【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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逃亡編

2.鈴蘭の花束をあなたに

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 シュトー・ブラッドが自分の息子を王太子にしろと宣戦布告し、それと同時にキシウ・ティーンスが城へ戻ってきたことが中央に激しい混乱をもたらした。

 ブラッド家に組みする者以外は対抗馬を用意しようとし――そして、現国王派が軍部に王家の血を引いているであろう少年がいると言い出した。

 更迭して調べてみればいいと結論づけたおかけで、今や軍部には貴族や王の家臣だけでなく、早々にエディスを排除しようとするブラッド家の手の入った者までもが押しかけ、ひしめき合っている。

「どうする、包囲されてるぞ」

 物陰に隠れているシュウに囁かれ、エディスは同意だという風にしっかりと頷いた。アーマーたちの協力を得て部屋からは辛くも脱したものの、これではどこにも行きようがない。

「ここを脱出しない限りはどうにもならないだろ」

 弱ったなと歯噛みするエディスの背中が、ちょんちょんと何者かに突かれる。驚いたエディスが息を詰まらせると、隣のレウが抱き寄せて腕の中に庇う。
 だが、よっと手を顔の前まで挙げたジェネアスが顔を覗かせた。

「僕ッスよ~」

 という、なんとものん気に響く声にエディスはなんだと息を零す。大丈夫だとレウの腕を叩く。

「レウ、俺の友だちだ。トリエランディア大将の派閥だから安心しろって」

 睨み続けているレウを見て目を丸くし「警戒心強い猫ちゃんみたいッスね~」と笑うジェネアスに、エディスはそうだろと苦笑いした。

「ルイース少将が車を用意してくれてるんで。とりあえずそこまで案内するから、ついてくるッスよ」

 こっちッスと姿勢を低くしたジェネアスの後ろを追う。この情報通の友人がいれば大丈夫だろうと、張り巡らされた水路に下り、伝っていく。

「これからどうするんスか? 西に逃げるなら手伝うッスよ」

 おっととエディスが止まると、後ろのレウが腰に腕を回してきて引かれる。
 だから大丈夫だってと目を吊り上げるも、ジェネアスがエディスとの友情だけで動く甘い男でないと理解しているのだろうか、警戒は全く取れなかった。

「西の情勢はどうなってるんだ?」

「とりさん直下のバスディスグラン兄妹が迎えに来たんだから、お察しじゃないッスか?」

 聞いたエディスはあぁと額に手を当てた。ならば数年隠遁しておけというところだろうか。
 隠れていいのだろうか、と不安が囁きかけてくる。逃げて好転するのかと。いっそ捕まって、本当に自分が彼らの血を継いでいるか確かめた方がいいのでは、と――

「こっちだ」

 力強い腕に抱え上げられ、わっと小さく声を上げる。

「アンタ、今ロクでもないこと考えてるだろ」

 出て行ったら殺されるだけだぞと言うレウの、目と眉を吊り上げた顔を見たエディスは俯く。そうだ、彼も巻き込んでしまった。その責を放棄することになる。

「ごめん、レウ。逃げようとしてた」

「実際そうだろうが」

 もう無駄に考えんなと素っ気なく言われ、分かったと首に抱き付いた。

 元々レウは別の准将の下にいた軍人だ。歴もエディスやアイザックよりも長い。魔法が使えない者が多い軍の中で必要だろうと最初に頂いたこともあり、防御魔法を得意とする。

 彼に任せておけばいいと目を閉じると、「寝ろとは言ってないだろ」と非難の声が間近から聞こえてきた。

「眠たいんだよ……」

 遠距離攻撃ならシュウがいるし、レウはアイザックと打ち合っていることが多いから剣も使える。なにも問題いらないだろと体を任せると、レウが身じろいだ。

「そうだ、レウ……俺、人間じゃないんだ」

 呟くと、彼は足を止めた。どういうことだと揺さぶられて目を開けたエディスが子どもの時に癒しの吸血鬼に出会ったことを告白すると、レウは「まさか、」と顔を蒼白にさせた。

