【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
75 / 274
向日葵編

3.俺とお前で

しおりを挟む
「ど、どうしたその傷……」

 軍には寄らず、戦場に直接来たエディスは、大きなガーゼを顔に貼った部下二人に目を見開いた。ぶすっとした顔の二人は「なんでもないです」とふてくされたような声で言う。

「喧嘩か?」

「そんなんじゃないですよ」

 エディスはぐるりと見渡してからため息を吐き、髪を乱した。

「で、他の奴らは来ないのか?」

「はい」

「けど、俺らはアンタについてくから」

 憎まれ口ばかり叩いていたレウの言葉に、エディスは目を丸くする。

「さっ、行きましょう!」

 いつもにこにこと笑っているアイザックに手を握られ、引っ張られた。それにエディスは止まろうと強く地を踏んだ。

「お、おいっ」

「なんです?」

 腕をぐっと引っ張り返すと、部下は不思議そうな顔でエディスを振り返る。

「そういうわけにはいかねえんだよ!」

「えっ、なんで!?」

「なんでって、任務は任務だ。俺が気にくわねえからって投げ出させるわけにゃあいかねえんだよ!」

 拳を握って言うと、二人は「はあ」と気の抜けた声を出した。

「アンタ、喋ると意外と口悪いよな」

「うるせえ、坊ちゃんじゃねーんだから一々お綺麗に喋ってられっか!」

「うーん、本当に口悪い」

 あははと笑われたエディスは眉間に皺を作る。するとアイザックが手を伸ばしてきて、皺を伸ばそうとする。

「ま、こういうトコも可愛いんですけどね!」

「お前な」

 皺をむいむいと楽しそうに伸ばされ、エディスはうーんと目を閉じる。
 大型犬がじゃれついてくるようで微笑ましくはあるのだが、自分のことを猫かなにかのように甘やかせようとしてくるのには困ったところだ。また手を引っ張ってくるのに、密かにため息を零した。

「勘弁してくれよ……これ絶対俺の責任ってことで始末書書かされるだろうが」

「まあまあ」

「あ、俺、書類仕事嫌いだから。絶対に手伝わねえぞ」

「おい」

 部下二人に声をかけられながら歩いていくエディスは、頭がいっぱいになってパンと破裂しそうだ、と一人ごちた。

*** *** *** *** ***

 任務から帰ったエディスは、そのまま寮に向かう。
 だが自室には戻らず、二つ下の階まで上がっていく。通い慣れた部屋の前でチャイムを鳴らし、部屋の主が出てくるまでに息を整える。

「こんな夜に誰かと思ったら……」

 まあこんな非常識な奴そうそういないかと眠たげな眼で見てくる男に、「俺以外にいたら問題だろ、浮気だよ浮気」と言って押し入る。

「お前なあ、今何時だと思ってんだよ」

「こんな時間まで戦闘任務行ってたんだから仕方ねえだろ」

 シャワー貸してくれと言いながらずかずか奥に入っていくエディスに、シュウはもう勝手にしてくれとばかりにベッドに腰かけた。寝乱れた髪を掻き混ぜている彼に、眉を吊り上げて「鍵、チェーン!」と命じると「別にいいって」と眠たげな声が返ってきた。

「よくねえって、お前さっきもチェーンなしでドア開けるし」

 シルベリアに報告するぞと言うと、めんどくせえ~~と言いながら膝に手を当てて立ち上がる。恨みを買っている家門に属しているのにと、シュウの危機感のなさに閉めたのを確認するまで廊下の先で見守った。

 それから手早くシャワーを浴びて、持参してきたタオルで拭って下着を穿く。このままシルベリアのベッドを借りようとTシャツとズボンという軽装に着替える。頭をガシガシと拭きながら出ていくと、シュウは小さなキッチンに立っていた。

「握り飯くらいなら出してやれるけど」

「えっ、マジで!?」

 嬉しいと寄っていくと、シュウは分かったと言って塩を手につける。炊飯器をガパリと開けてしゃもじで米をすくってのせ、握っていく。三角になった握り飯をほらと渡されたエディスは齧り付いた。

 一口食べて頷く。強めに塩がきいていて、任務終わりには丁度いい加減だ。

「それで、どうした」

「いや~……ちょっと、お前の弟のことで相談があって」

 シュウの顔色を窺うと、ひょいと片眉を上げて視線を送られる。

「仲悪いんだっけ」

「悪くはねえけど、アイツは親父のとこで育ったから」

「あんま話したことないのか」

 そういえば一度もこの兄弟が話しているところや、互いの名前が出てくることがなかったなと思い返す。

「母も住んでる所も違うと興味もな」

 一つ食べ終わったエディスに握り飯を渡したシュウは、自分用にか握り始める。

「まあでも一応弟だし。言うの遅くなったけど」

 悪かったなとこちらに体を向けて言われ、エディスは「言いっこなしだろ」と首を振った。しかしシュウは気まずそうに視線を落として「けど、」と吐息のような声を出す。

「本人以外から謝られても許す気ねえから」

 断固として言い切ると、シュウは息を詰まらせる。それから口の端をほんの少し上げて、歪な笑みを形作った。彼としては思わず笑うしかないのだろう。「こえぇな」と言うのに、口の片端を吊り上げて不遜な笑みを浮かべた。

「そうだろ、俺は執念深いからな。家族ってのもよく分かんねえし」

 残った握り飯の欠片を口の中に放り込んで、噛み砕いて、飲みこんでしまう。

「だからアイツに復讐しようと思ってんだ」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...