【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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学園要塞ー前編ー

9.禁魔術

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 はぁはぁと荒い息を吐くロイの姿に、兵士が声を掛けてくる。

「急にすみません、助かりました!」

「その人、本当に……?」

 礼を言った兵士に訊ねられたロイは「あ、本物ですよ~」と笑いかける。

(あ~~よかったぁ、俺も王子もほんっとに間一髪だった)

 ギジアの魔法で建物もろとも死ぬところだったのだと思う。
 だが、そこにギールがやって来て、能力で粗方の魔法を相殺してくれた。それで難をしのげたと思ったロイがギールに後ろから抱き付いたのだが――ギジアの魔法はそれで終わりじゃなかった。

 割れた地面から紫がかった黒煙の腕が出てきて、エディスとロイたちを分断した。

「エディー!」

 叫んだギールの方を見もせず、エディスは逃げろと叫び返した。
 飛来してきた剣がエディスの手の中に収まる。エディスは腰のベルトに鞘を差し、油断なく眼前の敵と対峙した。

「助かるぜ、グレイアス」

 鞘を抜き放つと、【極東の主よ ここに宿れ】と魔法を断つ力を籠める。

「剣の魔人か」

 とギジアが舌を打つ。

「学園要塞に武器は持ち込み禁止だって知らないわけ?」と言うが、主人は笑い飛ばした。

「そんなの、禁魔術を使った奴を鎮圧したって言えば、お釣りがくるだろ!」

 もう一本腕が出てくる前に、エディスは双剣を振るって己と仲間を阻む腕を切り落とす。しかし、煙でできた腕はすぐにくっついてしまう。

「ギール、ソイツ連れて行け。合流地点はまた連絡する」

 召喚された物がどうにもならないのであればと、術者の方へと駆けていく。
 自分の方に顔を向けたギールは首に手を当て、ため息を吐いた。

「ごめんなさいね!? 一人で逃げるから、王子の応援行ってもらってだいじょーぶです!」

露骨に足手まといがと言いたげな視線を貰ったロイは、開いた両手を横に振って遠慮した。

「エディス、お前はいつもいつも自分だけがお優しい人なんだって顔をしてるよね」

 理想もなにも持ってないくせに、生まれた環境に適合しようとしてないくせに、くせに、くせに。

 低く這う怨嗟の声が不気味で、ロイは息が詰まりそうだと思った。
 それなら――矢面に立たされているエディスはどう感じているのだろうかと。声を掛けたくて仕方がなくなる。

「誰かが傷つくくらいなら自分が犠牲になるぜ、って。お前のその偽善者面がたまらなく嫌いなんだよ……っ」

 急に背後からほの青い白光に照らされたロイは、ゆっくり振り向く。

「うわああああっ、なっ、なんだこれえッ!?」

 骸骨の仮面をつけたけむくじゃらが路地いっぱいに挟まっていた。ソイツは驚きのあまり尻もちをついたロイを見て、ニヤリと歯茎を剥き出しにして笑う。

 ギールの肩に担ぎ上げられてエディスがいる大通りまで出たが、猿は涎を飛び散らせながら二人を追いかけてくる。

「エディー!」とギールが呼ぶ。

 彼はロイの運搬役を代わってもらいたがったのだろうが、その呼びかけを――きっと、助けを求められたのだと解釈したんだろう。
 エディスは、下から突き上げられてくる猿の拳の前に立った。それが至極当然であるかのように。

「お゙ぁ……っ」

 全身を拳で殴られたエディスが、軽々と空を飛んでいく。
 いくつもの屋根をボールのように跳ねまわって、遠くの学舎の屋根に落ちた。この場に残ったのは、エディスが取り落とした双剣だけだ。

「王子、王子――――!?」

 狂乱して叫ぶロイの頭上を通った猿が、ぐぐっと膝を曲げて大きく跳ぶ。握った両手を大きく振るって、エディスがいるはずの屋根を叩き潰した。
 膝から崩れ落ちたロイが首を振る。甲高い笑い声が聞こえて、戻ってくると分かっていても動けない。

 ギールがなにかを言っていたが聞き取れず、ロイはぼんやりと顔を上げた。
 両手を振り上げた猿がこちらに跳んでくるのを、ただ見続ける。

 ああ、俺潰されちゃうんだ。捨て駒ってやつだったのかな? なんか動きがゆっくりに見えてきたし、ヤバすぎて実感湧かないなーなんて思っていたのに、猿は直前で形を失って煙に戻る。

「あ、はは……、容赦、なさすぎ」

 声が聞こえた方に緩慢な動作で顔を向けると、ギジアがかふっと音を立てて血を口から吐き出す。大穴が開いた腹を手で押さえて地面に倒れた。
 呆然としていたが、能力の溶解玉を消したギールに肩下を叩かれる。

「ロイくん、歩ける?」

「あっ、はい……行けます!」

 エディスの所に行こうと耳を押さえた彼に「早く!」と言われるが、ロイはそこまで足が速いわけではない。そんな無茶なと言うと、肩に担ぎ上げられて疾走していく。

「はっっっや!!」と叫ぶと、静かにしてと低い声を出したので口を手で覆う。

「……どこにいるか分かんのぉ!?」

「エディーに位置を知らせるピアスを付けてもらってるんだよ」

「それっ、聞いてないんですけど!」

 音がするでしょと言われて耳を澄ませてみると、虫の羽音程度に微かな音が聞こえるような気がして(わっかんないなー、俺……)と口を引き結ぶ。

「なんだ貴様、怪しいな」

 案の定ギールだけが止められ、一刻も早くエディスの元に行きたいロイは彼の後ろから顔を出した。

「俺、ティーンス大聖堂の神官です! 実はさっきの襲撃で、うちの王子が――」

 神官の証と腰に帯びた契約のロザリオを見せると、兵士は話し合った後で退いてくれた。
 地下の状況は不明だと言うが、構わないと押し入ったところ、見事大正解だったようだ。

 柄の悪い男に襲われかけていたのを見た時は肝が冷えたが、なんとか間に合って良かったとロイは床にへたり込む。

「エディーは!?」とギールが走ってきて、へらりと笑いかける。

「身分証明できたんですね~。俺、ちょっとバテちゃいました」

「そんなことはいいから、宿に帰るよ!」

 蹴っ飛ばしたマディの下からエディスを救出したギールが、息を吐く。目線を揺らして、エディスを腕に抱き締める。

 ロイが声を掛けられる雰囲気ではなく、呆然と見ていた。

(この二人、どういう関係?)

 エディスが抱え上げたギールが無言で出ていくので、慌てて追いかける。黒いシャツの背中をしばらく見ていたが、ギールはなにも話してくれないので、気まずくなって顔を逸らした。
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