【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
20 / 274
南部編-前半-

1.オッサン品評会

しおりを挟む
「どっこが楽しいんだよ!    オッサン共がこの子が可愛い、いやこっちが好みとか喋ってるだけじゃねーか、気持ち悪ィ」

 宿泊所として宛がわれたホテルまで怨念じみた文句を言いながら、資料が入った鞄を胸に抱えて歩く。

「実際に品評会が開かれるまでは地獄だな、こりゃ」

 フードを被った自分が入ってきた時の視線の集中具合。こちらの顔ばかりを気にして、作品について全く語ろうとしない奴ら。

「今日来てたのは中央と北の奴らだったッスよねえ」

「ああ……真面目で堅苦しい東や、トリエランディア大将がいる西にあんな奴らいねえだろ」

 腐ってんのがどこかって分かりやすい、そう呟くと隣を歩くジェネアスがぷっと吹き出す。戦闘科一人だけではなにかと不便なこともあるだろうと、ミシアが軍兵器開発部に協力を要請してくれて来たのが彼だったのだ。エディスとしても気心が知れた友人がついて来てくれるのは心強い。

「南の人は最初から最後まで寝てなかったッスかァ?」

「来た時からすーごいダルそうにしてたよな」

 南は軍人が活きていける環境ではない。軍の上から下まで全て反軍の手が入ってしまっているのは明白で、隠そうとすらしていない。
 どうすれば、この状況で自分が動けるのか。果たして自分は今回の任務をこなすことができるのか。悩む自分をジェネアスが案じて見ていることに気付き、苦笑いで誤魔化す。

「ちょっと、危ないじゃない!」

 しかし、曲がり角の先から飛んできた少女の高い悲鳴のようなものに緊迫感が走る。

「真夜中ッスけど……」

 変質者かと耳打ちしてくるジェネアスに頷き、エディスはフードを深く被り直す。手でジェネアスを制止ながら忍び歩いていく。

「どうせまたアイツの差し金でしょ? 悪いけどもう作品は提出してあるから奪えないわよ」

 ツンと顎を上向きにし、腰に手をやった少女が奥に立っていた。肩より少し長い茶髪に大きなオレンジ色の目。遠目から見ても目鼻立ちのはっきりとした美少女だ。

「リスティー・フレイアムだな」

 顔写真とプロフィールの載った書類。その中でも一際よく目立ち、顔だけの審査の中でもよく話題に出てきていた生徒だった。

「だが、本人が授賞式に出られなければ意味がないだろう!」

「はあ? アンタ、バッカじゃないの」

 男がズボンのポケットからナイフを取り出して構えるのを見て尚、リスティーは息を短く吐き出す。

「勝負するなら正々堂々とやったら?」

 髪を後ろに振り払った後、勝気な微笑を浮かべる。濃紺のパンプスを履いた足で地面を二度蹴った彼女に、男が迫った。
 雄牛か鬼か、筋骨隆々とした男に相対しているというのに、全く怯まない。オレンジの目を怒らせて、しなやかな足を振り上げる。鈍い衝突音にジェネアスが悲鳴を上げて顔を隠した。

 顎が砕けたのではないかと思えた一撃に、男が泡を噴いて膝から崩れ落ちる。少女が短い前髪を掴んでゆっくり地面に下ろすのを見て、エディスは息を吐き出す。

「よ、よかったッスぅ~~っ」

 どうなるかと思ったとしゃがみ込んだジェネアスの背を軽くぽんと叩く。あれは相当戦い慣れている。
 任務の都合上、私服で出歩いていたエディスは丸腰だ。とはいえ魔法も格闘技も得意としているので相手にとっては丸腰どころではないのだが。

「なんだアレ……」

 三階建ての木造住宅の屋上になにかいる。そう最初に気付いたのはエディスだった。
 飛び降りてきた毛むくじゃらの化け物。それは持っていた大きな肉切り包丁でリスティーに切りかかる。エディスと腕を引かれ、「アレはハガイの改造魔獣ッス!」とジェネアスが言う。

「ハガイ?」

「さっきの男ッス。軍兵器開発部なんスけど、危険な魔獣の研究ばっかしてるっていう」

 なんでそんな奴を在籍させてんだ。口から出かけた言葉をしまい込んで、エディスは体ごと彼女に向けた。

 魔獣の攻撃を全て寸でのところで避けているリスティーが、敵の脳天に肘打ちを食らわせる。だが、奇声を放った魔獣は太い腕を振り回してリスティーを横殴りにした。彼女が肩に担いでいた長い袋が地面に落ち、高い音を立てる。

 すぐさまエディスは駆け出した。地面に叩きつけられそうになる彼女を受け止め、その場を離れる。ぐったりと弛緩したリスティーをジェネアスに受け渡すと、痛みに呻く声に不安になったのか焦った高い声に縋られた。

「すぐ片づけるから待ってろ」

 そう言ってエディスは足を強く踏み下ろす。

【護り神 此処に!】

 二人を魔法で作ったシールドで囲んでから、行くかと肩を手で押さえて腕を回した。その足を掴まれ、エディスはん? と下を見る。

「あの、袋……取られないで」

 大事なの、と苦悶に顔を歪めながらもリスティーがそう言い、エディスは魔獣がいる方に顔を向けた。

「分かったから、大人しくしてろ」

 顔の前に手をやって短く唱えると魔獣に雷の柵が落ちる。幾重にも重ねた雷撃に痺れた魔獣を他所に、エディスは傍に落ちている袋を手に取り上げた。
 すると、それはエディスの手の中で暴れ始めた。細長く硬い感触にすぐ武器だと理解したエディスの手の中で、まるで生き物かのように跳ね続ける。不気味に感じ始めたところで手の内から抜け出て、袋から一対の剣が姿を現した。

 慌てて地面に触れる前に掴むと、今度はしっくりと手の中に納まる。まじまじと見下ろした剣は、なにかが眠っているような感覚に陥りそうになった。額から伝い落ちた汗が顎から落ちる。

 最初は、白い焔が上がったように見えた。

『随分お綺麗な顔してんなァ、お前』

 体にまとわりついてくる煙が次第に人を模っていく。薄紫の美貌が顕在化し、エディスは瞠目する。
 ぬるりと体の上を移動し、背から薄煙が入り込んできた。内に籠ったそれに、体中の魔力が揺さぶられ、エディスは吐き気を押さえつける羽目になる。
 体の内側を這いずり回る感覚に怖気が走り身じろぐが、それが爪先まで届くと途端に身動きが取れなくなった。

『はァ……久しぶりの魔力、美味ぁ』

 髪を掻き撫でるのは自分の手だ。意識の範疇外で動き始めた体に動揺し、「なんだこれ!?」と叫ぶ。

「おいおいおいッ、冗談だろ!?」

 雄叫びを上げ、凶悪な爪が生えた手を振りかざして向かってくる魔獣。

   腰に一本差した後、急激に体が引きずられていく。魔獣に一文字に突っ込もうとするので、さしものエディスも顔を引き攣らせた。鞘を引き抜くと、グンとさらに前に加速する。歯を食いしばって、魔獣の首に剣を食いこませた。
 到底一太刀で切り捨てられそうにはない太い首だというのに、剣はいとも容易く肉を断ち切っていく。鮮やかに首を刎ね飛ばした剣の先を地面につけ、エディスは呆然と呟いた。

「うそだろ……」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...