【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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鈴蘭編

1.血潮が元

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「フロイード、あの人はどこに!?」

 レウに掴みかかられたジェネアスは両手を胸の高さまで挙げ、首を振るう。

「自分で見つけられもしないのに、そんな怖い顔しないでほしいッスね」

 別にそんな怖くねえだろと言い返したいが、失態を犯したのは己だ。
 レウはぐっと言葉を飲み込む。

「すまん、フロイード」

 そもそもジェネアスがいなければ、トリエランディア大将の協力は得られなかっただろう。

 ひらりと飛んできたヒョウが「とり~っ」と晴れやかな声を出して、我が国で最も安全なところに収まる。

「こらこら、危ないでしょう」

 ここに剣一本で乗り込んできたトリエランディアだったが、あのときの恐ろしい形相はなりを潜めていた。
 何度か見かけたことのある、朗らかな壮年の男の顔に戻っている大将の顔色をチラリと伺う。

「トリエランディア大将、ご足労おかけ」

「やあ、バスターグロスくん。東部大規模戦闘訓練以来かな」

 レウは挨拶と救援に来てもらった礼を伝えようとした。
 だが、トリエランディアはにこやかに視線でレウの言葉を止めた。
 そして――腕に抱えたヒョウに視線をやる。

(余計なことは口にするなということか……)

「ジェネアス、彼を案内してあげなさい。エディスくんがいる場所の検討はついているんだろう?」

「はあ、まあ」

 ジェネアスはぞんざいに応じ、ついてくるようにと促してきた。
 ついていった先には、白いドーム状の防御シールド――いや、己が扱うようなものとはまた異なる性質のものだ――があった。
 これは一体なんだ、ここでなにがと辺りを見渡す。

 トリエランディア大将が数度放った斬撃で壊れたのか、上の階の床が崩落したのだろう。
 ジェネアスは先ほどまでエディスと上階にいたらしく、この中にいると断言した。

「これは【神聖魔法 天使の揺籃】だね」

 耳元に聞こえた声に背中がゾワッと鳥肌が立つ。
 振り向くとレイケネスがくすくす笑っていた。

「エクセリオさん……っ、アンタ、いつの間に」

「おや、ジェネアスくんたちをここに連れてきたのは俺だよ」

 街や屋敷に掛かっていた幻惑の魔法を解いたのはそのついでだよと。
 苦笑いを浮かべたレイケネスは肩を竦める。
 その顔色は朝に見た時よりも白くなっていて、休めなかったのではと心配が先立った。

「こぉら、その顔はなんだい」

 見破ったレイケネスは自分の頬に指を当て、レウを叱責する。

「王子の安全が最優先に決まっているだろう」

 唇の下に指を押し当ててウインクをするレイケネスに、ふうと息を吐いて腰に手を当てる。とんだお人好しだ。

「これ、破る方法は」

「側面からの強い物理攻撃。こういうね」

 あるんですかと訊く前にレイケネスは長い足で蹴りつけた。

「はい、これで通れるはずさ」

 どうぞ、とヒビ割れた結界を足で崩して穴を開けたレイケネスに手で指し示される。

(意外と足癖が悪い人だよな……)と思いながらも頭を下げる。

「ありがとうございます。すみません、先にホテルに戻っていてください」

 まだ顔色が悪いことを伝えると、彼は目を丸くした。

「大丈夫さ、俺にはネージュさんがついていてくれるからね」

 指を鳴らすと、背後に煙が出てきてネージュへと姿を変える。
 レイケネスに後ろから抱きつく彼の下半身が煙状なのを見たレウは、その形態も取れるのかと驚きつつ頷く。

「なら安心だが……くれぐれも無理はしないでくださいよ」

 アンタも自分の限界点を無視する方だろうからと暗に伝えると、レイケネスは困り眉になった。

「本当に大丈夫だから早く行きなさい」

「彼には私がいる。早く行くのだ」

 背後のネージュからも鋭い眼光を受けたレウは結界を潜り抜けていく。

「も、吸わな、で、えぇ……っ」

 すると、すぐにエディスの声が聞こえてきた。
 何事かと焦って意外と広い中を進んでいく。

「エディス様!」

 慕っている主人が見知らぬ金髪の少年に押し倒されていて。
 ぢゅうぅ~~っと乳首に吸い付かれているところだった。

 エディスは口をぱくぱくと戦慄かせて目に涙を浮かべている。

「ふざっけんな、なにやってんだ!」

 慌てて駆け寄ると、馬乗りになっていた少年が上半身を起こす。
 エディスはすっかり顔を真っ赤にさせていて、床に銀の髪を広げたままこちらに目線だけを送ってきた。
 形のいい口が「れう……」と動いて、助けを求めるように手が伸びてくる。

