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御曹司編
3.姫様の幼馴染
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なんにでも上には上がいるものだ。そうエディスはしみじみと思った。
「知っているとは思いますが、一応名乗ってあげましょう。シトラス・ブラッドです。少しの間だけですから、よろしくしてやってもいいぞ」
「あたしはシルク・ティーンス! よろしくな!!」
格好をつけているのか、照れているのか、どっちなのか分からない微妙な顔をしてシルクに手を突き出したシトラスは固まった。エディスから見て石になってしまったのではないかと思う程に。
「ほ、ほほぉーう? それは、また。大それた苗字ですね」
「そうか? 短くて言いやすいぞ!」
「言いやすいとか、言いにくいという問題ではないのだがね」
「ま、とにかくよろしくなっ」
シルクの勢いに押されているシトラスは助けを求めるようにエディスを見た。だが、エディスは首を傾げ、「本物だぞ」と呆れながら返すだけだった。
「君は世を知らなさすぎるようだな。こんなにガサツな話し方をする女が我が国の姫様なはずがあるものか」
「だから、ソイツは本物だって」
「あのねえ、君。ふざけるのも」
「あーっ、うっせえなあ!」
エディスは読んでいた資料をミシアの机の上に置いて「お前ら仕事しろ!!」と叱りつける。
「シトラス、お前当然のように俺んとこにいるけどよ、配属ここじゃねえだろ!」
さっさと行かないと怒られるぞと言われたシトラスは眉を寄せて口をひん曲げた。不服そうな顔つきに、「志願してきたんだろうが」と紙を丸めて肩を叩く。
「あのなあ、」
「行けばいいんでしょう、行けば!」
もうあなたなんて知りませんからと言って、開いた扉を乱暴に閉める。シルクにいいのかと訊かれるが、「知らん」と返して立ち上がる。
「それより訓練だ。お前も早くここに慣れろよ」
聞けば、シルクは魔法は不得意だそうだ。誰しも魔力は大小はあれど持っているが、扱うとなると別だ。自身の体内外にある魔力を操って形に成すことは特定の者にしかできない。
エディスが得意としている紋章魔法は、紋章通りに魔力を練り込めば発動を可能とした。それで過去に魔法の構成要素も理解できずに行う者が増え、暴発や事故も必然的に多くなった為に一時は禁じられていた。今も禁忌とされている魔法も多く存在している。
一人を除いて、エディスに宛がわれた部下は魔法が使えない。
それはエディス自身が強力な魔法を扱うからということもあるだろう。中には魔法を使える者だけで構成されている部隊もあるから、いずれはそういう者たちも率いてみたいと思う。
「なあ、南で使われてる身体強化の魔法って知ってるか?」
「いいや? 知らないぞ」
教えてくれと飛びついてくるシルクは体術や剣術は得意だ。実際、何度か打ち合ってみたが、なかなかの腕前だった。事務科にずっといてくれと願ってはいるが、なにかあった時に身を護る術はなんでも教えておきたい。
「きっと相性がいい」
「それは私とエディスのことか!?」
「お前と魔法のこと。俺、魔法馬鹿だから」
親指で自分を差し、歯を見せた笑いを浮かべる。治安維持科ではなく軍兵器開発部で入隊していても良かったくらいには。
「えーっと……じゃ、じゃあ今一番気になってる魔法は?」
なんとしてでも話したいのか、興味もないだろうに質問をしてきたことに面食らったエディスは薄く口を開いた。顔を前に向けて、それからもう一度彼女を見る。
「ないのか?」
その挙動を不審に思ったシルクが詰め寄ってくるが、額を押し返す。
「欲しい魔法書があるんだけど」
「買ってきてもらおうか」
なんて魔法書だと言ってくるシルクに、本屋にあるような物じゃないと断る。
とはいえ、シルクも紛れもなく王族だ。十六の内、他の魔人の魔法がどのような効果か知っているかもしれないと訊いてみると、知らないなと首を振られる。
「エドに訊けば分かるかもなー……」
男の名前に誰だと訊くと、幼馴染だと返ってきた。そういえばシルベリアがエンパイア公子と言っていたから、エンパイア公爵家には世継ぎがいるのだろう。シルクの幼馴染ということは同年代か。
「今度会ったら訊いてみる」
「うん、頼む。それと、トリドット家について知らないか?」
他の三家は由縁があったから知っていたが、トリドット家だけはほとんど話を聞いたことがない。シルベリアにも訊いてみたが、エディスと同年代の跡継ぎがいて、彼が生まれた頃から突然排他的になったらしいという情報しか得られなかった。
「……トリドット家かあ」
シルクも声のトーンが落ちたので、これは知らないなとエディスは諦めにも近い境地で息を吐いた。だが、「それもエドに訊いてみるな!」と明るい調子で言われたので彼女の顔を見る。
「ギジア――あっ、トリドット家の一人っ子なんだけど。ソイツと友だちだからさ」
手紙でやり取りしてると言われ、エディスは助かると片手を上げて軽く振った。
「エドってどんな奴なんだ。仲良いのか?」
「とりあえず、名前はエドワードだよ」
仲はいいよと笑うシルクに、エディスは(もしかして婚約者だったりしないか?)と疑問を浮かべる。
一国の王女と国一番の大貴族の一人息子ならありえない話でもない。
どんな奴かは知らないが、助けを求めた幼いシルベリアを助けたという。なにより、こんなに真っ直ぐに育ったシルクと仲が良いのだから悪い奴ではないはずだ。
「いつか、エディスにも会ってほしいな!」
「え……堅苦しい奴だったりしないか? 俺、貴族的な奴と気ぃ合わないんだけど」
