【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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学園要塞ー後編ー

2.憧憬

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 庭に建てられた多角形の屋根が印象的な、白い建物。
 窓が開け放たれ、そこから吹きこんでくる風が温かみのある髪を揺らした。

 組んだ足元で寝ていた白と黒の艶やかな毛並みの犬は、耳をピクリと動かして顔を上げる。
 キャンと一つ鳴いて戸口に走っていくと、ドアを開けた人物に飛びついた。

「ビックリしたー……人懐っこい犬だな」

 しゃがみこんだ者に精一杯の愛嬌を振りまいて撫でてもらうと、満足したのかそのまま出ていってしまう。

 踏んだ白い床面は屋根の青いガラスの色を映していて、まるで波面のよう。
 背もたれがキルティング地になっているソファーは落ち着いたアイボリーで、シャツ一枚という軽装になった体の下に敷かれているクッションは淡いブルー。

 部屋の中で一際目立つのは、鮮烈な陽の光を髪に宿しているネージュだ。
 その膝に頭をのせて目を閉じているレイケネスの、気だるげな様子や大きく開けた胸元から見える肌の色っぽさ。

 犬に招き入れられたものの入った良かったのかと躊躇いつつ、口を開く。

「レイケネスは寝てるのか?」

 声を掛けると、ネージュは胡乱気にエディスを見てきた。

「私がいて彼に危害が及ぶとでも」と冷ややかに言い放つ。

「見張りに来たわけじゃねえって。なあ、うるさくしないからそっち行ってもいいか? 魔法のことで質問があるんだ」

 許可を貰う前に、エディスはサンルームに入っていく。
 二人が使っているソファーの斜め左に置かれている一人がけ用のソファーに座るように勧められ、腰を下ろす。

 テーブルの上に出された紙と羽根ペンに礼を伝え、紋章を描いていく。

「ふむ、十六魔人か。とうに忘れ去られた者たちかと思ったが違うのだな」

 手元を覗き込んできたネージュの興味が引けて嬉しい。

「そうなんだけど、どうすればもっと強くなるかな?」と訊ねる。

 ネージュはふむと声を発すると、今どう考えているのか聞いてきた。
 ローブから取り出した指示棒を手のひらに打ち付けながらエディスの見解を聞いてから、一つ頷いた。

「元は全て一個体であり、個々の力を強化するという考えには私も賛成だ。だが、もう一段階工夫が必要だろう」

 指示棒の先で分解、再構成していく。見る間に複雑怪奇な紋様になっていくので、エディスは顎に手を当てた。

「実験だが、こんなものか。雪の結晶もよいが、もう少し彼らに寄り添ってやりたまえ」

「……うわー、複雑な模様だな」

 こんなの戦闘中に描けるかな? と首を傾げつつも指を動かしていると、ネージュに篭める魔力の微細な調整も必要なのだぞと言われる。
 "魔法"であるからか、意外な協力姿勢を見せてくれた魔人に対して、歯を見せた笑いを浮かべた。

「ありがとう、ネージュ。やっぱりアンタは俺の永遠の憧れだ」

 そう言って笑いかけてみても、ネージュは興味もなさげに視線を外した。己の膝を枕にして眠る男の頭を撫でる。

「……一つ、いいかね」

 手を止めてこちらを見てきたネージュになんだ? と首を傾げた。

「私は彼を正しく愛せていなかったのだろうか」

「最悪の場合、自分を犠牲にしようとしてたからか? それこそ水掛け論だろ」

 膝に頬杖をついて前を見る。
 エディスは、此度のレイケネスの一連の行動は、ハイデたちの出現を予期していたからだと考えている。

 ボステルク――いや、ネージュの為だ。

 レイケネスがネージュをこの地に縛り付ける理由である深淵の魔人を排除しようとしたのも、ネージュや彼の禁書を守ろうとしたのも、全ては。

「夏の準備までしといて、アンタを置いていくなんてことねえって。結果そうなりかけたってだけだ」

 未来の高官候補が集まっているボステルクと、その領主を本気で害すという愚行を取る王子がいるなんて思う方が奇特だ。

 ネージュはそうかねと言って、空中に指を滑らせる。
 どこからか取り出した本をテーブルの上へ置いて、こちらに押してきた。

「魔法の構成要素の分析は私よりもレイケネスの方が得意だ。起きたら師事を受けるがいい」

 それと、と言葉を繋げたネージュが顔を向けてきたので、エディスは背を伸ばして待つ。
 あらかじめ領主にはネージュの師事を受けたい、王宮に招きたいというこちらの意思は伝えていた。
 なので――色良い返事が貰えるのではないかと、エディスは胸を高鳴らせる。

