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御曹司編
9.天の四魔人
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「おい、起きろ」
翌朝、エディスたちはミシアに揺り起こされた。
エディスとシトラスは目を擦りながら洗面所へと向かっていく。ふああと大きな欠伸をして腹を掻いたエディスは、歯ブラシに歯磨き粉を塗る。
「シトラスー」
「はい?」
「お前、朝食担当な」
「はい!?」
しゃこしゃこと歯ブラシで磨いていた手を止め、シトラスはエディスを見た。
「俺が洗濯物干すから、朝食頼むな」
シトラスが呆然としている間に口をすすいだエディスはタオルで拭う。
「食材はなに使ってもいいって言ってたから」
じゃあなと言い去ったエディスに、シトラスは唖然と口を開いたまま突っ立つが、「料理なんてしたことないですけど……」呟いた言葉を聞いてくれる人は誰一人としていなかった。
*** *** *** *** ***
「おー、美味そう」
掃除をしてから下りてきたミシアがそう言って目を光らせる。テーブルに並んだ料理はどれも美味しそうに見えた。
「……量多くないか?」
だが、四人分にしては量が多かった。特大の大皿にこんもりとのったスクランブルエッグはとろとろと甘そうで、十枚のパンもこんがりと焼かれている。初めて作った料理としては、かなり上出来ではないかとシトラスは思っていた。
「いけるいける」
簡単そうに言うミシアに、小食のエディスは本当か? と疑いながら席につく。
「どうぞ。初めて作ったにしては上手くいったと思ってるんですよ!」
シトラスに促されたエディスたちは、スクランブルエッグを各自配られた皿に盛り、食べ始めた。
「うん、美味い」
エディスがそう言うと、シトラスは安心したような顔になる。
地を這う者はスクランブルエッグをスプーンですくい、口の中に入れた。もぐもぐと口を動かしていると、眉が自然と寄っていく。
シトラスはそれに気づかず、地を這う者の隣に座った。それから自分の皿にも取り分け、まずはパンに齧りつく。ザクザクと香ばしく焼かれたパンは、美味しい。バターを表面に塗ってから焼いたので、甘みもある。
そして、スクランブルエッグを口に入れた瞬間、「うっ」ザリザリとした固いものが舌に当たってきた。これは一体なんなのか、シトラスには想像もつかなかった。まさかと思い、お皿を持ち上げてしげしげと見る。
「ただの卵の殻だぞ」
エディスが皿の欠片じゃねえから飲み込んでも大丈夫だと教えると、硬直していたシトラスは口を機械的に動かし、飲み込んだ。
「ぜんっぜん美味しくないじゃないですか……口の中が痛いだけです」
「多少入ってるくらいなら平気だ。これも悪くない」
多少どころではなく卵の殻が大量に入っているスクランブルエッグを、一人だけ顔色一つ変えないで食べているエディスをまじまじと見つめる。
「……痛くないんですか?」
「こんくらい全然だよ。石よかマシ」
ミシアは皿の端に卵の殻を避けて後は美味しく食べていたし、地を這う者は文句は言わずパンを食べている。
「気にすることじゃねえだろ、こんなん」
素っ気なく言われたシトラスは、頷いて止まっていた手を動かした。
*** *** *** *** ***
「ごちそうさま!」
大皿いっぱいのスクランブルエッグは瞬く間になくなった。殻を除けば美味しかったのだ。
「じゃ、片づけるわ」
そう言ってエディスがおぼんを持ってきて、のせていく。シトラスがそれを手伝おうとするが、やりたいからと笑って持っていく。その様子を見ていたミシアが後からキッチンに入っていった。
「お前が気にしてるんだろ。あんな無茶して食って」
「そんなことねえよ」
「普段豆粒くらいしか食わねえくせに」
「うるせえ」
ガシガシと頭を撫でられたエディスは、乱暴にそう返した。
「友達になれるといいな」
「……うるせえなあ」
もうほっとけよ! と叫ぶエディスを、ミシアはニヤニヤした笑顔で見守る。背中にその視線を感じながら、エディスは皿を洗っていく。清潔な布で拭って棚に仕舞うと、腰に両手を当ててミシアを振り返った。
「ほら、終わったぞ!」
「ん、えらいえらい」
優しく微笑まれ、昨日のことを思いだしたエディスは目を逸らす。
「ご褒美やらねえとな」
手を引かれ、なにか重量のある物を握らされたエディスは顔を上げる。柔らかな笑みを浮かべているミシアと、手の中の物を見返して「……これ」と裏返った声が出た。
