【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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神殿編

7.命の入れ替え

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「神様を……ですか」

 緊張してきたのか、顔が強ばって青ざめたロイがまず口を開いた。

「俺の母親、エディス・ティーンスは行方不明扱いされてるよな」

「はい、王子を捜している最中に見失ったと」

「それともう一つ。北方の城で身投げをしたという説も有名だよね」

 僕のお母様はそれを真似たしと言って、こちらに手のひらを見せたエドワードが目を閉じる。それでだったのかとエディスは驚いて薄く口を開いたが、肩を叩いてきたレウに話を促されて「あ、ああ……っ」と気を取り戻す。

「彼女はすでに亡くなっている。シュトー・ブラッドに殺されたんだ」

「そんな!」とロイが腰を浮かせたがギールが真実だと言い、落ち着くようにと周りに視線を巡らせる。

「突き刺すと神の生贄になってしまう剣があるんだ。キシウが作った魔法で、それがエディスの胸に貫通するのを見た」

 ぇ、っと喉から声が漏れだし、ギールに顔を向ける。
 刀身が赤黒く、血に塗れたように艶めいた剣――母さんはあんな物を胸に突き刺されて死んだのか。

 ……いや、だがそれだと南で出会った魔女・シュアラロが言っていたことと合わない。
 彼女は、自分の胸を貫けと迫ってきた。そうすることでエディス自身が浄化され、供物になるのだと。

「エディー、シュアラロは魔物だからアレじゃ死なないんだ」

 だったら、一体なんの為に。

「……あ」

 そう口にしようとしてエディスは一つの考えに思い当たった。
 どうして、今までそこまで思考を巡らせられなかったのか。自分の愚かさに吐き気がしてきそうで、口に手を当てる。

 目を強く閉じ、体内の揺らぎを整えてから口を開く。

「俺と母さんの命を入れ替えるのか」

「うん、そうだろうね」

 だから俺が保護しようって言ってるのにと手が伸びてきて、エディスは上体を後ろに曲げて逃げようとする。喉からひっという悲鳴が溢れ、体が硬直してしまう。

「触るな」

 後ろから伸びてきたレウの手が阻み、リスティーがギールの両肩を掴んでロイの側に倒した。

「だからコイツを座らせるなって言ったんだ」

「ロイさんと場所を交代しなさい」

 早く! と腕を腰に当てたリスティーに言われると、ギールは両手を上げて「ひどいなあ」と笑いつつも大人しくロイと位置を交代する。だが、変な人だとでも思われたのか、ロイがリスティーを見上げた。

「リスティーちゃんが座った方がいいんじゃない?」

「なにかあった時にすぐ動けないから嫌よ。レウさんが座って」

 指名されたレウが「なんで俺が」と言う。だが、体格的にもその方がいいよとエドワードに説得され、各自移動する。

 隣に座ったレウに「青ざめてる」と頬を手で包まれ、唇を撫でられた。その温かさに強ばりが溶けていき、体を任せてしまいそうになる。だが、人前であることを意識して「大丈夫だ」と半笑いで返す。

 心配そうな眼差しを避けるように前を向くと、泣きそうな顔をしているフェリオネルに「つまり……えっ、どういうことですか」と縋るように見られてしまった。

「神を殺さなければ、俺が次の生贄になるんだ」

 眉を下げて微笑んだエディスに、フェリオネルは「そんな!」と叫ぶ。

「どうしてエディス様が生贄になど、ならなければいけないんですか!」

「……フィンティア家で神を呼ぶ魔法を使ったことがあって、それで目を付けられたらしい」

 俺と初めて会った時のことだよねとギールが身を乗り出してきたので、レウが顔を押し戻す。

「ソイツの妹が、母さんを助けたいから俺に代われとさ」

「エディスを使った封印も綻びてきてるから、維持するなら代替えが必要なんだよね」

「は? なんで言うことを聞かなきゃいけない」

 コイツが変なことを言ってたのはそのせいかとレウに睨まれると、ギールは「妹の考えであって、俺じゃないよ」と冷めた顔つきで言い返す。

「待って。じゃあ、あの時シュアラロさんを刺してたらアンタは死んでたってこと!?」

「かもしれないってだけだ。でも、その可能性が高くなってきたな……」

 肉体だけ神に与えられ、抜かれた生命力のようなものは母親へ。おぞましい話だと笑ってしまいそうになる。

「うそ……ごめん。それなのに、あたし、なにも知らず」

 髪をぐしゃりと握るリスティーに、エディスは「リスティーのせいじゃないだろ。あの時の俺には情報が必要だった」と慰めの言葉を口にする。

「あの、俺……気になることがあって」と小さく手を挙げたロイが、自分に注目するように呼びかけた。

「神官長、最近ずっとハイデ殿下やブラッド社長と話してるんだ。気になって盗聴してみたことがあるんだけど」

 神の力を奪えないかとか、時間切れが近づいてきてるとか言ってた……とだんだん尻すぼみになっていくロイの言葉に、皆は顔を見合わせた。

「ブラッド社長の目的はなんだ?」

「思いつくとしたら、最愛の妻を生き返らせたいとかかな」

 愛妻家だったからねとエドワードが言い、バスティスグラン兄妹が「そうなんですか」と声を合わせる。

「その証拠に、妻の子であるシュウだけはある程度自由にさせてるでしょ」

「監視もして逃がさないようにもしてるみたいですけど、そう言われればそうですね」

 シュウってそうだったのかとエディスが驚くと、エドワードが「全員腹違いだけどね」と言う。

「ハイデはキシウ、シュウは前妻、シトラスは今の妻の子だよ」

「呆れた」とリスティーが言うと、ギールが首を振る。

「だけど、彼が愛しているのは魔物に殺された前妻だけだよ」

「彼女がいた時も野心はあった。でもそれは実業家としては当然と言っていいくらいの程度だったし、そもそもキシウからは逃げようとしていたんだ。今の妻は……実は生きてなかったりしそうだよね」

