【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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本の蟲編

1.転売屋シュウ、見参!

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「シュウ、エディス!」

 駅に迎えに来たエディスはしーっ! しーっ!と口の前に指を立てながら首を激しく振るう。折角バレずにここまで来たのに、その苦労が無駄になってしまう。

「いや、無駄だろ~。こっちでもお前の顔知れ渡ってるしさあ」

 これのおかげでな! と見せられた物でエディスは「な!」と叫んだ。

「なんでそんなのが……」

 声を震わせるエディスに、後ろからレウとエドワードが覗き込んで、ああと納得の声を出した。

「なんだ、ブロマイドか」

「あの、増刷に増刷してもまだ売れるっていう」

 アンタ一時期スケジュールが戦闘任務と写真撮影とでサンドイッチ状態でしたよねと言うレウに、やめてくれと口を手で押さえながら首を振る。

 忙しさに目が回りそうだったのを思い出すと同時に、同じく走り回る羽目になったレウに「俺はアンタのマネージャーですか!?」と半分泣きが入った怒りを食らったのは記憶に新しい。

「僕持ってるよ」

 そう言ってエドワードが取り出したブロマイドを見て、レウがうわと目を丸める。

「数量限定の水着撮影のじゃないですか。これ相当手に入れるの大変だったはずですよ」

 公爵家ってそういうのも融通してもらえるんですねと言うレウに、まあねと鼻高々に返す。
 エディスからしたら、なんで男の水着写真を持ち歩いているんだと首を傾げるしかない状態で、「やっぱ変態だ」と呟かれたシュウの意見に大賛成なのだが……。

「まあ、俺も持ってるんですけど」

 ほら見てください真冬のくまちゃんコーデと言ってレウが見せてきたブロマイドに、エディスは慌てて手を伸ばそうとする。
 先ほどエドワードが持っていた物よりは無難というか、まだ持ち歩いていて違和感のある写真ではない。

 だが、もこもこなのに襟元の防御は杜撰なセーターにニット帽という普段着ない甘さ加減の服に、どういうわけか可愛らしいテディベアまで持たされたのだ。
 こんなのリスティーにやらせればいいとエディスは抗議したが、彼女はまだ入隊したばかりで宣伝係ではないからと断られたという苦い記憶のある一枚となっている。

「なんでそんなの持ってるんだよ!」

 逃げる前は部屋にいたエディスやシュウに比べ、レウは着の身着のまま宿舎を飛び出してきたはずだ。とあれば常に携帯していたことになる。男の上官の写真を? あんなに怒っていたのに?

「あれだけ予定の管理を手伝ったんだから一枚くらいは持ってるだろ」

 あの日だってなにもなかったら撮影入るかもしれないって言われてたの忘れたのかと呆れられ、エディスはそっかと頷いた。

「シュウ、約束のあれは?」

 そこで話が途切れたことで、シルベリアがやけにこそこそとシュウに話しかけていることに気が付けた。なんだ? 汽車に乗っている間になにかあったのかと二人を見ていると、シュウがこれだろと言って鞄から分厚い封筒を取り出した。

「いつもありがとな」

 助かるよと言ってシルベリアが封筒から取り出したのは、件のブロマイドだった。エディスがあーっ! と叫ぶと、シュウはなんだよと叫び返してくる。

「お前のせいか、なにしてんだよ!」

「よく売れるっていうから……ちゃんと買ってるぞ」

「こっちで売ってるんだろ。それ転売してるじゃねえか!」

 俺の懐に入るようで入ってねえと怒ると、シュウは嫌そうな顔になって「だから時々飯奢ってやってただろうが」と言い返してくる。

「お前、そういうとこがシュトー・ブラッドと血が繋がってるって言われる所以だぞ!」

「まあまあ、俺のもやるからさ」

 すぐに横はいりしてくるシルベリアに、それなら持ってるとシュウと肩を組んで写っている写真を見せつけてやる。

「なんでお前もそんなの持ってんだよ」

「友だちの写真だからだろ」

「それならせめて、一緒に写ってるやつとか……」

 時間があったら撮ってやるよと言うシュウの横からシルベリアが離れていくのを目で追う。

「……なにしてんだ、アイツ」

 それはシュウも同じだったようで、気がつけば二人ともが同じ方に顔を向けていた。

 シルベリアがレウの肩に腕を回して柱の影に連れていったのだ。悪い顔でなにごとかレウに耳打ちをしていて、なにをしているんだと半笑いになってしまう。
 シルベリアのことだ、悪いようにはしないだろうから、放っていていいとエディスは結論づけて顔の向きを元に戻したが、シュウはまだ厳しい顔で睨みつけている。

 折角久しぶりに会ったのに――と、ありありと書かれた顔にエディスは仕方ないなと眉を下げた。

「おい、シルベリア! なに人の部下を物陰に連れ込んでんだよ!」

 追いかけて引きずり出すと、二人はぎょっと目を剥いてこちらを見てくる。
 レウの腕に抱き着いて「シュウが寂しがってるから早く返してやれってば」と頬を膨らませると、ぽかんと口を開いて見つめられた。

 それになにかしたのだろうかと交互に顔を見て「……なに」と呟く。シルベリアの方がより驚いてはいるが、レウは些か頬を赤くしている。

「いやまあ、頑張れよ」

 目尻を指で擦ってレウの肩に手を置いたシルベリアに、エディスはなんだあれと嫌気のさした声を出した。

*** *** *** *** ***

 北部軍司令棟に向かう二人に手を振って別れたエディスたちは、エドワードが手配してくれた厳のような軍人上がりの男に護衛されながら馬車に乗り込んだ。

「エドワード、ありがとな」

「ううん。中央に帰ってきたら我が家にも来てほしいな」

「もちろん! お礼しに行くよ」

 ギジアには連絡しておいたからと言うエドワードにもう一度感謝を述べる。
 御者も任されているらしい男にエドワードがなにかを申し付けると頷き、鞭を振るって出発した。

 ゆっくり進んでいく馬車の窓から上半身を出して振り返り見ると、そこには人の影形すらない。――手を振る先も、口も向かう所を失ったエディスは黙って座り直す。

「いいんですか? 挨拶」

「うん……」

 捕まえようと慌てたくせに何気ないフリをして訊いてくるレウに短く答え、窓に顔を向ける。幻でも見せられていたのかと思う程、忽然と姿を消したエドワードのことを想う。

「なあ、トリドット公爵令息ってどんな人なんだ?」

「そうですな……一言で申し上げるなら光の公子と言ったところでしょうか」

 黙り込んだエディスを話し相手にならないと思ったのか、レウが御者に声を掛ける。それに意識を取られて横目でレウを見ると、「防御魔法の達人だって聞いたことがあるんですけど、本当ですか?」と真っ直ぐ前を向いていた。

 北部を堅牢な土地にしているのは優れた防御魔法の開発が盛んに行われている為だというのは周知の事実だ。若き頃のレイガス王もここに来て学んだらしい。
 その北部で達人だと噂されるのであれば、相当な使い手だ。

 御者曰く、トリドット公爵の両親は去年他界したそうで、今は大きな屋敷にギジアとほんの少しの使用人だけが暮らしているらしい。
 御者曰く、星雲のように輝く金の髪と瞳を持ち、太陽のように明るく温かい心の持ち主だという。

 ――そう聞いていたのだが、エディスたちを出迎えたのは陰鬱そうな顔をした短い黒髪の青年だった。
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