大丈夫だよと笑うシルクに、政治を担ってる一族なんだろうと胡乱気な目を向ける。けれどシルクはよく笑って「三人で仲良くしたいな」とエディスの腕を引っ張った。
「知っているとは思いますが、一応名乗ってあげましょう。シトラス・ブラッドです。少しの間だけですから、よろしくしてやってもいいぞ」
「あたしはシルク・ティーンス! よろしくな!!」
格好をつけているのか、照れているのか、どっちなのか分からない微妙な顔をしてシルクに手を突き出したシトラスは固まった。エディスから見て石になってしまったのではないかと思う程に。
「ほ、ほほぉーう? それは、また。大それた苗字ですね」
「そうか? 短くて言いやすいぞ!」
「言いやすいとか、言いにくいという問題ではないのだがね」
「ま、とにかくよろしくなっ」
シルクの勢いに押されているシトラスは助けを求めるようにエディスを見た。だが、エディスは首を傾げ、「本物だぞ」と呆れながら返すだけだった。
「君は世を知らなさすぎるようだな。こんなにガサツな話し方をする女が我が国の姫様なはずがあるものか」
「だから、ソイツは本物だって」
「あのねえ、君。ふざけるのも」
「あーっ、うっせえなあ!」
エディスは読んでいた資料をミシアの机の上に置いて「お前ら仕事しろ!!」と叱りつける。
「シトラス、お前当然のように俺んとこにいるけどよ、配属ここじゃねえだろ!」
さっさと行かないと怒られるぞと言われたシトラスは眉を寄せて口をひん曲げた。不服そうな顔つきに、「志願してきたんだろうが」と紙を丸めて肩を叩く。
「あのなあ、」
「行けばいいんでしょう、行けば!」
もうあなたなんて知りませんからと言って、開いた扉を乱暴に閉める。シルクにいいのかと訊かれるが、「知らん」と返して立ち上がる。
「それより訓練だ。お前も早くここに慣れろよ」
聞けば、シルクは魔法は不得意だそうだ。誰しも魔力は大小はあれど持っているが、扱うとなると別だ。自身の体内外にある魔力を操って形に成すことは特定の者にしかできない。
エディスが得意としている紋章魔法は、紋章通りに魔力を練り込めば発動を可能とした。それで過去に魔法の構成要素も理解できずに行う者が増え、暴発や事故も必然的に多くなった為に一時は禁じられていた。今も禁忌とされている魔法も多く存在している。
一人を除いて、エディスに宛がわれた部下は魔法が使えない。
それはエディス自身が強力な魔法を扱うからということもあるだろう。中には魔法を使える者だけで構成されている部隊もあるから、いずれはそういう者たちも率いてみたいと思う。
「なあ、南で使われてる身体強化の魔法って知ってるか?」
「いいや? 知らないぞ」
教えてくれと飛びついてくるシルクは体術や剣術は得意だ。実際、何度か打ち合ってみたが、なかなかの腕前だった。事務科にずっといてくれと願ってはいるが、なにかあった時に身を護る術はなんでも教えておきたい。
「きっと相性がいい」
「それは私とエディスのことか!?」
「お前と魔法のこと。俺、魔法馬鹿だから」
親指で自分を差し、歯を見せた笑いを浮かべる。治安維持科ではなく軍兵器開発部で入隊していても良かったくらいには。
「えーっと……じゃ、じゃあ今一番気になってる魔法は?」
なんとしてでも話したいのか、興味もないだろうに質問をしてきたことに面食らったエディスは薄く口を開いた。顔を前に向けて、それからもう一度彼女を見る。
「ないのか?」
その挙動を不審に思ったシルクが詰め寄ってくるが、額を押し返す。
「欲しい魔法書があるんだけど」
「買ってきてもらおうか」
なんて魔法書だと言ってくるシルクに、本屋にあるような物じゃないと断る。
とはいえ、シルクも紛れもなく王族だ。十六の内、他の魔人の魔法がどのような効果か知っているかもしれないと訊いてみると、知らないなと首を振られる。
「エドに訊けば分かるかもなー……」
男の名前に誰だと訊くと、幼馴染だと返ってきた。そういえばシルベリアがエンパイア公子と言っていたから、エンパイア公爵家には世継ぎがいるのだろう。シルクの幼馴染ということは同年代か。
「今度会ったら訊いてみる」
「うん、頼む。それと、トリドット家について知らないか?」
他の三家は由縁があったから知っていたが、トリドット家だけはほとんど話を聞いたことがない。シルベリアにも訊いてみたが、エディスと同年代の跡継ぎがいて、彼が生まれた頃から突然排他的になったらしいという情報しか得られなかった。
「……トリドット家かあ」
シルクも声のトーンが落ちたので、これは知らないなとエディスは諦めにも近い境地で息を吐いた。だが、「それもエドに訊いてみるな!」と明るい調子で言われたので彼女の顔を見る。
「ギジア――あっ、トリドット家の一人っ子なんだけど。ソイツと友だちだからさ」
手紙でやり取りしてると言われ、エディスは助かると片手を上げて軽く振った。
「エドってどんな奴なんだ。仲良いのか?」
「とりあえず、名前はエドワードだよ」
仲はいいよと笑うシルクに、エディスは(もしかして婚約者だったりしないか?)と疑問を浮かべる。
一国の王女と国一番の大貴族の一人息子ならありえない話でもない。
どんな奴かは知らないが、助けを求めた幼いシルベリアを助けたという。なにより、こんなに真っ直ぐに育ったシルクと仲が良いのだから悪い奴ではないはずだ。
「いつか、エディスにも会ってほしいな!」
「え……堅苦しい奴だったりしないか? 俺、貴族的な奴と気ぃ合わないんだけど」
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