「いいのか、大事な物なんじゃ。アンタ、婿養子なんだろ」
「魔法書でも買ってやろうか、って言っただろ。まあこれ買ってないけどな」
古びた表紙の魔法書を開く。
ミシアがあんなに亡くなった奥さんのことを大事にしていると思っていなかったのだ。どこか冷めたところがある男だからと。
なのに、ずっと亡骸を事故の日のままに保存して――なら、ルイーズ家が保有している魔法書だって他人に譲りたくはないはずだ。
「俺、これ使えるくらいになったのか」
「お前もう光の四魔人持ってるだろ」
頭の上にミシアの拳が降ってきて、エディスはいってえと叫んだ。
「なにすんだよ」と涙目で睨んだミシアは、口を引き結んで眉間の皺を寄せて――なんとも言い難い顔をしている。彼がなにを感じているのか、憤りなのか悔しさなのかと考えたところで息が漏れ出た。
「ごめんなさい」
違う、これは自分を案じてくれていた顔だ。
「忠告を聞かずに、独断で動いて。気付いた俺がどう思ったか分かるか」
お前はレイガスの息子なんだぞと右肩を包まれ、エディスはあぁと一人ごちた。彼もまた自分が生まれたルーツを知っていたのだと。
「国王と知り合いだったんだな」
「昔は護衛部だったもんでな……大切な友人だ」
シュアラロには従わなくていいんだぞと抱きしめてくるミシアを受け止め、「だから強くなりたいんだ」と抱きしめ返す。父と子がそうするのが正しいように。
「俺が生きていられるために」
*** *** *** *** ***
エディスの体に薄青い光が入ってくる。光の四魔人が入ってきた時に比べると抵抗感がなく、エディスはミシアを窺がった。
「光の四魔人と近しいからな。あっちがいれば、そこまでじゃない」
でも相談なしにやると思わなかったがなと刺され、エディスはうっと声を詰まらせる。その様子を見ていたミシアは、「今度は相談しろ」と後頭部に手を当ててきた。
「シルクを迎えに行くか」
手を引きながら言われ、エディスはうんと返事をしてついていく。
「シトラスー、ちぃー、そろそろ行くぞー」
「あっ、はい!」
ソファーに座っていたシトラスは立ち上がり、鞄を持った。地を這う者もソファーから下り、白いレースで飾られたピンク色のワンピースをぱたぱたと叩きながら玄関へと向かっていく。全員外に出た後、ミシアが鍵をかけた。
「さー、遊びに行くぞー」
と言ってミシアは歩き始めた。
翌朝、エディスたちはミシアに揺り起こされた。
エディスとシトラスは目を擦りながら洗面所へと向かっていく。ふああと大きな欠伸をして腹を掻いたエディスは、歯ブラシに歯磨き粉を塗る。
「シトラスー」
「はい?」
「お前、朝食担当な」
「はい!?」
しゃこしゃこと歯ブラシで磨いていた手を止め、シトラスはエディスを見た。
「俺が洗濯物干すから、朝食頼むな」
シトラスが呆然としている間に口をすすいだエディスはタオルで拭う。
「食材はなに使ってもいいって言ってたから」
じゃあなと言い去ったエディスに、シトラスは唖然と口を開いたまま突っ立つが、「料理なんてしたことないですけど……」呟いた言葉を聞いてくれる人は誰一人としていなかった。
*** *** *** *** ***
「おー、美味そう」
掃除をしてから下りてきたミシアがそう言って目を光らせる。テーブルに並んだ料理はどれも美味しそうに見えた。
「……量多くないか?」
だが、四人分にしては量が多かった。特大の大皿にこんもりとのったスクランブルエッグはとろとろと甘そうで、十枚のパンもこんがりと焼かれている。初めて作った料理としては、かなり上出来ではないかとシトラスは思っていた。
「いけるいける」
簡単そうに言うミシアに、小食のエディスは本当か? と疑いながら席につく。
「どうぞ。初めて作ったにしては上手くいったと思ってるんですよ!」
シトラスに促されたエディスたちは、スクランブルエッグを各自配られた皿に盛り、食べ始めた。
「うん、美味い」
エディスがそう言うと、シトラスは安心したような顔になる。
地を這う者はスクランブルエッグをスプーンですくい、口の中に入れた。もぐもぐと口を動かしていると、眉が自然と寄っていく。
シトラスはそれに気づかず、地を這う者の隣に座った。それから自分の皿にも取り分け、まずはパンに齧りつく。ザクザクと香ばしく焼かれたパンは、美味しい。バターを表面に塗ってから焼いたので、甘みもある。
そして、スクランブルエッグを口に入れた瞬間、「うっ」ザリザリとした固いものが舌に当たってきた。これは一体なんなのか、シトラスには想像もつかなかった。まさかと思い、お皿を持ち上げてしげしげと見る。
