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幸せの鳥編
3.白を掴んだ指先
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「エディス!!」
半壊した家屋に飛び込んできたリスティーは男の姿を目に入れると「離れなさい!」と声を発した。入口付近に置いてある棚に一息で飛び乗ると、男に向かって足を揃えて蹴り技を繰り出す。
ゲッと叫び声を上げて壁に逃げたエディスの周りを、鉱石のような輝きが囲む。堅固な防御魔法に次いで呼びかけがあり、エディスは喜色を滲ませて顔を上げた。
フェリオネルのドラゴンの背から飛び降りてきたレウの腕にガントレットが現れる。エディスは慌て、リスティーと打ち合っている男に向かって手を伸ばそうとする。だが、四肢を拘束されていて身動きが取りにくく、ベッドから落ちてしまった。
頭から落ちたエディスは「ぅ……っ」と呻きながらも頬を擦る床に手を突き、体を起こしながら男に叫ぶ。男は余裕ぶった様子で視線を送ってきたかと思えば、足を開いて構え、レウを受け止めた。
「え……っ!? 嘘だろ……」
生身で受けきる奴など初めて見た。エディスと契約していなくとも、レウのガンドレッドで倒せなかった敵などいなかったのだ。
驚きに目を瞠るエディスに微かに笑い声を漏らした男は、反対側から迫るリスティーを受け流す。
「おい、大丈夫か」
下から掬うように腕に抱き上げられ、ベッドに戻される。
「あ……ありがとう」
淡い白金の髪をしたレウは月夜に明るく、安堵が胸に広がっていく。けれど自分は彼の上官で、更には王にならなければいけない者だ。気持ちが溢れ出てしまわないようにと胸を手で押さえると、その動きで手錠が音を立てた。
「それ」と呟いたレウの視線が上から下にと動いていく。両手足を拘束され、更には家畜のように首輪までつけられている主に憤激し、上瞼が引き上がる。
「アンタなら魔法で解けるだろうに、なにしてんだ」
「あ……それが、今使えなくて」
これのせいだと思うと血が付着した服や肌を指差すと、ますます目つきが鋭くなっていく。これは革命軍の奴らのせいだと言うと、レウは庇わなくていいとため息を吐く。
「いいから拘束さっさと外して、早く外に!」
リスティーが叫んで、横凪に腕を振るった。
「この人、強い!」
という声に、レウは「はあ!?」と叫び返しながらも、魔法で手錠と首輪を外してくれた。
「アンタ、怪我だらけだな」
髪も土埃がと言って梳こうとしてか手が伸ばされ、動きが止まる。乱れた横髪を指先が撫で上げ、視線が晒された耳に集まっていく。
「耳、なんだこれ……血が、アイツに刺されたのか」
見覚えのないピアスが嵌っていることに気が付き、片方の奥歯を噛んで立ち上がる。リスティーと互角以上の戦いをしている相手に向かっていこうとするレウの背中に抱き付いた。
「エディス様? ……どうしたんですか」
手を回して引き寄せるエディスに我に返ったのか、レウも怒りを冷まして振り返る。
「あ……えっと、」
思わず抱き付いてしまったので、どう言い訳したものかとエディスは思考を巡らせた。彼の温もりが離れることがただ怖かったという本音を言うわけにはいかない。
そもそも、状況が良くなかった。こう着状態にあるのだから。
リスティーも本気ではないだろうが、相手にも余裕が多分にあり……つまりはレウの助けが必要だ。わざわざ助けに来て、動けもしない魔法も使えない自分は隅で大人しくしていなければいけないというのに。
「ごめん、レウ……」
そろそろと体は離せたのに、今度はどうしても彼が着ている軍服の裾を掴む手の力が解けない。
行ってほしくないと涙が溢れそうになって白い軍服に顔を埋めた。声を押し殺しながら、彼にどう思われているのかという不安で押し潰されそうになる。
「分かった、行かねえよ。早く脱出しろってフレイアムにも言われたしな」
頭に血が上ったと反省の色を含んだ声が掛けられ、「え?」と顔を上げる。
「怒ってないのか……?」
「いや、アイツには怒ってるぞ」
アンタのことなら怒る理由どこにあるんだよと腰を曲げたレウに鼻を抓まれた。
頬を指の背で撫でられ、「求められて嫌になる奴がいたら捨てろよな」と笑いかけられる。
「その様子だと足も怪我してそうだな」
失礼するぞと断りを得てから横抱きにされ、エディスはごめんと言いながら首に抱き付いた。それに「アンタしおらしい態度取れたんだな」と冗談交じりに言われるが、「好き」としか返せなくて擦り寄る。
「えぇ……はあ、まあ。どうも……」
こんな時に言わなくってもと照れたようなレウは、上空を旋回しているはずのフェリオネルを呼ぼうとして――目を見開く。
「気付くのが遅いよ」
今の軍は質が落ちたねと、横目でこちらを見てきた男が呆れたように言葉を落とす。
片足を引いて半身を捩じってリスティーを避け、腕を掴んでひっくり返す。かと思えば伸びてきた足が首を捉えようとして、男は目を閉じて「この子は鍛錬しすぎだけど」と唸りながらいなす。
「それに、君たちは一つ勘違いをしている。俺は”エディー”の敵じゃないよ」
「傷つけておいてなにを……!」
馬鹿げたことを言うなと腹を蹴ったリスティーに、ぐっと息を詰まらせながらも「そろそろ気付いたらどうなんだい!?」と促す。それにエディスはなんだと眉を寄せる。
「革命軍か」
ならフェリオネルだけで戦っているのかと身を硬くしたレウに、エディスは俺を置いていけと命じようとした。だが、目の端に黒々とした物が見えた瞬間に「レウ、範囲防御!」と別の命令を下した。
