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暁の舞台編
2.愛の食わず嫌い
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(しまった、そういうことか……!)
ドラゴンを駆って暁の舞台まで接近したエディスは、内心叫び声を上げた。
舞台には記憶に新しい異形の物が、まるで国宝であるかのように厳重に飾られていた。今にも奇声を上げそうな、踊るマンドラゴラ――遺伝情報を調べられる魔法装置だ。
「クソッ、ギジアの奴!」
あの装置はエディスが王族か調べるだけでなく、魔力を入手するために造られたのだろう。こうして証拠として出されてしまった以上、今更それは俺の魔力で、ハイデに魔力などないから無効にしてくれと主張しても遅い。
ハイデの隣にすまし顔で立つ長い金髪の男を見る。
随分といい仕立ての服を着させられているが、お飾りの人形といった様子ではないのが彼の面倒なところだ。エドワードを見ていても思うが、”公爵”であるべく育てられた芸術品なのだろう。
光を失ったかのよう、ギジアの昏い金の瞳がこちらを捉えてくる。
彼は顔色ひとつ変えず、上向けた手の平に両手杖を出す。そして、間髪入れずこちらに向かって無数の魔法弾を繰り出してきた。
「ドラゴンブレス!」
口から放射された熱光線は、見事ギジアの魔法弾を相殺する。
ドラゴンの背から飛び降りたエディスは舞台に着地し、銀の髪を靡かせて辺りを見渡す。奸臣と噂されている大臣らだけでなく、軍の代表としてかトリエランディア大将やデイヴィス中将の顔も確認できた。
そして、仰々しい椅子に腰を掛けているハイデの冴えない顔。
今にも処刑台に立たされる罪人のように覇気がなく、狼狽えている。とても王子とは信じ難い有様だ。
「これは神聖な儀式。皆々様、お静かに願います」
神官服に身を包んだ妙齢の男。
その傍らに立つ女性が周囲に射るような視線を送ると、場が静寂に包まれた。長い黒髪を肩から背に流し、神秘的な紫色の瞳の女は小さな口を動かして「よろしいですね」と目を伏せる。
「王の証を持つ者よ、其方の名を」
驚いた。まさかこんなにも早く王子と認められるとは思わなかったのだ。審問が先になるのではと思っていたので、拍子抜けした。
「遅れました、私はエドワード・ティーンス」
「あの痴れ者を排除なさい!!」
キシウが手を振るって命じるが、兵士は狼狽えてこちらの顔色を窺ってくる。こちらも王子なのではないかと言いたげな顔に、エディスは皮肉げな笑みを顔に浮かべてみせた。
「その噎せ返る花みたいな香水。よく覚えてるぜ、”エディスさん”」
約十三年ぶりかと首を傾げて睨み下ろすと、女は顔を歪めて舌打ちしかねない形相になる。まるで鬼女のようで、尊い国母の姿には程遠い女を「小皺が寄るぜ、やめとけよ」と鼻で笑う。
「あなた、なにをしに来たの」
「俺は軍人だ。でもって、軍人の仕事ってのは国や民を護ることだろ」
常に腰に佩いているL.A-21を手でなぞる。戦うことになるかもしれないから連れていけというリスティーの強い進言があってのことだ。
「アンタらの目論見を潰しに来た」
風で女の銀髪が逆巻く。
辺りに禍々しい魔力が漂い始め、エディスは目を細めて術を展開させた。
――アンビトン・ネージュ著『精神干渉魔法への対抗策』の序文にはこう記されている。
いかに強固な意思があろうとも、豊富な魔力を持つ者が操る精神干渉魔法に拮抗することはできない、と。
この魔法の厄介たる点は、色もなく匂いもせず、絶え間なくこちらに攻撃をしかけてくる点だ。
だが、術者以上に魔力がある者ならば。
例えば、魔法を切る力があれば――常に拮抗し得るのではないか。エディスは、普段は右手に生じさせている極東の主を薄く、膜を張るように自分の周りに展開させた。
