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逃亡編
1.高潔な聖女じみた女が憂う
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白いローブを着て跪く、美しい女。薄水色の長い髪が肩から零れ、胸元に落ちている。
「レイアーラ」
声を掛けると、伏せられていた白い瞼が開いて青い瞳が現れた。
「おはようございます、レイヴェン」
彼女が笑う姿を見る度、私の頭には瑠璃色の花畑が映し出される。彼女を想う度にゆっくりと心を握り締められるような。
隣に座り、彼女を抱き寄せると肩に頭がのせられる。優しい香りが漂ってきて、相好を崩す。
「祈っていたのですか」
「はい。皆の健やかな日々を願って」
こうして毎日、彼女は神殿へ来て祈りを捧げている。その美しい心こそが彼女を彼女たらしめているのだ。
――外は、混迷を極めている。
レイアーラが前大将だったミチルバ・アイカの持っていたシールド系能力<愛を欲する者>に開花してすぐに、シュトー・ブラッドは自分の息子が王家の血を継いでいるから王太子にしろと名乗り上げた。
それとほぼ同時に、王城にキシウ・ティーンスが戻ってきた。
まだブラッド家には入っていないと宣った女の情念と野心など見え透いている。だというのに、城内は奴に掌握され始めている。家臣が心を失くしているのだ。錯乱しているともいえる。
「……戦わなければなりません、私も」
手を組んだまま顎を上げたレイアーラに相槌を打つ。
「私の旗下であるデューツィア隊には隠れてもらうことにしました」
彼女の母もまた、家臣と同じようにもの考えぬ傀儡にされた。
正統な王族の血を継ぐ彼女でさえ、幼い頃から幾度となく危機に陥っている。
何故か? 彼女は美しすぎる故にあのクソ女の気に障るからだ。私はアイツが彼女に向かって「聖女じみた顔をして」と罵る現場を頻繁に見ている。
「これから、あの子にはたくさんの苦しみが訪れるでしょう」
悲し気に睫を震わせるレイアーラに、わざわざ名前を訊ねるような無粋な真似はしない。彼女に”あの子”と呼ばれるのは一人しかいない。
――エドワード・ティーンス。
彼女の母がまだ別の夫の妻だった時に産まれた王子。彼女とは異父弟という間柄だ。あの女が盗み、そしてこの地に戻ってきた国の宝。
母から譲り受けた雪のような銀の髪と美貌に、父と同じく全てを見通すような深い青の瞳。なにより、類稀な魔力とそれを扱うセンスを持ち得る者など、一人しかいない。
城内で彼に会った時、どれほど彼女が感情を押さえつけたことか。抱きしめて帰還の喜びを分かちたいと願った心を捻り潰し、わざとらしい台詞を口にして――優しさを慮れば、悔しささえ滲んでくる。
「弟……フェリオネルとアーマーを彼の元に送りました。幼いですが、必ず任を遂げてみせます。そう育ちました」
東はなにもない土地だ。だが、なにもないからこそ地を這っている時から研鑽を積む。
「ええ、信じております」
私の弟を必ず守ってくださると。真っ直ぐに無垢な目を向けてくださる。
「私も……救援を頼みました」
肉付きの薄い唇を通して私に教えてくれた名前に、おのずと目が見開かれていくのを感じた。
「それは、頼もしいですね」
「ふふ、そうでしょう」
シルクの一番の友だちですものと言う彼女に、「ええ」と僅かに首を傾げて微笑む。
「レイアーラ」
声を掛けると、伏せられていた白い瞼が開いて青い瞳が現れた。
「おはようございます、レイヴェン」
彼女が笑う姿を見る度、私の頭には瑠璃色の花畑が映し出される。彼女を想う度にゆっくりと心を握り締められるような。
隣に座り、彼女を抱き寄せると肩に頭がのせられる。優しい香りが漂ってきて、相好を崩す。
「祈っていたのですか」
「はい。皆の健やかな日々を願って」
こうして毎日、彼女は神殿へ来て祈りを捧げている。その美しい心こそが彼女を彼女たらしめているのだ。
――外は、混迷を極めている。
レイアーラが前大将だったミチルバ・アイカの持っていたシールド系能力<愛を欲する者>に開花してすぐに、シュトー・ブラッドは自分の息子が王家の血を継いでいるから王太子にしろと名乗り上げた。
それとほぼ同時に、王城にキシウ・ティーンスが戻ってきた。
まだブラッド家には入っていないと宣った女の情念と野心など見え透いている。だというのに、城内は奴に掌握され始めている。家臣が心を失くしているのだ。錯乱しているともいえる。
「……戦わなければなりません、私も」
手を組んだまま顎を上げたレイアーラに相槌を打つ。
「私の旗下であるデューツィア隊には隠れてもらうことにしました」
彼女の母もまた、家臣と同じようにもの考えぬ傀儡にされた。
正統な王族の血を継ぐ彼女でさえ、幼い頃から幾度となく危機に陥っている。
何故か? 彼女は美しすぎる故にあのクソ女の気に障るからだ。私はアイツが彼女に向かって「聖女じみた顔をして」と罵る現場を頻繁に見ている。
「これから、あの子にはたくさんの苦しみが訪れるでしょう」
悲し気に睫を震わせるレイアーラに、わざわざ名前を訊ねるような無粋な真似はしない。彼女に”あの子”と呼ばれるのは一人しかいない。
――エドワード・ティーンス。
彼女の母がまだ別の夫の妻だった時に産まれた王子。彼女とは異父弟という間柄だ。あの女が盗み、そしてこの地に戻ってきた国の宝。
母から譲り受けた雪のような銀の髪と美貌に、父と同じく全てを見通すような深い青の瞳。なにより、類稀な魔力とそれを扱うセンスを持ち得る者など、一人しかいない。
城内で彼に会った時、どれほど彼女が感情を押さえつけたことか。抱きしめて帰還の喜びを分かちたいと願った心を捻り潰し、わざとらしい台詞を口にして――優しさを慮れば、悔しささえ滲んでくる。
「弟……フェリオネルとアーマーを彼の元に送りました。幼いですが、必ず任を遂げてみせます。そう育ちました」
東はなにもない土地だ。だが、なにもないからこそ地を這っている時から研鑽を積む。
「ええ、信じております」
私の弟を必ず守ってくださると。真っ直ぐに無垢な目を向けてくださる。
「私も……救援を頼みました」
肉付きの薄い唇を通して私に教えてくれた名前に、おのずと目が見開かれていくのを感じた。
「それは、頼もしいですね」
「ふふ、そうでしょう」
シルクの一番の友だちですものと言う彼女に、「ええ」と僅かに首を傾げて微笑む。
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