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紡ぎ編
8.足並み揃えぬ無法者たち
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「領主は最低でも三十代後半だろうね」
ハイデの隣で緩やかに足を交差させて座っているギジアが淡々と言い、興味がなさそうに爪を見る。
「七十手前の翁さんって噂もあるぞ」
その斜め向かいに腰かけた男が、太ももまでのブーツを履いた長い足を組む。頭の後ろで腕を組んだ男は紫煙を吐き出し、凶暴な笑みを見せた。
「あ~……全部で何校あったんだったかな」
「小さいのを合わせても十二? 十五くらいではなかったかね」
「そんなにあったかァ?」
通ってたのに覚えてねえなと手に持った煙草を吸い、正面にいるハイデの顔面に向かって煙を吐き出す。真面に吸いこんだ彼が咳き込めば馬鹿にしたように大口を開いて笑う。
「マーガン卿、やめろ」
「卿、オスカル殿が見ていたらまた口すっぱく叱られるぞ」
不敬だと言われた粗野な男はハッと鼻で笑いとばした。
「知らねェーな、俺はまだコイツにつくと決めてもいねえんだ。クレマ、お前だってそうだろ」
弱い奴の下につく気はないんでなと手を返すマーガンに、ハイデは俯いてギジアはため息を吐く。
「アンタが魔法を手に入れられなきゃ、ここで終わりなんだろ。偽物の王子様よ」
立太子の儀で被露した二色の魔力はアンタのじゃねえだろ、見る奴が見りゃ分かんだよとブーツの爪先でハイデの足を小突く。
「機械なんざ使わなくても俺には分かる。本物はあっちだけだ。アンタは未だに自分が美人だと思い込んでる、あのクソババアといけ好かねえ社長の息子だろ」
腐った根性がババア似だと言うマーガンにハイデは手を握る。
母を侮辱することは許さないと昏い目で睨み付けるが、マーガンはお母ちゃまの悪口はゆるちゃないだってよと隣に座っているクレマの肩を叩く。
「止めてやれ、震えていらっしゃる」
ふっと侮蔑の表情を浮かべて言葉も態度も改めない連中に、ハイデはどうして母様はこんな下品な奴らを選んだんだと手のひらに爪を食いこませる。
「……トリドット公は、どこに魔法があると思う」
「そうそう、どこに隠してると思うんだ~? 大天才魔法使い様よお」
ギジアは両者に視線を軽く送った後、さあねと零した。それを見たマーガンは舌打ちをして「澄ました顔しやがって、面白くねえ」と窓枠に肘を置く。
「けど、領主が持っていてほしいな。それが一番楽だから」
君たちも何体いるか分からないドーリーを一体ずつ壊して確認するのは面倒だろうと問われ、マーガンはうわと額に手を当てる。
「後は図書館の中に普通に置いてあったりとかね。あそこ何冊あるんだろう」
「想像するだけでも悍ましいな」
ぞっとしないよねと笑うギジアに、げえと舌を出す。クレマがふっと笑い、「卿には細かい仕事などできそうにないからな」と喉奥をくつくつと揺らす。
「おや、そんなことはないよ。君も彼の研究はよく知ってるじゃないか」
「……ふ、そうか。あの、趣味のいい研究か」
「ド変態が笑うな」
グローブをはめた拳でクレマの頭を殴ったマーガンは煙草を咥え、「やる気出ねえなあ」と呟いた。
「いい女でもいりゃあ別なんだがよ」
「向こうの王子ならほとんど女だよ」
「どれだけ顔が美人でも挿れんのがケツの穴じゃなあ」
萎えるぜというマーガンに、クレマがヒヒッと喉を鳴らす。
肘で脇腹を突き「なかなかいいものだぞ」と言うと、マーガンは「試したことあんのかよ」と引き攣った声を出して右に尻をズラして距離を取る。
「あの、トリドット公。もう一つ質問してもいいかな」
「……なんなりと」
笑み一つ浮かべず冷淡に応じるギジアに、ハイデは目をうろつかせながらも口を開く。
「ボステルクの領主制度とはどんなものなんだ。普通とは違うと オスカルが言っていたんだけど」
「おいおい王子様、それくらいお勉強してもらわなくちゃ困るぜ」
なにも知らないのかよと言われたハイデは肩を震わせ、ますます落ちこむ。
「エディスならまず調べてから来るでしょうね」
ギジアもこれには辛抱ならなかったようでため息を零した。
「ボステルクの領主は世襲制ではありません。領主が死ねば、その時点で交代します」
ここまではいいかと訊ねてから、ハイデが頷くかどうかを確かめる。小さく頷いたのを見てから「では、その決め方ですが」と話し始めた。
「至極簡単、アンビトン・ネージュの魔法によって定められます」
「魔法!」
顔を上げたハイデに、マーガンがくっと笑いを噛み殺す。