 エディスは見たこともない、扇情的な衣装を着せられていた。

 それに、どう見ても――とレウの眉間に皺が寄る。
 どれだけ吸われていたのか、慎ましやかだったエディスの乳首はぷるんと赤く腫れていた。右胸と見比べてみても、差が歴然だ。

「おいクソガキ、なにしてんだ」

 自分でも思っていたより低い声が出た。

「違うんだ!」

 叫んだエディスが慌てて体を起こし、子どもの頭を抱きかかえる。

「はぁ……どう違うんだ」

 腕を組んでどう違うのか訊ねると、エディスは目をうろつかせた。
 口を開けては閉じ……ついには俯いてしまう。
 気丈な人だというのに、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「こ、この子……アマリア家の子で」

「それとアンタの胸を吸うことの、なにが関係してくるんですかね」

 どうして庇うのかと苛立つが、この人としては子どもだからの一点なのだろう。
 だが、たとえ子どもだとしても胸を吸わせ、頭を撫でている姿など到底許容できない。

「あぅ、俺の魔力が欲しいっていうから……」

 おい、今ちょっと喘がなかったか?
 見ると、子どもはまだちゅうちゅう音を立てて吸っていた。

「だから、それがなんで胸を吸うことになる」

 淡々と言葉を返すが、エディスも理解していないのだろう。
 困ったように眉を垂らしてこちらを見てくるので、庇護欲を刺激される。

「アマリア家の始祖は、王族の魔力をいただいて力を得ました。知らないんですか」

 一心不乱に胸を吸って、舌で舐めていた子どもがパッと顔を上げた。

「……その説は聞いたことがある。だけどな、なんでテメエがその人の胸を吸う必要があるんだっつってんだよ」

 さっさと退けと引っ張ろうとする。

「乱暴にするな。この子、ずっとこんな所に閉じ込められてたんだぞ!」

 だが、エディスが子どもの頭を抱いて庇う。
 完全に同情してしまっている様子の主人に、レウは額に手を押し当てた。

「僕は王様の特別なんです。そうでしょう?」

「へ……あ、そうなの……かもしれないな」

「ええ。僕はあなたの唯一無二なんですよ」

 手を両手で握り、純粋な顔を装って笑い掛ける。
 そんなことをされれば、人の好意を跳ね除けられないエディスは当然断れない。
 困った素振りで曖昧な言葉を口にしていた。

「やっぱり! そうですよねぇ」

 子どもも調子に乗って、高い声を出してエディスに飛びつく。
 ぱくりと乳首を咥えたのを見て、己の口から「あッ!」と声が出た。

「おいしぃですぅ……」

 歪んだ顔になった子どもがエディスを押し倒す。
 そして、エディスが履いているスカートのような装束の中に頭から潜り込もうとする。

「そこは嫌だって……っ、やめろ、吸うな……っ」

 頭を押さえたエディスが涙声を上げる。レウは慌てて子どもの首根っこを掴んだ。

「きゃんっ! いたぁい……なにするんですかぁっ?」

 引き剥がして頭に拳骨を落とすと、子どもは顎に握った両手を押し当ててうるうると涙で膜を張らせた目で見上げてくる。

「おい、大丈夫……か……」

 身を起こしたエディスは布を下ろし、隠した胸元を手で押さえた。
 引き寄せると戸惑いを隠しきれない様子でレウの後ろに隠れてくる。
 震える手で背中に触れてきて、ひしと額を押し付けられた。
 見ると、乱れた髪が曝け出された背中に流れている。
 大きく裂けたスカートから艶めかしい白い足が伸びていて、思わず生唾を飲みこむ。

「エディス様」

 声を掛けると恐る恐る顔が上がり――目が合った瞬間、彼は怯えるように肩を跳ねさせた。
 声を掛ける間もなく、エディスは走り出していってしまう。

「……はァ?」

 猛獣に見つかった小兎のような動きに、呆然と見送ってしまったレウは声を出した。
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