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王の騎士編
4.血の四魔人
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【蒼血のガルバディスト
紫血のルルラルラウディー
紅血のアウガスディラウド
黒血のジュドウアガルバンディア
違いあう血の魔達よ
この血を欲するならば此処に来たりて我が力となれ!】
ギジアから渡された魔法書通りに宙に紋章を書いたエディスの中に赤い光が入ってくる。
途端、ぐらりと姿勢を崩して倒れそうになった体をレウが受け止めた。
「ぐ、ぅ……ッ?」
頭が割れるように痛み、内側から破裂するのかと危ぶむ程に何度も体が跳ねる。
「しくじったな……闇の魔人がいないから」
今エディスの中にいるのは光と天の魔人だから、属性が合わないのだろう。
ギジアは対処法を考え、そういえば魔人が住み着いている剣を持っていたということを思い出して部屋を飛び出していく。
エディスの内側から滲み出てきた、黒く濁った魔力――それを見たレウの目が大きく見開かれる。
「誰だよ、お前は」
エディスの魔力とは似ても似つかない魔力を睨みつけて、やがて気が付いた。
「魔物の魔力か……?」
そういえば魔物になったと言っていた。だが、これはエディスの魔力とは程遠い――……。
必要以上に暴走して出てきた分を食べた魔力は、またエディスの体内に戻っていく。
まるで自分が知らない、生きている人間がエディスの中に存在しているように感じられ、レウは主の手を握る。起きない彼の白い顔ばせに恐れを抱き、手を額に押し当てた。
「起きろよ、早く……」
早く、と口にすると余計になにもできない自分が惨めになる。
「あれっ!? エディス持ち直したの?」
どうやってと怪訝そうにしながらもL.A-21を胸に抱いたギジアに訊かれ、緩慢な動作で上体を起こす。
青白くなった顔を見て、ギジアが二人を案じて寄ってくる。その後ろで、とぐろを巻くように黒い煙が立ち昇ってきていた。
――あれが剣の魔人、グレイアスだろうか。随分機嫌が悪そうだ。
レウの頬に手を当て「頑張ったね」と労わりの言葉を口にしたギジアに眉を寄せる。抱き寄せてこようとする腕を避け、俯いて眠るエディスの顔を見ながら「起きないんだ」と不安を吐露する。
「大丈夫、休んだら起きるよ」
「でも。この人、いつもは馬鹿みたいに頑丈なのに……」
「急に属性が違うのが体内に入ってきたら驚くでしょ。それだけのことだよ」
それよりベッドに運んであげようと肩を撫でられ、そうですねとレウはエディスを横抱きにして持ち上げた。
シルク様が亡くなった夜も、こうして倒れたエディスを医務室に運び入れたのを思い出す。
あの時は、医者が慢性的な過労だと怒鳴って、上層部に抗議する程の疲れを負っていた。
なにより、シトラス・ブラッドが自分たちの上官に対して怒鳴って、謂れのないことで詰って、蹴り倒していき――。体を起こそうとしないエディスに声を掛けようとして、肩が震えていることに気が付いた。
いつも涼しい顔で誤魔化していた年下の上官は、声を殺して泣いていた。
初めて部下になったシルク様と親しくしていて。なにより、その涙でやはり兄妹なのだともらい泣きをする奴も多かった。
泣き疲れたか、元々血を吐くくらいに体調の悪さを体は訴えていたからそのせいか、しばらくしてからエディスは意識を失った。
(この人が泣くのも、倒れるのも……見たくねえ)
シトラスが来てからエディスも、隊も病んでしまった。
必要以上に戦いにのめりこんでいった、誰かを守らなければと鋭い表情をすることが多くなり笑わなくなった。
ベッドに寝かせたエディスの顔は、あの頃と同じように紙のように白い。
――初めて会った夜にこの人が掛けてくれたまじないは、なんと言っただろうか。
「あのさ、レウ。そんな顔してたらエディスも気にしちゃうよ」
