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別離編
4.光の四魔人
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「新しい制服ぅ?」
武器屋に行った後でアーマーをレイヴェンの所に送り届けたエディスが軍に戻ると、今度は自室の前でミシアとレウが待っていた。
「アンタ置いていくなよな」と苦情を口にするレウが持っていた白い化粧箱を受け取ったエディスは、尉官になると変わるという規則はなかったはずだよな? と首を傾げた。
「広告塔になる奴は他と違うデザインを着る規定になってんだよ。な、バスターグロス」
「まあ、俺の時もそうでしたね」
はあ……と曖昧に頷いて受け取ったエディスは、サイズを確認してくると部屋の中に入る。
臙脂のタンクトップと黒い上下、それに冬用と見受けられる白いファーのついたコート。普段身に着けている戦闘服と大差がなく、そこまで拒否感なく着られた。だが、専用というだけあってエディスの体格に合わせて作ってあるので、ほんの少しだけだが体にしっくりくるような気がする。
「サイズ、これで合ってると思う」
「戦闘服はシンプルで良いだろ」
戦闘服は? と首を傾げたエディスの腕にもう一箱のせられた。これが本命なのだろう、先程よりもずっしりと重い箱にエディスの口の端が引き攣る。
「一人で着替えられないようなら手伝いますけど?」
レウの皮肉めいた言い方に、つい「こんくらい一人で着れる!」と言い返して部屋に入ってから、しまったと床に手を突く。絶対に面倒な服だと思いながら開くと、案の定貴族が着るようなたっぷりと布地を使った服がキッチリと収まっていた。
仕方がなく黒いズボンに臙脂のシャツ、ネクタイとアクセサリー……この時点で大分面倒な気持ちになっていたが、さらに柄物の上衣と紺の上着を重ねる。
「……重い」
上着の肩になにやら用途の分からない紐がついているし、背面にはリボンのようなドレープを描くベルトまでついている。やたらと飾りがついているからこんな重たくなるんだと苛立ちながらも硬い革靴に足を突っ込む。
見た瞬間に抱いた感覚は拭いきれず、エディスは自分ではない自分になったようで――胸の下を撫で擦る。
「おい、着方分かるか」
遅いぞと言って無遠慮に開けてきたレウと視線が合う。だが、彼は無表情で上から下まで見つめると口の片端を吊り上げただけで、腕を掴んで引っ張り出されてしまう。
ミシアの前に引き出されると、似合ってるぞと歯を見せた笑みを向けられた。
レウもこんな風に褒めてくれりゃあいいのにと思いながら、小さく頷く。目立つデザインだと自分が嫌がることを感じ取ってくれたのかという感動を返してほしかった。
「……あ! そうだミシア、褒美!」
顔を勢いよく上げたエディスに、ミシアはたじろいで足を一歩下げる。
「褒美? なんのだ?」
そんなのやる約束したかと頭を掻くミシアに近づき、「魔法書買ってくれるとか言ってたろうが」と下から大きな目で見つめた。
「あー……言ったような、言わなかったような? なんだ、本当に欲しいのがあるのか」
高くないのなら買ってやるよと言われ、エディスは本当かと念押しをする。
「十六魔人の魔法書を見せてほしい! ミシアの家にあるんだろっ?」
だが、そう言った途端に頭を片手で鷲掴みにされた。痛い痛いと悲鳴を上げるも、「そんなこと誰から聞いたんだ、この不良少年」とこめかみを両側から拳で挟んでぐりぐりと回される。
ミシアはレウを睨むと、エディスを室内に引きずり込んだ。会話を聞かれない為か、部屋の隅の方まで連れてきたミシアにもう一度「誰だ」と訊ねられた。
「南で不気味な女から聞いたんだよ!」
「はあぁ~~~~? だ、れ、だ!」
怖気が走るような、気味の悪い女の名前を口にするとようやく手が離された。それから顔を手で包み込まれて、「大丈夫か」と覗き込まれる。
「なにもされなかったか⁉︎」
鬼気迫る様子にエディスは呆然としながらも「うん……」と答えた。脱力するミシアに抱きしめられ、エディスは彼の背中を撫でさする。
「……分かった。必要な時がきたらお前に渡す」
必要な時? と訊くと、ミシアはこんなに早く辿り着くと思っていなかったと告げた。
「十六魔人、全員を受け入れられる器がお前に整ったと俺が感じた時にだ。お前はまだ子どもなんだからな」
あれは膨大な力だから無理に入れると壊れるのだと説明を受け、エディスは目を閉じて(あのクソ女)と詰った。
*** *** *** *** ***
分かった、待つよ。
そうミシアには答えたが、実際どのような物か見てみない限りは分からない。