「エドワード王子は魔力拒否症と魔力増大症によって、生まれ落ちた直後に死にかけたんだろ」
キシウの赤い口元がヒクリと歪む。それがなに、と彼女の口が動くのを見てエディスは頷きかける。
「ところが父親であるレイガス王の防御魔法によって生き永らえた。――なあ、アンタは家族を金で買えると思うか」
「さあね。でもね、奴隷を家族のように扱う者はいるじゃない」
キシウは口元を扇で隠し、垂れ目をさらに歪めてさも滑稽そうに微笑む。
「金で愛が買えると思ってんのか。魔法で惑わせても幻にすぎないことをアンタたちはそろそろ知るべきだ」
少なくとも、自分がドゥルースを慕ったのは金の問題ではなかった。彼の献身的な愛情あればこそだ。対してハイデを敬遠したのは、彼の邪心に子どもながら気付いていたからだろう。
「この体に流れる血や魔力が、俺が父さんと母さんの子どもだと示している……ハイデが俺の兄でないことも」
本当の家族が俺を必要だと言えない状況にあるのならば、抱きしめる力さえないのなら――俺の方から、手を伸ばせばいい。
たったそれだけのことに、今の今まで気が付きやしなかった。
民衆の方に向き直ったエディスはシャツのボタンを外していき、胸元を曝け出す。大きく口を開け、見ろと目で訴えかけた。
「これこそ、俺がレイガス王とエディス殿下の息子である証拠だ!」
青く光る紋章――それは、誰もが見間違えることのない。
「王家の、家紋……!?」
どうしてそんなものがとハイデが息を呑み、立ち上がる。
「ち、違う! 彼が、そんな」
愛されているだなんてとハイデは両頬に手を当てて膝から崩れ落ちる。
「彼がエドワード殿下なら、あなたは誰なんです」
「おやおや、殿下がそんなところに座るものではないよ。立てるかな?」
女神官が眉を顰め、トリエランディア大将が立つように促した。
「違います、僕が王子です! 彼は――奴は、魔物なんです!」
指を差されたエディスは、口の片端を吊り上げて不敵に笑う。
ドラゴンを駆って暁の舞台まで接近したエディスは、内心叫び声を上げた。
舞台には記憶に新しい異形の物が、まるで国宝であるかのように厳重に飾られていた。今にも奇声を上げそうな、踊るマンドラゴラ――遺伝情報を調べられる魔法装置だ。
「クソッ、ギジアの奴!」
あの装置はエディスが王族か調べるだけでなく、魔力を入手するために造られたのだろう。こうして証拠として出されてしまった以上、今更それは俺の魔力で、ハイデに魔力などないから無効にしてくれと主張しても遅い。
ハイデの隣にすまし顔で立つ長い金髪の男を見る。
随分といい仕立ての服を着させられているが、お飾りの人形といった様子ではないのが彼の面倒なところだ。エドワードを見ていても思うが、”公爵”であるべく育てられた芸術品なのだろう。
光を失ったかのよう、ギジアの昏い金の瞳がこちらを捉えてくる。
彼は顔色ひとつ変えず、上向けた手の平に両手杖を出す。そして、間髪入れずこちらに向かって無数の魔法弾を繰り出してきた。
「ドラゴンブレス!」
口から放射された熱光線は、見事ギジアの魔法弾を相殺する。
ドラゴンの背から飛び降りたエディスは舞台に着地し、銀の髪を靡かせて辺りを見渡す。奸臣と噂されている大臣らだけでなく、軍の代表としてかトリエランディア大将やデイヴィス中将の顔も確認できた。
そして、仰々しい椅子に腰を掛けているハイデの冴えない顔。
今にも処刑台に立たされる罪人のように覇気がなく、狼狽えている。とても王子とは信じ難い有様だ。
「これは神聖な儀式。皆々様、お静かに願います」
神官服に身を包んだ妙齢の男。
