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学園要塞ー前編ー
8.天使の寝顔
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ガーッ、ガーッと大イビキを立てて眠りこける男を鉄格子の向こう側から見ていた見回りの兵士は、異常がないと判断するとその場を離れていく。
片目を開けたマディは、その兵士が大きな欠伸をしていることを見逃さなかった。足を組み替え、自身も大きな欠伸をする。
(あ~~~~っ、腰がいってェ。ベッドすらねえ牢屋にぶちこみやがって、あのクソ野郎)
頭の後ろで手を組んで寝転がりながらも、数時間前に己とクレマの両方を平然と叩きのめした男のことを思い返す。
南で広く使われている身体能力強化の魔法を使いこなしているだけではなく、魔法への造詣も深かった。
クレマが使った魔法は初見で見破り、即座に対応策を出せるようなものではない。いくつか得意としている魔法を教えてもらったが、考えた結果コイツとはあまり戦いたくないという結論に達したのだ。なのに――あの男は。
(な――にが用務員さんだ、だよ! 俺とクレマをノックアウトさせる用務員がいるか!)
歯を軋ませ、足首を振っても苛立ちが収まりきらない。せめて女でもいれば発散ができるのによと吐き捨てた。
だが、上から砂や埃が顔に降りかかってきて、なんだと片目を開ける。すると、天井が割れて人が落ちてきた。
(うお……ッ!?)
長い髪を見て咄嗟に腕を伸ばして受け止める。気絶しているのか、ぐったりと弛緩している体がマディの膝の上に仰向けに圧し掛かった。
「おい、なにごとだ!」
「なんでもねえよ、ネズミが俺にキスしようとしてきたからぶっ飛ばしただけだ!!」
兵士の声に怒鳴り返す。どうやらそれで納得したのか、こちらに来る気配のない兵士に(マジでネズミが出んのかここ……)と別の危機感を覚える。
パサリと乾いた音がして下を見ると、千切れた深い紺色のリボンが床に落ちていた。首を支えている腕に髪が掛かってくる。
「おいおい、マジかよ……ッ」
夜目でも艶めいて見える白銀の髪にマディは呟く。
(まさか本物の王子か!?)
髪を手ではらうと、神殿に飾られている絵画の中から抜け出してきたか、妖精が花を人に変えたと言われても信じてしまいそうになる美貌が露わになった。
滑らかな肌は白く透けるようで、鼻筋も通っていて高い。
髪だけでなくまつ毛まで銀で、僅かな照明の光を受けてキラキラと輝いているようにさえ見える。
噂では父親と同じツリ目がちな青い瞳で、凛とした雰囲気らしい。目を開けているところを見てみたいという欲求が圧し掛かってくる。
(美人だって聞いちゃあいたが、こんな……ここまで綺麗な顔した男がいんのかよ……)
実は女なんじゃないかと疑ったマディが無遠慮に胸をまさぐるが、膨らみはなく確かな筋肉を感じるだけだった。細いが痩せて骨ばっているわけではなく、軍人という前情報を肯定するかの如く薄っすらとした筋肉が感じられる体だった。
均整の取れた手足を投げ出し、敵である自分に無防備に向かって曝け出された喉元。シャツから見える白い首が艶めかしく、吸い付きたくなる。
「やわらけ……」
まろい頬に手を当て、薄い唇に親指を押し当てたマディはごくりと唾を飲みこんだ。
ふにゅ、と指が沈み込んだ唇は淡いピンクベージュ。触れた指の腹を見ても汚れておらず、素の状態でこの色なのかと驚いていると「ん……っ」と色っぽい吐息とともに身じろいだので、驚いて戯れていた方の手を離す。
ドッドッと早鳴る鼓動を押さえつけるように胸元の布地をわし掴むが、青かった頃のように抑えが効かない。
起きる予兆ではないと分かると、もう一度指を押し当てる。
柔らかく押し潰れて形を変える唇にマディの口が震え、顔を近づける。尖らせた口がもうすぐくっつくかと思われた時、鉄格子を握る音が間横からした。
「あ――――ッ、いたぁ!! 兵士さ――んっ」
自分が入っている牢の鉄格子を掴み、もう片方の手を口の横に持っていって「早くーっ、変態! 変態です!」と叫ぶ見知らぬ男にマディは慌てた。
「テッ、テメエ! なに言って」
「うちの王子が襲われてんですよ、遅ぇって、早く~!」
その男は「鍵寄越せ、鍵!」と胸倉を掴んで脅した兵士の腰から鍵束を奪い取った。そのくせ、どれか分からずに「どれ!?」と目を怒らせる。
間抜けな男は黒い神官服を着ていた。
(なんで神官なんかがこんな所にいるんだ……?)