また街に出たエディスは先ほどとは別の店で入手した花束を手に東南の方向に歩いていく。東に続いているユゥラ川の畔にある、薄紫色の花が咲き乱れる丘まで乗り合いバスを使って行き、そこからは歩きで向かう。
首都から近いとは聞いたことがあったが、実際自分の足で歩いたのはこれが初めてだった。感傷に耽るような殊勝な性質ではなかったし、来る理由もなかったからだ。
老朽化し、昔の面影を僅かばかり残したここは一種のホラースポットとなっているらしい。白髪の少年の幽霊が追いかけてくる、立ち入ると悪魔に呪われる、殺されたメイドがかつての主を求めて彷徨い歩く――など、数々の逸話があると聞いた。
金具が外れかけてキィキィ鳴っている門を押し開いて中に入っていき、草むらのようになってしまった庭を突っ切る。かつては純白の、美しい屋敷だった。今もその影を残して佇んでいる廃墟の中を進んでいく。
目指しているのは、あの日と同じで書庫だ。
十六魔人の呪文が書かれた魔法書があるとすれば、あそこしかありえない。もしかしたら当主の部屋の可能性も合ったが、エディスには昔見た覚えがあるのだ。
重い扉を押して入った書庫の、向かって左側。奥まった、窓の光が当たらない壁際に――「やっぱり」あった。
豪奢な額縁に入れて飾られている白い装丁の本。
壊れていない椅子を持ってきて、それに上って額縁を取る。保存の魔法でも掛けられているのか、他とは様子が違う。
輝きさえ発している美しい魔法書を手にしたエディスは、手近な長テーブルの埃を手で払って置いた。
「……光の魔法」
紋章とともに記されていたのは、四人の強大な光魔法を得意とした魔人を喚び出す詠唱呪文。かつて、権威を振るっていた貴族の子が闇の属性にしか適合しないのは――確かに悪魔に近しい行為だ。
紋章を宙でなぞり、魔法書を解読していく。
【聖天のラグリドリス
曇天のドゥーラグオラス
涙天のシューラアッガーシャン
雷天のイシュトギルス
今 この紋章を描きし者にその力を渡し給え
我 紋章術師エディスの名の下へ】
唱えると、魔法書から白い発光体が抜け出してくる。それは四人の男女へと姿を変え、こちらを見下ろした。
(――来い)
従属しろと退かず、手を伸ばす。すると、白い光に成った彼らはエディスの元へやって来て胸元から入ってくる。自分の魔力量が格段に上がったのを感じる。これを後八体は、確かに今の体では難しいというのも理解ができた。
「よろしくな、お前たち」
胸を撫でると、体の中で魔人がざわめき、踊る。それがくすぐったくてエディスは笑った。
武器屋に行った後でアーマーをレイヴェンの所に送り届けたエディスが軍に戻ると、今度は自室の前でミシアとレウが待っていた。
「アンタ置いていくなよな」と苦情を口にするレウが持っていた白い化粧箱を受け取ったエディスは、尉官になると変わるという規則はなかったはずだよな? と首を傾げた。
「広告塔になる奴は他と違うデザインを着る規定になってんだよ。な、バスターグロス」
「まあ、俺の時もそうでしたね」
はあ……と曖昧に頷いて受け取ったエディスは、サイズを確認してくると部屋の中に入る。
臙脂のタンクトップと黒い上下、それに冬用と見受けられる白いファーのついたコート。普段身に着けている戦闘服と大差がなく、そこまで拒否感なく着られた。だが、専用というだけあってエディスの体格に合わせて作ってあるので、ほんの少しだけだが体にしっくりくるような気がする。
「サイズ、これで合ってると思う」
「戦闘服はシンプルで良いだろ」
戦闘服は? と首を傾げたエディスの腕にもう一箱のせられた。これが本命なのだろう、先程よりもずっしりと重い箱にエディスの口の端が引き攣る。
「一人で着替えられないようなら手伝いますけど?」
レウの皮肉めいた言い方に、つい「こんくらい一人で着れる!」と言い返して部屋に入ってから、しまったと床に手を突く。絶対に面倒な服だと思いながら開くと、案の定貴族が着るようなたっぷりと布地を使った服がキッチリと収まっていた。
仕方がなく黒いズボンに臙脂のシャツ、ネクタイとアクセサリー……この時点で大分面倒な気持ちになっていたが、さらに柄物の上衣と紺の上着を重ねる。
「……重い」
上着の肩になにやら用途の分からない紐がついているし、背面にはリボンのようなドレープを描くベルトまでついている。やたらと飾りがついているからこんな重たくなるんだと苛立ちながらも硬い革靴に足を突っ込む。
見た瞬間に抱いた感覚は拭いきれず、エディスは自分ではない自分になったようで――胸の下を撫で擦る。
「おい、着方分かるか」
遅いぞと言って無遠慮に開けてきたレウと視線が合う。だが、彼は無表情で上から下まで見つめると口の片端を吊り上げただけで、腕を掴んで引っ張り出されてしまう。
