【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
141 / 274
幸せの鳥編

3.白を掴んだ指先

しおりを挟む
「エディス!!」

 半壊した家屋に飛び込んできたリスティーは男の姿を目に入れると「離れなさい!」と声を発した。入口付近に置いてある棚に一息で飛び乗ると、男に向かって足を揃えて蹴り技を繰り出す。

 ゲッと叫び声を上げて壁に逃げたエディスの周りを、鉱石のような輝きが囲む。堅固な防御魔法に次いで呼びかけがあり、エディスは喜色を滲ませて顔を上げた。

 フェリオネルのドラゴンの背から飛び降りてきたレウの腕にガントレットが現れる。エディスは慌て、リスティーと打ち合っている男に向かって手を伸ばそうとする。だが、四肢を拘束されていて身動きが取りにくく、ベッドから落ちてしまった。

 頭から落ちたエディスは「ぅ……っ」と呻きながらも頬を擦る床に手を突き、体を起こしながら男に叫ぶ。男は余裕ぶった様子で視線を送ってきたかと思えば、足を開いて構え、レウを受け止めた。

「え……っ!? 嘘だろ……」

 生身で受けきる奴など初めて見た。エディスと契約していなくとも、レウのガンドレッドで倒せなかった敵などいなかったのだ。
 驚きに目を瞠るエディスに微かに笑い声を漏らした男は、反対側から迫るリスティーを受け流す。

「おい、大丈夫か」

 下から掬うように腕に抱き上げられ、ベッドに戻される。

「あ……ありがとう」

 淡い白金の髪をしたレウは月夜に明るく、安堵が胸に広がっていく。けれど自分は彼の上官で、更には王にならなければいけない者だ。気持ちが溢れ出てしまわないようにと胸を手で押さえると、その動きで手錠が音を立てた。

「それ」と呟いたレウの視線が上から下にと動いていく。両手足を拘束され、更には家畜のように首輪までつけられている主に憤激し、上瞼が引き上がる。

「アンタなら魔法で解けるだろうに、なにしてんだ」

「あ……それが、今使えなくて」

 これのせいだと思うと血が付着した服や肌を指差すと、ますます目つきが鋭くなっていく。これは革命軍の奴らのせいだと言うと、レウは庇わなくていいとため息を吐く。

「いいから拘束さっさと外して、早く外に!」

 リスティーが叫んで、横凪に腕を振るった。

「この人、強い!」

 という声に、レウは「はあ!?」と叫び返しながらも、魔法で手錠と首輪を外してくれた。

「アンタ、怪我だらけだな」

 髪も土埃がと言って梳こうとしてか手が伸ばされ、動きが止まる。乱れた横髪を指先が撫で上げ、視線が晒された耳に集まっていく。

「耳、なんだこれ……血が、アイツに刺されたのか」

 見覚えのないピアスが嵌っていることに気が付き、片方の奥歯を噛んで立ち上がる。リスティーと互角以上の戦いをしている相手に向かっていこうとするレウの背中に抱き付いた。

「エディス様? ……どうしたんですか」

 手を回して引き寄せるエディスに我に返ったのか、レウも怒りを冷まして振り返る。

「あ……えっと、」

 思わず抱き付いてしまったので、どう言い訳したものかとエディスは思考を巡らせた。彼の温もりが離れることがただ怖かったという本音を言うわけにはいかない。

 そもそも、状況が良くなかった。こう着状態にあるのだから。
 リスティーも本気ではないだろうが、相手にも余裕が多分にあり……つまりはレウの助けが必要だ。わざわざ助けに来て、動けもしない魔法も使えない自分は隅で大人しくしていなければいけないというのに。

「ごめん、レウ……」

 そろそろと体は離せたのに、今度はどうしても彼が着ている軍服の裾を掴む手の力が解けない。
 行ってほしくないと涙が溢れそうになって白い軍服に顔を埋めた。声を押し殺しながら、彼にどう思われているのかという不安で押し潰されそうになる。

「分かった、行かねえよ。早く脱出しろってフレイアムにも言われたしな」

 頭に血が上ったと反省の色を含んだ声が掛けられ、「え?」と顔を上げる。

「怒ってないのか……?」

「いや、アイツには怒ってるぞ」

 アンタのことなら怒る理由どこにあるんだよと腰を曲げたレウに鼻を抓まれた。
 頬を指の背で撫でられ、「求められて嫌になる奴がいたら捨てろよな」と笑いかけられる。

「その様子だと足も怪我してそうだな」

 失礼するぞと断りを得てから横抱きにされ、エディスはごめんと言いながら首に抱き付いた。それに「アンタしおらしい態度取れたんだな」と冗談交じりに言われるが、「好き」としか返せなくて擦り寄る。

「えぇ……はあ、まあ。どうも……」

 こんな時に言わなくってもと照れたようなレウは、上空を旋回しているはずのフェリオネルを呼ぼうとして――目を見開く。

「気付くのが遅いよ」

 今の軍は質が落ちたねと、横目でこちらを見てきた男が呆れたように言葉を落とす。
 片足を引いて半身を捩じってリスティーを避け、腕を掴んでひっくり返す。かと思えば伸びてきた足が首を捉えようとして、男は目を閉じて「この子は鍛錬しすぎだけど」と唸りながらいなす。

「それに、君たちは一つ勘違いをしている。俺は”エディー”の敵じゃないよ」

「傷つけておいてなにを……!」

 馬鹿げたことを言うなと腹を蹴ったリスティーに、ぐっと息を詰まらせながらも「そろそろ気付いたらどうなんだい!?」と促す。それにエディスはなんだと眉を寄せる。

「革命軍か」

 ならフェリオネルだけで戦っているのかと身を硬くしたレウに、エディスは俺を置いていけと命じようとした。だが、目の端に黒々とした物が見えた瞬間に「レウ、範囲防御!」と別の命令を下した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...