にやり辛い。
レイヴェンに聞こえないように細く息を吐いて受付までと条件をつける。
「南部に行くとシュウから聞きました」
大丈夫ですかと訊ねる彼の顔を見上げた。
眉を下げ、黒い目が心配を露わにしてこちらを見てきていて言葉に詰まる。
「大丈夫だ」
風に揺れて、知らない女とよく似た銀髪が視界に映り込む。
「だと……いいんですが」
*** *** *** *** ***
南部は反軍地域でもあるが、王政反対を謳ってもいる。
その原因は恐らく俺の母親だと思われる元王妃にあるらしい。
当時王女だったエディス・ティーンスは魔物と知己であり、彼らの人権を人民に説いた。
その結果、全面反対を喰らっている。
当然だ。いくら人型といえど、人間を家畜扱いする魔物の隣で穏やかに眠れるはずもない。
それに激昂したエディスさんは国土に対して呪いを放った。
『この国は間もなく亡びる』
『死ねば皆、魔物になる』
およそ千年前、この星に一つの巨大な隕石が衝突した。
それによって人類は滅亡するかと思われていたらしいんだが、それどころか人類が使ったことによって減った資源が潤った。
ただ、その代わりに何処からか魔物が出現するようになったのだと。
異星人か異世界か、侵略者の仕業となり全面戦争をしたらしい。
未だに戦い続けているし、なんなら増えているんだけどな。
当時の政府は魔物討伐を主に活動する「黒杯の軍」と神殿で神に祈りを捧げる「聖杯の軍」を作った。
そこで奇妙なのが、「聖杯の軍」だ。
なにを祀っているのかというと、落ちてきた隕石らしい。
星空のように光が籠った黒い、女性の形をした巨大な岩。
飾られている部屋には封印がされているらしくて、神官も入ったことがないから形状は噂なんだけどな。
俺が生まれたこの国は小さな島国で、周囲の国とは国交を断絶している。
それでも俺が生まれる前はまだ南では海の向こうの国と僅かながらも交流があったらしい。
逆上したエディスさんに乞われた父(仮)が禁止にしたと昔の新聞に書かれてあった。
だから俺たち子どもはなにも知らない。
神と崇める隕石の正体はなんなのか、海の向こうにも魔物が住んでいるのか、世界中にどんな魔法が存在しているのか――それとも、存在しないのか。
そもそも魔物とは、魔法とはなになのか。
それを構成する物質の研究を禁止にしたのも今の王だ。曰く「理解している」からだという。
じゃあ、理解している本人に訊いてみようかと。そう思った時もあった。
父親としても為政者としても尊敬できるかどうか悩む男に、これ以上幻滅したくなくて逃げてきた。
南部との軋轢はアンタが作ったんだぞと、胸倉を掴んで怒鳴ることだって出来る。
民を恐怖に陥れる国の母なんて必要とされるはずがない。
隣にいたのに止めなかったのか、その理由を説明しなかったのか。今も寄り添ってはくれない。
惑わせの魔法で操ることができても、人を正気に戻すことはできない。
――次の王になる人は、優しいといい。
捨てられた子どもにも寄り添って、笑いかけてくれるような。
南部に行く前に父親(仮)の顔を見ていこう。
そう思ったのが悪かったのか、門でレイヴェン中尉が待ち受けていた。
ただ彼が門番の時間に当たっていたことをエディスが把握していなかっただけなのだが。
「……はい。ちょっと、ビスナルク教官に頼まれていまして!」
はははと笑い声が出る。
髪のせいなのか、目のせいなのか、もう顔や全体のせいなのか分からないが、城に近づくと妙に目立つのだ。
早く入りたい、人のいない所に行きたいと思っていると、レイヴェンが隣の軍人に耳打ちする。
「さ、行きましょうか!」
後ろから肩を掴まれて押される。
「一人で大丈夫ですよ!」
まさかついてくるつもりかと焦って断るも、やんわりと流されてしまう。
穏やかなようで押しが強い男だ。
「受付までご一緒します」
後ろに隠れてくれてもいいですよと囁かれ、エディスはそっと目を閉じる。
(悪い人じゃ……ないんだけどな)
疑われていることが明白だと逆にやり辛い。
レイヴェンに聞こえないように細く息を吐いて受付までと条件をつける。
「南部に行くとシュウから聞きました」
大丈夫ですかと訊ねる彼の顔を見上げた。
眉を下げ、黒い目が心配を露わにしてこちらを見てきていて言葉に詰まる。
「大丈夫だ」
風に揺れて、知らない女とよく似た銀髪が視界に映り込む。
「だと……いいんですが」
*** *** *** *** ***
南部は反軍地域でもあるが、王政反対を謳ってもいる。
その原因は恐らく俺の母親だと思われる元王妃にあるらしい。
当時王女だったエディス・ティーンスは魔物と知己であり、彼らの人権を人民に説いた。
その結果、全面反対を喰らっている。
当然だ。いくら人型といえど、人間を家畜扱いする魔物の隣で穏やかに眠れるはずもない。
それに激昂したエディスさんは国土に対して呪いを放った。
『この国は間もなく亡びる』
『死ねば皆、魔物になる』
およそ千年前、この星に一つの巨大な隕石が衝突した。
それによって人類は滅亡するかと思われていたらしいんだが、それどころか人類が使ったことによって減った資源が潤った。
ただ、その代わりに何処からか魔物が出現するようになったのだと。
異星人か異世界か、侵略者の仕業となり全面戦争をしたらしい。
未だに戦い続けているし、なんなら増えているんだけどな。
当時の政府は魔物討伐を主に活動する「黒杯の軍」と神殿で神に祈りを捧げる「聖杯の軍」を作った。
そこで奇妙なのが、「聖杯の軍」だ。
なにを祀っているのかというと、落ちてきた隕石らしい。
星空のように光が籠った黒い、女性の形をした巨大な岩。
飾られている部屋には封印がされているらしくて、神官も入ったことがないから形状は噂なんだけどな。
俺が生まれたこの国は小さな島国で、周囲の国とは国交を断絶している。
それでも俺が生まれる前はまだ南では海の向こうの国と僅かながらも交流があったらしい。
逆上したエディスさんに乞われた父(仮)が禁止にしたと昔の新聞に書かれてあった。
だから俺たち子どもはなにも知らない。
神と崇める隕石の正体はなんなのか、海の向こうにも魔物が住んでいるのか、世界中にどんな魔法が存在しているのか――それとも、存在しないのか。
そもそも魔物とは、魔法とはなになのか。
それを構成する物質の研究を禁止にしたのも今の王だ。曰く「理解している」からだという。
じゃあ、理解している本人に訊いてみようかと。そう思った時もあった。
父親としても為政者としても尊敬できるかどうか悩む男に、これ以上幻滅したくなくて逃げてきた。
南部との軋轢はアンタが作ったんだぞと、胸倉を掴んで怒鳴ることだって出来る。
民を恐怖に陥れる国の母なんて必要とされるはずがない。
隣にいたのに止めなかったのか、その理由を説明しなかったのか。今も寄り添ってはくれない。
惑わせの魔法で操ることができても、人を正気に戻すことはできない。
――次の王になる人は、優しいといい。
捨てられた子どもにも寄り添って、笑いかけてくれるような。
23
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる