【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
180 / 274
学園要塞ー前編ー

8.天使の寝顔

しおりを挟む
 ガーッ、ガーッと大イビキを立てて眠りこける男を鉄格子の向こう側から見ていた見回りの兵士は、異常がないと判断するとその場を離れていく。

 片目を開けたマディは、その兵士が大きな欠伸をしていることを見逃さなかった。足を組み替え、自身も大きな欠伸をする。

(あ~~~~っ、腰がいってェ。ベッドすらねえ牢屋にぶちこみやがって、あのクソ野郎)

 頭の後ろで手を組んで寝転がりながらも、数時間前に己とクレマの両方を平然と叩きのめした男のことを思い返す。

 南で広く使われている身体能力強化の魔法を使いこなしているだけではなく、魔法への造詣も深かった。
 クレマが使った魔法は初見で見破り、即座に対応策を出せるようなものではない。いくつか得意としている魔法を教えてもらったが、考えた結果コイツとはあまり戦いたくないという結論に達したのだ。なのに――あの男は。

(な――にが用務員さんだ、だよ! 俺とクレマをノックアウトさせる用務員がいるか!)

 歯を軋ませ、足首を振っても苛立ちが収まりきらない。せめて女でもいれば発散ができるのによと吐き捨てた。
 だが、上から砂や埃が顔に降りかかってきて、なんだと片目を開ける。すると、天井が割れて人が落ちてきた。

(うお……ッ!?)

 長い髪を見て咄嗟に腕を伸ばして受け止める。気絶しているのか、ぐったりと弛緩している体がマディの膝の上に仰向けに圧し掛かった。

「おい、なにごとだ!」

「なんでもねえよ、ネズミが俺にキスしようとしてきたからぶっ飛ばしただけだ!!」

兵士の声に怒鳴り返す。どうやらそれで納得したのか、こちらに来る気配のない兵士に(マジでネズミが出んのかここ……)と別の危機感を覚える。

 パサリと乾いた音がして下を見ると、千切れた深い紺色のリボンが床に落ちていた。首を支えている腕に髪が掛かってくる。

「おいおい、マジかよ……ッ」

 夜目でも艶めいて見える白銀の髪にマディは呟く。

(まさか本物の王子か!?)

 髪を手ではらうと、神殿に飾られている絵画の中から抜け出してきたか、妖精が花を人に変えたと言われても信じてしまいそうになる美貌が露わになった。

 滑らかな肌は白く透けるようで、鼻筋も通っていて高い。
 髪だけでなくまつ毛まで銀で、僅かな照明の光を受けてキラキラと輝いているようにさえ見える。
 噂では父親と同じツリ目がちな青い瞳で、凛とした雰囲気らしい。目を開けているところを見てみたいという欲求が圧し掛かってくる。

(美人だって聞いちゃあいたが、こんな……ここまで綺麗な顔した男がいんのかよ……)

 実は女なんじゃないかと疑ったマディが無遠慮に胸をまさぐるが、膨らみはなく確かな筋肉を感じるだけだった。細いが痩せて骨ばっているわけではなく、軍人という前情報を肯定するかの如く薄っすらとした筋肉が感じられる体だった。

 均整の取れた手足を投げ出し、敵である自分に無防備に向かって曝け出された喉元。シャツから見える白い首が艶めかしく、吸い付きたくなる。

「やわらけ……」

 まろい頬に手を当て、薄い唇に親指を押し当てたマディはごくりと唾を飲みこんだ。
 ふにゅ、と指が沈み込んだ唇は淡いピンクベージュ。触れた指の腹を見ても汚れておらず、素の状態でこの色なのかと驚いていると「ん……っ」と色っぽい吐息とともに身じろいだので、驚いて戯れていた方の手を離す。

 ドッドッと早鳴る鼓動を押さえつけるように胸元の布地をわし掴むが、青かった頃のように抑えが効かない。

 起きる予兆ではないと分かると、もう一度指を押し当てる。
 柔らかく押し潰れて形を変える唇にマディの口が震え、顔を近づける。尖らせた口がもうすぐくっつくかと思われた時、鉄格子を握る音が間横からした。

「あ――――ッ、いたぁ!! 兵士さ――んっ」

 自分が入っている牢の鉄格子を掴み、もう片方の手を口の横に持っていって「早くーっ、変態! 変態です!」と叫ぶ見知らぬ男にマディは慌てた。

「テッ、テメエ! なに言って」

「うちの王子が襲われてんですよ、遅ぇって、早く~!」

 その男は「鍵寄越せ、鍵!」と胸倉を掴んで脅した兵士の腰から鍵束を奪い取った。そのくせ、どれか分からずに「どれ!?」と目を怒らせる。

 間抜けな男は黒い神官服を着ていた。

(なんで神官なんかがこんな所にいるんだ……?)

 マディが呆けている内に、男は兵士から教えてもらった鍵を錠に突っ込んで中に突入してくる。
 やってみやがれと起き上って応戦しようとしたマディの方へは直進してこず、男は通り過ぎていく。

「は……? どこ行くんだよ」

 窓に向かっていった男は洗顔用の金属タライを掴んで、中の水をこちらに向かって掛けてきた。まともに顔面に食らったマディは汚い水を飲みこむことになり、「きったねえ!」と咳き込む。

 相手が神官だったのでそれで終わりかと思っていたのに、ソイツはタライを頭上まで上げて思い切り振り下ろしてくる。

「はっ!? いや待て、ここ魔法使えね」

 タライを脳天に直撃されたマディの頭はぐらぐらと揺れ――横に倒れた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...