ミシアの前に引き出されると、似合ってるぞと歯を見せた笑みを向けられた。
レウもこんな風に褒めてくれりゃあいいのにと思いながら、小さく頷く。目立つデザインだと自分が嫌がることを感じ取ってくれたのかという感動を返してほしかった。
「……あ! そうだミシア、褒美!」
顔を勢いよく上げたエディスに、ミシアはたじろいで足を一歩下げる。
「褒美? なんのだ?」
そんなのやる約束したかと頭を掻くミシアに近づき、「魔法書買ってくれるとか言ってたろうが」と下から大きな目で見つめた。
「あー……言ったような、言わなかったような? なんだ、本当に欲しいのがあるのか」
高くないのなら買ってやるよと言われ、エディスは本当かと念押しをする。
「十六魔人の魔法書を見せてほしい! ミシアの家にあるんだろっ?」
だが、そう言った途端に頭を片手で鷲掴みにされた。痛い痛いと悲鳴を上げるも、「そんなこと誰から聞いたんだ、この不良少年」とこめかみを両側から拳で挟んでぐりぐりと回される。
ミシアはレウを睨むと、エディスを室内に引きずり込んだ。会話を聞かれない為か、部屋の隅の方まで連れてきたミシアにもう一度「誰だ」と訊ねられた。
「南で不気味な女から聞いたんだよ!」
「はあぁ~~~~? だ、れ、だ!」
怖気が走るような、気味の悪い女の名前を口にするとようやく手が離された。それから顔を手で包み込まれて、「大丈夫か」と覗き込まれる。
「なにもされなかったか⁉︎」
鬼気迫る様子にエディスは呆然としながらも「うん……」と答えた。脱力するミシアに抱きしめられ、エディスは彼の背中を撫でさする。
「……分かった。必要な時がきたらお前に渡す」
必要な時? と訊くと、ミシアはこんなに早く辿り着くと思っていなかったと告げた。
「十六魔人、全員を受け入れられる器がお前に整ったと俺が感じた時にだ。お前はまだ子どもなんだからな」
あれは膨大な力だから無理に入れると壊れるのだと説明を受け、エディスは目を閉じて(あのクソ女)と詰った。
*** *** *** *** ***
分かった、待つよ。
そうミシアには答えたが、実際どのような物か見てみない限りは分からない。
また街に出たエディスは先ほどとは別の店で入手した花束を手に東南の方向に歩いていく。東に続いているユゥラ川の畔にある、薄紫色の花が咲き乱れる丘まで乗り合いバスを使って行き、そこからは歩きで向かう。
首都から近いとは聞いたことがあったが、実際自分の足で歩いたのはこれが初めてだった。感傷に耽るような殊勝な性質ではなかったし、来る理由もなかったからだ。
老朽化し、昔の面影を僅かばかり残したここは一種のホラースポットとなっているらしい。白髪の少年の幽霊が追いかけてくる、立ち入ると悪魔に呪われる、殺されたメイドがかつての主を求めて彷徨い歩く――など、数々の逸話があると聞いた。
金具が外れかけてキィキィ鳴っている門を押し開いて中に入っていき、草むらのようになってしまった庭を突っ切る。かつては純白の、美しい屋敷だった。今もその影を残して佇んでいる廃墟の中を進んでいく。
目指しているのは、あの日と同じで書庫だ。
十六魔人の呪文が書かれた魔法書があるとすれば、あそこしかありえない。もしかしたら当主の部屋の可能性も合ったが、エディスには昔見た覚えがあるのだ。
重い扉を押して入った書庫の、向かって左側。奥まった、窓の光が当たらない壁際に――「やっぱり」あった。
豪奢な額縁に入れて飾られている白い装丁の本。
壊れていない椅子を持ってきて、それに上って額縁を取る。保存の魔法でも掛けられているのか、他とは様子が違う。
輝きさえ発している美しい魔法書を手にしたエディスは、手近な長テーブルの埃を手で払って置いた。
「……光の魔法」
紋章とともに記されていたのは、四人の強大な光魔法を得意とした魔人を喚び出す詠唱呪文。かつて、権威を振るっていた貴族の子が闇の属性にしか適合しないのは――確かに悪魔に近しい行為だ。
紋章を宙でなぞり、魔法書を解読していく。
【聖天のラグリドリス
曇天のドゥーラグオラス
涙天のシューラアッガーシャン
雷天のイシュトギルス
今 この紋章を描きし者にその力を渡し給え
我 紋章術師エディスの名の下へ】
唱えると、魔法書から白い発光体が抜け出してくる。それは四人の男女へと姿を変え、こちらを見下ろした。
(――来い)
従属しろと退かず、手を伸ばす。すると、白い光に成った彼らはエディスの元へやって来て胸元から入ってくる。自分の魔力量が格段に上がったのを感じる。これを後八体は、確かに今の体では難しいというのも理解ができた。
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