 王女であることを理由に夜這いを仕掛けてるキシウから何度も逃げようとしてたから……と同情の意を見せるギールに、それは怖かっただろうなと全員が同情してしまう。

「そもそも、神ってなんなんでしょう? 人を生き返らせる力を持っているものですか?」

 私も無神論者なのでとアーマーが腕を組む。

「最上階にはなにがあるのか知ってますか」とロイを見て訊ねるが、彼は首と手を振った。

「あの部屋、扉が開かないから知らないんだ。でも、叔母さんは人より大きい女性の形をした隕石があるって言ってたなぁ」

 その証言に、ギールが「俺より大きいよ、あの隕石」と平然と宣ったのでフェリオネルが「いっ、隕石ですか!?」と叫んだ。

「君は立太子の儀式に立ち会わなかったの?」

「そうですけど…でも、隕石だなんて言ってなかったですよ」

「でも、こう言ってたでしょ。”能力者に宿っているのは、遠い世界から来訪した神だ”ってね」

 そう言われると、ああと納得した。
 無言ではあったものの腑に落ちていなかったのか、ロイが「そういうことだったんだ……」と言いながらため息を吐く。

「じゃあ、叔母さんたちが祈ってたのって」

「他の星から来た侵略者ってところかな」

 敵対意志があるかどうかは分からない。

「エディー、例の古代の神を取り出す装置は能力者に使わなかったの?」と訊ねられ、首を振った。

「能力者は生命機能すら乗っ取られてんだ、使ったら死ぬだろ」

「人を乗っ取ってなにをするつもりなんですか」

 恐ろしいと震えるフェリオネルの頭をエドワードが撫で、「証拠のないことで怯えないの」と宥める。

「そもそも、どうして魔物と相対している時に乗り移ってくるんでしょう。古代の神が入るならまだ理解ができるんですが」

「古代の神が近づいた時に少しだけ緩みが生じるから、そこから入り込むんじゃないの」

「ただ入っただけで能力を付与することができるんだ、大層な力だろうな」

 レウが鼻で笑い、エディスの手を握って見つめてきた。あまりに真面目な顔だったので胸が跳ねる。

「ど、どうし……」

「でも、アンタは渡さない」

 神だろうとなんだろうとと告げられ、目の下を指の腹で撫でられる。
 きゅうと胸が鳴ったような気がして手で押さえたエディスは、口を小さく開け――結局なにも言えず引き結ぶ。白い頬どころか耳まで赤くなってきたのを見て、レウは首を傾げた。

「おい?」と肩を掴まれたエディスは、びくんと体を大きく跳ねさせた。目を丸くしたレウに背を丸めて顔を近づけると狼狽え、ついには目を閉じてしまう。

「ちょ、ちょーっと待った」

 エディスってこういうの苦手だったのねとリスティーがレウに制止を促し、これは手を出せないわよねとレウに同情の目を向ける。

「おい、コイツが勝手に勘違いしてるだけだぞ」

 呆れ顔になったレウに、大丈夫かと左顎辺りをくすぐられた。
 真っ赤になったまま首を動かしたエディスが見上げると、レウは大きくため息を吐いて抱きしめてきた。

「不愉快だよ」とギールがレウの首を掴んで引っ張ると、乱暴にしないの!  とリスティーに手の甲を抓られる。

 ようやく落ち着いて周りを見れるようになったエディスは、握った手の上に顎をのせてにこにこと見ていたエドワードと目が合う。あ……と声が漏れるが、その斜め後ろに立つアーマーが真っ赤な顔を手で押さえているのを見て苦笑いになる。

「格好良い……っ」

 仰天して全員が彼女を振り返るが、目を閉じて長く息を吐き出している最中で気がついていないようだった。
 エディスはそっと体の位置を元に戻し、「えっと、だから」とまだほんのりと赤くなったままの頬を手の甲で擦る。

「神を殺せる力が欲しくて、それで十六魔人の魔法書を集めてたんだ。でもただ集めただけじゃ問題は解決できない、だろ?」

「……そうね。通じるかどうか分からないものね」

 元はバラバラの魔法書を一つの強力な攻撃魔法に作り替えないといけない。

「それなら確かにアンビトン・ネージュの協力がいるな」

 なにせ彼はあらゆる魔法の創造主だ。出した魔法書の数は桁違いだし、理論や実践、解析ですら彼を凌駕する者などいないに違いない。

「それで、どうして連れていくのがレウとロイなの」

「そうですよ、俺じゃなくてリスティーちゃんの方がいいと思います」

 ロイは背後を振り返るが、リスティーは無言で首を振る。

「残念ながら、問題はこれだけじゃないのよ」
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