【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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王の騎士編

5.王太子になる条件

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 目を開けたエディスは、自分の体内に住まう魔人たちが悠々と過ごしていることに安堵した。

 突然今までと違う属性の魔力が入ってきたことによる拒絶反応だったのだろう。血の魔人は中に残っていた吸血鬼の魔力と合わさって落ち着いたと、妙に機嫌のいい四人に苦笑いを浮かべる。

 またあの人に助けられたな――たった数度の出会いで、こんなにも恩が積み重なるなんてと寝転がったエディスの目に金色が飛び込んできた。
 それはあの人の金色よりも鮮やかで、エディスは慌てて体を起こした。

「体の調子はどう?」

 起きたことに気が付いていたのかと、乱れた髪を手櫛で整えながら「もういいよ」と返す。

「悪かったな、倒れたりして」

 驚いたよと口元に笑みを浮かべるギジア。
 どうして自分の傍にいるのが彼なのだろうという疑問が湧いてきて、エディスはつい「レウは」と口にしてしまった。すると、言われた側は笑みを崩して「もう、なんなの君たち」と怒った。

「エディス、君はレウをどうしたいの」

「中央に連れ帰ろうと思ってるけど、なんかあったのか」

 眠っている間にレウに異変があったのかと問いただそうとしたエディスを制したギジアは、そうじゃないと渋い顔になる。

「レウが君を好きなことは分かってる?」

「まさか。人としては嫌われてるだろ、俺。考えなしに行動するし、他の士官と違って目的とか持ってなかったしさ」

 そう言うと、ギジアは右のこめかみに手を当ててそこからかと呻いた。

「好きな人がいるって、本当?」

「えぇ? どうだろうな。あんまりよく分からないんだよ、ソイツのこと。ほとんど会ったことないからな」

 聞いたギジアは両肘に手を当てて考え込んでから顔を上げ援助人かと訊いてくる。首を振って否定すると、よかったと顔の強張りを解く。

「体の関係を迫られているなら、ソイツの所にレウと一緒に乗り込もうかと思ったよ」

「ミシアじゃあるまいし、任務を頼んだりしてきたことないぞ」

 あっ……でもとエディスが唇の下に指を押し当てて顔を向け、微笑って「キスはしたことある」と言うと、目を見開かれる。
 それにエディスはどうしたのかと目を丸くして彼を伺い見た。

「それ、何歳の時?」

「年!? え……じゅ、十三くらいだけど」

 相手はいくつか訊いてくるギジアに、エディスは分からないと首を振る。性別、背格好まで連続して質問をされたエディスは待ったを掛けた。

「どうしたんだよ、ギジア。言ったろ、俺もあんま会ったことないから……そんな分かんねえって」

 正体、年齢不明の男でしかも魔物かつ能力者――……どう考えても不良債権だとしか思えない。
 おそるおそる上げたギジアの気色ばんだ顔にエディスは身を硬くさせる。

「エディス、俺はレウを応援するから」

「なんでレウ!?」

 どういうことだと叫ぶエディスに、ギジアは「レウが可哀想だ」と泣き真似までする。

「あんまり無下にしたら俺がレウを貰うからな」

「えっ……それは嫌だ」

 明らかに俺とだとギジアの方に懐いてるし……でもレウが望むならと躊躇うエディスに、やっぱりレウが可哀想だと脱力した。

*** *** *** *** ***

 落ち着いたなら食べてとギジアが運んできた、トマトとパンで作ったお粥をスプーンで掬う。
 膝に置くだけのギジアに面食らったが、ここでレウなら食べさせてくれるのにと不満を漏らしたらまた怒られてしまうに違いない。

 だが、魔力を適合させるのに体力をかなり消耗したのは事実だ。
 不愛想に足を組んで、眉間に皺を寄せたしかめっ面をしているのに適温にしてから口元まで運んでくれる部下がいないのは、今のエディスにとっては正直堪えた。