その傍らに立つ女性が周囲に射るような視線を送ると、場が静寂に包まれた。長い黒髪を肩から背に流し、神秘的な紫色の瞳の女は小さな口を動かして「よろしいですね」と目を伏せる。
「王の証を持つ者よ、其方の名を」
驚いた。まさかこんなにも早く王子と認められるとは思わなかったのだ。審問が先になるのではと思っていたので、拍子抜けした。
「遅れました、私はエドワード・ティーンス」
「あの痴れ者を排除なさい!!」
キシウが手を振るって命じるが、兵士は狼狽えてこちらの顔色を窺ってくる。こちらも王子なのではないかと言いたげな顔に、エディスは皮肉げな笑みを顔に浮かべてみせた。
「その噎せ返る花みたいな香水。よく覚えてるぜ、”エディスさん”」
約十三年ぶりかと首を傾げて睨み下ろすと、女は顔を歪めて舌打ちしかねない形相になる。まるで鬼女のようで、尊い国母の姿には程遠い女を「小皺が寄るぜ、やめとけよ」と鼻で笑う。
「あなた、なにをしに来たの」
「俺は軍人だ。でもって、軍人の仕事ってのは国や民を護ることだろ」
常に腰に佩いているL.A-21を手でなぞる。戦うことになるかもしれないから連れていけというリスティーの強い進言があってのことだ。
「アンタらの目論見を潰しに来た」
風で女の銀髪が逆巻く。
辺りに禍々しい魔力が漂い始め、エディスは目を細めて術を展開させた。
――アンビトン・ネージュ著『精神干渉魔法への対抗策』の序文にはこう記されている。
いかに強固な意思があろうとも、豊富な魔力を持つ者が操る精神干渉魔法に拮抗することはできない、と。
この魔法の厄介たる点は、色もなく匂いもせず、絶え間なくこちらに攻撃をしかけてくる点だ。
だが、術者以上に魔力がある者ならば。
例えば、魔法を切る力があれば――常に拮抗し得るのではないか。エディスは、普段は右手に生じさせている極東の主を薄く、膜を張るように自分の周りに展開させた。
「エドワード王子は魔力拒否症と魔力増大症によって、生まれ落ちた直後に死にかけたんだろ」
キシウの赤い口元がヒクリと歪む。それがなに、と彼女の口が動くのを見てエディスは頷きかける。
「ところが父親であるレイガス王の防御魔法によって生き永らえた。――なあ、アンタは家族を金で買えると思うか」
「さあね。でもね、奴隷を家族のように扱う者はいるじゃない」
キシウは口元を扇で隠し、垂れ目をさらに歪めてさも滑稽そうに微笑む。
「金で愛が買えると思ってんのか。魔法で惑わせても幻にすぎないことをアンタたちはそろそろ知るべきだ」
少なくとも、自分がドゥルースを慕ったのは金の問題ではなかった。彼の献身的な愛情あればこそだ。対してハイデを敬遠したのは、彼の邪心に子どもながら気付いていたからだろう。
「この体に流れる血や魔力が、俺が父さんと母さんの子どもだと示している……ハイデが俺の兄でないことも」
本当の家族が俺を必要だと言えない状況にあるのならば、抱きしめる力さえないのなら――俺の方から、手を伸ばせばいい。
たったそれだけのことに、今の今まで気が付きやしなかった。
民衆の方に向き直ったエディスはシャツのボタンを外していき、胸元を曝け出す。大きく口を開け、見ろと目で訴えかけた。
「これこそ、俺がレイガス王とエディス殿下の息子である証拠だ!」
青く光る紋章――それは、誰もが見間違えることのない。
「王家の、家紋……!?」
どうしてそんなものがとハイデが息を呑み、立ち上がる。
「ち、違う! 彼が、そんな」
愛されているだなんてとハイデは両頬に手を当てて膝から崩れ落ちる。
「彼がエドワード殿下なら、あなたは誰なんです」
「おやおや、殿下がそんなところに座るものではないよ。立てるかな?」
女神官が眉を顰め、トリエランディア大将が立つように促した。
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