突然ギジアに背を撫でられ、驚いて顔を向ける。
眉を寄せて少し怒ったような顔つきのギジアは、両の人差し指を自分の頬を当てた。
「笑いなよ、ちょっとはさ」
周りが幸せな顔してないと分からないものだよと口をすぼめてウインクをされて、レウは己の顔がピクリと動くのを感じた。
笑う? なにを言っているのだろうか、この男は。
「……俺が笑って、コイツが喜ぶわけないだろ」
「一番傍にいて、愛されてるのに分からないんだ」
喜ぶと思うけどなあ、とギジアが足を振り上げて歩く。
イーザックの時から妙に達観しているというか、今一つ信じきれない調子の軽さがある。
北部最大の領地を代々治める、金の公爵。
――だが、それにしては時折おぞましく感じる。まとわりつくような、湿り気を帯びた目をするのだ。
「好きな人がいるらしいんですよ、コイツは」
「誰から聞いたの、それ」
そんな素振りエディスにないけどとギジアが怪しむ。
だが、「シルベリア大佐からですよ。仲良い人ですし、そういう話もするんでしょうよ」と確かな情報源がこちらにはあると主張する。
「へえ……じゃあ本当なんだ」
意外だなと口端を緩めて笑うギジアに、うるさいと言い返しそうになった。
「南部のリスティー・フレイアムかな? 手紙を送っていたから……」
「まさか。あの女のこと猪扱いしてましたよ。それに、あの人は意外とマメな人でね」
ギジアが持ってる剣を揺さぶって問いただしたいところだが、エディス以外に懐くことも口を聞くことがない魔人だと知っているのでしない。
「だから、いいんだよ。この人さえ……」
「幸せになってくれればって? ちょっと健気すぎないかな」
奪いたいとかないのと言われるが、下手したらエディスから嫌っていると思われている節がある。傍に置いてもらっているだけで十分すぎるくらいだ。
口と態度が悪さをしているせいなのだが、だとすればどう接すればいいのか分からなくなってしまう。
「今が一番いいんだよ」
愛妾だなんて冗談を言ってもらえるくらいの距離感が丁度いいのだ、きっと。
紫血のルルラルラウディー
紅血のアウガスディラウド
黒血のジュドウアガルバンディア
違いあう血の魔達よ
この血を欲するならば此処に来たりて我が力となれ!】
ギジアから渡された魔法書通りに宙に紋章を書いたエディスの中に赤い光が入ってくる。
途端、ぐらりと姿勢を崩して倒れそうになった体をレウが受け止めた。
「ぐ、ぅ……ッ?」
頭が割れるように痛み、内側から破裂するのかと危ぶむ程に何度も体が跳ねる。
「しくじったな……闇の魔人がいないから」
今エディスの中にいるのは光と天の魔人だから、属性が合わないのだろう。
ギジアは対処法を考え、そういえば魔人が住み着いている剣を持っていたということを思い出して部屋を飛び出していく。
エディスの内側から滲み出てきた、黒く濁った魔力――それを見たレウの目が大きく見開かれる。
「誰だよ、お前は」
エディスの魔力とは似ても似つかない魔力を睨みつけて、やがて気が付いた。
「魔物の魔力か……?」
そういえば魔物になったと言っていた。だが、これはエディスの魔力とは程遠い――……。
必要以上に暴走して出てきた分を食べた魔力は、またエディスの体内に戻っていく。
まるで自分が知らない、生きている人間がエディスの中に存在しているように感じられ、レウは主の手を握る。起きない彼の白い顔ばせに恐れを抱き、手を額に押し当てた。
「起きろよ、早く……」
早く、と口にすると余計になにもできない自分が惨めになる。
「あれっ!? エディス持ち直したの?」
どうやってと怪訝そうにしながらもL.A-21を胸に抱いたギジアに訊かれ、緩慢な動作で上体を起こす。
青白くなった顔を見て、ギジアが二人を案じて寄ってくる。その後ろで、とぐろを巻くように黒い煙が立ち昇ってきていた。
――あれが剣の魔人、グレイアスだろうか。随分機嫌が悪そうだ。