ギジアもまた、自分よりも年上なのに幼子のような反応をするハイデに、口の端をひくりと引き攣らせた。
「その時ボステルク内にいた者の中で、優れた人格を有した者が選出されるんです」
「優れた人格? 魔力が高い人とかじゃなくて?」
「魔人の考えが人に理解が出来るとでも? そう思っているなら改めるべきだ」
暗に訊くなと言っているギジアに、向かい側に座っている男二人は笑いを隠せなくなってきた。
「偽王子、いい加減にしてくれよ。腹が痛ェ」
「……優れた人格というのが理解できない。何をもってして優れたというんだ」
「優しい、聡明、平和主義、献身的。等々、たくさんあるが私も理解ができん」
気色が悪いと抜かしたクレマを、ハイデは瞬きをして見る。
鬱屈とした顔をしている彼は出立する前に自分を”アンチ・アンビトン・ネージュ”なのだと言った。埃を被った旧体的な魔法ばかりで、斬新さがないという。
「魔人ってのは感情がねえんだよ。だから代わりに人の気持ちを理解できる補佐を必要としてんだろ」
「ほう、卿にしては真っ当なことを言うな」
「お前はさっきから俺に喧嘩売ってんのかァ?」
買うぞオラと拳を握るマーガンに、クレマは負けたら卿の尻の穴を雌穴にしてやろうと応じて退かせた。
「下品な会話は止めて荷物をまとめなよ。そろそろ駅に着く」
降りたらなにをするのか訊かれたマーガンは小言ばっかうるせえなあと言いながら頭を掻く。
「俺が放った改造魔獣がどうなったか確かめる、だろ」と答える。
「学園の警備の水準や場所とか強さが知りたいからね」
通っていた時も底が知れなかった。
アンビトン・ネージュを一口に古いといってたとしても、その攻略法は想像もつかない。
「できれば、対立したくはないよね。くれぐれも、禁書を探す時も問題は」
「マーガン、アレはなに」
ギジアの話を遮って席を立ったハイデに指差されたマーガンが「あァ?」と低い声を出しながら振り返り、窓を開け放つ。顔を外に出して見たマーガンの目が大きく見開かれる。
駅のホームには、背中に鳥の羽や、頭が三つあるマネキンが五体並んでいる。
その両手が掲げ持っていたのは、マーガンが放った改造魔獣の頭部だった。
「お出迎えが強烈ゥ~~俺の胸に突き刺さったぜ」
「これはネージュか、領主か? いい趣味をしている……美しい飾り方だ」
頬を紅潮させて胸に両手を当てたマーガンに、うっとりと目を細めて嗤うクレマ。
その様子を見ていたギジアは、「ならお前らだけで行ってこいよ」と呆れた。
ハイデの隣で緩やかに足を交差させて座っているギジアが淡々と言い、興味がなさそうに爪を見る。
「七十手前の翁さんって噂もあるぞ」
その斜め向かいに腰かけた男が、太ももまでのブーツを履いた長い足を組む。頭の後ろで腕を組んだ男は紫煙を吐き出し、凶暴な笑みを見せた。
「あ~……全部で何校あったんだったかな」
「小さいのを合わせても十二? 十五くらいではなかったかね」
「そんなにあったかァ?」
通ってたのに覚えてねえなと手に持った煙草を吸い、正面にいるハイデの顔面に向かって煙を吐き出す。真面に吸いこんだ彼が咳き込めば馬鹿にしたように大口を開いて笑う。
「マーガン卿、やめろ」
「卿、オスカル殿が見ていたらまた口すっぱく叱られるぞ」
不敬だと言われた粗野な男はハッと鼻で笑いとばした。
「知らねェーな、俺はまだコイツにつくと決めてもいねえんだ。クレマ、お前だってそうだろ」
弱い奴の下につく気はないんでなと手を返すマーガンに、ハイデは俯いてギジアはため息を吐く。
「アンタが魔法を手に入れられなきゃ、ここで終わりなんだろ。偽物の王子様よ」
立太子の儀で被露した二色の魔力はアンタのじゃねえだろ、見る奴が見りゃ分かんだよとブーツの爪先でハイデの足を小突く。
「機械なんざ使わなくても俺には分かる。本物はあっちだけだ。アンタは未だに自分が美人だと思い込んでる、あのクソババアといけ好かねえ社長の息子だろ」
腐った根性がババア似だと言うマーガンにハイデは手を握る。
母を侮辱することは許さないと昏い目で睨み付けるが、マーガンはお母ちゃまの悪口はゆるちゃないだってよと隣に座っているクレマの肩を叩く。
「止めてやれ、震えていらっしゃる」
ふっと侮蔑の表情を浮かべて言葉も態度も改めない連中に、ハイデはどうして母様はこんな下品な奴らを選んだんだと手のひらに爪を食いこませる。
「……トリドット公は、どこに魔法があると思う」
「そうそう、どこに隠してると思うんだ~? 大天才魔法使い様よお」
ギジアは両者に視線を軽く送った後、さあねと零した。それを見たマーガンは舌打ちをして「澄ました顔しやがって、面白くねえ」と窓枠に肘を置く。
