【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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学園要塞ー後編ー

3.処刑場のオーバード

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「ボステルクの始まりは監獄であり、処刑場だったのだ。裁かれた者はすべからく深淵の魔人の腹に消えていった」

 彼奴が深淵の魔人と呼ばれる所以だ。
 元は孤児で、食べれば食べただけその魔力と魔法を吸収する厄介者だった。人は怯え、助けを乞われた私は――鼻で嗤ったのだったか。

 あんな脆弱な者に困らされるとはと。

 面倒になり封印だけを施して、その上に陣取ってやった。
 一時は恐れて近寄る者はおらず静かだったというに、いつしかまた人は集まり群れを形成した。

 それを繰り返し、繰り返し――処刑場であったことの記録さえ今は残っていないだろう。

 私が暇つぶしに話した昔話を、賢いレイケネスはよく覚えていた。
 くりくりと大きな目を悲し気に涙でいっぱいにさせ、「だからネージュさんはここから出れないの?」と首を傾げた純真のままに。

「痛むところはないかね、レイケネス」

 ベッドに横たえた体はひどく衰弱していた。普段の彼と比べると驚くべく程に。

「大丈夫だよ、ネージュさん」

 こちらに背中を向けて寝ている彼の温度を感じていたくて、ベッドに腰掛ける。
 どうして私から距離を取ろうとするのか、一昨日までとは違う隔たりがもどかしい。

「ネージュさん、俺はボステルクを出ようかと思っている」

 固い声色には、彼の決意が籠められていた。
 少々頑固なところがある子なので、これは説得に時間を要するなと私はこめかみを指で揉んだ。

「……どうしてだね。君がここの領主なのだよ」

「不祥事の責任を取らなくてはいけないだろう」

「君が起こしたわけでも広げただけでもない。それに私が全て駆逐し、消火しただろう。ただゴミ箱が一つ無駄になっただけではないか。生徒にも被害はなかったのだぞ」

「だが、俺が生徒たちを巻き込んでしまったのは事実だ。攫われる前に気づかなければならなかった。俺が奴らに捕まったのも合わせてね」

 あのような愚行を許さないのは君も同じだろうに。
 昨晩体を休めもせず、王宮に抗議状と出資者の王侯貴族や富豪に周知の手紙をしたためていたのを私が知らないとでも思っているのだろうか。
 君を労わり同情しはしても、誰が責められようものか。

「あなたの傍にいるのが辛いんだ。こうして優しくしてもらう理由が俺にはない。だって、俺は――……」

 穢れてしまった。
 その声が聞こえた時、私は止まるはずのない己の心臓が壊れたかと錯覚した。

「……そんなはずはない」

 激昂してしまいそうなのを押さえ付けて、とりわけゆっくり声を出すと紺の頭が横に振られる。

「いいや、断言する。君の純血が破られるはずがないのだ」

 それは君の許しを得た私だけが貰える誉なのだから。貞淑な君が他の者に譲り渡すなど、ありえない。

「私が保護魔法を掛けている。なので、そのような嘘は通じない」

「やっぱりネージュさんの仕業だったのかい!? 困るじゃないか、あんなところに仕掛けたら。恥をかいたんだよ」

 起き上ったレイケネスの顔は、真っ赤になっていた。
 ボステルクの天井は私の魔力でドーム状に覆われている。子どもの成長を考えて太陽の光は通すようにしているが、赤子の頃からここを出たことがないレイケネスの肌は白い。

 大人びた振る舞いをするが、彼に近づいてみれば顔立ちの幼さに気付くだろう。
 鍛えられた胸筋は触れれば柔らかく、張りのある臀部とその幼さがアンバランスでそそられる者が多いだろう。

 彼は年端のいかない頃から人目を惹き付ける子どもであった。
 それが成熟しかけてくると、一層不埒な目を集めるようになったのだ。
 彼の秘やかな所を知るのは世話役のドーリーと私だけでいいと思うようになるのも必然だろう。

「他の男に見せたのか」

「……俺から見せることがあると思うのかい」

 白い肌に残った痛々し気な縄の痕に眉を顰める。
 手を貸してごらんと言うとレイケネスは躊躇って腕を引くが、無理に引いて回復魔法で跡形残らず消してしまう。

 昨晩はレイケネスが早々と一人でシャワーを浴びてしまったので、全身を診察することができなかった。
 朝に服を剥いで見てやろうと思っていたが、先に起きて領主館で執務を始めていた為に着替えすら見れていない。

(他にも傷が残っているのではないのかね……)

 何度注意しようとも、彼は不審者を自ら撃退しに行ってしまう。ドーリーのやりようが過激だと言って憚らないのだ。
 君が優しくするから奴らが図に乗るのではないか。

「こんな体に触らなくていい。手当なんてしなくていいんだよ……ネージュさん」

 そんな資格がないんだと眉を下げてしまうレイケネスの意地悪な唇を塞ぐ。
 甘やかな吐息が漏れ出させる彼のうなじに手を這わす。頭の付け根まで滑らせ、薄い唇を舐めると彼の肩が小さく跳ねた。

「君についた縄の跡を消したのは、嫉妬で当たり散らしてしまいそうだったからだ」

 君にできた怪我の痕など一つたりとも残しておきたくはない。
 泣き腫らした目を冷やして、肩を貸して口づけで慰めて……そうすれば、ようやく私の心は慰められる。

 君に触れられないなど、拷問でしかない。

「――君を愛している」

 君に触れた指先が熱を取り戻す。
 言葉を交わすことで精神が揺らぎを発し、己が人であった頃を思い出させた。

「私という書に加わった、新しいページは君との思い出ばかりだよ」
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