マディが呆けている内に、男は兵士から教えてもらった鍵を錠に突っ込んで中に突入してくる。
やってみやがれと起き上って応戦しようとしたマディの方へは直進してこず、男は通り過ぎていく。
「は……? どこ行くんだよ」
窓に向かっていった男は洗顔用の金属タライを掴んで、中の水をこちらに向かって掛けてきた。まともに顔面に食らったマディは汚い水を飲みこむことになり、「きったねえ!」と咳き込む。
相手が神官だったのでそれで終わりかと思っていたのに、ソイツはタライを頭上まで上げて思い切り振り下ろしてくる。
「はっ!? いや待て、ここ魔法使えね」
タライを脳天に直撃されたマディの頭はぐらぐらと揺れ――横に倒れた。
片目を開けたマディは、その兵士が大きな欠伸をしていることを見逃さなかった。足を組み替え、自身も大きな欠伸をする。
(あ~~~~っ、腰がいってェ。ベッドすらねえ牢屋にぶちこみやがって、あのクソ野郎)
頭の後ろで手を組んで寝転がりながらも、数時間前に己とクレマの両方を平然と叩きのめした男のことを思い返す。
南で広く使われている身体能力強化の魔法を使いこなしているだけではなく、魔法への造詣も深かった。
クレマが使った魔法は初見で見破り、即座に対応策を出せるようなものではない。いくつか得意としている魔法を教えてもらったが、考えた結果コイツとはあまり戦いたくないという結論に達したのだ。なのに――あの男は。
(な――にが用務員さんだ、だよ! 俺とクレマをノックアウトさせる用務員がいるか!)
歯を軋ませ、足首を振っても苛立ちが収まりきらない。せめて女でもいれば発散ができるのによと吐き捨てた。
だが、上から砂や埃が顔に降りかかってきて、なんだと片目を開ける。すると、天井が割れて人が落ちてきた。
(うお……ッ!?)
長い髪を見て咄嗟に腕を伸ばして受け止める。気絶しているのか、ぐったりと弛緩している体がマディの膝の上に仰向けに圧し掛かった。
「おい、なにごとだ!」
「なんでもねえよ、ネズミが俺にキスしようとしてきたからぶっ飛ばしただけだ!!」
兵士の声に怒鳴り返す。どうやらそれで納得したのか、こちらに来る気配のない兵士に(マジでネズミが出んのかここ……)と別の危機感を覚える。
パサリと乾いた音がして下を見ると、千切れた深い紺色のリボンが床に落ちていた。首を支えている腕に髪が掛かってくる。
「おいおい、マジかよ……ッ」
夜目でも艶めいて見える白銀の髪にマディは呟く。
(まさか本物の王子か!?)
髪を手ではらうと、神殿に飾られている絵画の中から抜け出してきたか、妖精が花を人に変えたと言われても信じてしまいそうになる美貌が露わになった。
滑らかな肌は白く透けるようで、鼻筋も通っていて高い。
髪だけでなくまつ毛まで銀で、僅かな照明の光を受けてキラキラと輝いているようにさえ見える。
噂では父親と同じツリ目がちな青い瞳で、凛とした雰囲気らしい。目を開けているところを見てみたいという欲求が圧し掛かってくる。
(美人だって聞いちゃあいたが、こんな……ここまで綺麗な顔した男がいんのかよ……)
実は女なんじゃないかと疑ったマディが無遠慮に胸をまさぐるが、膨らみはなく確かな筋肉を感じるだけだった。細いが痩せて骨ばっているわけではなく、軍人という前情報を肯定するかの如く薄っすらとした筋肉が感じられる体だった。
均整の取れた手足を投げ出し、敵である自分に無防備に向かって曝け出された喉元。シャツから見える白い首が艶めかしく、吸い付きたくなる。
「やわらけ……」
まろい頬に手を当て、薄い唇に親指を押し当てたマディはごくりと唾を飲みこんだ。
ふにゅ、と指が沈み込んだ唇は淡いピンクベージュ。触れた指の腹を見ても汚れておらず、素の状態でこの色なのかと驚いていると「ん……っ」と色っぽい吐息とともに身じろいだので、驚いて戯れていた方の手を離す。
ドッドッと早鳴る鼓動を押さえつけるように胸元の布地をわし掴むが、青かった頃のように抑えが効かない。
起きる予兆ではないと分かると、もう一度指を押し当てる。
柔らかく押し潰れて形を変える唇にマディの口が震え、顔を近づける。尖らせた口がもうすぐくっつくかと思われた時、鉄格子を握る音が間横からした。
「あ――――ッ、いたぁ!! 兵士さ――んっ」
自分が入っている牢の鉄格子を掴み、もう片方の手を口の横に持っていって「早くーっ、変態! 変態です!」と叫ぶ見知らぬ男にマディは慌てた。
「テッ、テメエ! なに言って」
「うちの王子が襲われてんですよ、遅ぇって、早く~!」
その男は「鍵寄越せ、鍵!」と胸倉を掴んで脅した兵士の腰から鍵束を奪い取った。そのくせ、どれか分からずに「どれ!?」と目を怒らせる。
間抜けな男は黒い神官服を着ていた。
(なんで神官なんかがこんな所にいるんだ……?)
マディが呆けている内に、男は兵士から教えてもらった鍵を錠に突っ込んで中に突入してくる。
やってみやがれと起き上って応戦しようとしたマディの方へは直進してこず、男は通り過ぎていく。
「は……? どこ行くんだよ」
窓に向かっていった男は洗顔用の金属タライを掴んで、中の水をこちらに向かって掛けてきた。まともに顔面に食らったマディは汚い水を飲みこむことになり、「きったねえ!」と咳き込む。
相手が神官だったのでそれで終わりかと思っていたのに、ソイツはタライを頭上まで上げて思い切り振り下ろしてくる。
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