「うん。だから置いていってもいい。軍に戻っても」

「それに、ソイツ能力者だぞ」

 公表してないけどミシアは知ってるとシュウが指差すと、レウは嘘だろと言葉を零して押し黙る。だが、すぐに踵を返すとジェネアスの後を追っていく。
 呼びかけても、肩を叩いても無言で進んでいくレウに困惑したエディスがシュウを見るも「お前、鈍すぎる」と片眉を上げられるだけだった。

「レウ、いいのか」

「うるさい。それ以上喋るなら落とすぞ」

 寝てたいんだろと言われ、エディスはまた彼にもたれかかる。
 事実、シルクが死ぬ前は任務で、今は彼女がいないという虚無感や気落ちで眠りが浅くなってしまって満足に睡眠を取れていない。泥のような疲れからくる睡魔が体に圧し掛かってきており、瞼が開けられそうになかった。

「振り下ろされる気もないくせに言いやがって」とレウが忌々し気に吐き捨てた。
 それを聞き、エディスは「あ」と言う。首に腕を回していて、なにが置いていってもいいだ。矛盾しているにも程がある。

「だって、レウは俺のだ」

 俺の”部下”だと言おうとして、肝心なところが抜けてしまった。それに気付いてはいたが、意味は同じだろうと訂正をしなかった。それを聞いたレウが、どんな状態であるかも気にせず――

 水路を出た所に停まっていたルイース少将の車に眠り込んでいるエディスを入れ、後から自分も入り込んだ。膝の上に頭をのせ、乱れた髪を手で梳いて整えてやる。
「それじゃ、エディスのこと頼みましたからね」

 捕まっちゃ嫌ッスよと言うジェネアスを、レウは車内から見上げた。視線を感じたのかこちらを見てきた年下の少年に、むっと眉を寄せる。

「アンタ、これからどうするんだ」

 逃亡の幇助をしたとなると、いくらトリエランディア大将の傘下でもお咎めの一つや二つくらい受けることになるだろう。

「アーマーちゃんとフェリオネルさんが気になるんで~そっちの様子見に行こうかなって思ってるんスけど」

 どうかしたッスか? と首を傾げるジェネアスに、なんで助けたと訊こうとしたレウの頭に「友だちなんで」と先に答えが降ってくる。そのあまりの非常識さに唖然とした。

「アンタ、意外といい奴なのか?」

 レウが思わず口にした言葉を、ジェネアスは「失礼ッスね~」と笑い飛ばした。
「僕は普通にいい奴なんスよ」

 君ほどじゃなくてもエディスのことは好きッスよと頬に指を当てたジェネアスにからかわれ、レウは顔を反対に向ける。

「出発するぞ」

 助かったと言うミシアも、それに返事をするジェネアスも、疲れたと車のシートに体を預けて息を継ぐシュウも、それどころかエディスの顔すら見れない。

 ――レウは俺のだ。
 その気もないくせに、こちらの心を揺らすようなことを言うのか。額を手で覆ったレウは息を吐く。だから嫌いなのだ、この主のことが。

 戦場で魔物の血に塗れたエディスを一目見て、生涯尽くすべき主だと直感した。だというのにコイツときたら仕事仕事で自分の身一つ大事にしない。妖精や精霊どころか女神さえ裸足で逃げだしそうな容姿をしているくせに、自分が人からどう思われるのかすら考えない。

 その無防備ささえ愛おしくて、正してほしくて顔を見ると憎まれ口ばかり叩いてしまう。こちらを見てほしくて意地悪ばかりしてしまう度に、自分の子どもっぽさが嫌になった。

 戦場や政治などとはかけ離れた場所で幸せになってほしい。そう、本心では願っているというのに。
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