「……レウがいいって顔してるけど」

 甘えてないで自分で食べなさいと渋い顔をされ、エディスは分かってるよと顔を背けてスプーンを口まで運ぶ。雑味の少ないトマトに、「美味しい」と感想を言うとギジアは良かったねと肩を震わせた。

「レウが作ったからお礼を言っておくんだよ」

 どうりで薄味だと思ったとエディスは頷く。

 イーザックが作る料理はどれも味が濃く、甘い。
 中央で生まれ育ったエディスだけがそう思っていたらしく、相談してみたレウには「北部ではこんなものだ」と言われた。
 明日からは俺が作ろうかと提案してくれた彼に、レウの故郷の味なのだから慣れるように努力すると返したら妙な顔をしていたが――

「エディス、またレウのこと考えてない?」

 顔の前で本を閉じられ「わっ」と叫び声を上げると、結構顔に考えてることが出るよねとギジアは呆れた顔を隠そうともせず嘆息した。

 イーザックじゃなくなったギジアは変な笑い声や発言をしなくなったけれど、少し意地悪になった。
 人が嫌いで歪んだ性格だと前もって言われていなければ、嫌われたのかと思ってしまっていただろう。

「ギジア、もしかしてだけど。なんか用があったりするのか」

「あるからいるんだよね」

 こんな真夜中じゃないと話せないからねと膝に本を置く彼の顔を見つめてから、パン粥に向き直る。食べ切って、サイドテーブルにトレイごと置いてから、体の向きを変えてギジアと顔を見合わせた。

「もう寝たいから単刀直入に言うけど、王太子になるって決めたんだよね?」

「お……うん」

 まさか反対されるのだろうかと怖々頷くと、ギジアは膝上の本の表紙を撫でる。

「王位を競うためには条件があるんだ」

「……継承魔法を使えれば、王太子になれるんじゃ」

「ないよ。その魔法、譲渡可能だから」

 舌を出し、手で首を切る動作をしたギジアに「君になにかあったら次の人に譲渡される仕組みになってるから」と言われたエディスは顔を引き攣らせた。

「その、条件って」

「四人の賢人に三人の騎士、二人の協力者を集めること。まあ要は未来の官吏を選んでおけってことだね」

 頭の痛い問題だが、確かに王に絶対不可欠な要素だ。

「身分はなんでもいいのか?」

「君自体が奴隷出身なんだから、そこから認めさせればいいんじゃないの」

 頑張れと親身になってくれているようで他人事を吐いているギジアの様子をひそかに見て、「ギジアは手伝ってくれたりしないのか」と言ってみる。

「この屋敷に来た時点で巻き込まれてるようなものだけど……」

「それはそうなんだけど、でもさぁ」

「俺としても、国に滅びられると困るし。検討しておくよ」

 偽物の王に立たれるよりかはマシと断じたギジアに、エディスは頼むよと手を合わせて見つめた。

「まあなんにせよ、奴隷身分はどうにかした方がいいだろうね。誰か高位貴族に養子にしてもらえないか頼んでみたら」

 エンパイア家とかさ、と言われてエディスは目を閉じて考えこむ。ブラッド家との癒着も気になるところだし、帰ったらミシアに任務を頼まれるかもしれない。

「調査を兼ねて行ってみてもいいかもな」

「そう。じゃあエドに伝えておくよ」

 まだ起きているだろうからと席を立ったギジアに感謝を伝えると、「何度も言うけど、レウを悲しませないようにね」と額に指を突きつけられる。

「わ、か……った」

「愛人作るなら平等にね。全員愛さないと許さないから」

 それでうちの家は崩壊したと厳めしい顔をしたギジアが踵を返すと、長い髪が顔面にぶつかった。痛いと主張したが、まるっきり無視して出ていく。

 エディスはこんな調子で見つかるのかと肩を落とした。
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