半壊した家屋に飛び込んできたリスティーは男の姿を目に入れると「離れなさい!」と声を発した。入口付近に置いてある棚に一息で飛び乗ると、男に向かって足を揃えて蹴り技を繰り出す。
ゲッと叫び声を上げて壁に逃げたエディスの周りを、鉱石のような輝きが囲む。堅固な防御魔法に次いで呼びかけがあり、エディスは喜色を滲ませて顔を上げた。
フェリオネルのドラゴンの背から飛び降りてきたレウの腕にガントレットが現れる。エディスは慌て、リスティーと打ち合っている男に向かって手を伸ばそうとする。だが、四肢を拘束されていて身動きが取りにくく、ベッドから落ちてしまった。
頭から落ちたエディスは「ぅ……っ」と呻きながらも頬を擦る床に手を突き、体を起こしながら男に叫ぶ。男は余裕ぶった様子で視線を送ってきたかと思えば、足を開いて構え、レウを受け止めた。
「え……っ!? 嘘だろ……」
生身で受けきる奴など初めて見た。エディスと契約していなくとも、レウのガンドレッドで倒せなかった敵などいなかったのだ。
驚きに目を瞠るエディスに微かに笑い声を漏らした男は、反対側から迫るリスティーを受け流す。
「おい、大丈夫か」
下から掬うように腕に抱き上げられ、ベッドに戻される。
「あ……ありがとう」
淡い白金の髪をしたレウは月夜に明るく、安堵が胸に広がっていく。けれど自分は彼の上官で、更には王にならなければいけない者だ。気持ちが溢れ出てしまわないようにと胸を手で押さえると、その動きで手錠が音を立てた。
「それ」と呟いたレウの視線が上から下にと動いていく。両手足を拘束され、更には家畜のように首輪までつけられている主に憤激し、上瞼が引き上がる。
「アンタなら魔法で解けるだろうに、なにしてんだ」
「あ……それが、今使えなくて」
これのせいだと思うと血が付着した服や肌を指差すと、ますます目つきが鋭くなっていく。これは革命軍の奴らのせいだと言うと、レウは庇わなくていいとため息を吐く。
「いいから拘束さっさと外して、早く外に!」
リスティーが叫んで、横凪に腕を振るった。
「この人、強い!」
という声に、レウは「はあ!?」と叫び返しながらも、魔法で手錠と首輪を外してくれた。
「アンタ、怪我だらけだな」
髪も土埃がと言って梳こうとしてか手が伸ばされ、動きが止まる。乱れた横髪を指先が撫で上げ、視線が晒された耳に集まっていく。
「耳、なんだこれ……血が、アイツに刺されたのか」
見覚えのないピアスが嵌っていることに気が付き、片方の奥歯を噛んで立ち上がる。リスティーと互角以上の戦いをしている相手に向かっていこうとするレウの背中に抱き付いた。
「エディス様? ……どうしたんですか」
手を回して引き寄せるエディスに我に返ったのか、レウも怒りを冷まして振り返る。
「あ……えっと、」
思わず抱き付いてしまったので、どう言い訳したものかとエディスは思考を巡らせた。彼の温もりが離れることがただ怖かったという本音を言うわけにはいかない。
そもそも、状況が良くなかった。こう着状態にあるのだから。
リスティーも本気ではないだろうが、相手にも余裕が多分にあり……つまりはレウの助けが必要だ。わざわざ助けに来て、動けもしない魔法も使えない自分は隅で大人しくしていなければいけないというのに。
「ごめん、レウ……」
そろそろと体は離せたのに、今度はどうしても彼が着ている軍服の裾を掴む手の力が解けない。
行ってほしくないと涙が溢れそうになって白い軍服に顔を埋めた。声を押し殺しながら、彼にどう思われているのかという不安で押し潰されそうになる。
「分かった、行かねえよ。早く脱出しろってフレイアムにも言われたしな」
頭に血が上ったと反省の色を含んだ声が掛けられ、「え?」と顔を上げる。
「怒ってないのか……?」
「いや、アイツには怒ってるぞ」
アンタのことなら怒る理由どこにあるんだよと腰を曲げたレウに鼻を抓まれた。
頬を指の背で撫でられ、「求められて嫌になる奴がいたら捨てろよな」と笑いかけられる。
「その様子だと足も怪我してそうだな」
失礼するぞと断りを得てから横抱きにされ、エディスはごめんと言いながら首に抱き付いた。それに「アンタしおらしい態度取れたんだな」と冗談交じりに言われるが、「好き」としか返せなくて擦り寄る。
「えぇ……はあ、まあ。どうも……」
こんな時に言わなくってもと照れたようなレウは、上空を旋回しているはずのフェリオネルを呼ぼうとして――目を見開く。
「気付くのが遅いよ」
今の軍は質が落ちたねと、横目でこちらを見てきた男が呆れたように言葉を落とす。
片足を引いて半身を捩じってリスティーを避け、腕を掴んでひっくり返す。かと思えば伸びてきた足が首を捉えようとして、男は目を閉じて「この子は鍛錬しすぎだけど」と唸りながらいなす。
「それに、君たちは一つ勘違いをしている。俺は”エディー”の敵じゃないよ」
「傷つけておいてなにを……!」
馬鹿げたことを言うなと腹を蹴ったリスティーに、ぐっと息を詰まらせながらも「そろそろ気付いたらどうなんだい!?」と促す。それにエディスはなんだと眉を寄せる。
「革命軍か」
ならフェリオネルだけで戦っているのかと身を硬くしたレウに、エディスは俺を置いていけと命じようとした。だが、目の端に黒々とした物が見えた瞬間に「レウ、範囲防御!」と別の命令を下した。
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