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向日葵編
3.俺とお前で
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「ど、どうしたその傷……」
軍には寄らず、戦場に直接来たエディスは、大きなガーゼを顔に貼った部下二人に目を見開いた。ぶすっとした顔の二人は「なんでもないです」とふてくされたような声で言う。
「喧嘩か?」
「そんなんじゃないですよ」
エディスはぐるりと見渡してからため息を吐き、髪を乱した。
「で、他の奴らは来ないのか?」
「はい」
「けど、俺らはアンタについてくから」
憎まれ口ばかり叩いていたレウの言葉に、エディスは目を丸くする。
「さっ、行きましょう!」
いつもにこにこと笑っているアイザックに手を握られ、引っ張られた。それにエディスは止まろうと強く地を踏んだ。
「お、おいっ」
「なんです?」
腕をぐっと引っ張り返すと、部下は不思議そうな顔でエディスを振り返る。
「そういうわけにはいかねえんだよ!」
「えっ、なんで!?」
「なんでって、任務は任務だ。俺が気にくわねえからって投げ出させるわけにゃあいかねえんだよ!」
拳を握って言うと、二人は「はあ」と気の抜けた声を出した。
「アンタ、喋ると意外と口悪いよな」
「うるせえ、坊ちゃんじゃねーんだから一々お綺麗に喋ってられっか!」
「うーん、本当に口悪い」
あははと笑われたエディスは眉間に皺を作る。するとアイザックが手を伸ばしてきて、皺を伸ばそうとする。
「ま、こういうトコも可愛いんですけどね!」
「お前な」
皺をむいむいと楽しそうに伸ばされ、エディスはうーんと目を閉じる。
大型犬がじゃれついてくるようで微笑ましくはあるのだが、自分のことを猫かなにかのように甘やかせようとしてくるのには困ったところだ。また手を引っ張ってくるのに、密かにため息を零した。
「勘弁してくれよ……これ絶対俺の責任ってことで始末書書かされるだろうが」
「まあまあ」
「あ、俺、書類仕事嫌いだから。絶対に手伝わねえぞ」
「おい」
部下二人に声をかけられながら歩いていくエディスは、頭がいっぱいになってパンと破裂しそうだ、と一人ごちた。
*** *** *** *** ***
任務から帰ったエディスは、そのまま寮に向かう。
だが自室には戻らず、二つ下の階まで上がっていく。通い慣れた部屋の前でチャイムを鳴らし、部屋の主が出てくるまでに息を整える。
「こんな夜に誰かと思ったら……」
まあこんな非常識な奴そうそういないかと眠たげな眼で見てくる男に、「俺以外にいたら問題だろ、浮気だよ浮気」と言って押し入る。
「お前なあ、今何時だと思ってんだよ」
「こんな時間まで戦闘任務行ってたんだから仕方ねえだろ」
シャワー貸してくれと言いながらずかずか奥に入っていくエディスに、シュウはもう勝手にしてくれとばかりにベッドに腰かけた。寝乱れた髪を掻き混ぜている彼に、眉を吊り上げて「鍵、チェーン!」と命じると「別にいいって」と眠たげな声が返ってきた。
「よくねえって、お前さっきもチェーンなしでドア開けるし」
シルベリアに報告するぞと言うと、めんどくせえ~~と言いながら膝に手を当てて立ち上がる。恨みを買っている家門に属しているのにと、シュウの危機感のなさに閉めたのを確認するまで廊下の先で見守った。
それから手早くシャワーを浴びて、持参してきたタオルで拭って下着を穿く。このままシルベリアのベッドを借りようとTシャツとズボンという軽装に着替える。頭をガシガシと拭きながら出ていくと、シュウは小さなキッチンに立っていた。
「握り飯くらいなら出してやれるけど」
「えっ、マジで!?」
嬉しいと寄っていくと、シュウは分かったと言って塩を手につける。炊飯器をガパリと開けてしゃもじで米をすくってのせ、握っていく。三角になった握り飯をほらと渡されたエディスは齧り付いた。
一口食べて頷く。強めに塩がきいていて、任務終わりには丁度いい加減だ。
「それで、どうした」
「いや~……ちょっと、お前の弟のことで相談があって」
シュウの顔色を窺うと、ひょいと片眉を上げて視線を送られる。
「仲悪いんだっけ」
「悪くはねえけど、アイツは親父のとこで育ったから」
「あんま話したことないのか」
そういえば一度もこの兄弟が話しているところや、互いの名前が出てくることがなかったなと思い返す。
「母も住んでる所も違うと興味もな」
一つ食べ終わったエディスに握り飯を渡したシュウは、自分用にか握り始める。
「まあでも一応弟だし。言うの遅くなったけど」
悪かったなとこちらに体を向けて言われ、エディスは「言いっこなしだろ」と首を振った。しかしシュウは気まずそうに視線を落として「けど、」と吐息のような声を出す。
「本人以外から謝られても許す気ねえから」
断固として言い切ると、シュウは息を詰まらせる。それから口の端をほんの少し上げて、歪な笑みを形作った。彼としては思わず笑うしかないのだろう。「こえぇな」と言うのに、口の片端を吊り上げて不遜な笑みを浮かべた。
「そうだろ、俺は執念深いからな。家族ってのもよく分かんねえし」