「けど、領主が持っていてほしいな。それが一番楽だから」
君たちも何体いるか分からないドーリーを一体ずつ壊して確認するのは面倒だろうと問われ、マーガンはうわと額に手を当てる。
「後は図書館の中に普通に置いてあったりとかね。あそこ何冊あるんだろう」
「想像するだけでも悍ましいな」
ぞっとしないよねと笑うギジアに、げえと舌を出す。クレマがふっと笑い、「卿には細かい仕事などできそうにないからな」と喉奥をくつくつと揺らす。
「おや、そんなことはないよ。君も彼の研究はよく知ってるじゃないか」
「……ふ、そうか。あの、趣味のいい研究か」
「ド変態が笑うな」
グローブをはめた拳でクレマの頭を殴ったマーガンは煙草を咥え、「やる気出ねえなあ」と呟いた。
「いい女でもいりゃあ別なんだがよ」
「向こうの王子ならほとんど女だよ」
「どれだけ顔が美人でも挿れんのがケツの穴じゃなあ」
萎えるぜというマーガンに、クレマがヒヒッと喉を鳴らす。
肘で脇腹を突き「なかなかいいものだぞ」と言うと、マーガンは「試したことあんのかよ」と引き攣った声を出して右に尻をズラして距離を取る。
「あの、トリドット公。もう一つ質問してもいいかな」
「……なんなりと」
笑み一つ浮かべず冷淡に応じるギジアに、ハイデは目をうろつかせながらも口を開く。
「ボステルクの領主制度とはどんなものなんだ。普通とは違うと オスカルが言っていたんだけど」
「おいおい王子様、それくらいお勉強してもらわなくちゃ困るぜ」
なにも知らないのかよと言われたハイデは肩を震わせ、ますます落ちこむ。
「エディスならまず調べてから来るでしょうね」
ギジアもこれには辛抱ならなかったようでため息を零した。
「ボステルクの領主は世襲制ではありません。領主が死ねば、その時点で交代します」
ここまではいいかと訊ねてから、ハイデが頷くかどうかを確かめる。小さく頷いたのを見てから「では、その決め方ですが」と話し始めた。
「至極簡単、アンビトン・ネージュの魔法によって定められます」
「魔法!」
顔を上げたハイデに、マーガンがくっと笑いを噛み殺す。
ギジアもまた、自分よりも年上なのに幼子のような反応をするハイデに、口の端をひくりと引き攣らせた。
「その時ボステルク内にいた者の中で、優れた人格を有した者が選出されるんです」
「優れた人格? 魔力が高い人とかじゃなくて?」
「魔人の考えが人に理解が出来るとでも? そう思っているなら改めるべきだ」
暗に訊くなと言っているギジアに、向かい側に座っている男二人は笑いを隠せなくなってきた。
「偽王子、いい加減にしてくれよ。腹が痛ェ」
「……優れた人格というのが理解できない。何をもってして優れたというんだ」
「優しい、聡明、平和主義、献身的。等々、たくさんあるが私も理解ができん」
気色が悪いと抜かしたクレマを、ハイデは瞬きをして見る。
鬱屈とした顔をしている彼は出立する前に自分を”アンチ・アンビトン・ネージュ”なのだと言った。埃を被った旧体的な魔法ばかりで、斬新さがないという。
「魔人ってのは感情がねえんだよ。だから代わりに人の気持ちを理解できる補佐を必要としてんだろ」
「ほう、卿にしては真っ当なことを言うな」
「お前はさっきから俺に喧嘩売ってんのかァ?」
買うぞオラと拳を握るマーガンに、クレマは負けたら卿の尻の穴を雌穴にしてやろうと応じて退かせた。
「下品な会話は止めて荷物をまとめなよ。そろそろ駅に着く」
降りたらなにをするのか訊かれたマーガンは小言ばっかうるせえなあと言いながら頭を掻く。
「俺が放った改造魔獣がどうなったか確かめる、だろ」と答える。
「学園の警備の水準や場所とか強さが知りたいからね」
通っていた時も底が知れなかった。
アンビトン・ネージュを一口に古いといってたとしても、その攻略法は想像もつかない。
「できれば、対立したくはないよね。くれぐれも、禁書を探す時も問題は」
「マーガン、アレはなに」
ギジアの話を遮って席を立ったハイデに指差されたマーガンが「あァ?」と低い声を出しながら振り返り、窓を開け放つ。顔を外に出して見たマーガンの目が大きく見開かれる。
駅のホームには、背中に鳥の羽や、頭が三つあるマネキンが五体並んでいる。
その両手が掲げ持っていたのは、マーガンが放った改造魔獣の頭部だった。
「お出迎えが強烈ゥ~~俺の胸に突き刺さったぜ」
「これはネージュか、領主か? いい趣味をしている……美しい飾り方だ」
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