「ただの卵の殻だぞ」
エディスが皿の欠片じゃねえから飲み込んでも大丈夫だと教えると、硬直していたシトラスは口を機械的に動かし、飲み込んだ。
「ぜんっぜん美味しくないじゃないですか……口の中が痛いだけです」
「多少入ってるくらいなら平気だ。これも悪くない」
多少どころではなく卵の殻が大量に入っているスクランブルエッグを、一人だけ顔色一つ変えないで食べているエディスをまじまじと見つめる。
「……痛くないんですか?」
「こんくらい全然だよ。石よかマシ」
ミシアは皿の端に卵の殻を避けて後は美味しく食べていたし、地を這う者は文句は言わずパンを食べている。
「気にすることじゃねえだろ、こんなん」
素っ気なく言われたシトラスは、頷いて止まっていた手を動かした。
*** *** *** *** ***
「ごちそうさま!」
大皿いっぱいのスクランブルエッグは瞬く間になくなった。殻を除けば美味しかったのだ。
「じゃ、片づけるわ」
そう言ってエディスがおぼんを持ってきて、のせていく。シトラスがそれを手伝おうとするが、やりたいからと笑って持っていく。その様子を見ていたミシアが後からキッチンに入っていった。
「お前が気にしてるんだろ。あんな無茶して食って」
「そんなことねえよ」
「普段豆粒くらいしか食わねえくせに」
「うるせえ」
ガシガシと頭を撫でられたエディスは、乱暴にそう返した。
「友達になれるといいな」
「……うるせえなあ」
もうほっとけよ! と叫ぶエディスを、ミシアはニヤニヤした笑顔で見守る。背中にその視線を感じながら、エディスは皿を洗っていく。清潔な布で拭って棚に仕舞うと、腰に両手を当ててミシアを振り返った。
「ほら、終わったぞ!」
「ん、えらいえらい」
優しく微笑まれ、昨日のことを思いだしたエディスは目を逸らす。
「ご褒美やらねえとな」
手を引かれ、なにか重量のある物を握らされたエディスは顔を上げる。柔らかな笑みを浮かべているミシアと、手の中の物を見返して「……これ」と裏返った声が出た。
「いいのか、大事な物なんじゃ。アンタ、婿養子なんだろ」
「魔法書でも買ってやろうか、って言っただろ。まあこれ買ってないけどな」
古びた表紙の魔法書を開く。
ミシアがあんなに亡くなった奥さんのことを大事にしていると思っていなかったのだ。どこか冷めたところがある男だからと。
なのに、ずっと亡骸を事故の日のままに保存して――なら、ルイーズ家が保有している魔法書だって他人に譲りたくはないはずだ。
「俺、これ使えるくらいになったのか」
「お前もう光の四魔人持ってるだろ」
頭の上にミシアの拳が降ってきて、エディスはいってえと叫んだ。
「なにすんだよ」と涙目で睨んだミシアは、口を引き結んで眉間の皺を寄せて――なんとも言い難い顔をしている。彼がなにを感じているのか、憤りなのか悔しさなのかと考えたところで息が漏れ出た。
「ごめんなさい」
違う、これは自分を案じてくれていた顔だ。
「忠告を聞かずに、独断で動いて。気付いた俺がどう思ったか分かるか」
お前はレイガスの息子なんだぞと右肩を包まれ、エディスはあぁと一人ごちた。彼もまた自分が生まれたルーツを知っていたのだと。
「国王と知り合いだったんだな」
「昔は護衛部だったもんでな……大切な友人だ」
シュアラロには従わなくていいんだぞと抱きしめてくるミシアを受け止め、「だから強くなりたいんだ」と抱きしめ返す。父と子がそうするのが正しいように。
「俺が生きていられるために」
*** *** *** *** ***
エディスの体に薄青い光が入ってくる。光の四魔人が入ってきた時に比べると抵抗感がなく、エディスはミシアを窺がった。
「光の四魔人と近しいからな。あっちがいれば、そこまでじゃない」
でも相談なしにやると思わなかったがなと刺され、エディスはうっと声を詰まらせる。その様子を見ていたミシアは、「今度は相談しろ」と後頭部に手を当ててきた。
「シルクを迎えに行くか」
手を引きながら言われ、エディスはうんと返事をしてついていく。
「シトラスー、ちぃー、そろそろ行くぞー」
「あっ、はい!」
ソファーに座っていたシトラスは立ち上がり、鞄を持った。地を這う者もソファーから下り、白いレースで飾られたピンク色のワンピースをぱたぱたと叩きながら玄関へと向かっていく。全員外に出た後、ミシアが鍵をかけた。
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