残った握り飯の欠片を口の中に放り込んで、噛み砕いて、飲みこんでしまう。
「だからアイツに復讐しようと思ってんだ」
軍には寄らず、戦場に直接来たエディスは、大きなガーゼを顔に貼った部下二人に目を見開いた。ぶすっとした顔の二人は「なんでもないです」とふてくされたような声で言う。
「喧嘩か?」
「そんなんじゃないですよ」
エディスはぐるりと見渡してからため息を吐き、髪を乱した。
「で、他の奴らは来ないのか?」
「はい」
「けど、俺らはアンタについてくから」
憎まれ口ばかり叩いていたレウの言葉に、エディスは目を丸くする。
「さっ、行きましょう!」
いつもにこにこと笑っているアイザックに手を握られ、引っ張られた。それにエディスは止まろうと強く地を踏んだ。
「お、おいっ」
「なんです?」
腕をぐっと引っ張り返すと、部下は不思議そうな顔でエディスを振り返る。
「そういうわけにはいかねえんだよ!」
「えっ、なんで!?」
「なんでって、任務は任務だ。俺が気にくわねえからって投げ出させるわけにゃあいかねえんだよ!」
拳を握って言うと、二人は「はあ」と気の抜けた声を出した。
「アンタ、喋ると意外と口悪いよな」
「うるせえ、坊ちゃんじゃねーんだから一々お綺麗に喋ってられっか!」
「うーん、本当に口悪い」
あははと笑われたエディスは眉間に皺を作る。するとアイザックが手を伸ばしてきて、皺を伸ばそうとする。
「ま、こういうトコも可愛いんですけどね!」
「お前な」
皺をむいむいと楽しそうに伸ばされ、エディスはうーんと目を閉じる。
大型犬がじゃれついてくるようで微笑ましくはあるのだが、自分のことを猫かなにかのように甘やかせようとしてくるのには困ったところだ。また手を引っ張ってくるのに、密かにため息を零した。
「勘弁してくれよ……これ絶対俺の責任ってことで始末書書かされるだろうが」
「まあまあ」
「あ、俺、書類仕事嫌いだから。絶対に手伝わねえぞ」
「おい」
部下二人に声をかけられながら歩いていくエディスは、頭がいっぱいになってパンと破裂しそうだ、と一人ごちた。
*** *** *** *** ***
任務から帰ったエディスは、そのまま寮に向かう。
だが自室には戻らず、二つ下の階まで上がっていく。通い慣れた部屋の前でチャイムを鳴らし、部屋の主が出てくるまでに息を整える。
「こんな夜に誰かと思ったら……」
まあこんな非常識な奴そうそういないかと眠たげな眼で見てくる男に、「俺以外にいたら問題だろ、浮気だよ浮気」と言って押し入る。
「お前なあ、今何時だと思ってんだよ」
「こんな時間まで戦闘任務行ってたんだから仕方ねえだろ」
シャワー貸してくれと言いながらずかずか奥に入っていくエディスに、シュウはもう勝手にしてくれとばかりにベッドに腰かけた。寝乱れた髪を掻き混ぜている彼に、眉を吊り上げて「鍵、チェーン!」と命じると「別にいいって」と眠たげな声が返ってきた。
「よくねえって、お前さっきもチェーンなしでドア開けるし」
シルベリアに報告するぞと言うと、めんどくせえ~~と言いながら膝に手を当てて立ち上がる。恨みを買っている家門に属しているのにと、シュウの危機感のなさに閉めたのを確認するまで廊下の先で見守った。
それから手早くシャワーを浴びて、持参してきたタオルで拭って下着を穿く。このままシルベリアのベッドを借りようとTシャツとズボンという軽装に着替える。頭をガシガシと拭きながら出ていくと、シュウは小さなキッチンに立っていた。
「握り飯くらいなら出してやれるけど」
「えっ、マジで!?」
嬉しいと寄っていくと、シュウは分かったと言って塩を手につける。炊飯器をガパリと開けてしゃもじで米をすくってのせ、握っていく。三角になった握り飯をほらと渡されたエディスは齧り付いた。
一口食べて頷く。強めに塩がきいていて、任務終わりには丁度いい加減だ。
「それで、どうした」
「いや~……ちょっと、お前の弟のことで相談があって」
シュウの顔色を窺うと、ひょいと片眉を上げて視線を送られる。
「仲悪いんだっけ」
「悪くはねえけど、アイツは親父のとこで育ったから」
「あんま話したことないのか」
そういえば一度もこの兄弟が話しているところや、互いの名前が出てくることがなかったなと思い返す。
「母も住んでる所も違うと興味もな」
一つ食べ終わったエディスに握り飯を渡したシュウは、自分用にか握り始める。
「まあでも一応弟だし。言うの遅くなったけど」
悪かったなとこちらに体を向けて言われ、エディスは「言いっこなしだろ」と首を振った。しかしシュウは気まずそうに視線を落として「けど、」と吐息のような声を出す。
「本人以外から謝られても許す気ねえから」
断固として言い切ると、シュウは息を詰まらせる。それから口の端をほんの少し上げて、歪な笑みを形作った。彼としては思わず笑うしかないのだろう。「こえぇな」と言うのに、口の片端を吊り上げて不遜な笑みを浮かべた。
「そうだろ、俺は執念深いからな。家族ってのもよく分かんねえし」
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