「これは私個人としての意見だが、君が気に入らない。故に、私もこの子も招致を断らせていただく」

「な……っんで、だよ!?」

 衝動的に立ち上がりかけたが、肘置きに手をついて腰を下ろす。

「……理由を教えていただきたい」

「私だけならば、週の何日かなら引き受けてやってもいいと思っていたのだ」

 だがと向けられた眼光の鋭さに、敵に回してしまったことを悟ったエディスはぎくしゃくと体を固めた。

「私からレイケネスを奪おうとする者はすべからく疎ましいのだ」

 胸に手を当て、何故かは分からぬがと目を伏せたネージュが訥々と語る。

「息の仕方も、脈の動かし方も。とうに忘れ、不要になったものでさえ気に掛けなければいけないという気になるのだ。
 常に傍にあるべきだと、このボステルクという箱庭に閉じ込めて鍵に掛けていたはずのレイケネスが自ら出ていこうとするなど、考えも及ばなかった。
 ましてや、私の預かり知らぬところで……いや、君の話は聞いていた。手紙が来る度にファンレターが来るのだと嬉しそうに持ってきては読み上げてくれたのでな。
 いつの間に彼の気が私から遠ざかってしまったのか。考えれば、その発端は君が送ってきた手紙だ。ご丁寧に野生の花畑なんぞの写真を入れていただろう」

 嘆かわしいと額に手を当てて苦しむネージュを唖然とした見つめたエディスは口を開く。

「えーっと……その、つまり、アンタは自由になんかなるつもりはなかったと」

「……私はボステルクでさえ、どうなろうと構わなかったのだ。魔物に連れ去られそうになっていた子どもを見た時でさえ、なんの感情も浮かんでなかった」

 だというのにと憂いた目は、夜空の中の彩雲を探す。

「何故だろうな、今になって彼と同じ時を生きたいと思うのだ」

 ありあまる愛に理もれて、満たされたまま終わりたい――彼が伝えてくれた願いに話が繋がり、エディスは口の中の苦みを舌で転ばせた。
 シルベリアとシュウがそうであるように、どうして想い合う人たちはどこか似ているのだろうか。

 だが、微笑ましく思ってもいられず、息を繋ぐ。

「……そうか」

 毅然と顔を上げて真っ直ぐに視線を通すと、ネージュはそれに気が付いた。
 二人の視線が合わさった時、エディスは不遜とも取れる笑みをわざと顔に貼りつけた。

「でも残念、これは俺とレイケネスとの契約の話だ。俺はアイツを口説き落とす自信があるぜ」

 憧れの人に悔しかったらお前が追いかけてこいよといわんばかりの態度を取ってしまった。
 わざとではあるが、言い放ったエディス自身が心臓をドキドキと跳ねさせながら返答を待った。

 だが、ネージュは冷え冷えとした視線を向けてくるだけで、なんの言葉も発さず、行動に移る気もない様子だった。

「だってネージュはボステルクにいるってだけだもんな!」

 領主の行き先を決める権限があるのかと安い挑発を繰り返してみる。
 だが、ネージュは顔色すら変えずに「昼飯がどうのという声が聞こえるが、あれはなんなのだ」と全く別の話題を口にした。

「神官の質も落ちたものだな」

 ロイのことだ! と気付いたエディスは、慌てて立ち上がる。

「餌を与えたらこの陣を使って来るといい」

 紙を差し出され、嫌いだどうのとで口では言ってもと目を潤ませそうになったが、「レイケネスが話したがっていたのでな」とすげなく返される。

「友だちとしてならば歓迎する」

「――分かったよ。なるべく交渉とか仕事の話はしない」

 エディスは早く行かないとと駆け出しそうとしたが「廊下は走らない」という声に肩をビクンと跳ねさせた。

 背を真っ直ぐにしたエディスが振り返った先では、ネージュの膝にうつ伏せになったレイケネスが艶っぽい笑みを浮かべていた。
 口元に人差し指を持っていった彼がパチンとウインクをして、”まかせて”と声を出さずに口を動かしたので、嬉々として部屋を出ていく。

ったとっていないのにてといいとたエディスはしばらく聞く訊いてから鼻から息を出すとれるといいでときな俺描けるかるエディスから、どうしてとかつと一向にもことにしっただなんてすべてしてくるこうとしてただろは私は
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