レウの頬に手を当て「頑張ったね」と労わりの言葉を口にしたギジアに眉を寄せる。抱き寄せてこようとする腕を避け、俯いて眠るエディスの顔を見ながら「起きないんだ」と不安を吐露する。
「大丈夫、休んだら起きるよ」
「でも。この人、いつもは馬鹿みたいに頑丈なのに……」
「急に属性が違うのが体内に入ってきたら驚くでしょ。それだけのことだよ」
それよりベッドに運んであげようと肩を撫でられ、そうですねとレウはエディスを横抱きにして持ち上げた。
シルク様が亡くなった夜も、こうして倒れたエディスを医務室に運び入れたのを思い出す。
あの時は、医者が慢性的な過労だと怒鳴って、上層部に抗議する程の疲れを負っていた。
なにより、シトラス・ブラッドが自分たちの上官に対して怒鳴って、謂れのないことで詰って、蹴り倒していき――。体を起こそうとしないエディスに声を掛けようとして、肩が震えていることに気が付いた。
いつも涼しい顔で誤魔化していた年下の上官は、声を殺して泣いていた。
初めて部下になったシルク様と親しくしていて。なにより、その涙でやはり兄妹なのだともらい泣きをする奴も多かった。
泣き疲れたか、元々血を吐くくらいに体調の悪さを体は訴えていたからそのせいか、しばらくしてからエディスは意識を失った。
(この人が泣くのも、倒れるのも……見たくねえ)
シトラスが来てからエディスも、隊も病んでしまった。
必要以上に戦いにのめりこんでいった、誰かを守らなければと鋭い表情をすることが多くなり笑わなくなった。
ベッドに寝かせたエディスの顔は、あの頃と同じように紙のように白い。
――初めて会った夜にこの人が掛けてくれたまじないは、なんと言っただろうか。
「あのさ、レウ。そんな顔してたらエディスも気にしちゃうよ」
突然ギジアに背を撫でられ、驚いて顔を向ける。
眉を寄せて少し怒ったような顔つきのギジアは、両の人差し指を自分の頬を当てた。
「笑いなよ、ちょっとはさ」
周りが幸せな顔してないと分からないものだよと口をすぼめてウインクをされて、レウは己の顔がピクリと動くのを感じた。
笑う? なにを言っているのだろうか、この男は。
「……俺が笑って、コイツが喜ぶわけないだろ」
「一番傍にいて、愛されてるのに分からないんだ」
喜ぶと思うけどなあ、とギジアが足を振り上げて歩く。
イーザックの時から妙に達観しているというか、今一つ信じきれない調子の軽さがある。
北部最大の領地を代々治める、金の公爵。
――だが、それにしては時折おぞましく感じる。まとわりつくような、湿り気を帯びた目をするのだ。
「好きな人がいるらしいんですよ、コイツは」
「誰から聞いたの、それ」
そんな素振りエディスにないけどとギジアが怪しむ。
だが、「シルベリア大佐からですよ。仲良い人ですし、そういう話もするんでしょうよ」と確かな情報源がこちらにはあると主張する。
「へえ……じゃあ本当なんだ」
意外だなと口端を緩めて笑うギジアに、うるさいと言い返しそうになった。
「南部のリスティー・フレイアムかな? 手紙を送っていたから……」
「まさか。あの女のこと猪扱いしてましたよ。それに、あの人は意外とマメな人でね」
ギジアが持ってる剣を揺さぶって問いただしたいところだが、エディス以外に懐くことも口を聞くことがない魔人だと知っているのでしない。
「だから、いいんだよ。この人さえ……」
「幸せになってくれればって? ちょっと健気すぎないかな」
奪いたいとかないのと言われるが、下手したらエディスから嫌っていると思われている節がある。傍に置いてもらっているだけで十分すぎるくらいだ。
口と態度が悪さをしているせいなのだが、だとすればどう接すればいいのか分からなくなってしまう。
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愛妾だなんて冗談を言ってもらえるくらいの距離感が丁度いいのだ、きっと。
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