【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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能力者編

8.強襲、そして絶望

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 はっはっと荒い息をしながら、エディスは膝に手をつく。
 周りを見てみると、皆ほぼ軽傷しか負っていないように見えた。よかった、と胸を撫でおろしたが、なぜかぐっとこみ上げてくるものを感じた。

 不思議に思ったが、それは上手く止まらず、溢れ出てくる。

「アンタもついに負傷したか?」

 エディスの様子に異変を感じたレウが寄ってきた。大丈夫だと声を返したかったが、抑えようのない感覚に体が震えてくる。

「う、え……っ」

 口から出てきたのは、血だった。手で押さえても止まらないそれに、憎まれ口を叩いていた者も目を丸くする。

「中尉!?」

「おいアンタ、大丈夫か!?」

 手を上げて大丈夫だと伝えるが、どの人も曇った表情を隠さずに見ている。

「ただの魔力の使い過ぎだ」

「使い過ぎって、そんな……」

 背を丸めて血を吐くエディスから目を反らす者もたくさんいた。

「毎日殺してばっかいるからだろ」

「それが俺の仕事だ」

 ようやく収まったエディスは、胸を押さえながら背を伸ばす。ぐっと指で血を拭い、後ろを向いた。

「さ、帰るぞ」

 と言って歩き出そうとした時、前方から悲鳴が聞こえてきた。エディスは駆け出し、周りの者たちも振り返る。

「今のっ、なんですかね!?」

「わからん、とにかく走れ!」

 叫びながら後方まで戻っていくと、銃部隊が逃げようとしてか、自分たちの方に向かってくる。その内の一人の腕を掴んで問いただそうとするも大声で悲鳴を上げて、腕をひっ叩かれた。

「おい、どうした!」

 叫ぶが、皆逃げ惑うばかりで説明をしようともしない。エディスは舌打ちをしようとしたが、随伴していたレウが指を差して口を開いた。

「オイッ、アンタ! 上だ!」

 エディスが上を見ると、そこには大量の魔物がいた。上半身は人間で下半身は鳥という、鋭い鉤爪を持ち、超音波を放つ魔物だ。

「厄介な奴が……!」

 素早く剣や銃ではなかなか倒せない。だからといって魔法に耐性があるので小さい魔法では倒すことができない。苦手とする者が多い魔物だ。

「お前ら伏せろ!! レウ、防御シールド!」

 大声でそう叫ぶと、皆、地に伏せる。
 エディスは足を踏み鳴らし、片手を上に伸ばした。命じた途端、頭上にシールドが張り巡らされていき、魔物を弾き返す。それを見届けたエディスは、左手も頭上に上げた。

【聖天のラグリドリス
 曇天のドゥーラグオクス
 涙天のシューラアッガーシャン
 雷天のイシュトギルス】

 円を描くように腕を振るい、複雑な紋章を宙に作り上げていく。八つもある紋章を描ききったエディスは、声を張り上げた。

【今 この紋章を描きし者の命に従い
 その力を振るえ!
 暴走せよ 荒れ狂え 天の魔人達よ!】

 槍のような雨と雷が降り注ぎ、撃たれた魔物がシールドの上に落ちてきた。まだ残党がいるのを見たエディスは、もう一度口を開く。

【ランドラギルスの槍よ
 振り落ち 穿ち 空を開けよ!】

 目に焼き付くかと思う程の苛烈な稲妻が空を一閃した。黒い煙が晴れた空に、雲以外のものが浮かんでいないことを確認したエディスは、地に膝をつける。

「あっ、が……がはっ!」

 がぼりと開いたエディスの口からまた血が吐き出された。

「お、おい! アンタ、無茶すっから!」

 それを見たレウが慌てて立ち上がり、駆け寄る。他の者も声をかけたり、起き上がったりなどする。

「コイツのパートナー呼べ! 連れて帰るよか早いだろ!」

「い、いい」

「は?」

 肩を抱えてくるレウとアイザックの腕を掴んだエディスは、口の周りを汚す血も気にせずに言いきった。それにレウは思い切り眉をしかめる。

「よくねえよ! おい、誰か」

「中尉!」

 鉤爪で肩を抉られたのか、破れた服と溢れる血を布で押さえた軍人がエディスたちの方にやって来た。後方の銃部隊の者だ。

「あなたのパートナーが!」

 エディスは近づいてくる者の顔を見て、足の感覚がなくなっていく気がした。真っ白な顔が、血を失っただけだとはどうも思えなかったのだ。

「どうした」

「……あなたのパートナーを、庇って」

 嫌だ、聞きたくない、と頭の中で声がした。

「庇われて……シルク様が」

 ぼろぼろと涙を零す軍人を見ているエディスは、腕をだらんと伸ばして崩れ落ちるように地面に膝をつく。

「シルク様が、戦死されました……っ!」

 目の前が急に暗くなったように感じられた。今まで自分の傍にあった光が、消えていく。

「そんな。うそだろ……」

 愕然としていたエディスだったが、地面に手を突いて立ち上がろうとして地面に転げる。だが何度も転げながらも立ち上がり部下の制止も聞かずに走っていこうとした。すると、急に体が軽くなって横を見る。

「行くんだろ」

 負ぶって行ってやるとエディスの腕を掴んだレウに言われ、頷く。大きな背中にエディスを担いだレウは、確かな足取りで走っていく。

「シルク、シルクッ!」

 エディスが辿り着いて地面に下ろしてもらう間に確認するが、辺りはすでに血だらけの状態だった。鉄の臭いに鼻を塞ぎたい気持ちになってくる。
 嘆きの中心に座っているシトラスの姿を見つけ、傍に寄った。

「シト……」

「寄るな!!」

 だが、思い切り力を入れて胸を押された。ふいに押されたエディスは、後ろに尻餅をついて地面に転げた。駆け寄ってきたレウに助け起こされるが、シトラスがいくつも石を拾っては投げてくる。

「止めろ、馬鹿!」

 エディスに覆いかぶさったレウがそう叫ぶが、彼の頭にも当たり血が飛び散った。エディスが怒鳴ると、シトラスは子どものように天を仰いで大声で泣く。まるで獣の咆哮のようなそれに、周囲が静まり返る。

「シルクに触るなあぁ、この……人殺し!」

「あぁ!?」

 シトラスを見ると、暗く黒い目を血走らせて、エディスを睨み付けていた。涙を流している目に映る悲しみに、エディスはたじろぐ。

「僕らを守るって言ったくせに。お前は、お前のせいで!!」

 お前がシルクを殺したんだ! と叫ぶシトラスから、エディスは目が離せなくなった。地についた手に柔らかいものが触れ、思わずそれを握り締める。

「なんでこの人のせいになるんだ、お前は」

「うるさいィッ、許さない。許さないぞ! 一生お前を恨んでやる!!」

「お前、能力は……」

 かろうじて出た声に、シトラスはさらに目尻を吊り上げた。

「僕までも殺す気だったのか!?」

「そんなことは言ってないだろ、一人でも能力は使えるはずなんだ!」

「能力なんか使ったら死んじゃうだろお……僕が苦しんでいることを、お前はいつも理解してくれない!」

 たたみかけるように言ってくるシトラスに、エディスは困惑するばかりだった。
 シルクを腕に抱えたシトラスは、エディスを蹴り倒してから去っていく。

 倒れ伏したままのエディスは、強く握りしめていた手を開く。
 すると、ぽとっと地面に肌色のものが落ちた。くしゃっと醜く歪んでしまったそれは、人の耳だった。

「シルク……!」

 赤いルビーがはめ込まれたピアスを見たエディスは、声もなく泣き始めた。
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