【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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学園要塞ー後編ー

1.小さな亀裂

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「ほんっとに酷い目にあったんですからね!?」

 ソファーに座っているエディスの胴体に腕を回して胸に顔を埋めてきたロイが泣きじゃくっている。両肘を曲げていたエディスは苦笑いのまま、分かった分かったと同情した。

「王子も、危ないことしたら駄目だって俺が言ったのに」

 黙って行くんだからと顔を上げたロイがぷうと頬を膨らませる。
 いい加減にしろとレウが襟首を引っ張っても、ロイは目を鋭くさせた。

「コイツほんっと心が狭い、そう思いません!?」

 睨んでから、また胸に頬ずりをするロイにエディスは苦笑いになる。

「ロイ、そろそろ部屋を出ないと」

「なんで!? 休んでていいって領主に言われたんですよね?」

「言われたけど、そういうわけにもいかないだろ」

 早急に浄化をしないとと言われたロイは完全に拗ねた顔になって、膝に顔を伏せる。足の間にぐりぐりと押し付けてこられたエディスは、そこは流石にやめろと顔を持ち上げて足を組む。

「俺はあなたの外交官なのに……」

「今回交渉したのは俺だ。内政すら上手くやれないのに大口を叩くな」

「でもアンビトン・ネージュを怒らせたのも王子でしょ!?」

「あれはあれでいいんだ」

 もにょ……とロイが口を動かしたが、言葉にできず俯いた。かと思えばやはり言うのを我慢できなかったのか口を尖らせる。

「出された条件達成できないじゃないですか」

 ――ハイデは達成できたのに。という意味もこめられているだろう。

「おい、口を慎め。テメエ、自分の立場分かってねえだろ」

「分かってるから、アンビトン・ネージュに恩を売りつけたんだろ!」

 大切にしてる領主を助けたのに、もっと感謝されていいはずだと訴えるロイに、レウは眉間に深い皺を刻み込む。

「お前の見え透いた打算に気付かれて、今の現状になってんだよ」

 相手はお前の数十倍長く生きてるんだぞと腕を組むレウに、ロイはふーんと目と眉の間を広くさせた。

「でもお前じゃもっと悪い状況になってるし」

 厳しい声色で呼ぶと、今度はこちらになんの用だという顔を向けてくる。

「俺の見込み違いだったみたいだな。”恩を売った”なんて言うような奴を外交官にするわけにいかない」

「えっ、じゃあ俺、まさか解雇てってことですか!?」

 神殿に戻りたくないんですけどと頭を抱えるロイに、戦場で喚く男の姿が重なったエディスは嫌悪感で眉を顰めた。

「なんだよ、その顔。自分の臣下を見る顔じゃないだろ!」

「お前の方こそ王子に取っていい態度じゃねえだろ」

 不平等を指摘されたエディスは言葉を詰まらせてたじろいだ。だが、間髪入れずレウが言い返してくれる。

「ロイ、夢を叶えるには相応の努力をしないといけないんだ」

「王子の夢は”王子”なんですか~?」

 茶化してくるロイの言葉に、エディスはいいやと否定した。

「誰もが安全に暮らせる国作りだ」

 結局のところ、俺の本質は軍人で、奴隷時代に見てきた暮らしも忘れられないのだ。それを説明すると、ロイは納得してはいないものの大人しくなった。

「今の俺のやり方は王子のポリシーと合わないってことですよね」

「今でさえ困ってるのに、国家間での話し合いになんか出せないだろ」

 倫理に反していると言うと、ソファーに顔を突っ伏す。その後頭部を見て嘆息したエディスは、不安げにレウを見やる。

「……俺は領主に挨拶に行ってくる」

 差し出されたレウの手を取って立ち上がり、部屋の外へと出ていく。
 手を握ったまま廊下を歩いていると、俯きがちになっていたのに気が付いたレウから「大丈夫だ」と声を掛けられた。

「アンビトン・ネージュが保留にしたのは、領主の体調が優れないからって理由だろ」

「そうだけど……本人からじゃないってのがどうにも気にかかるんだよな」

 レイケネスは悪い反応じゃなかったと思うんだけどと悩むエディスの手の甲をレウは撫でてきた。

「アンタが納得するまで話せばいいさ」

 言われたエディスはそうだよなとレウの腕をぎゅっと抱きしめ、彼を上目がちに見つめた。踵を上げて顎にキスをして、微笑む。

「ロイのこと、見張っておいてくれ」

「分かってる」

「悪いな。帰ったらアイツのことを相談してみるから」

 離れる前に抱きしめ合う。
 たった二日だったというのに、もうこの熱が懐かしかった。

 どちらからともなく頬を手で包み、目を閉じて口付けを交わす。離れたエディスはレウの肩を掴んで笑った。

「領主が無事で良かった。ありがとう」

「アンタは……口づけの後に言うことがそれか」

 頬を抓られたエディスは「ゔぅ」と唸って、レウの手に手を重ねる。

「だ、だって……っ、今回は」

「領主が依頼主だったんだろ。それくらい言っといてくれてもよかっただろうが」

 おかげで俺が捜されただろうがと、肉は少ないが肌質が柔らかい頬をむにむにと抓まれる。

「マンタら、ずっと手紙でやりとりしてたんだろ」

 あの人俺のこと知ってただろと目を合わせてきたレウに、エディスは 困って眉を下げる。

「北部にいた時も送ってただろ」

「よく見てるな……」

「アンタが俺に話さないからだ」

 堪らず、エディスはそっと目を伏せて「そうじゃなくて、あれはただ相談してただけだ」と答えた。

「相談って、人生か?」

 そりゃボステルクの領主なら良い相談相手になるだろうがと言うレウに、エディスは首を振る。

「ちがう、恋愛」と呟く。

 あまりに小さな声だったので聞こえなかったのか、顔をさらに近づけてくるレウに、恥ずかしくてたまらなくなる。顔を俯けようとするが、逃げるなよと顎を指で押さえられて視線も合わせようとしてくる。

「っから、恋愛の! 好きな奴がいるんだけど、どうすればいいかかって」

 顔が真っ赤になってしまったエディスは隠したくて、レウの手を握って顎から外させた。
 胸元に抱き付いて、背中に手を回す。

「ずっと、好きだったんだ。レウのこと」

 たどたどしく言って体を離すと、レウは額をほの赤く――つまり、照れていた。
 彼の服の裾を指先で握って、甘えるように見上げる。

「でも、これは俺の気持ちだからさ。気にしなくていいよ……レウは俺の愛人なんだから」

 自分で言って、虚しくなる。すうすうと胸に穴が開いたみたいで、息が満足に入らない。

「……俺っ、レイケネスのところに行ってくるから!」

 ロイをお願いな。そう言ってレウの胸を押して、彼に背を向ける。
 返事はいらないと思った。このまま忘れてくれても、馬鹿なことを言っていると思われてもいい。――彼を困らせてしまうくらいなら。
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